魔法少女アンダーバーエックス   作:MOPX

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我流変身ジャージにリボン

 

――ここから脳裏によぎった記憶。

(戦闘中に何で? という感じだが脳裏によぎったものはしょうがないのである)

 

 

 

頭の中でせせら笑う妖精。

初めてそれが現れたのは、私が三年生の時だったか。

 

その日の晩御飯はカレーだった。

お父さんは残業でおらず、お母さんは台所で片づけをしていた。

ニンジンが私は苦手で、微妙な量だけ残して誤魔化そうかと考えたのだ。

そうしたら、声が聞こえた。

 

『好き嫌いをしたら、大きくなれないわよ』

 

私は答えた。

とても捻くれた回答を。

 

「大きくなんてならなくていい」

 

『そう、少女であり続けること……。それこそが必要なことだわ。だからこそニンジンを食べるの、あなたは』

 

「あなた誰? 偉そうに」

 

橙色の光が目の前に浮かぶ。

 

『私は妖精。あなただけの妖精。あなたを導き、魔法の世界へと……連れて行きはしないけど、まあ似たようなものよ』

 

ああ、これが。

聞いたことはあったけど、特別な喜びはなかった。

ある意味で私は妖精を自然と受け入れていた。

 

それよりも、もっと大きな問題が目の前にある。

 

『ニンジン、食べる方法を教えてあげようか?』

 

「食べる方法? 私、食べないよ? どうやるの?」

 

『簡単よ』

 

妖精がくすくすと、笑い声をあげた。

 

『勇気を出してニンジンを食べた』

 

そう、頭に浮かべればいい。

 

苦難を自分は乗り越えたのだと。

自分はそれを成すだけの人格を有していると。

 

今にして思えば、妖精の言っていたことは、『ストーリー』を作れということだったのだろう。

自分が納得でき、他者から称賛される。

 

物語なんてものは、本来存在しない。

どこが始まりで、どこが終わりで、何が重要な出来事で、何が切っ掛けで、登場人物は誰と誰と誰で。

 

自分がどんな人間なんて。

 

 

 

そんなものは全部、幻想だ。

全部が後付けの理屈だ。

だから自分で作ってしまえば、いい。

 

ただ口に食べ物を放り込むだけなのに、勇気を出したことにすれば。

それは『物語』になってしまう。

自分は物語を実行する『主人公』になる。

 

『さあ、私はおそるおそるスプーンにそれを乗せ、じっくりと向かい合う……この日、自分は変わるのだとそう決心した……少しずつ、背が伸びていくように心もまた成長するのだ。私はスプーンの上にあるそれを口に――』

 

 

 

 

 

うざいな。

そう思った。

 

私はスプーンを放り投げた。

かちゃりと、音をたてて机に落ちる。

当然、スプーンの上にあったものがこぼれ、机は汚れた。

 

『あ……』

 

 

 

『ああああぁぁああああぁぁ!!』

 

妖精の絶叫が、こだまする。

私の脳内だけに。

 

『何をしているのあなた!? 食べ物を粗末にするのは悪いことよ!! そんなことをしたって誰も喜ばない!!』

 

意味は、あった。

 

「あなたが慌ててるの、面白い」

 

『このクソガキ……!!』

 

その後、お母さんを呼んで自分が妖精の声が聞こえるようになったことを伝えた。

机の上のニンジンは、びっくりして落としたことにした。

 

妖精はその日からずっと私に『助言』と称して上から目線の発言を繰り返していたが、無視し続けていると諦めたのか、高いテンションで無軌道に騒ぎ出すようになった。

 

愛も勇気もない、魔法少女としての始まりである。

 

 

 

 

 

――脳裏によぎった記憶、ここまで。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

意識は目下の状況へと戻る。

普通、こうして脳裏によぎった系のアレは打開する切っ掛けになるはずだが――。

 

 

 

……。

 

私がニンジンが苦手だって再認識したくらいでは?

やっぱり妖精はダメだ。

自分の頭で考えないと……!!

私は目の前の状況を再確認した。

 

 

 

朱里はなんとか持ちこたえている。

しかしそれにも限界があるだろう。

早くどうにかしないと……。

 

夕花は少し落ち着いてきたが、まだまともに話せる状態とはいいにくい。

まだ半泣きの状態の夕花が、やけくそ気味にうったえる。

 

「うう……私のことはいいから、朱里さんと逃げて……逃げてよおおおおぉぉぉぉ……なんでさっさと逃げないのよおおおおぉぉぉぉ!! 放っておいてよおおおおぉぉぉぉ……」

 

「なんで……?」

 

何の変哲もない少女の一言が、喉につっかえるように引っ掛かる。

 

 

 

そう、なんでだ?

