魔法少女アンダーバーエックス   作:MOPX

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時空年表と時空地図

 

「ここ、狭いので気を付けてくださいね。……ふんふーん♪ ここ通るのいつも楽しみなんだ~」

 

もにゅ、もにゅ。

 

「……」

 

「はあ……早く行きなさい十九歳児。後ろがつかえてるのよ」

 

もにゅ、もにゅ。

 

「……」

 

もにゅ、もにゅ。

 

 

 

「……嗚呼!! 絶対にそんな音がするはずないのに!! 頭の中で柔らかなオノマトペが鳴り響きますわーーーー!? HA・RE・N・TIですのよおおおお!!」

 

 

のよおぉ……のよおぉ……のよおぉ……。

 

 

横幅の狭い階段で私の声がこだまします。

後ろの瑠奈さんがキレ気味に舌打ちしたので少し黙っていることにしました、反省。

 

「この扉の先です。……この世界、というより()の技術での最新の設備……」

 

輝里さんが、扉に手をかけました。

そこに待っていたのは――。

 

 

 

「ほああああぁぁ!? SFの宇宙船で見かけるような!! ロボット物で組織の指令室がそうなっているような!! ワケわからん機械とウィンドウがたくさん並んでいますわああああ!?」

 

「魔法力演算コンピュータです。危ないからぶつけたりしないでくださいね。……いろんな意味で」

 

「見渡す限りやたらとカラフルな画面……!! 電気代がヤバそうですわ……!! しかし一体何をするところなのでしょう……!! ワタクシ、気になってしまいますわ~!!」

 

「あんたは街角レポーターか。でも、いいでしょう。教えてあげるわ。これは『魔法力』と『反魔法力』を観測する設備……つまりは……」

 

瑠奈さんの言葉を、輝里さんが繋ぎました。

 

ここ(・・)とは別の宇宙……つまりは平行世界を観測する場所です」

 

「……ほへ? 魔法力が……? 平行世界……???」

 

 

 

魔法力。

 

それは魔法少女が持っている特殊な力。

 

正確には人類全てがセンザイ的に持っていて、それに目覚めたものを魔法少女と呼ぶ――。

 

教科書に書かれている、私達の世界の常識。

 

「それがなんで!! 平行世界に関わるというのです!! 論理が飛躍しすぎですわああああ!!」

 

「あ~面倒くさい……輝里、あなたが説明しなさい」

 

「では、僭越ながら……」

 

おほん、と咳き込みながら説明が始まりました。

長くなりそうなので、ワタクシは話半分で聞くことにいたします。

 

「長くなりそうですが、我慢して聞いてくださいますか……?」

 

「あっ、はい。輝里さんに身を屈まれてウルウルお目目で迫られたら、どんな奴でもI・TI・KO・ROなのですわああああ!! 私も含めて!!」

 

「そういうのはいいから……。でも、ちょっと退屈しそうなのはその通りね……。輝里、あなたの説明で瑠璃が理解できなかったら、その度にデカチチを揺らしなさい」

 

――!?

 

「る、瑠奈!? 何を言ってるんですか!?」

 

「いいじゃない。私は知ってることばっかだからクソ退屈だし。……それとも自分のプレゼン能力に自信がないって? 私がやろっか?」

 

「む……そう言われたら引き下がれません!! この勝負、受けてたちましょう!!」

 

こうして魔法力と平行世界の説明 ~説明がわかりにくかったら乳揺らしゲーム~ が始まりました。

ワタクシ、はからずも重要な役割を担うことになりましたわよ。

 

 

 

「まず、基本的なこととして宇宙はたくさんあります」

 

「ざっくりですわあ!? どれくらい!?」

 

「……!! 今のは先を促されたのであって、わかりにくかったわけじゃありません!!」

 

「……良しとしましょう、続けなさい」

 

戦いは既に始まっているのですわ。

 

 

 

「宇宙の正確な数はわかりません。……人の体に含まれる細胞の数とも、宇宙に存在する星の数とも。それが観測されたのはこの装置……魔法力・反魔法力観測装置のおかげなのです。もともとこれは離れた位置にいる魔法少女とモンスターの位置を正確に把握するためのものでした。……それが私達とは別の空間座標系に存在する魔法力を発見しました。魔法力は確かに存在しているのに、私達(・・)の世界には何もない。その事実が無数の宇宙を見つけるきっかけとなったのです」

 

 

「???」

 

 

「あ、あれ……? どこかわからなかったですか……?」

 

「全部……ですわよ」

 

「ぜ、全部ですか……!!」

 

後ろで瑠奈さんが爆笑していました。

輝里さんが意を決したのか、目を閉じました。

 

 

 

「では……宮堂輝里、いきます!!」

 

ぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよん!!

 

ぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよん!!

 

ぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよん!!

 

ぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよん!!

 

ぽよんぽよんぽよんぽよんぽよんぽよん!!

