私達の視線先にいる怪人、その少し横側に怪人と同じ顔の少女。
クラスメイトの
2020年で巨虫に襲われ散り散りになってから、1~2時間ぶりの再会だった。
「さてと、瑠璃さまはいないはずだからさっさと帰るっす。朝霧と宮寺はいるっすね……ん!?」
柴がこちらを見詰める。
びっくりしている夕花と視線が合っていた。
「朝霧、双子の姉妹がいたんすか?」
「いや、これは話すと長くなるんだけど……。それよりも!! あなた……私達の知っている柴なの!?」
大声で問いかける私に柴が気怠そうに答える。
「むしろ知らない柴がいるんすか、ここには? ……ん?」
柴が傍らにいた存在に気づく。
自分と全く同じ顔をした怪人に。
「ふ……ふふふ!! 何が来るかと思ったら魔法少女っすかあ……!! 今更相手じゃあないっすよおぉぉ……」
「……何すか、こいつ? 私は瑠璃さまを探すので忙しいっすよ。後にするっす」
怪人と柴が対峙する。
かみ合わない会話のまま、黒と紫の瞳の間で、視線が絡み合う。
「瑠璃ちゃんのことを第一に考えている……!! あれは間違いなく私達の知ってる柴ちゃんなのです!!」
「第一にというか他が見えてないというか……とにかく本物だ、あれ」
「……別の世界の柴? でも柴は柴で……」
夕花がぶつぶつとつぶやいている。
私は本物という表現を使ったが、確かに夕花から見たらこっちの柴が別世界の何かだろう。
「で、何なんすかあ? こいつは? 私のコスプレをした大ファンかストーカーっすか? その割に変なドレス着てるっすけど」
「柴!! 説明してる時間はないけどそいつはモンスターよ!! ここは西暦2000年でこの時代の柴がそいつに襲われて、体をコピーされてたの!! この時代の本物の柴が病院で眠っている間もそいつは増殖し、あなたの姿で大量に街を襲っていたの!!」
「はああ? ちょっと何を言ってるのかわかんないっす……」
怪人がにたりと笑った。
文字通り口が裂けるほど口角をあげて。
「紫の魔法少女!! まずはお前から始末するっす!!」
怪人の指が細長く伸びていく。
まるで大量の触手のように。
「逃げて!! お願い!!」
悲壮な叫びを放ったのは、橙の少女――夕花だった。
黒い線が踊り、舞い、勢いを付け飛び跳ねる。
刹那、紫の線が走った。
黒い線が細切れになって、地へと落ちていく。
「な……?」
「糸ってのはこう使うっすよ」
柴のもとに紫の糸が戻っていく。
薙ぎ払うように旋回した糸が、触手を切り刻んでいたのだ。
私は安堵する一方で疑問が湧いていた。
柴にこんな芸当ができただろうか……?
いや、そもそも出てきた時もワープだか何だかわからないことをしていた。
柴の方も、この1~2時間で私達が知らない体験をしているということか。
私が変身を身に付けたように。
「く……!! この程度でいい気になるなっすよ魔法少女!! まだまだ私の力はこんなものでは……!!」
「それはどうでもいいっすけど、いいんすか?」
「……何がっすか?」
柴が呆れたように口にする。
「こっちはタイマンを張るなんて一言もいってないっすよ?」
「……へ?」
「
朱里が対艦刀を振りかぶる。
柴と怪人がワチャワチャしていた間に、既に射程距離に入っていた。
薙ぎ払われた刀が、怪人に激突した。
「ぷぺえええええ!?」
二転三転。
怪人の体が転がる。
「言わんこっちゃないっす。さ、船に戻るっすよ朝霧、宮寺。こんなところで油を売ってないで早く瑠璃さまを探すっす」
「ま、まda……ssu」
怪人が顔を上げる。
その顔はもはや崩れ、牙がむき出しになっていた。
「お前を倒せば……そこの橙の魔法少女はどんな顔をするっすかねえ……? 今度こそ立ち直れなくなるっす……」
「……何を言ってるっすか?」
「貴様を道連れにしてやるっすよ!! 魔法少女!!」
「だ、だめええええぇぇぇぇ!!」
夕花の悲痛な叫びが、こだまする。
号令と言わんばかりに、怪人――既に狼に姿を変えた影が柴へと飛びついた。
柴は――。
ぶち切れていた。
「私の顔で三下ムーブやってんじゃねええええぇぇぇぇ!!」
「UGYaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
