「瑠奈さんが挟まれてしまいましたわああああぁぁ!!」
「瑠奈……!!」
飛んでいる輝里さんの胸に抱かれ、漆黒の双頭竜に向かっていた私達が目にしたもの――。
それはチーズが裂ける如く、綺麗に二つに分かれたモンスター。
そして、その分体がサンドイッチのように瑠奈さんの体を挟み込み、飲み込んでしまったのです!!
「輝里さん!! 瑠奈さんは大丈夫ですわよね!? きっとあの状態でも……何とかできるんですわよね!?」
「……。いくら瑠奈でもあの状況を打開する技は持っていません」
「じゃ、じゃあ……。あのままでは……」
魔法力と反魔法力は反発します。
だから、魔法少女がモンスターの攻撃を受けた場合、魔法力を消耗し吹っ飛ばされるにトドまるのです。
では、もしもモンスターの体の中に魔法少女が取り込まれれば?
恐らくは、魔法力が残っている間は大丈夫でしょう。
体を包む魔法力が身を守ってくれるはずです。
しかしもしも魔法力が尽きれば、周囲からの圧力から身を防ぐ手段はなくなる。
待っているのは――。
「想像するのもオゾマシイやつですわああああ!! 瑠奈さんを早く救出しませんと!!」
「……」
ぐらりと揺れる感覚。
双頭竜の前へと着地を決めた輝里さんが、敵を見据えます。
「瑠璃さん、申し訳ないですが援護をお願いします」
「え!? どうする気ですの!?」
「刀をしこたま浴びせて、奴の体を削り取ります!!」
「ガッテンショウチですわああああ!!」
無数の赤い刀が輝里さんの周囲に整然と並びます。
全てが空中で一回転。
向きを変え、双頭竜の体の一点を指し示していました。
私も、その箇所へと銃を構えます。
「千本刀!!
「瑠璃色の独奏曲ですわああああ!!」
赤い刀と青い弾丸が、真っ黒な絶壁を思わせる体を震わせ、黒いしぶきをまき散らします。
このままなら何とか――などと思うのは、考えが甘すぎたでしょうか。
攻撃に反応して身を屈めた双頭竜が、その片翼をこちらへと向け――。
そのまま飛ばしました。
「ああああ!? 体がバラバラになるタイプの敵ですわああああ!! ブーメランのように回転する刃が!! こちらを目掛けて一直線にぃ!!」
「下がってください!!」
ああ!!
大輪の花びらのように、刀が幾重にも宙を舞っております!!
水平に回転する黒い刃を、垂直に回転する紅の刃が受け止めているのです!!
回転の速度が一際、上がります!!
「ぐうううう!!」
「か、輝里さん!! 大丈夫ですのーーーー!?」
「だ、大丈夫です……!! でも……!!」
輝里さんの赤い瞳は回転する漆黒の刃ではなく、もっと遠くを見ていました。
つい、今しがた私と輝里さんで攻撃した、黒い腹のうちの一点に動きが――。
「ああああ!? えぐれていたはずの体がモコモコと!! 再生していますわああああ!? このままでは努力が水泡ですわよーーーー!!」
「ぐ……やむをえません。結界を解いて一か八か――」
「それには及びませんわああああぁぁ!!」
「!?」
ワタクシにもわかってきました。
輝里さんと瑠奈さんは固い絆で結ばれている。
だから、駆けだした。
他の誰でもない私が。
「輝里さんが片翼を止めてる間に、瑠奈さんを救出しますわ!! 」
「瑠璃さん!!」
双頭竜の二つの首が、機械的にこちらを向きます。
私がこいつに勝てるのか?
そんなことは問題ではありません。
打算や損得勘定など――。
「
黒い繊維が穴を埋めるように、戻りかけていたところへ。
着弾の度に、黒い腹が削れていく。
しかし、一発一発で掘れる距離は微々たるものだ。
自慢の銃撃は、隙は少ないが距離による減衰も大きいのだ。
銃とはそういうものだからだ。
ならば、どうするか?
