「荒野を歩くは三人のU・RA・WA・KA・KI・オトメ達……!! 橙の流れ星から発せられていた魔法力を追い、その落下点となる場所へと向かっていたのでした……!! 目標の地点はMURAから東へ徒歩5分!! 空舞う砂嵐が視界を遮り、まるで明日の行方すら覆いつくすよう……砂が靴に入りますわああああ!! ザラザラして気持ち悪いですわよーーーー!!」
ワタクシのミケンに、青い銃が突き付けられました。
「静かにしろ」
「ハイ、ゴメンナサイ……デスワヨ」
左隣の瑠奈さんの低い声にホールドアップしていると、右隣から柔和な声が聞こえてくるのでした。
「まあまあ。いいじゃないですか。子供は元気が一番!! どこの時空でも変わりませんよ」
「元気はいいけどうるさいのはキライ。あとこの子を見ていると……」
「見ていると、何です?」
「……なんでもない」
「ロコツなフクセンですわよーーーー!! この後の展開のカギを握るに違いありませんわああああ!!」
「だからうるさいっての」カチャ
「ユルシテ、クダサイ……デスワヨ」
和やかな現地の時空の人々との交流。
これもヒーローには欠かせないものでしょう。
はい、和やかですとも。
●
「それはそうと、この世界は大変そうですが住人が暗くないのは良いことですわね!! 輝里さんと瑠奈さんがきてくれて助かりましたわよ~」
「……別に。これは私達の目的も兼ねている。あなたの知り合いが上空から落ちてきた……そうだとすればひとつの疑問が湧くわ」
「どういうことですの? 夕香さんも芋虫に吹っ飛ばされたのでは?」
「だとすれば時間が合いませんね。平行世界の時間の流れ方はいっしょ……つまり、もしそうなら瑠璃さんと夕香さんという子はいっしょに吹っ飛んでこないとおかしいことになります」
んん……確かに。
私があの流れ星を見たのはこの地に着いてから数時間のこと。
つまりその間、夕香さんは別の場所にいたということ。
「もしかしたらあなたの知り合いはもっと未来の時空を経由してここにきたんじゃないか、ということよ」
「もっと未来……?」
復習がてら。
各時空の年代にはズレがあるというのは、乳揺らしゲームの時に教えていただいたことです。
それはつまり、ここよりも時間の進んだ時空があるということ。
「ええ、もっともっと未来……もしかしたら、全時空で最も時間の進んだ、ね」
「瑠奈……」
「え? これ、深刻な話ですの? ワタクシ身構えてしまいますわああああ……口に砂が入りましたわあああああ!! ペッペ!!」
「……。まああなたにも教えてあげる。もしかしたらあなたの時空が問題を解決するかもしれないし」
唾を乾いた大地へと吐く私に、瑠奈さんが告げたのです。
「一番、年代が進んだ時空……すなわちモンスターが『最初に』発生した時空よ。諸悪の根源、そう言ってもいいわ」
「え……? そういうことになるんですの!?」
モンスターは別時空からやってくる――。
そのこと自体は、直感的に理解ができます。
モンスターの出現は常に唐突であり、またどこから来るかも明らかになっていないからです。
ですが、一番時間が進んだ時空で最初に発生したとはこれいかに……?
「瑠璃さん、全ての時空はモンスターが現れなければ歴史を共有しているのは教えましたよね? つまりもし一番時間の進んでいる時空でモンスターが発生して
「……!! 他の時空でもモンスターは発生していないはず、ですわ……」
「そう。つまりもし仮にモンスターが人為的に生み出されたものだとしたら……」
瑠奈さんが怒気のこもった声とともに吐き捨てました。
「一番進んだ時空の中に、それを実行した奴がいる。発生したモンスターがあらゆる時空へと侵攻して今に至るってわけ。……クソみたいな話よ」
「瑠奈、まだそうだと決まったわけでは……」
「他に手がかりだってないでしょ!! そう考えるしか……!!」
私にもわかってきました。
確かにどこかの時空で突発的にモンスターが発生した――そういう可能性もあるでしょう。
しかし、どこかに特異点ともいうべき場所があるとすれば、確かに一番時間の進んだ世界は怪しい気がしてきます。
「つまり……輝里さんと瑠奈さん……いえ、この世界の魔法少女の目的は……」
「はい、モンスターが発生した根幹の時空を見つけ出す……そして」
「その元を断つ。……モンスターの親玉を倒せば、子分も消滅するのはあなたも知っているでしょ? もしも、ピラミッドの頂点とも言うべき一番上の親玉を見つけ出して倒せれば――」
瑠奈さんの髪は、砂埃にも負けず蒼く輝いていました。
「全ての時空からモンスターは消滅する」
「……途方もない話ですわ」
理屈としてはわかります。
普段、魔法少女が取っている戦術である『敵のボスに必殺技をぶち込んで盤面を制圧する』。
言わばそれを宇宙、いや全時空レベルで行おう、ということ。
一体どれだけの時間がかかるのか。
私達の一生より、もっともっと時間がかかるのかもしれません。
この人たちは成そうとしているのだ、それを。
「……」
「……どうしたのよ、頭を下げて」
「立派な志にはワタクシ、敬意を払うことにしています」
輝里さんの口振りからすると、確実ではないのでしょう。
沙漠に紛れた一粒の砂金を見つけ出すような線の細い可能性。
それを捨てずにる。
やはりこの方々は、私の思い描いていたヒーローなのかもしれません。
「こうしてはいられません!! 夕香さんと合流出来たらこのことをお話しませんと!! 感極まってきましたわ~~~~!!」
「あはは、瑠璃さん。そんなに急がなくてももうすぐ到着ですから……。ん、あれは……!!」
誰よりも早く輝里さんが気が付きました。
じっと見つめていると、遠くの空で黒い点が落ちていました。
この表現は正確ではありませんでした。
「黒い点が近づいてきてますわああああ!? それも結構な速さで!! あれは……あれは……!!」
まず目を引くのは、たくましい胴体でしょうか。
大きさにして5階建てのマンションくらいはありそうです。
我が家よりでかいです。
そして胴体から伸びた首がなんと……なな、なんと!!
