私と輝里さんの目の前に突如現れた存在。
整った精悍な顔つき。
無駄がなく、しっかりとした筋肉。
魅力を際立たせる長い髪。
そして、ふくよかなお胸。
……。
これは私が夢にまで見た姿。
白と青を基調としたボディスーツは体のラインをきっちりと際立たせ、ふくよかなお胸を強調していたのです。
胸だけではありません。
両手に構えた巨銃はワタクシの武器の正当進化。
胸に負けないくらいのサイズ感を……。
「お胸の大きさが気になってしょうがないですわああああぁぁ!!」
「……」
絶叫するワタクシには一瞥もくれず、その胸の大きな女性は輝里さんの前へとすたすたと歩きました。
「瑠奈……きてくれたんですね……!!」
「ふふ……見ず知らずの子供を庇ってこんな
蒼き巨銃が輝里さんのミケンに突きつけられました。
「なんて言うとでも思ったかボケ!? ふざけるなよ!? あなたは自分の体を何だと思ってるの!? バカなの!? アホなの!? このトンチキおっぱい!!」
「その……。瑠奈には今更な話だと思いますが、魔法力で人は撃てませんよ」
「知ってる!! 撃てたらあなたはハチの巣になってるわよ!!」
勢いよく輝里さんを小突く大きなワタクシ(仮)。
……いえ、やはり私ではないかもしれません。
口が悪いです、あまりにも。
「グギャアア……」
忘れないでくれと言わんばかりに遠くで芋虫が唸りを上げていました。
その姿を見て、瑠奈と呼ばれた方が一歩前に立ちます。
「瑠奈……!! 無理は、しないでね……」
「ふん、あなたにだけは言われたくない。……勘違いしないでほしいわね。あなたを越え、あなたを倒すのは私でなければいけないのだから」
あ、今のやり取りでお二人の関係を察しました。
ずばり輝里さんにとっての瑠奈さんは「あいつを倒していいのは俺だけだ」系ライバル……!!
そしてこの関係は、ワタクシと朱里さんをなぞらえたものと言っても過言ではないでしょう!!
朱里さんを越えるのも私であるべきなので……。
黒い巨虫が待ちきれないと言わんばかりに突っ込んできました。
ですが、蒼い髪の少女は淀みない動きで双銃を構えて――。
それらを合体させました。
「ホワッツ!? ただでさえ大きかった一つ一つの銃が一瞬で霧状になり、戻った時には超巨大なひとつの巨銃へとなりましたわーーーー!? その大きさはもはや大砲!! そして魔法力には重さがない!! 瑠奈さんはそのグリップをしっかりと両手で握り怪物へと向けています!!」
「あれが瑠奈の特技のひとつです。とっても強いんですよ、瑠奈は」
「パワー型の派生ですわ……!!」
後ろでワイワイ言ってる私達もなんのその。
大きなワタクシこと瑠奈さんは、その背中で雄弁に語っているではありませんか。
「実況解説が騒がしいわね……さっさと終わらせましょう」
ようやく瑠奈さんを射程に入れた黒い虫が巨体を振り上げました。
「――
刹那、蒼い螺旋が発射されました。
蒼い魔法力の大きなうねりは、怪物を横断し――。
粉々に吹っ飛ばしていたのです。
「大人になったワタクシカッコカリ!! も~んのすごい強いですわああああ!!」
……私に似て強そうな"いで立ち"でしたが、脅威度7のモンスターを吹っ飛ばすとは!!
もしも元の世界でこんな魔法少女が現れたら表彰待ったなし!! 全世界から引く手あまたの生きた伝説ですわよ~。
「瑠奈は私がピンチに陥るといつも助けにきてくれるんです……。迷惑をかけるのは良くないと思っているのですが、それがうれしくて……」
うっとりとした表情で輝里さんが補足します。
ピチピチスーツがところどころ破れていましたが、出血などはなく、無事なようです。
それどころか、破れ目から見えた肌は心なしかツヤツヤとしていました。
この人も結構たくましいな。
そう思わずにはいられません。
モンスターが完全に消え去ったのを確認して、瑠奈さんが身を翻しました。
「……まったく、敵がロストしたのも確認しないでワチャワチャと。輝里、あなたがそんなことでは困る。もっと序列一級の魔法少女であることに自覚をもって……」
どうやらこの方に油断の二文字はないようです。
この場に来た時の対応の数々、正にヒーローと呼ぶにふさわしく、ワタクシの目指している姿そのものではありませんか。
しかし、少しの罪悪感。
この方をワタクシの将来の姿だと言ってしまうのは、こう、成果の横取り的なアレでは……?