 

私は何も選んでいないわけじゃなかった。

 

『この場に残る』という選択を続けていたのだ。

 

自分の身だけ考えるなら、逃げてしまえばよかったのだ。

 

それでも、ここにいる。

 

考えなくてはいけなかったのは、選択よりも理由だ。

 

なおも顔を紅潮させる少女に向かって言う。

私と同じ顔をした少女に向かって。

 

「あなたのことを放っておけないから……」

 

「私の……?」

 

「そう、あなたを」

 

出てきた言葉はシンプルなものだった。

けれど、自分の心に潜り、すくいあげたそれは、私にとっての真実だった。

 

「うん……結局はそれだけだったみたい。知っている人が怪我したり危険な目にあったら、まあ気分が悪いでしょ」

 

「……」

 

「あなたが魔法少女の目的について話してくれたでしょ。私はあなたみたいに『町を守る』なんて立派な志はない。そもそも2000年の、この町のことを知らないし」

 

「……」

 

「でも、『平穏無事に過ごしたい』ってのは本音だよ。……2020年、結構みんなザワザワしてて大変だからさ。結局、私は平和な日常が送れたらそれでよかったのかも」

 

「……だったら!!」

 

少女が、言葉を紡ぐ。

 

「戦う必要なんて、ない!! 勝てない相手だっている……!! 無駄に終わるかもしれない!! それでなんで……戦えるの……?」

 

きっとそれは、夕花にとっての本音だったのだろう。

理想的な魔法少女を演じてきた彼女の。

 

でも、不思議とイヤな気持ちはしない。

私も考えていたことだったから。

 

 

 

私は学校での日々を思い出していた。

私と、朱里と、瑠璃と、柴。

四人で、他愛のないおしゃべりをしていた日々を。

 

そして、朱里は今、ひとりで戦っている。

 

「私の平和な生活、知っている人といっしょに、ってことだったみたい。朱里も、そして――あなたも」

 

「……」

 

そう、だから戦う。

 

朱里を放っておくわけなんかない

夕花とここで会えたのだって何かの縁だ。

瑠璃と、本物の柴もこの戦いが終わったら探しに行く。

(いま思い出したわけではない、決して)

 

正しいと思える行いをするのは、明日の自分が気持ちよく生きるため。

 

胸の内がすっきりと整理され、私は一歩を踏み出した。

 

「……行くの?」

 

「ええ。あいつは確かに強そうだけど……ま、私でもいないよりはマシでしょ」

 

「……。気持ちに素直になればきっと変身できる。あいつと戦える」

 

「そうなの? 試してみるわ。あなたはもうボロボロだし、そこで待ってて」

 

私は戦っている朱里の方に向かった。

少し緊張はするが、頬をぱんぱん叩いておいた。

 

これは、自分で決めたことだ。

 

「待って……!!」

 

決意を固めようとしたところで、後ろから声がした。

 

「あいつも変身してるけど、いろんなところから同時に攻撃すればきっと倒せる……!! だから……頑張って!!」

 

前を向いたまま手で応える。

先輩からの手向けとして、それを受け取った。

 

 

 

 

 

残された少女は在りし日のことを思い出していた。

親友と、二人で戦っていた日のことを。

 

「知っている人のために……かあ」

 

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……」

 

「だいぶ息が切れてきたんじゃないっすか、赤の魔法少女!! こっちはまだまだ余裕っすよ~」

 

黒い糸がなおも少女を襲う。

武器を警戒してか、怪人はもう一歩も少女の射程距離へと入らなかった。

必然、少女は防戦一方となり消耗していった。

 

「こっちだって……まだまだなのです!! それに夕香ちゃんが――」

 

「後ろでずっとまごまごしてる人のことっすか? 逃げようか悩んでるじゃないっすかね~。橙の魔法少女は総じて腰抜けっす!!」

 

「そんなこと……ないのです!!」

 

黒い糸の一本が、斬撃をかいくぐり、少女へと向かった。

 

「!!」

 

「隙ありっす!!」

 

少女に強襲を仕掛けた漆黒の糸は――。

 

後ろから放たれた、橙の光によって消えていた。

 

「夕香ちゃん!!」

 

「ごめん、朱里!! 遅くなった!!」

 

 

 

 

 

 

私は即座に確認をした。

朱里は、少し息を切らしていたが、無事そうだ。

怪人はというと、憎たらしい笑みを浮かべながらピンピンしている。

どうやらお互いに有効打を与えられないまま、拮抗していたらしい。

 

なら私の役割はこうだ。

一気にこっち側に、戦いの流れをたぐりよせる。

 

