『敵襲です!! 娯楽室にモンスターが発生しました!!』
『敵襲です!! 娯楽室にモンスターが発生しました!!』
『敵襲です!! 娯楽室にモンスターが発生しました!!』
「……うるさ。へい!! フェアリィ!! 少し黙ってるっす!!」
柴がつぶやくとピタリと警報は止んだ。
「ちょっと柴!! 緊急事態みたいなのよ!! 何で止めちゃうの!?」
「同じことしか言ってなかったっす。全く同じものは情報量ゼロっす。私はせっかちなんすよ」
「これから新情報を伝えてくれたかもしれないでしょ?」
「じゃあ新情報が入ったら伝えるように頼めばいいっす。口をあんぐりあけて垂れ流されるものを聞いてるだけっすか?」
「何ですって……!!」
「ふ、二人とも争いは止めるのです……!!」
朱里が間に入ってなければ、口論は続いていただろう。
紫の瞳が、こちらをにらみつける。
忘れていたが、2000年に飛ばされる直前も私達は言い争いをしていた。
確か瑠璃が勘違いから泣き出して、柴が私に突っかかってきたんだ。
私の中では、そういうことになっている。
多分、私と柴の相性が根本的に悪いのだろう。
2000年で夕花と柴のそっくりさんが仲が良かったのは、それぞれ別人だからに過ぎない。
「で、どうするの。行くの?」
「人に聞く前に自分で判断したらどうっすか? 次は宮寺にも聞くっすか?」
「て、てんめえ……!!」
「"すとっぷ"なのです~~~~!!」
もはや唇が当たる距離まで私達が接近したところで、朱里が割って入ろうとして――。
けっつまずいて、私にぶつかった。
「あ!? 唇が!?」
「!? うおおおおおおおぉぉぉぉ私のファーストキスは瑠璃さまのものおおおおぉぉぉぉ!!」
「うわああああぁぁぁぁ!!」
「ああああ!! 柴ちゃんが夕香ちゃんに巴投げを決めたのです!! これは夕香ちゃん立ち上がれないのです……!!」
ある種の解放感とともに天井を見つめる。
世の中の事、全部どうでもよくなってきた。
もう、好きにすればいい。
「すまないっす。でもこれは事故だから許してほしいっす」
「……知らない。勝手にすれば」
「ゆ、夕香ちゃん、今のは私がぶつかったのが悪いのです!! だから……」
「宮寺にフォローさせるのも気ぃ悪いっす。じゃ、私はこれで」
柴が部屋から出ようとした。
ケンカのせいで話が逸れてしまったが、たった今、娯楽室にモンスターがいるんだった。
「……行くの?」
「勝手にしろって言ったのはそっちすよ。この船が故障でもしたら瑠璃さまを探せなくなるっす」
また、瑠璃か。
頭の中にはエセお嬢様の甲高い笑い声が鳴り響いていた。
柴の行動指針は、単純と言っていいくらい明確だった。
だから、うらやましかったのかもしれない。
「なあに、私だってパワーアップしたし大丈夫っす。宮寺は朝霧を頼むっすよ、押し付けて悪いっすけど」
「柴ちゃん……!! 危ないからみんなで行くべきなのです!! この船、やっぱりよくわからないのです!!」
「またそれっすか? 心配性っすね~。ま、ちょちょっと片づけてくるっす。じゃ!!」
扉が横に開く音が聞こえた。
私は起き上がることもできないまま、真っ白な天井を眺めていた。
自分は一体、どうしたいのか。
また、頭に浮かんだのは橙に怪しく光る発光体。
ほんの数時間前までは隣で「憎まれ口」を叩いていたのに、遠い過去に思えてくる。
朱里が上から、申し訳なさそうに覗き込んできた。
「私が夕香ちゃんを押してしまったせいなのです……。申し訳ないのです……」
「……悪いのは強いていえば投げ飛ばした柴だよ。朱里が気に病むことない」
「……。夕香ちゃん、私はやっぱり柴ちゃんが心配だから追いかけるのです。夕香ちゃんはここで待っていても……」
ゲームならば、ここで選択肢が出ているんだろうか。
いや、物語の主人公になるようなタイプは、こんな場面で悩んだりしないだろう。
だから、自分の意志で宣言することに意味がある。
「私も行く」「ここで待ってる」
選ぶのはもちろん――。
『待っていなさい、ここで』
一瞬、吐き気を覚えた。
世界がぐるぐると、回るような――。
「夕香ちゃん!? どうしたのです!?」
大丈夫だから、と朱里に訴える。
『妖精』の声が聞こえた気がしたが、気のせいに決まっている。
ここには私と朱里しかいないのだ。
大方、柴に投げられたショックで頭が混乱しているんだろう。
後で文句を言ってやらねば。