 

 

 

「……これくらいでしょうか」

 

「わからない説明の鬱憤が、柔らかな擬音とともに成仏していきましたわ……!!」

 

「ほら、やっぱり良いアイディアだったでしょ、乳揺らし」

 

「もう……!! 説明に戻りますよ!!」

 

 

 

「宇宙がいっぱいあって、その成り立ちにはいろんな仮説があるのですが……割愛します。この、言わば宇宙の群れですが、観測しているうちにひとつの仮説が浮かび上がったのです」

 

「仮説……? ごくりんちょですわ……」

 

「すなわち、どの宇宙も等しく同じ運命を辿るということです。同じタイミングで同じように星が生まれ、同じ惑星で水が満ち、同じように生物が生まれる――そこに一切の偶然は介在せず、同じ年に、同じ人が、同じように産まれ、同じような人生を送り同じように死ぬ」

 

「……!!」

 

「……瑠璃さん、またわかりにくかったですか?」

 

「い、いえ……続けてくださいまし」

 

今のはわかりました。

思わず身震いがするくらい。

 

 

 

神はサイコロを振らない、というやつでしょうか。

それがもし本当なら、私の未来も既に決まっているということになります。

 

「だからこそ全ての平行世界が同じ歴史を共有していた――ある例外を除いて」

 

「わ、わかりましたわ!! 魔法少女でしょう!? 魔法少女だけは運命に抗うことができると……!!」

 

自分でも情けないくらい、懇願するような声が出ていました。

しかし、輝里さんは心底つらそうに首を振りました。

 

「モンスターです」

 

「え……?」

 

「私達の宇宙――それぞれの平行世界は、モンスターが出現するタイミングとその規模で分岐していたのです。だからこそ、ある程度は近代までの歴史を共有していたのです」

 

「それでは……!! それではまるで、モンスターだけが運命を動かせると……」

 

 

鈍い、蹴りの音がしました。

 

 

慌てて振り返ると、瑠奈さんが壁を蹴ったのだとわかりました。

普通ならビビッてしまうところでしたが、不思議とそんな気分にはなりません。

 

もしも同じ立場なら、同じことをしたのかもしれないから。

 

「ごめんなさい。でもこれは諸所の証拠から覆すのが難しくて……」

 

「私を説得してもしょうがないでしょう? いいから続けなさい」

 

輝里さんがこちらに向き直りました。

 

「とにかく各平行世界でこの星にモンスターが発生して、人類が魔法力に覚醒する……それがどの世界でも起きていることなんです」

 

「どの世界……でも……」

 

「はい。年月自体のズレとモンスターの襲撃のタイミングのズレ。それこそが私達の世界を決定づけるもの。例えば10年分進んだ時空であっても、モンスターの襲撃が10年後になるわけではありません」

 

輝里さんが傍らにあったホワイトボードにペンを走らせます。

 

「例えば、こんな感じです」

 

 

 

1980 2000 2020

――――×――――>

―×―――――――>

 

――――×―>

―×――――>

 

 

 

「矢印の先が各宇宙が西暦何年まで進んでいるか。バッテンがモンスターが襲来した年、と考えてください。わかりやすく図示してみました」

 

「……?」

 

「……。わかりやすく図示してみました!!」

 

「二回分ってところね。輝里、揺らしなさい」

 

「うう……いいと思ったのに……」ぷるんっぷるんっ

 

 

 

輝里さんのお胸が躍り、荒ぶる姿は私の頭を活性化させました。

どうやら一本一本が私達の世界を示しているとその時にわかったのです!!

 

「上から一つ目と、二つ目が私の世界と、輝里さん達の世界……ということですのね!!」

 

「そういうことです!! 年代はともに2020年ですがモンスターの襲撃タイミングが違うということですね!! よくできました!! もっと早く理解してほしかったですけど!!」

 

「んほ、んほほほほ!! ワタクシ、久々に褒められて変な笑い声が出てしまいましたわ~!!」

 

 

 

「はい、この勢いのまま行きましょう。1番目の矢印の世界から、3番目の矢印の世界を観測したらどうなりますか?」

 

「同じ年代にモンスターの襲撃が起こっていて年代は2000年程度……つまり過去の世界を見ているようになりますわ!!」

 

「正解です!! 正確にはモンスターが出現した時点で分岐しているので、同じ過去にはなりませんが……良しとしましょう!!」

 

「んほ、んほほほほほ!!」

 

「その笑い方やめさない。あと輝里、時空距離の概念について説明が抜けてる」

 

「うーん、いりますかね? ……自信がないわけじゃないですよ、決して」

 

「いる。じゃないとこの子を帰す場所がわからないでしょ。遠くの時空から来てる可能性があるのよ?」

 

「うーん、これ以上に用語があるのですね……まあワタクシの理解力をもってすればどんとこいですわよ~!! おーほっほっほ!!」

 

「……。はい、じゃあやりましょうかあ……はあ……。この年代のズレとは別に、時空に遠い近いの概念があります。単純に年代が近ければ近い、というわけではないんですね。惑星が軌道を公転して、接近するように……」

 

「軌道? 公転? ちょっとよくわかりませんわ」

 

「ああーーーー!! 言わんこっちゃない!!」ぶるんぶるん!!

