「なるほど……つまりあなたは西暦2020年の2月3日、モンスターを自主的に討伐にいったところ脅威度9を超えるモンスターに遭遇。戦闘中に何らかの不思議なことが起こってここに飛ばされてきた、と」
「ええ、そうですそうです!! 瑠奈さんは理解力が高くて助かりますわああああぁぁ!!」
畳、掛け軸、奥に置いてあるのは茶器でしょうか。
集落の家屋のひとつは、和室空間でした。
WABISABIを感じる空間の中で、ワタクシと瑠奈さんは事情を話していたのでした。
ちなみに輝里さんは先ほどまでお説教をくらっていたので横でしょんぼりしています。
「なんで一人で行ったの?」「女の子を見つけた時点でいったん帰る選択肢は?」「いきなりキスしたの!?」「いや、別にいいんだけど……」「人の気も考えないで……!! あなたはいつもそう!!」
などと、瑠奈さんに一方的にまくしたてられ反省しきりのようでした。
かれこれ10分はお二人で話していたでしょうか。
ちなみにワタクシはお茶をすすりながら眺めていていました。
ジョウジのモツレというやつですわ。
「しかし私の子供ころにそっくり……か。これってもしかして……」
「あ、そのことでワタクシも推理しましたわ!! ずばりここは100年程度未来の世界!! 過去の世界の可能性も考えましたが……ピチピチインナースーツの技術力がどう見ても無理ですわ!! つまり瑠奈さんはワタクシの子孫的なアレ!! 恐らくは世界全体でモンスターが大量発生し、インフラは崩壊!! そんな闇に閉ざされた世界を救うべく、ワタクシが召喚されたのですわああああぁぁ!!」
「……? 瑠璃さん、どなたかに召喚されたのですか?」
「輝里、この子たぶん勢いで言ってるだけよ。……正直わかる」
あどけない表情を浮かべる輝里さんに対して、瑠奈さんがやれやれと言った顔をします。
お互いまとめ役というのは苦労しますわね!!
ワタクシも朱里さん、歩道、夕香さんをまとめるのは大変だったものです……。
「……で、あなたの言っていることだけど当たっていることもあるけど、違う部分もある」
「……え!? まさかワタクシ、召喚ではなく異世界転生!? ワタクシはもともとこの世界で生まれ育ち、前世の記憶として2020年の体験を思い出していたにすぎない……? 叙述トリックですわああああぁぁぁぁ!!」
「そこはどうでもいい」
「あうん」
ぴしゃりと言い放つと瑠奈さんが咳払いをしました。
これは真面目な話をする合図というやつでしょう。
「あなたにとってここは遠い未来の世界じゃない。なぜなら――」
瑠奈さんの蒼い瞳に、私の姿が映りました。
「
「え……ええ……? ……え……ええ。……。何も理解が追いつきませんから空元気で高笑いいたしますわ。おーっほっほっほっほ!!」
もしも瑠奈さんの言っていることが本当なら、ワタクシは4か月気絶していたことになります。
さすがに現実的ではないでしょう。
そうか、現実でない。
つまりこれはドッキリですわ。
将来、大魔法少女となるワタクシを出汁にしたドッキリ企画――。
「キャメラはどこに回ってますのー!? 撮れ高はもう十分でしてよーーーー!?」
「……瑠奈。瑠璃さんはまだ小さいです。いきなりそんな話をするなんて……」
「あなたは甘すぎるわ。子供だからと言って変に気を遣う必要はない。……私達全員、魔法少女。そうでしょ?」
ワチャワチャと言い合う二人を余所に、私は持ち前の冷静さを取り戻していきます。
私はもともと魔法少女小学校でソレナリの成績を納める身。
すぐに違和感に気づいたのでした。
「イヤイヤ!! やっぱりおかしいですわ!! 教科書では私の産まれる前、西暦2000年にモンスターの大襲撃があったはずですわ!! そこから魔法少女に関する制度が整備されていき現在に至るはず……。はっ!? まさかここは2000年の大襲撃で人類が敗北した世界!? パラレルワールドですわああああ!!」
私の発言に輝里さんと瑠奈さんが顔を見合わせます。
やはりそうだったか、なんて聞こえてきそうです。
「とりあえずしゃべる時のテンションを下げてほしい。……確かにモンスターによる大襲撃は起こったわ……ただ……」
「1980年です。
「1980年……???」
1980年。
ワタクシが産まれる約30年前なので予備知識が全然ありませんわ。
なんとなくこう……バブリーな時代だったとお聞きしています。
ワンピースはまだ連載前でしょうか?