二つもあったのです!!
首が二つ!! 当然頭がも二つです!!
その他、クソでっかい両翼と鋭い爪が見えてきたころには、轟音とともに黒いモノが着地を決めていました。
100メートル程度先で砂埃が舞い上がります。
もはや実況の必要なし。
目の前に現れたそれは――。
「ギャオオオオ!!」
「漆黒の双頭竜ですわああああぁぁ!? ギャオギャオ言ってますわよおおおお!? 脅威度7はありますわああああ!! ヤバいですわよおおおお!!」
「この辺りのモンスターは倒したはずなのに……!! 瑠璃さんのお友達を追ってきたのかもしれません!! 早く倒しましょう……!!」
「フン、異論はないけどね。あなたたちは下がってなさい」
瑠奈さんが一歩を踏み出します。
え? 大丈夫ですかこの流れ。
瑠奈さんに限って慢心などないと思いますが……ワタクシに似てますし。
「瑠奈!! 何を……!! ここは協力して……!!」
「ちょっと前にボコられてた人に言われてもね。ま、あなたは休んでおきなさい。……見たことのないタイプである以上、何をしてくるかもわからない。そこのおチビさんを守っておきなさい」
「お、おチビィ!? センエツながら!! ワタクシとて魔法少女の端くれ!! パワーアップもしたし必ずや戦力に……!!」
頭に優しい感触がありました。
程なくして瑠奈さんが私の頭を、なでているのだとわかりました。
「……あなたを見ていると、昔の自分を思い出す。口先だけで弱かったころの自分を」
「……!! そ、そんな……!!」
「でも無力じゃない」
優しい言葉は旋律の様に奏でられました。
「きっとあなたもこれから色んなことを経験する。そうして少しずつ強くなっていけばいい。……いきなりヒーローにはなれなくても、ちょっとずつ頑張ればその分だけ前に進めるの。だからあなたの出番はまだ。黙って私に任せなさい!!」
「あ……」
なでられる感触がなくなるとともに、蒼い光が漆黒の双頭竜へと向かったのです。
「……」
ワタクシ、知りませんでした。
瑠奈さんが私に対して辛辣なことを言いつつも、内心では好感度がカンスト状態だったなんて……。
少し前での会話、『この子を見ていると……』と言葉を濁した時も、同じような心境だったのかもしれません。
私の横で、もうひとつの優しい声が聞こえるのでした。
「瑠璃さん、私は瑠奈を助けにいきます。……結界用の刀を何本かここに置いておくので、あなたはその陰に――」
「ワタクシも行きますわ」
輝里さんのまんまるな瞳が、驚きでもっと丸くなっています。
「瑠奈さんは言っていました、私はこれからいろんな経験を積むと……。だったらこれも、そのひとつではなくて?」
「……ふふ。あなた、やっぱり瑠奈に似ています。……説得しても聞かないんでしょうね。はあ……」
「ご苦労、推察いたしますわ!!」
輝里さんと瑠奈さんも私の知らない時間を過ごしています。
何だか少し妬けてしまいますが、それはそれ。
私には、私の友達がいる。
あんなクソデカドラゴン、あっという間に倒して夕香さんと再会を果たしますわ!!
「行きましょう!! 輝里さん!!」
「はい!!」
赤い光に抱っこされ、ワタクシは戦場へと飛んでいくのでした。
既に交戦状態になっているその場所へと。
●
蒼の魔法少女は自分の身の丈の何倍もある、その敵を見上げた。
二つの首がしなる鞭のように、中空で無造作に振られている。
正確に言えばこいつらのは首じゃない。
首を模した何かだ。
――怪物ごときが、ハンパに生き物を真似るんじゃあない。
小さく悪態を付くと、すぐさま殲滅の準備に取り掛かる。
蒼き双銃を眼前へと伸ばすと、狙いを定める。
目標は、無駄に大きく肥大化した胴体部分。
――どてっ腹に風穴を開けてやる。
少女の手から、銃へと光が流れ込む。
その先端部分が一際、蒼々と輝く。
「
中距離、白兵戦を加味した上で十分な破壊力を持つ一撃。
その一撃は漆黒の双頭竜へと――。
届くことはなかった。
「な……!?」
双頭竜は左右へと
蒼の銃弾はちょうどその真ん中、虚空を突っ切っていた。
左右に別れた体のどちらもが、片翼を乱暴に翻しながら突っ込んでくる。
挟撃してくる。
直感が手短に、その事実だけを伝える。
「ちっ……!!」
左右へと双銃を構える。
だが、遅かった。
この事実に蒼の魔法少女の落ち度はない。
言うなれば、相手の方が早かった。
それだけの話だった。
「きゃああああぁぁぁぁ!!」
漆黒の巨体が、蒼の魔法少女を押し潰した。
双頭竜が元の姿に戻る。
蒼い光は黒い巨体に飲み込まれ、その姿が見えなくなった。