魔法少女アンダーバーエックス   作:MOPX

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無人の時空船

移動中は光に包まれるような感覚だった。

いや、もっと正確に言えば私自身が光になっているような。

五感全てが混ざり合い、溶けあい、ふわふわとした質感。

 

加速して風を切る情景が、己の存在に直接流れてくる。

 

私は今、単一の考える個体と化していた。

 

疑問が自分の中から、ふつふつと湧き、それは『私』の枠を埋め尽くした。

 

――私達は、一体どこへ向かっているんだろう?

 

 

 

●

 

 

 

「ここは……?」

 

「何だか、広い部屋みたいなのです……。見慣れない内装ですが……」

 

朱里がきょろきょろと辺りを見渡すのも無理はない。

体育館の半分程度の広さ、真っ白な壁は半球状。

私達のいる周囲数メートルだけ、台座のように高くなっている。

 

ぱっと見は、怪しい研究所といったところか……まあ、実際に見たことはないのだけれど。

 

「着いたっすね。少し休憩にするっす。へい!! フェアリィ!! 冷たい飲み物を準備してほしいっす!!」

 

「柴、あなた説明もなしに……」

 

 

 

『わかりました、柴歩道さま』

 

 

 

「え……!! なにこの声……!?」

 

「頭の中に直接、響くような感じでした……!!」

 

辺りを見渡してもスピーカーらしきものはない。

左右上下、どこから聞こえてきたのかすら判断できなかった。

 

『娯楽室の冷蔵庫を冷やしておきました。取りに向かってください』

 

「あいよっす。……朝霧と宮寺も聞こえたっすか? なんかこういうもんなんすよ。ここは」

 

「こういうもんって……」

 

「柴ちゃん……大事なお話があります……」

 

朱里がぐいっと顔を近づけ、柴がたじろぐ。

ほら見たことか、柴は私達を置き去りにしすぎだ。

 

がつんと言って、朱里!!

 

「私もその『へい ふぇありぃ』というのやってみてもよろしいでしょうか……?」

 

視界が軽く揺らいだが、これはずっこけそうになったからだ。

 

 

 

「ははーん、宮寺もやりたくなったすか。へい!!フェアリィ!! 宮寺に挨拶っす!! 挨拶はどの界隈でも基本っす!!」

 

『初めまして宮寺朱里さま。ご気分はいかがでしょうか?』

 

「わわ!! 話しかけてくれたのです!! そ、その……へい!! ふぇありぃ!! これからよろしくなのです!!」

 

『よろしくお願いします。朱里さま』

 

朱里が興奮気味に声をあげる。

 

諫めようかと思ったが、やめておいた。

朱里はまんまるな瞳をキラキラさせて、興奮のあまりか両手を握っていた。

まるでファミレスの呼びボタンを押して喜ぶ子供がごとし。

 

「朝霧もやれっす、挨拶しないのはトラブルの元っす。世の揉め事の原因、99.999999%は礼節を欠くからっすよ、瑠璃さまがそう言ってたっす」

 

「あの子、適当なこと言いすぎでしょ」

 

「9の数も正確っす!!」

 

数字がでかいと逆に嘘くさい。

指摘する相手はここにはいないが。

……瑠璃、無事なのかなあ。

 

 

 

「夕香ちゃんもお話するといいのです!! 私、感動したのです!! 」

 

「……まあ、朱里がそう言うなら。へい、フェアリィ、まあ、うん、よろしく」

 

人類史で科学の果たした役割は大きいだろう。

より便利で、より早く、より大規模に。

 

それらを成すのは、整然としたルールであり、この世界への理解だ。

新たな問題に直面するたびに、それを克服する形で技術は磨かれ、そのことを意識していない我々も恩恵に預かっているわけだ。

 

しかし、科学自体が生みだす問題にはどう対処するのか?

科学を克服するのも、また科学なのか?

科学の行きつく先は、いったいどこなのか?

 

今から、その一端に触れる。

 

この呼びかけは小さな一声だが、大きな一歩だ。

 

未知の技術。

その邂逅の瞬間――。

 

 

 

……。

 

 

 

「何も答えないんかーい!?」

 

「芸人すか、朝霧」

 

「夕香ちゃん、もっとこう、キレが足りていないのです!! へい!! ふぇありぃ!! へい!! ふぇありぃ!!」

 

『意味もないのに呼ぶのはお控えください。負荷がかかります』

 

出前みたいになった朱里を頭に響く声が諫める。

……この音声、誰に反応するか決めてないか?

昔から自分は大人受けはよくないタイプだったけど。

 

へい、フェアリィ、えこヒイキは良くないぞ。

 

 

 

●

 

 

 

「ねえ柴……そろそろ教えなさいよ」

ドゥルルルル……。

 

「何をっすか……」

ドゥルルルル……。

 

「気持ちいいのです……」

ドゥルルルル……。

 

「決まってるでしょ。ここがなんなのか……おほお……!!」

ドゥルルルル……。

 

「はは。朝霧、変な声が出てるっす……んふう……!!」

ドゥルルルル……。

 

「あふ!! ああああ……!! たまらんのです……!!」

ドゥルルルル……。

 

 

 

私達三人は、マッサージチェアにそれぞれ腰かけていた。

柴に案内された先の娯楽室。

だだっぴろい長方形の空間に、ある程度の感覚で大机が並び、壁際には何が入ってるかよくわからない棚。

部屋の一角にあった冷蔵庫には、キンキンに冷えた麦茶が用意されていた。

 

コップも不自然に机の上に三つあったが、柴いわく「そういうもの」らしい。

 

とりあえず一休みした私達は、部屋に並んでいたマッサージチェアに気づいた。

そんなことをしている場合か? と思いつつ、好奇心には誰一人勝てなかった。

 