「私も行く」
「本当に……? 大丈夫なのですか?」
「うん、柴はあんな奴だけど放っておいていいわけないし。……瑠璃とも合流してさっさとみんなで帰りましょう」
「夕香ちゃん……。そうですね、みんなで帰りましょう。元の世界へ……」
朱里が下を向き、手を伸ばす。
私はその手を取ると、立ち上がった。
向かう先は娯楽室。
先ほどまでは、和気あいあいと楽しい時間を過ごした場所。
●
紫の少女が部屋へ入る。
視界に入った娯楽室は、辺り一面、騒然としていた。
自分の背丈の半分ほどの芋虫が無数に、奥側からこちらへ這うように進行していたのだ。
少女が舌打ちをする。
「どこから入ったっすか。こいつら」
ふつふつと怒りが湧いてくる。
あるゆるものに無差別に襲い来るモンスターに……というより、自分の目的を阻害する黒い塊どもに。
――この船に何かあったら瑠璃さまを探せなくなるっす。
真っすぐに横の隊列を組んでいた芋虫が、少女の方へと向きを変える。
少女の頭で、何かがささやく。
『糸を罠の様に、張り巡らせ撃退せよ』
しかし、全てを聞き遂げることはなく、少女は自身の手から伸びた紫の糸を、上空に集めていた。
さしづめ毛糸で作るボールのように。
「私はせっかちなんすよ」
紫の球が自分の頭くらいの大きさになったところで、少女は手元の糸を握り、そこから先をぶんぶん振り回す。
準備に時間をかけすぎたか。
芋虫の一匹が、大きさに見合わぬ跳躍で、少女へと飛びかかった――。
「
紫の球は芋虫にクリーンヒット。
そのまま体を貫き、粉々に砕いていった。
楽しくなってきたのか、少女がヒートアップする。
「てめえらがよぉ!! このよくわからん船を壊すとよぉ!! 私が瑠璃さまを探せなくなっちまうだろうがよ~~~~!! クソクソクソクソ死ね!!」
鉄球が、一発、二発……もはや薙ぎ払われるように虫を潰していく。
『隙の大きい中距離高密度攻撃は、推奨しない』
「知るかよおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」
少女が敵の一体に鉄球を飛ばす。
だが、それが命中することはなかった。
真上に飛び上がった芋虫は、一回転し体を膨張させる。
終わった時には、羽根をはやした漆黒の蝶へと――。
「サナギが飛んでんじゃねええええええええぇぇぇぇ!!」
単純な軌道の鉄球は、またも避けられる。
横にそれた蝶は、加速し少女へと襲い掛かった。
鉄球を戻す。
間に合わない。
「うおおおおおおおぉぉぉぉ!? 瑠璃さまああああぁぁぁぁ!?」
少女の眼前まで蝶が迫った。
きゅっと目を閉じる。
目を閉じたはずの真っ暗な空間で、橙の光が瞬いた。
「
蝶が光に飲まれて掻き消える。
「こんな時でも瑠璃って……本当に筋金入りね、あなた」
「助けに来たのです!!」
「朝霧……!! 宮寺……!!」
紫の少女の顔がほころぶ。
『仲間の大切さ、それが何よりも大切。改心した少女はひとつ成長し、落ち着いた戦い方をするのであった……』
「これでさっさと芋虫どもを倒せるっす!! 早く撃退して瑠璃さまを探すっすよ~」
『……』
「助けにきて損した気分だけど……ま、柴はこういう奴だもんね……」
「何すかその言い方!? 別にあんなやつ私の瑠璃さまへの想いがあればズバズバ倒せたっすけどお!?」
「二人とも、あれを見るのです!!」
赤の少女が、残った芋虫に注意を向ける。
娯楽室の一帯を覆っていたそれらは、まだ半分程度は数が残っている。
虫たちは一斉に真上へと跳ね、成虫となっていく。
それだけなら、赤の少女も驚きこそすれ、脅威には感じなかったかもしれない。
だが、敵の様子は、おかしかった。
数匹ずつのグループで、体をぶつけあい、崩れ、なおも体をぶつけあっていた。
異様とも言える光景。
まさか同士討ちではあるまい。
赤の少女は理解をしていた。
モンスターにあるのは、この世界を覆いつくさんとする拡大の原則だけ。
だから、自らその数を減らすなど、あり得ないのだ。
蝶の一体が、完全に崩れ「あたま」になった。
一体は「むね」に一体は「はら」に。
数匹は平べったくなり、「せなか」に「はね」としてくっ付いた。
数匹ごとに、蝶は合体し、元の大きさの数倍の蝶へと変貌を遂げていた。
「第二ラウンドってことすね……!!」
鉄球を放り投げるような勢いで。
紫の少女が、この状況を楽しむように言い放った。