恐らくは努力したのでしょう。
様々な"SYU・RA・BA"をくぐったのかもしれません。
それらの経験をせず、自分もそうなれると言い張ることには抵抗があります。
顔こそクリソツのドッペルゲンガー状態ですが……。
その瑠奈さんは、まだ輝里さんへの説教の途中でした。
だいぶ長いようです。
「聞いてるの、輝里。まったく人助けはいいけど、子供がいたのならいったん引き返すという選択肢も――」
瑠奈さんが何かに気が付きました。
視線の先にいるのは、ワタクシくらいのものです。
「――……!! ……!? ……????」
驚き、困惑、混乱。
何かを言いたそうにしている瑠奈さんの表情がコロコロと変わります。
どうやら瑠奈さんの頭は輝里さんとモンスターへの対処でいっぱいだったらしく、初めて私の顔を意識したらしいのです。
瑠奈さん、天然なのでしょうか。
「この子供!! 小さな頃のワタクシにクリソツですわああああぁぁ!?!?」
荒野に瑠奈さんの、低めの絶叫が響き渡ります。
前言撤回。
やはりこの方はワタクシそのものかもしれません。
●
「先ほどは興奮して失礼したわ……。いかなる時も高貴に振舞うと決めていたのに……。こんなに取り乱したのは干していた下着がないと思ったら砂場で遊んでいるクソガキ魔法少女どもが建てていた城の旗に使われていたと気づいた時以来ね」
私の右手側を歩いている瑠奈さんがため息を吐きます。
苦労されてるのですね。
この方は
輝里さんと同じく、この地を守る魔法少女らしいです。
「ふふ。瑠奈のエセお嬢様口調、久しぶりに聞きました。何だか懐かしいですね……」
すっかり元気になった輝里さんは、私の左手側に。
相変わらず穏やかな語り口調で、ゆったりと――。
……!?
「え、エセお嬢様……!? 輝里さんワタクシの口調のことをそう思ってましたの!? この高貴さで満ち、自らを鼓舞するこの口調を!!」
「え……!? てっきり自覚があってやってるものだと……。子供の頃の瑠奈もそうですよね?」
「……。ノーコメント」
瑠奈さんが伏し目がちに横を向きました。
何ですの!?
この口調にもっと誇りを持ってくださいまし!!
そんなWA・KI・AI・AIとした会話を続けながらも、私達は歩を進めていました。
目的地は輝里さんと瑠奈さんが住んでいるという村。
どうせ行く当てもないので、二人と一緒に戻ることとなりました。
情報収集をするにしても拠点は必要でしょうし、何より朱里さんや歩道、夕香さんも身を寄せているかもしれません。
「しかしこんな異世界にも魔法少女とモンスターは存在しますのね。モンスターは西暦2000年ごろその存在が
「私は自分にそっくりな子供が突然現れたの方がビックリだけどね。ま、つもる話は戻ってからよ」
「そうですね。瑠璃ちゃんのお話を詳しく聞けば、モンスターについての情報も集めれるかもしれません……!!」
「あなたは独断行動をしたお説教からよ」
輝里さんがしょんぼりと肩を落とします。
何でしょう、先ほどまでは勇猛果敢に戦っていましたのに……。
私より大きくてしっかりした感じの方がこうした反応をしているの、心がかき乱される気分です。
これが聞きしに勝るギャップM・O・E……!!。
「見えてきたわね」
瑠奈さんの声につられて、切り立った崖の上から一帯を見下ろします。
相変わらずまっ茶色な空間の中に、いくつかの家屋が並んでいる区画が見えました。
「あれは……村、なんですの? 西部劇の撮影が出来そうな感じですわ……!!」
この地に着いた時からの直感。
おそらくここは異世界であるということ。
そう思ったのはこの地が私の住んでいた町とは全く違う風景のはずなのに、どこかで懐かしい匂いを感じていたから。
ここは私達のいた土地であって、私達のいた土地ではない――。
輝里さんが、どこから取り出しのか双眼鏡(実物は初めて手に取る)を渡してくれました。
村の入り口に、看板が見えます。
「瑠璃さん、紹介しますね。あれが私達、魔法少女の拠点――」
「Middle Utilized Registration Access……魔法少女のMURAよ」
看板には瑠奈さんの言った通りの言葉が、アルファベットで書かれていたのでした。
――