「あっ!! 橙色の流れ星ですわ!! 落ちきる前に高速詠唱で願い事を叶えますわよーーーー!! あっ……そんなことを言っている間に見えなくなりましたわ……」
ワタクシの想いはスイセイの如し刹那の一瞬で掻き消えてしまったのです。
無詠唱で願い事が叶ったら……そう思わずにはいられませんでした。
願い事は言うまでもなく『元の世界に帰りたい』ですわよ。
薄暗い、黒が混じり出した空に灯った橙の光。
ワタクシはそれを見て、ご学友……要するにクラスメイトォの姿を思い出さずにはいられないのでした。
「夕香さん、朱里さん、そして歩道……うう……どこに行ってしまいましたの……」
特に我が親友、柴歩道は別れる直前、自分を半ば庇うように覆いかぶさっていたはずでした。
若干呼気が荒く興奮していましたが……。
三人とも、今はどこにいるのか。
そして――。
「ワタクシもいったいどこにいますのぉぉ!? ここはどこですのおおおおおぉぉ!? ワタクシは魔法少女ですわよぉぉーーーー!!」
見渡す限り、荒野アンド荒野。
たまに切り立った崖。
西部劇でよく転がっているアレが転がり、たまに砂嵐が起こる。
視界が茶色すぎますわよ。
かれこれ2時間はさまよっていましたが、イベントらしきイベントも起こらず、それが逆にヤバい感じですわよ!!
何もないド田舎でも蛙くらいは鳴いていますわ!!
この空間には特筆すべきことが――ない!!
「ああ……このド田舎を越えたド辺境のフロンティアでワタクシの生命(いのち)は終わってしまいますの……? この姫小路瑠璃の歩むはずだった輝かしい人生が!! 偉大なるサクセスストーリーが!! こんな突発クソイベントでスポォイルされるなんて許されていいはずがありません!! 誰か!! 誰でもいいからとりあえず出てきてほしいですのーーーー!!」
ミシッ。
「あ……?」
前方約数メートルの地面にヒビが入りました。
何でしょう。
ワタクシとってもイヤな予感がします。
「グギャアアアアアアアアアアアアアア!!」
「YA・PPA・RI!! モンスターですわあああああぁぁぁぁ!! 岩盤をぶち破って二階建ての家屋程度の高さまで!! 芋虫のようなモンスターが!! まるで己の力を誇示するように!! 相対しているのですわあああああ!! お呼びじゃなくてよーーーー!?」
「グオオオ……」
「こっちに気が付きましたわああああ!? 誰か……誰か助けて……!! 変身ヒーローでもチート能力者でも巨大ロボットでも何でもいいですわ!! あと例えば……!!」
ここまで言って気が付きました。
ワタクシの夢と目標を。
偉大なるサクセスストーリー、その内訳を。
芋虫が岩盤をガリガリ削りながら突っ込んできます。
体当たりをするつもりでしょう。
ですが、臆することはありません。
なぜなら――。
「ワタクシも魔法少女でしたわああああぁぁ!!」
蒼き双銃が二丁。
ワタクシの手の中に。
「必殺!!
蒼き魔法力により形成された弾丸は、まるで双眸からマグナムのごとく発射される神通力。
……。
何を言っているか全くわかりませんが、ご容赦ください。
ワタクシ、相当焦っています。
「グギャアアアア!!」
「あ"あ"!? 少し怯ませましたが、それでも無視して突っ込んでくる!? ピンチですわああああ!!」
余りの状況に、思わず野太い声が出てしましました。
しかし、それだけの状況である、ということです。
ワタクシ、あえて言っておりませんでしたが、汗で全身がびちゃびちゃですわ。
頭に浮かぶのは在りし日の友人たちの姿――。
歩道……。
ワタクシの覇道を応援してくれるとっても良い子。
頂きへのロードマップを説明しきれなかったのが心残りですわ……。
夕香さん……。
私に対して辛辣な発言の数々は、好意の裏返しだと気づいていましたわ。
喧嘩別れのような形になったことも、胸をいためていることでしょう……。
そして、朱里さん……。
我が最大のライバルにして、友人。
あの小さな体のどこに、すさまじいパワーが秘められていたのでしょう。
きっとそれは信念……ココロの中にあったのでしょう。
いつしかあなたに負けた時から、私の頭はあなたでいっぱい。
……変な意味じゃございませんのよ。
ライバルとして、ずっと、いつまでも競い合いたい。
そのためにはずっと近くにいなければ。
そう思って、今日の探索も誘いに――。
「グギャアアアア!!」
「ああああぁぁぁぁ!! しんみりしている時間などありませんでした!! このままだと激突しますわああああ!!」
ああ、無常。
巨大な体はもう、目の前にまで迫っているのでした。
グシャア!!