「私達の世界で1980年に始まった戦い……それは決定打がないまま長きに渡った。そしてモンスター達はあらゆる資源やエネルギーを吸い取っていき世界の大部分を砂漠へと変えてしまった」
「もちろん当時に覚醒した魔法少女達を中心に抵抗したらしいです。……ですがモンスターの出現が突発的で、魔法少女にしか倒せないのが大きな問題となりました。……人の住める土地はどんどん少なくなって、たくさんの人が移民を余儀なくされたんです……」
瑠奈さんの寂しげな瞳、輝里さんの悔しそうな口ぶり。
ここにきてやっと、私は己の無知さを恥じました。
私が元の世界で平和に過ごせたのも、別の誰かのおかげなのです。
2000年の大襲撃で魔法少女達が敗北していれば、私達の世界が同じ結果を辿った可能性はあったのです。
私は頭を下げていました。
輝里さんと瑠奈さんがびっくりしているのがわかります。
「何の気遣いもなくズケズケと聞いて申し訳ありませんでしたわああああ!! 苦労なさってたのねええええ!!」
「だからテンションを下げろと。私達も産まれた時からそうだったから、別にこれが普通ってだけよ」
「はい、だからこそこうしてモンスターの対策として、出現頻度の高い場所を最前線とした集落を作っているんです。魔法少女の前線基地として……」
なるほど、わかりました。
つまりはここはIFの世界。
モンスターが私達の世界よりも早めに出現し、別の分岐を辿った世界。
しかし、ひとつの疑問がありました。
ワタクシの観察眼は見落としません。
モンスターの出現が2000年と言った時、二人が「やっぱり」という反応をしたことを。
「2000年が特別な年だった……というセンならこちらの世界でもその年に何かが起こっているはず……。ですが一切そんな話は出てきませんでした。だとするなら『やっぱり』という反応があったのは……」
ワタクシ、興奮して思わず立ち上がりました。
「『モンスターが出現した事実』そのものですわ!! そもそもお二人は私が他の世界から来たことを当たり前に受け止めています!! つまり!! 他にもあるのですわ!! 別の年にモンスターによって襲撃された世界が!! そしてそれを知る手段がある!!」
輝里さんが口に手を当てます。
瑠奈さんはおでこに手を当てて天を仰いでました。
「この子、勢いだけかと思ったら……。さすがは私に似て、といったところかしら」
「うーん、あんまり巻き込むのも良くないと思いますが……でも瑠璃さんにも知る権利はあると思います。本部への説明をどうするかですが……」
「テキトーでいいでしょ。どうせこっちに丸投げだし。現場判断で瑠璃をパーティインしま~す」
「あはは……では、それで」
お二人の会話に、気心の知れた距離感と若干の世知辛さを感じつつ、私達は畳から立ち上がったのです。
どうやら別世界を知ったカラクリを明かしてくれるらしいのですが……。
「瑠璃さん、こちらです」
「……? こちらと言われても、そっちにあるのは掛け軸くらいですわぁ?」
畳、掛け軸、茶器。
この部屋にあるものと言えばそれくらい――。
輝里さんが何やら不敵な笑みを浮かべています。
そしてピロっとめくりました、掛け軸を。
掛け軸の裏にあったのは――。
「掛け軸の裏に、地下への階段があったのですわああああぁぁ!? NA・N・DE・ですのーーーー!?」
「ふふ、大☆成☆功!!」
「輝里の趣味よ。まったく普通に階段を作ればいいものを……あとピースやめろ」
「瑠奈、いくつになってもロマンは忘れちゃダメですよ。では出発しんこ~」
「輝里さんの精神年齢が急に10は下がったのですわ……」
ルンルン気分で先導する輝里さんに導かれ、私は地下へと降りていくのでした。