魔法少女アンダーバーエックス   作:MOPX

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強敵撃破!! Wユウカコンビネーション!!

橙の掌底(夕香フィスト)を受けた怪人は、砂場で大の字になっていた。

 

変身しての初めての攻撃。

下から突き上げるような掌底が見事に決まった。

 

朱里が私の隣で対艦刀を構える。

 

「それが変身……!! 夕香ちゃん、すごいのです!!」

 

「あーまあ、うん。変身とかそういうのはいいかなって思ったけど……これならって感じだったから」

 

朱里のきらきらとした赤い瞳が、私の胸のリボンをとらえている。

今更ながらジャージにリボンの食い合わせはどうなのだろう、と思ったが、朱里はこういうのが好きだったらしい。

 

しかし、のんきにおしゃべりしている時間もなさそうだった。

 

砂場から、笑い声がした。

 

「ふうぅぅふっふぅぅ……あぁぁはっはぁぁ……!! あは、あはは、あははははははは!!」

 

否、それは笑い声に似せた、空気が掠れるような音。

怪物が人間の機構を真似て、おかしな挙動をしているに過ぎない。

 

「夕香ちゃん……!!」

 

「……大丈夫。さっき夕花に教えてもらったけどあいつを倒すには同時に攻撃を仕掛けたらいいって」

 

二人でなら何とかなるということだ。

 

「私があいつと戦って気を逸らす。朱里は隙を見つけて対艦刀を叩き込んで!!」

 

「でも、それでは夕香ちゃんが……」

 

「心配しないでよ。そのためにこうして変身したんだし。さっきの力、見たでしょ」

 

 

 

砂場から黒い霧が噴きあがり、思わず身を屈める。

霧が止んだ時には、怪人は再び立ち上がっていた。

 

振り乱れた髪に隠れて、表情は読めない。

 

「もう勝ったつもりっすかあぁぁ……魔法少女ぉぉ……」

 

ダーク柴が一歩ずつ、こちらに距離を詰める。

 

「さっきの一撃ぃぃ……顎に力を集中しなければ危なかったぁぁ……すよぉぉ」

 

距離が5メートルほどになったところで、漆黒のドレスを着た怪人の歩みが止まった。

恐らくは、戦うのに最も有利な距離と判断したのだろう。

 

朱里の対艦刀が届かず、自身の糸の勢いが死なない距離。

 

「でもぉぉ……まぐれはもうぅおぅおぅ……起きないっすよぉぉ……魔法ぅおぉぅお少女ぉうぉう……すぅうぅうぅ……」

 

「ひっ……!!」「きゃ……!!」

 

私と朱里が思わず声をあげる。

 

髪に隠れていた怪人が顔を――いや顔とはもう呼べない歪んだパーツの集合をこちらに向けた。

 

私の一撃がバランスを崩してしまったのだろう。

ここまで追い込まれたら、怪物も本気を出してくるに違いない。

 

だが、もう関係ない。

 

私は平穏無事な毎日のために、今はちょっと頑張る。

そう決めた。

 

 

 

「くらえ!!」

 

手をかざし、放った橙の閃光。

こいつと私は、初めて戦う。

だとすれば、私の手の内を知らないはずだ。

 

だからこその奇襲。

上手くいけばこれで大勢はこちらに傾く。

 

しかし――。

 

「魔法うおうおうおうお……!!」

 

「ちっ……!!」

 

私と朱里が振り返る。

怪人は一跳びし、小高い山型の遊具の上へといた。

 

思考よりも早く、駆け出す。

 

足に力を溜め、爆発させる。

 

跳躍。

 

最高点で怪人を見下ろす程度まで、私の体は浮き上がっていた。

そのまま、斜め下に急降下する。

猛禽類が、地上の獲物を狙うように――。

 

夕香パンチ(くらえ)!!」

 

「少女うおうおうおうおうお……!!」

 

橙の拳と、黒の拳が空でぶつかりあう。

ばちばちと散った火花が、昼間の公園に不釣り合いな非日常を演出する。

 