「近づいて撃ちまくるだけですわあああああ!!」
残り20メートル。
真横に振り下ろされた首を、意にも介さず走る。
残り10メートル。
もうひとつの片翼が頭をかすめた気がしますが、気のせいでしょう。
残り5メートル。
黒い繊維の一部がこちらへと飛んできましたが、撃ち落とします。邪魔。
残り1メートル。
まだ十分な威力とは言えない、ならば――。
残り0メートル。
私はくぼみの中へと入っていた。
「ゼロ距離……もとい距離ゼロ射撃なのですわああああ!!」
青いしぶきが、黒い壁をえぐっていく。
ツルハシで坑道を掘るがごとく。
進んでは、いる。
進んでは、いるが――。
「――ダメですわ。このペースでは瑠奈さんが……!!」
『まだやっていたの? あなた?』
嘲笑うような声。
同時に、頭が軋むような痛み。
妖精。
魔法少女にだけその声が聞こえ、助けてくれる存在。
今は、頭の中でひんやりとした感覚をもたらすだけのもの。
『いい加減あきらめたら? 自分でもわかっているんでしょ? 口先だけで本当は何もする気はない。大きなことを言って、何かをしたような気分に浸る――それがあなたでしょ』
「……」
『あなたが逃げたって誰も文句は言わないわよ。あの蒼い方のデカチチは、あなたに大切なことを伝えて散っていった――そんな筋書きでいいじゃない。そしてあなたは命の大切さを知り、社会の隅っこで当たり障りのない人生を――』
「……ピーチクパーチクうるさいですわよ」
『……何ですって?』
「ワタクシが困っていた時に完全放置だったくせに、よくもまあペラペラと……!! 都合よく耳を貸すと思わないことです!!」
私が妖精の声を聞けるようになったその時から、妖精は時に冷静で、時に冷徹な助言を私にしていた。
まるでそれが私の本質だといわんばかりに。
そして、自分はある意味で甘えていたのだ。
妖精が言っていることだから、自分が非情な選択をしてるわけではないのだと。
今日の発端もそうだった。
裏山に行くなら歩道だけでなく朱里さんと夕香さんを誘えと、あの二人は何やかんや断れないからと言ってきたのだ。
私は少し悪いかなと思いつつ、二人にも良い話だからと自分を納得させた。
そして、結果としてお二人も巻き込むことになってしまった――。
振り払うように両手を横に広げる。
そうだ。
思い出せ。
私がここに来てから、助けてくれたのは誰だ。
輝里さんと瑠奈さんではないか。
「私は泣き虫で、弱くて、考えなしで、物語に出てくるようなヒーローではないかもしれない……そんなことは百も承知です!! だが!! だからといって!! 目の前の恩人を助けない理由にはならないのですわ!!」
見よう見まね。
両の手に銃を持ったまま、正面でぶつける。
小さな双銃が形を変え、一つの巨銃へと変わった。
銃の先端が眩いばかりの光を蓄える。
はちきれんばかりに強い輝きを放たんとしていた。
今、目の前の人間を助けるために。
「
一発の弾丸の足跡が螺旋の様に。
黒い壁を削り飛ばす。
『だが不十分ね。勢いが弱まっているわ。このまま途中で止まって――』
「ぶち抜けと言ってるのですわああああぁぁーーーー!!」
黒い肉壁で止まったまま、弾の回転速度だけが増していく。
螺旋が空間一帯に広がり、もはやドリルのようでした。
そして、その力が臨界点にまで達した時、青い弾丸が、空間の向こう側に突き抜けたのです。
荒野の向こう側と――。
それを遮るように人の右手が、横から伸びているのが見えたのです。
肉壁から生えるように。
「瑠奈さん!!」
――う、うおおおぉぉ!!