 

 

「どうやって……ここに来たのよ……あなた……!!」

ウィンウィンウィン……。

 

「知らないっす……あのデカいモンスターと戦って、私は瑠璃さまを庇おうとして……そしたらここにいたっす……」

ボコボコボコボコ……。

 

「つまり……柴ちゃんもあの時……飛ばされたということでしょうか……」

ブルルルルル……。

 

「そう見るのが……んほおおおお!! ……話が進まないし、そろそろ止めにしましょう」

プーーーー。

 

 

 

まあ、私と朱里も西暦2000年にいたわけだから、別に何が起こっても不思議ではない。

そもそもここが何なのかという話だが。

 

「で、ここで何をしてたの、柴は」

 

「最初にいたのはもっと狭い部屋だったすね。外の風景も見える感じの」

 

「風景……? お外の様子が見えるのですか?」

 

「ちょうど良いっすね。ヘイ!! フェアリィ!! 外の風景を見せるっす!!」

 

『かしこまりました』

 

「あんまり見てもしょうがないっすけどね」

 

娯楽室の壁が半透明になる。

そこにあったのは――。

 

 

 

真っ白な空間。

まるで宇宙を白く塗りつぶしたような。

私達が乗っている『これ』はこの空間を突っ切って進んでいるらしい。

 

さながら、巨大な宇宙船のように。

 

「何これ……う……何か気持ち悪くなってきた」

 

「夕香ちゃん!! 大丈夫なのです!?」

 

「ヘイ!! フェアリィ!! もういいっす!! ……ま、こんな感じっすね」

 

「いきなり変なもん見せないでよ……酔ったかも……」

 

「まー、バスで酔う人間もいるから配慮が足らんかったすね。すまないっす」

 

白色の宇宙酔い。

たぶんこの先の人生でも、二度と起こらないだろうという珍事だ。

麦茶を無理やり飲み干す。

 

 

 

私達は娯楽室を出た。

柴の案内した一室に入っていく。

 

「で、まあそんなこんなで。しばらくうろうろしてたんすけど、誰もいないみたいなんすよ、ここ。その途中でこれを見つけたっす」

 

「柴ちゃん、すごい行動力なのです」

 

「それほどでもないっす~」

 

柴が指をさした先には分厚いファイルがあった。

表紙は何も書いておらず、白紙だ。

 

「何これ? 中身を見せてもらうわよ……。んん? わけのわからない文字が並んでいるわ」

 

私がファイルを開いて適当なページを開くと、そこには数行の私の読めない文字が並んでいた。

中東あたりの文字っぽい気がするが、もちろん読めたりはしない。

 

「ちゃんと最初から読むっすよ。日本語のページがあるっす」

 

「あ、本当だ……フェアリィ号 マニュアル…… ヘイ!! フェアリィ!! と元気よく声を出そう!! ……クッソ適当やん」

 

思わず関西弁が飛び出すくらいの適当さ。

 

そのままパラパラとページを捲る。

各ページで違う文字、されど文量はどれも少ない。

どうやらいろんな言語で同じ内容が書いてあるらしい。

 

「でも便利っすよ。どういう仕組みかわからないけど呼びかけたら何でもできるっす。これで瑠璃さまを探そうとしたら、探索中って言われたっす。朝霧と宮寺もついでに探してもらったら見つかったていうから、そこに飛ばしてってお願いしたわけっす」

 

「……けっこう適当だったのね。あなたも」

 

「そういえば柴ちゃん、強くなってた感じがしましたがあれは……?」

 

ああ、と柴が答える。

確かに数時間ぶりに会ったにしては柴はえらく強くなってた気がする。

 

「暇だから訓練室で時間を潰してたっすよ。ARみたいにモンスターが出てくる部屋で戦う練習をしてたっす。だいたい一時間くらいだったっすけどメチャクチャ的確なアドバイスをくれたっすよ」

 

「アドバイスって……誰が?」

 

「だからこの『声』っす」

 

「それだけで? 柴、あんた私と大して変わらなかったでしょ、魔法力」

 

「舐めすぎっすよ。確かに強そうなモンスターって感じでしたけど、実際倒せたんだからそうっす」

 

 

 

「……」

 

「朱里、どうかした?」

 

朱里は先ほどから思案顔だった。

私の声で正気に返ったのか、少し慌てて言った。

 

「この場所、いったい何なのでしょうか」

 

「だから言ってるじゃないすか。船っすよ。フェアリィ号って名前の、無人で、呼びかけたら何でもしてくれるAIがいて、娯楽室や転送装置や訓練室があって、真っ白な空間を進んでる船っす」

 

「そういうことを言ってるのではありません。誰が何の目的で作ったのか……。戦うための施設に、私だけでも運用できる設備……いえ、そもそも動力は何なのです? よく考えたら冷蔵庫やマッサージチェアがこんなところにあるの、おかしいのです!!」

 

「宮寺はもっとおおらかだと思ってたっす。いいじゃないすか何でも。瑠璃さまを探して、学校の裏山に戻してもらって終わりっすよ」

 

「……」

 

朱里が押し黙る。

私も疑念がふつふつと湧いてきた。

 

冷蔵庫もマッサージチェアも、本当にそこにあったのか?

『ある』と認識していたにすぎないとしたら――。

 

 

 

『敵襲です!! 娯楽室にモンスターが発生しました!!』

 

『敵襲です!! 娯楽室にモンスターが発生しました!!』

 

『敵襲です!! 娯楽室にモンスターが発生しました!!』

 

「え……!? モンスター!?」

 

考えるよりも、口に出すのが早かった。

朱里と柴も、動揺していたのがわかった。

 

この船は今、襲われている。

 

 

 

 

 

――門限(タイムリミット)まであと1時間40分。

 

 

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