ふっ、と手応えがなくなった。

怪人は漆黒のドレスをはためかせ、再び飛んでいた。

 

今度は、滑り台の上――。

 

 

 

「……逃がさない!!」

 

二十メートル程度先。

敵を見定めて、直線に飛ぶ。

 

そして空中で気づいた。

敵が、こちらに向かって、両手を構えていることを。

 

「死」

 

怪物の指が、触手のようにうねうねと動く。

10本あるはずのそれらが、一直線にこちらに伸びた。

 

 

あ、やばいやつだ。

 

 

「Neeeeeeeeeeeee!!」

 

「うおおおおぉぉぉぉ!?」

 

調子に乗りすぎた。

反省……は後!!

 

 

 

「体育は嫌いだけど……」

 

もはや、やぶれかぶれ。

空中でその勢いのまま、手刀を繰り出す。

 

「苦手とは言ってねーーーー!!」

 

四方八方の橙の斬撃となったそれが、黒い触手を切り裂いていく。

敵の上を通過し、滑り台の手すりの部分へと足をかけ、私は体を止めた。

 

格闘、案外ノリでなんとかなるな……。

そして、怪人がこちらを向く前に、高低差を利用して攻撃する。

 

私の足が、敵の顔の位置だ。

 

夕香キック(うりゃあ)!!」

 

「が……Ha……!!」

 

怪人が落ちていく。

私も続いて、飛び降りる。

 

球状の回転遊具。

真っすぐに漆黒のドレスが突っ込んで行く。

押し退けるように、体を弾き、向きを変えた。

 

汗が滲む。

敵の狙いは朱里かもしれない。

だが、この位置関係なら挟み撃ちにすることができる。

 

 

 

勝負所ということだ。

 

どうする?

 

いや――。

 

迷いなんか、もうない。

 

夕香ビーム(いまだ)!!」

 

橙の光が怪人の背中を捉える。

崩れかけていた体は、その動きを止めた。

 

――チャンス。

 

「はい、なのです!!」

 

反対側にいた朱里が対艦刀を振り上げる。

よし、これが決まれば――。

 

 

 

「え……?」

 

赤い刀は消えていた。

朱里は小さな悲鳴と共に、地面へと倒れ込んでいた。

 

「朱里!!」

 

「く……この程度……大丈夫なのです……」

 

朱里の足には、何かが巻き付いていた。

糸じゃない。

あれは――。

 

「黒いリボンが朱里の足を縛っている!!」

 

「今sara……気づいたssuかあぁ……魔法少女お!!」

 

怪人がこちらへと向いた。

胸にあったはずの禍々しい黒いリボンがなくなっている。

 

さっきの回転遊具だ。

あれにぶつかった衝撃で怪人はリボンを分離させていたのだ。

そして狙いを朱里に絞った。

 

 

 

怪人がこちらへ近づいてくる。

さっきまで逃げまどっていたはずの怪人が。

 

「お前なんkaに……逃げruわけない……っす。赤の魔法少女の一撃が怖いkara……ずっと伺っていたんsuyo……」

 

内心、舌打ちをする。

全ては手の平の上、相手の計算内。

 

追い詰めていたのではない。

私は相手にされていなかった。

 

怪人と互角に渡り合えていたのは、相手が力を温存していたからに過ぎなかったのだ。

 

 

 

「たっぷりお礼をsiteyaruっすよ!!」

 

「!!」

 

怪人のパンチが私の肩を弾く。

ガードだ。

ガードしないと。

 

「あhaha!! どうしたっすか!! 魔法少女!! やっぱりザコザコのyowayowayowayowa……」

 

織り交ぜられた蹴りが私の足をとらえる。

魔法力の移動が間に合わない。

 

このままじゃあ……。

 

「所詮はこんなmonっす!! 魔法少女なんてtekiじゃない……ssu……愛も勇気も理解……不能……不合理でこの世界に存在しないはずのmono……」

 