「え……?」
「グ、グ……」
「グギャアアアアアアアアアアアアアア!!」
「な、何が起こったんですの……?」
自分の気持ちを落ち着けるべく、説明しなければなりません。
結論として、黒い虫は私とは激突しませんでした。
虫にぶち当たっていたのは、真紅の刀。
それが芋虫の目――に当たる部分へとピンポイントで直撃していたのです。
その結果、芋虫は吹っ飛ぶようにのけぞっていった――。
次の瞬間に私が見たのは赤い閃光。
遠くの崖のから放たれたそれが、私を目掛けて――。
いえ、あれは、あれは――。
「人……!? 赤い刀を放ったと思しき人が、こっちに向かって飛んできている!?」
そして着地を決めたのです。
私より背丈の大きく、巫女装束を思わせる赤と白のピチピチスーツを着た、真っ赤な髪のお方がこちらを振り向くと――。
豊満なボディが私の目に飛び込んだのです。
「きみ!! 大丈夫でしょうか? ……あれ、あなたは」
「あ、ああああ、ア……」
まるで瀕死の魚。
顎が痙攣したように歯がガチガチと言い、上手くしゃべれません。
「あ、朱里さん!?!?」
「……?」
くりくりの真っ赤な瞳に、同じく真っ赤で綺麗な長い髪。
間違いありません。
我が友人にして最大のライバル。
その朱里さんが、大きくなり豊かな姿で私を助けてくれたのです。
平たく言えば大きかったのです、お胸が。
「グギャアアアア……」
「ごめんね、お話は後みたい……。今はこいつを……!!」
勇猛果敢に一歩を踏み出すその背中に、私は声をかけるのでした。
「あ、あいつは図体が大きいけど、突っ込んでくるだけみたいですわ!! でも当たったら痛そうだから気をつけてくださいまし!!」
「……え? そうなんだ。ふふ、ありがとう」
大きな朱里さん(仮)が上品な声で応えました。
さあ、やってくださいまし。
朱里さんの必殺技といえば魔法力でできた巨大な対艦刀・
……実は毎回見るのを楽しみにしています。
ええ、ライバルの技を把握しておくのは当然ですから。
さあ、大きな朱里さん、今日も元気にあの技を見せてくださいませ――。
「
……!?
「知らない技ですわああああ!? 何もない空間に、赤い刀が無数に生えている!! パワー型からテク型の派生をしていますわ朱里さんいつの間にこんな技を!?」
「すぐに片づけますので静かにしていただけると……」
「あ、はい、ですわよ」
刀が十……百、いやもっと?
とにかく堰を切ったように流れ出しましたわ。
一本ごとに、巨虫は体が引き裂かれるように千切れていき――。
数秒後には、皮のキレ一枚で繋がっているような状態になったのです。
「終わりです」
最後に発射された刀が、虫を完全に二つに裂きました。
地鳴りのような音とともに、怪物は消えていったのです。
正直、強すぎますわ。
それでいて勝利の後には、慈愛の笑みをこちらに向けるのです。
「……ふう、大丈夫でしょうか?」
「……」
「あ、あの……?」
「……は!! ワタクシとしたことが!! 余りにも凛とした姿に心を奪われて……などいませんわーーーー!! あなたは私のライバル!! 大きくなってもそれは変わらない……!! だからこそあえて言いましょう!! 流石ですわ我が友よ!! おーっほっほっほっほ!!」
「ものすごく元気そうで良かったです。でも、その前に……あなたも魔法少女ですよね?」
「そうです!! ワタクシ、未来を担う魔法少女として日々ケンサンを重ね……」
「うーん、おでこでいいかな。ちょっと出してもらえますか?」
「……? どうぞ」
「では……あなたに加護を」
大きな朱里さんは、私のおでこへと顔を近づけ――。
頭に、温かな感触が灯ったのです。
何が起こったのか。
答えは簡単です。
大きな朱里さんの唇と私のおでこが接触をした。
これはつまり――。
「唐突なキスですわよおおおおぉぉぉぉ!?」
「ふふ。そのリアクション、小さいころのあの子を思い出すなあ……。あ、始まった」
「な……!? こ、これは……!!」
私の体から、青い光が増していきます。
やがて光は周囲一帯を照らし、この茶色の世界に高貴なる蒼をもたらしたのです!!
これは……つまり……。
「ワタクシ、輝いていますわああああぁぁぁぁ!!」
大きな朱里さんはニコヤカにこちらを見ているのでした。
――荒野で、ワタクシ、輝いて。
――