「はっはっは!! ちょっと前に人質になってた魔法少女っすね!! また足を引っ張りにきたっすか?」

 

「夕香ちゃんを悪くいうのは……!!」

 

弁解をしようとする朱里を手で制する。

その汚名は自分で返上しないといけない。

 

「私はもう逃げない……!! あんたを倒して、朱里と夕花を守って、瑠璃と本物の柴を見つけて、それで元の世界に戻る!! そうしたいんだって、やっと気付けたから!!」

 

「夕香ちゃん……!!」

 

「ふん!! この変身と糸の能力に敵うと思ってるっすか!? かっこつけたところで強さなんか変わらないっす!!」

 

「……それはどうかしら?」

 

変身した方が強い。

それならば――。

 

私も変身したらいいだけのことだ。

 

 

 

イメージを固める。

かわいいのは私には無理だ。

だったら機能性を重視する。

もとよりドレスは飾りだと夕花も言っていたではないか。

 

「はああああぁぁぁぁ……!!」

 

空気が揺れ、橙の光が私へと集まる。

 

力を体にしみこませるように。

 

光とひとつになるような感覚が高まっていく。

 

最高潮に達した時に私は、叫んだ。

 

 

 

「変身!!」

 

 

 

橙の薄い膜が私を包む。

更にその上から、橙の服が、その場で紡がれるように形を成していく。

 

「夕香ちゃん……!!」

 

「な、なにっすかこれは……!!」

 

光が収まった後に、立っていたのは――。

 

 

 

橙のジャージに、橙のデカいリボン。

それらを身に付けた私だった。

 

「え……? 夕香ちゃん……?」

 

「本当になにっすか……? それ……」

 

「決まった!! 変身!! どう!! どうよ!!」

 

やった!! 私にも変身ができた!!

思った通り、自分はフリフリのドレスに抵抗があったのだ。

だから、そこを『少し』アレンジすればよかったのだ!!

 

機能性を重視し、身近である衣服に。

ちなみに、足はサンダルだった。

ここはちょっと適当にイメージしすぎたかもしれない。

反省。

 

「さあ!! 勝負よ怪人!! 私、朝霧夕香が相手になってやるわ!!」

 

「いや……その……なんでそんなダサい恰好をしてるっすか? 魔法少女」

 

「……ダサい?」

 

ダサい。

 

センスが悪く、不格好な様。

 

この場に該当者はいないはずだった。

 

 

 

「ダサいっす。ダサダサっす。信じられないくらいダサいっす。オシャレ偏差値底辺っすか? もっとファッション誌とか読んだ方がいいっすよ魔法少女」

 

「ダサい……私がダサい……?」

 

学校は指定のセーラー服だし、家ではだいたいジャージだ。

洋服は母親が安売りとかで買ってきたのを着ている。

別に何でもいいので。

 

ダサい。

 

私が……ダサい?

 

「ふっふっふ。魔法力が揺らいだっすね魔法少女。橙の魔法少女はほーんと情けないダサダサの奴ばっかりっす」

 

私はダサかったのか……?

 

 

 

 

 

「……夕香ちゃん!!」

 

隣の少女から凛とした声が飛ぶ。

まるで救いの手を差し伸べるように。

 

「夕香ちゃんはダサくなどないのです!! 自分で考えて、自分でそれを選んだのです!! それはむしろ……カッコイイことなのです!! ジャージにリボン、上等ではありませんか!! 現代の機能美に憧れと可愛さの象徴であるリボンの融合なのです!! それは決して……ダサくなどないのです!!」

 

「……!!」

 

「ふん!! もう遅いっす!!」

 

怪人が、スカートから黒い霧を噴出した。

次の瞬間には最高速まで加速をし、私の目の前へ。

 

怪人はニタニタと笑みを浮かべながら、拳を繰り出し、そして――。

 

その拳は、私の片手でがっしりと止められていた。

 

 

 

「な……!! どうしてそんなダサい恰好で……!!」

 

「笑ってんじゃねえ……」

 

「え?」

 

「……朱里が褒めてくれた変身姿、笑ってんじゃねええええぇぇぇぇ!!」

 

「ぽぴいいいいぃぃぃぃ!?」

 

掌底で怪人の顎を撃ち抜く。

橙の光が敵を天高く吹っ飛ばし、数メートル先へと落とした。

 

朱里がぱっと、明るい表情を見せる。

 

そう、この選択は間違いではない。

特に指定はないが動きやすい服装をしてこいと言われた時、いつだって私達の力になってくれる――。

 

「さあ、来なさい怪人!! 動きやすい服装の力ってやつ、見せてやるわ!!」

 

 

 

 

 

――門限(タイムリミット)まであと2時間10分。

 

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