何を言ってるか、聞き取れない。

確かなことは、このままでは私は負けてしまうということだった。

 

(ごめん朱里……。夕花が変身を教えてくれたのに)

 

怪人の攻撃で私の胸のリボンも取れかけていた。

似合わないなんて思っていたが、思い浮かぶのは私と同じ顔の少女のことだった。

 

(夕花、ごめん。私じゃダメだったみたい……)

 

怪人のパンチが私の胸をとらえる。

私の体は地面へと数回転した。

 

すぐに、起き上がれない。

 

顔を上げた時には、もはや怪人と呼ぶのもおこがましい何かが私の前に立っていた。

中央から5つの部位が伸びた、人を真似た黒き像。

 

「……mahousyoujo……kiero」

 

黒い腕が、私の方へと伸びる。

目を思わず、きゅっと閉じる。

 

視界が完全な黒に覆われる。

 

 

 

それでも光が見えた。

淡く優しい、橙の閃光が。

 

 

 

目を開ければ怪物の触手は吹き飛んでいた。

後ろから誰かが光を放って助けてくれたのだ。

 

誰が?

 

そんなの決まっている――。

 

「夕花!!」

 

「ごめん!! 今まで任せっきりで……!!」

 

私の横には、夕花が敢然と立っていた。

泣いていた跡は、もう感じさせない。

 

「でもどうして? 正直、もう戦えなさそうだなーって思ってたのに」

 

「あはは……そんな風に思われてたんだ……。でも、あなたのおかげだよ!!」

 

「……私の?」

 

「うん、目の前の人を助けるために戦うって。……私も最初はそうだったんだ。魔法少女の戦う理由なんて、それくらいシンプルでよかったんだよ。だから私は戦う……今はあなたと朱里さんを助けるために!!」

 

夕花が私へと手を伸ばす。

私はその手を取って、立ち上がった。

 

橙の光が、二つ並ぶ。

 

視線の先に、異形の怪物を見据えて。

 

「まhou……しょうjoooooooooooo!!」

 

怪物が突っ込んでくる。

 

「いこう夕香!!」

 

「……うん!!」

 

夕花が何を言わんとしているか、わかった。

条件は揃っているのだ。

 

 

 

私が前に出て怪物と打ち合う。

恐怖よりも、勇気が勝った。

 

私の拳が怪物の体を捉えた。

僅かにその体躯がふらつく。

 

――今だ!!

 

「夕花ビーム!!」「夕香パンチ!!」

 

橙の光と、橙の拳の同時攻撃。

寸分も違わぬタイミングで撃ち込まれたそれらは、怪物の体を吹っ飛ばした。

 

「やった……!?」

 

「まだだよ!!」

 

怪物が狼へと姿を変える。

眼はこちらを鋭く睨んでいた。

 

もはや最後の攻撃なのだろう。

牙をたて、ただこちら目掛けて跳んだ。

 

夕花(夕香)!!」

 

声が重なる。

ならば大丈夫だ。

 

――私達は同じことを考えている。

 

夕香ビィィィィム(夕花ビィィィィム)!!」

 

橙の二重光線。

重なることで極大の光となったそれに、黒い獣は巻き込まれ散り散りになっていく。

 

「o……のれ……maほう……しょう……j」

 

 

 

「ooooooooooooooooooooooo!!」

 

 

 

断末魔の叫びが終わった時、獣の姿もまたなかった。

 

にわかには実感がわかないが、終わったのだ。

 

 

 

私達は、勝ったんだ。

 

「はへ~」

 

虚脱感が一気に押し寄せる。

 

倒れてしまいたい気持ちだったがその前に。

 

「夕花……!!」

 

「うん……!!」

 

嬉しい時の所作なんて、きっと2000年でも同じだろう。

 

私が両手を出した時には、夕花も同じことをしていた。

二人して笑い声が漏れる。

 

ハイタッチを交わしたその瞬間、気持ちの良い音が綺麗に重なった。

 

 

 

 

 

――門限(タイムリミット)まであと2時間。

 

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