 

 

 

「気を取り直して一気に行きますよ……!! 時空にはR座標、G座標、B座標で決まる距離があります!! そしてこれが近くなる条件こそが……!!」

 

「『魔法少女』が英語でなんと呼ばれているか、ね」

 

「え……? そんなことで決まるんですの!?」

 

「はい。どの世界でもモンスターと戦う存在が『魔法少女』と呼ばれるのは変わりません。ただ英語での名づけは各世界によって異なるのです。……瑠璃さん、あなたの時空で魔法少女はなんと呼ばれていますか?」

 

魔法少女は英語でなにか。

そんなことは決まっております。

教科書にだって載っている。

 

「アン↑チェイン……↓ エックスゥ……(ねっとり)。トキハナタレタァ……ナニカぁ……。ネイティブもビックリの綺麗な発音ですわああああ!!」

 

「ふふ、一緒です。この世界でも魔法少女はUnchain X!!……おほん、英語ではそういう呼称です」

 

「……? モンスターの襲来したタイミングは違うのに同じ名前ですのね?」

 

「ええ、そこが不思議なところです。時空が近いから同じ呼称になるのか、同じ呼称になったから時空が近くなるのか……。とにかく、私達は魔法少女がUnchain Xと称される時空を『UX時空系』と呼んでいます」

 

「UX時空系……」

 

「わ、わかりませんか?」

 

「かっこいいからうっとりしていましたわ!!」

 

「ほ……。同じ時空系であるということは、魔法力(・・・)の距離が近い……すなわち、魔法力も行き来しやすいということなんです」

 

「要するにタグ付けのような感じですのね!! ワタクシも絵を漁る時はタグからたどりますわああああ!!」

 

「後から付けなおせる……って意味では近いかもね。魔法力の力は認識の力。その世界の人々がどう認識するかであり方が変わってくるのよ」

 

瑠奈さんがすっ、と壁から離れました。

あ、これは何か良いことを言おうとする合図です。

 

「各時空の年代といつモンスターの発生があったか、これは言わば二重の歴史。更に魔法少女が別名で何と呼ばれているか、アルファベット二字で規定される認識のアドレス……場所のようなもの」

 

青い瞳が、私の姿を映します。

 

「時空年表と時空地図。私はこれらの概念をそう呼んでいる」

 

 

 

 

 

「……」

 

「ど、どうしたの……? わかりやすいし、かっこいいでしょう……?」

 

「いきなり社会のお勉強になりましたわああああ!? ワタクシよくわかりませんわああああ!!」

 

「瑠奈、ジャンプです」

 

「く、くそがああああぁぁ!!」ぽよんぽよん

 

 

 

 

 

 

「えー、以上で説明は終わりです。ご清聴ありがとうございました」

 

「拍手ですわああああ!! わからないところは柔らかなオノマトペに包まれ、とっても得した気分ですわああああ!!」

 

「うるさ」

 

ホワイトボードにはまとめが箇条書きで書かれています。

つまりここだけ覚えていればオッケーということなのですわ!!

 

 

 

・宇宙はたくさんある

・どの宇宙もモンスターに襲撃され、その時点で違う歴史に分岐する

・各時空は魔法少女の英名で分類され、同じグループは時空の行き来がしやすい

 

 

 

ここまでの説明でやっとわかりました。

私がここに来たのは、この世界へと着いたのは時空的に近所だったから。

 

そして、それを意味するところを私は知ったのです。

 

「……つまり朱里さんや、歩道、夕香さんも近くにいる、と?」

 

「はい、あなたのお友達も同じように別の時空に飛ばされたなら、十分可能性はあるかと!!」

 

「輝里、そんな楽観的なことは言わないの。手がかりがなければ探すのは難しい……。だからこの観測機でしらみつぶしに調べてみるしかないでしょう。別時空からの魔法力波を測定して――」

 

 

 

手がかり。

 

はて、手掛かり。

 

何かが引っ掛かる気がします。

 

ディスプレイはカラフルなマーブル模様を示しています。

そこに見た橙の光に、私の頭はフラッシュバック!! しました。

 

あれは確か、この世界に来てからしばらくのこと。

輝里さんに会う直前――。

 

 

 

『あっ!! 橙色の流れ星ですわ!! 落ちきる前に高速詠唱で願い事を叶えますわよーーーー!! あっ……そんなことを言っている間に見えなくなりましたわ……』

 

 

 

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"!?」

 

「……!? 瑠璃さんが喉がはちきれんばかりの絶叫を!?」

 

「悪いモノにでも憑りつかれた!? 輝里!! 武器を構え――」

 

「違うのですわああああ!! あったのですわああああ!!」

 

「な、何がですか……?」

 

「恥も外聞もないのは確かなようだけど……」

 

「決まっています!!」

 

あったのだ、最初から手掛かりは。

 

「橙色の流れ星……あれはきっと……夕香さんなのですわああああぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

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