手に紫の糸を束ね、殴りつける必殺技。
久々に見たそれは怪物の顎を砕き、吹っ飛ばしていた。
倒れた怪物は完全に動かなくなり、体が崩れていく。
霧状になり、最後には塵も残らない。
「余計な時間を食ったっす。さ、今度こそ瑠璃さまを探しに行くっす」
突然の来訪者によるそっけない一言で、この戦いは本当に幕を閉じたのだった。
●
「強い……!! 柴!! あなた何があったの!?」
「そんなことはどうでもいいっす。……へい!! フェアリィ!! 私達を元の場所へ!!」
まるで地面に魔法陣が描かれるように光が走る。
私達を包み込むように光の柱が天へと伸びていく。
「柴ちゃんが現れた時と同じなのです……!!」
「さ、このまま立ってれば船に戻れるはずっす。……あ、巻き込まれたくない人は外に出ておくっす」
柴が言っているのは夕花のことだろう。
既に外に退避しているが、状況が飲み込めてないのか目を白黒させている。
このまま何もしなくても、きっと悲しい別れではないだろう。
いきなり2000年に現れた私達が、いきなり帰っていくだけだ。
(行先はわからないけど)
でも、私は叫んだ。
ガラにもなく。
「夕花ーーーー!! ちょっとの間だったけど、まあ悪い時間じゃなかった!! この町の平和、しっかり守ってよーーーー!!」
「……!! 夕香!! 私、あなたに会えてよかった!! あなたのおかげで自分の弱さに向き合えた!! だからもう心配しないで!!」
心なしか夕花の胸のリボンは誇らしげに見えた。
「夕花さん!! お世話になりましたーーーー!! お元気でーーーー!!」
「朱里さんもお元気でーーーー!!」
朱里と夕花の挨拶も済んだようだ。
後は――。
「あの人、結局なんなんすか? 何で2000年に朝霧にクリソツな人間がいるんすか? ママっすか?」
「どちらかといえば私が母親扱いされた」
「はあ???」
「あの子にとって、この時代の柴は親友だったの。……私達が世話になったし挨拶くらいはしてもいいのかも」
「んなこと言われても……」
「あ~~~~、やっぱり元気な柴を見たら複雑な心境になるかも!! 今のはナシにして!!」
「どっちっすか朝霧……」
私達がまごまごしている間に、声が聞こえた。
他ならぬ夕花の声が。
「柴!! あなたは私の知っている柴じゃないけど……でも謝らせて!! 私のせいで柴は今も入院していて……」
「……。まあ話は聞くっす」
「ずっと悩んでいた!! どうすればいいのかって!! あの時、私がしっかりしていたら全く別の未来になってたのかなって!! こんな簡単なことで、人ひとりの人生が変わちゃって……それが、怖くて悲しくて……」
「……」
「でも過去を変えることはできないから!! 私が自分のことをどんなにイヤになっても、過去は変わらないから!! だから弱い自分を認めて、少しでも頑張る!! 柴が守ってくれた町を、平和を私が守るから!! だから……その……」
柴が短く息を吐いた。
「……アンタが言う通り、私はアンタの知ってる柴って人じゃないっす。だから何て答えたらいいかもわからないっす」
「あ……うん……そうだよね……」
「でも、まあ……」
柴が、はにかんだような笑みを見せる。
「もしも『私』がそう言われたら、きっと嬉しいっす」
「……!! うん……うん……!!」
少しの間の後、夕花が目をこすった。
「じゃ、体には気を付けるっすよ!!」
「夕花……もう会わないと思うけど……ばいばい!!」
「ふふ、信じていればきっとまた会えるのです。夕花さん!! ご武運を!!」
光の巨大な柱は商店街の屋根を突き抜けて、地上から天空へ。
体が浮かびあがる感覚がした。
「みんなーーーー!! 元気でねーーーー!!」
私達の体はそこから消える。
後には少女だけが残されていたのだろう。
「……。行っちゃった」
残された少女は名残惜しそうに眺めていたが、やがて踵を返した。
「みんな……!! 私、頑張るよ!! ……あ、柴のお見舞いに行かなきゃ!! いったん家に戻って……」
明日へと向かって、少女はまた歩み始める。
くじけそうになっても、下を向きたくなっても。
出会いと別れを胸に秘め、少しの不思議とともに少女は進み続ける。
――だって『私』は魔法少女なのだから。
――