夢を思い出していた。
私が襲われて、私が助けて、私がそれを見てる、あの夢を。
あの時、助けに入ったのは、華美なドレスを纏った少女。
しかし、今まさに、『私』の手で支えられているのは、そのドレスを身に纏った少女だった。
窮地に追い込まれ、泣きはらしている。
助けに入らねば危ないところだった。
夢なんてやはり、夢ということか。
自分を都合よく守ってくれる者など、存在しない。
あるいは、だ。
これから夢でないことを証明するのか――。
●
「ちょっと夕花……メチャクチャやられてたけど大丈夫なの?」
「うう……ぐす……わたしが……よわいから……ぐす……」
とりあえず、大丈夫じゃなさそうだ。
自分が泣きじゃくっているようで、何だかバツが悪い。
態勢を立て直そうとしてると、罵声が飛んできた。
「ははは!! 本当に情けない魔法少女っすね~。戦えなくなって介護してもらうなんて!! お母さんのおっぱいでも吸うっすか~……うお!?」
ブン、と赤く巨大な刀がダーク柴のいた位置に振り落とされる。
カラっと、下駄が一歩を踏み出す音がした。
「あなたの相手は私がするのです!!」
「ふん……!! 変身した私に敵うと思ってるっすか!! 赤の魔法少女!!」
朱里一人で?
私が止めに入ろうかと悩んでいると、朱里の持っている巨大な刀がより強く輝きを放った。
――ここは私が。
そう伝えているのだとわかった。
「すぐ戻るから……待ってて朱里!!」「うう……ぐす……うわああああん!!」
夕花、むっちゃ叫んでる。
ダーク柴によっぽど酷いことを言われたのか。
とりあえず安全なところへ運んで……それから……。
どうしよう。
「ああ……もう……!! 私も慰めたりするキャラじゃないんだって……!!」
「うう……あなたも……迷惑だったよね……私なんか……お節介で……」
「ああもう!! そういう言い方やめて!! 自意識過剰だから!!」
「じ、自意識過剰!? う、うわああああん……!!」
「し、しまった……」
夕花の泣きじゃくりは、もはや咆哮に近い。
このままでは戦うどころではない。
一方で自分もまた、自分自身に向き合わされていた。
どうすればいい?
いや、どうしたい?
考えてもみれば私は人が泣いたり、怒ったり、そうした揉め事から距離を置いてきた。
ケンカが起こって学級会が開かれれば、なるべく無言で通したし、SNSで炎上や揉め事の類を見ても特に何も感じず、無反応を通した。
今、その場に自分はいない。
そういうことにすればいい。
リスクを犯して、無理に行動する必要などないのである。
物心ついてから、ずっとそれを続けてきた。
言ってみれば私は、選択することにとても慣れていなかった。
どうする?
夕花をあやして、また戦ってもらうか?
もう無理そうだから置いといて、私も朱里に加勢するか?
いや、変身した夕花が敵わなかった相手だ。
朱里と一緒に逃げるのも手で……いや、逃げ切れるか?
「うう……私のせいで……しばも……あなたも……あかりさんも……みんな……」
「だから自意識過剰だって!! 間違ったことやってないんだったら胸を張ってよ!!」
「……まちがえてたのよ!!」
「何を!?」
「なにもかも……ぜんぶ……!! 流されるままにやってただけ!! 魔法少女をやっていたのも、私が戦うしかなかったから!!」
「……う」
思わず、唸り声をあげてしまう。
一緒だったんだ、見かけは活発に見えたこの少女も。
私と同じで、決めれないことを悩んでいた。
慰めれるはずがない。
だってそうだ。
自分で自分を慰めれる人間なんて、いない。
「ああ……もう……」
こうしている間も、朱里はダーク柴と戦っている。
何の迷いもなく時間稼ぎを買って出て。
それに比べて、自分はなんだ。
「……意気地なしの優柔不断」
「う……。やっぱり私のことをそう思ってたんだ!! びええええぇぇぇぇん!!」
「あ!! そうじゃなくて!! ああ、もう……!!」
ふと、脳裏によぎる。
この時代に飛ばされてから聞いていなかった、憎らしい声が。
――やっぱり私の助言が必要なんじゃないの?
頭で反響するように何重にも声がする。
ただの球体だったはずのあいつが、なぜだか笑っている気がした。
●
公園の奥では少女と少女が対峙していた。
漆黒のドレスに身を包んだ方――怪人が口を開いた。
「なかなかやるじゃないっすか……!! 赤の魔法少女!!」
「……」
「んー? せっかく話しかけたのに、だんまりっすか?」
「怪物と話すことなど、ありません」
「手厳しいっすねえ」
戦いは先ほどから膠着状態と言えた。
巨大な真紅の対艦刀。
これを警戒したため、怪人は積極的に射程距離には入れなかった。
しかし赤の魔法少女もまた、機動力が不十分であり距離を詰めれない。
結果として、互いが距離を測りながら、睨み合いのような状況が続いていた。
「ひとつ聞かせてください。あなた達は私のことを最強の魔法少女だと言った……あれはどういう意味ですか?」
「言葉通りっすよ? 『全ての私』が出会った中でお前は一番魔法力が高かった……最強の定義通りでいいはずっすよ?」
「……」
少女は、戦闘中であったが思案をする。
『出会った中で』
何気ないはずの一言が妙に、気になった。
それに自分が最強などと、そんな――。
「隙ありっす!!」
黒い糸が乱れ飛ぶ。
四方八方、縦横無尽。
ならばと、少女が刀を振るう。
「
巨大な刀が、右へ左へ。
叩きつけるように力強く、全てを薙ぎ払うように。
まさに快刀乱麻。
赤い光が闊歩した後、糸は全て呑み込まれ、消えていった。
「面攻撃っすか……!! まともに食らったら変身でも致命的っすね……!! だが!! っす!!」
糸が再び少女へと飛ぶ。
先ほどと同じ要領で、刀が振るわれる。
180度撫でるように、ぶん回され――。
そして、向きを変えようとする一瞬、止まる。
「ここっす!!」
怪人がスカートから黒いエネルギーを噴出する。
通常では考えられない加速で、少女との距離を詰める。
先ほどの橙の魔法少女の攻撃の、真似。
あの魔法少女などもはや敵ではないが、身に付けている技に関しては掠め取るだけの価値があった。
おかげで、こうして奇襲に――。
「受け止めた……のです」
「ぐ……!!」
怪人の奇襲は失敗した。
静止したかに見えた刀は、そのまま勢いを付けて後ろへと向いた。
そのまま刀は、
結果として、怪人の右ストレートは刀の柄で止められた。
「く……何者なんすか!! お前は!! どうしてここまで戦るっす!!」
「……信じているからです」
「……なに? っす」
「夕香ちゃんのことを……友達のことを……信じているから……!! 夕香ちゃんが諦めない限り、私も諦めない!! 私がそう、信じているからなのです!!」
「何っすか!? 全然わからないっす!!」
「怪人には、そうでしょう!!」
「……ちっ!!」
怪人が再び距離を取る。
戦いが終わる兆しは、依然としてなかった。