まるで魂の咆哮。
瑠奈さんが唸りを上げているのだと、ワタクシすぐにわかりました。
体が双頭竜の体に埋まっている中、手だけをバタバタと動かしているのです!!
「オーエス!! オーエス!! ですわよーーーー!!」
私は双頭竜の中で、蒼く輝く右手を引っ張りました。
蒼い光は周囲の肉を削っていき、少しずつ瑠奈さんの体が露になっていきます!!
そして、ついに――。
ぽよん。
「ぷはあ……!!」
「瑠奈さん!! ピチピチスーツがボロボロでえっちい感じになってますが生きていますわ!! 良かったですわよーーーー!!」
「このクソモンスター……ぶっ〇す……!!」
「ひえ……」
瑠奈さん、思ったよりも元気そうでしたわ。
元気過ぎておしっこチビりそうになりましたわ。
「このまま体からぶち……抜いて……ぐふ……」
「む、無理したらダメですわ~!! とりあえず外に出ますわよ~」
このまま怪物の内側にいたら魔法力が今度こそ完全に尽きてしまうでしょう。
とりあえず瑠奈さんに肩をかします。
ずっしりと重たく、そして柔らかい感触がありました。
「輝里さんの様子も気になりますわ……!! とりあえず外に向かいましょう……!!」
「ふふ……」
「な、何かおかしいでしょうか? さっきまでキレてましたのに……」
「……。余計な一言は置いといて。あなたのことをまだ弱いって言ったけど……前言撤回するわ。あなたは立派な魔法少女よ」
「り、立派だなどと……私はただ……あなたや輝里さんの姿に触発されただけなのですわ……強く、優しいその姿に……」
「ごめん。おだてられても、何も出せない……」
「いいのですわ。それに、私の目標はまだこんなものではありません……!!」
そう、今こそ胸を張って――。
「私の目標は、世界一の魔法少女になることなのですから!!」
「ああ、なれるかもね。いつか……うん、なってほしい」
「瑠奈さん……!!」
温かな感触、暖かな言葉。
少し恥ずかしい気持ちになりながらも、私は瑠奈さんと双頭竜の体から外に脱出したのでした。
そして――。
双頭竜の首の一つが、私達へと振り下ろされようとしていました。
「ぎゃああああ!! このまま逃げようなんて考えがA・MA・SU・GIでしたわよおおおお!!」
「ぐ……応戦が間に合わない……」
瑠奈さんを担いでいる私。
満身創痍の状態の瑠奈さん。
首は……もうすぐそこまで!!
近い。
近いのですわ!!
「あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”!! もうおしまいですわああああぁぁ!!」
視界が暗く覆われる。
全身の筋肉が、衝撃に備えて強張る。
思わず、目をつむってしまいました。
結果は――。
轟音と共に、双頭竜の首は真横に吹っ飛んでいたのです!!
「ああああ……!? このドタンバでワタクシに秘められた力が覚醒を……!? ついに念じただけで敵が吹っ飛びましたわああああ!?」
「んなわけないでしょ。……輝里も後ろで応戦中。あの橙の光は一体……!!」
「橙の光……? も、もしや……!! ワタクシが見逃した一瞬!! 双頭竜の首にぶつかってなおも空中を旋回するあの光は!! そしてこちらに気づいたのか向かってくるあの光は~~~~!!」
橙の光――そう思っていた人物が、私の目の前に降り立ったのです。
ローブをはためかせつつ、のぞいた顔には確かに見覚えがあったのです。
間違いない。
我が友人にして、この地に流れ着く直前まで一緒にいた存在――。
「朝霧夕香さんですわああああぁぁ!? 何かヒラヒラさせてますのよおおおお!?」
「そのうるさい叫び声は間違いなく瑠璃。それに……ん? 大きな瑠璃ぃぃ!?」
荒野に二人分の叫び声が、鳴り響くのでした。