嗚呼、なんということでしょうか。
異邦の地での我が友との再会。
これを運命と言わず何を運命と呼ぶのでしょう。
「我が友、夕香!! 我が友、夕香さんではございませんか!! やはり生きてましたのね!! そして窮地に陥ったワタクシを助けに、馳せ参じてくれたのですわああああ!!!!」
「いや知らんけど。……目を覚ましたら荒野のど真ん中で寝てて、遠くでドンパチやってたから来た。以上」
私が知らぬ間に、夕香さんにもいろいろあったのでしょう。
ぶっきらぼうなその顔には、確かな苦労の後が見えたのです。
「俺が見ていない間にどんな修行を……」「へっお互い様だろ……」、そう思わずにはいられません。
背中に乗っている瑠奈さんが吐き捨てるように注意を促します。
「おしゃべりは後になさい。何にせよこいつをぶっ倒してからよ」
「そ、そうでしたわ……!! 私達の目の前で少し怯んだ様子を見せていた双頭竜は、確かに態勢を立て直しつつあったのです!! 夕香さんもパワーアップした様子があるとは言え、こちらの消耗は激しく、勝てるかどうかわからんのですわああああぁぁ!!」
「あ、そんな感じか。状況がわかったようなわからんような……」
夕香さんから感じる魔法力は、以前とは比べ物にならないくらい高そうです。
しかし双頭竜はかなりのタフさを持っています。
その証拠に、先ほど私が貫通させた竜の腹は、もう元に戻ろうとしていたのです。
が!!
しかし!!
こんなことで諦める魔法少女ではありません!!
私達が力を合わせれば必ずや――!!
「わからんと言えば、もうひとつ聞きたいことがあるんだけど」
「何ですの!? いま脳内で口上をキメてたところですのよーーーー!!」
「後ろでクソでっかい回転する黒い刃みたいなのを、赤い刃みたいなので受け止めてる人は何? 味方?」
あ、と私が振り返ります。
輝里さんは双頭竜から放たれた回転する片翼を、いまだに受け止めていました。
忘れていたわけではございません。
輝里さんが何かを言いたそうに口をパクパクさせています。
離れているため正確には聞き取れませんが、何となく言っていることはわかるのでした。
「瑠奈……!! 無事で良かった……!! ……。さてと」
赤い刀による輪が、その勢いを増します。
高速に回転する刃が、火花のように赤と黒のしぶきをまき散らす。
高速回転結界に触れた部分から溶けるように、黒い刃がすり減っていくのがわかりました。
「はあ!!」
輝里さんが盾としていたその結界を、頭上へと振り上げました。
過程で漆黒の片翼は粉々に砕け、完全に消滅したのです。
輝里さんがこちらを――正確には双頭竜をにらみつけます。
キリっとした表情です。
普段はほんわかしたお姉さんがこうした表情をするの、自分の中で新しい扉が開いてしまいそうですわ!!
いけませんことよ!! いけませんことよ!!
「よくも瑠奈をいじめてくれましたね……!! 赦しません!!」
輝里さんの頭上でなおも高速回転する刃が、激しく唸りを上げます。
何となくこれはヤバいのでは? と思っていると瑠奈さんが代弁するように言ってくれました。
「ヤバい。巻き込まれないように離れましょう。……夕香さんだっけ、あなたも」
疲労の溜まった足を、最後の力を振り絞って動かします。
双頭竜の意識は完全に輝里さんのの方へと向いているようでした。
モンスターは、より強い魔法力を天敵とみなし排除しようとする。
この大原則はどの時空でも変わらないようです。
「千本刀・
もはや工業用のノコギリか? と見間違わんほどの勢いで回っていたそれが、そのままぶん投げられたのです。
双頭竜は片方の首をぶつけて、応戦しようとし――。
吹っ飛んでいました、その部位が。
「げげえーーーー!? 容赦ありませんわーーーー!?」
「次!!」
次、とは?
理解するのに、数秒もかかりませんでした。
回転していた刃がブーメランのように戻ってきたのです!!
振り向こうとした双頭竜……もとい一頭竜の残った片翼を切り落とす……というかほとんどすり潰していきました。
輝里さんがずっと力を溜め込んでいたとはいえ、ヤバいですわよ。
「次!!」
もう解説は不要でしょう。
二回三回。
巨大な回転刃と化したそれが、ただの羽なし一頭竜の体を刻んでいきます。
もうこうなったら再生力など関係ありません。
首もいつの何かなくなり、無頭竜になってしまいました。
無常ですわよ。
「たあああ!!」
輝里さんの咆哮と共に、暴嵐舞と呼ばれた赤い刃は止まりました。
……胴体だけの何かに突き刺さる形で。
仕上げと言わんばかりに、赤い爆発が起こる。
夕香さんは、口が半開きになっていました。
私も、そうだと気づきました。
瑠奈さんだけは少し様子が違うようで、「ふふ……さすがね。そうではなくては困るわ。あなたは私が認めた魔法少女なんだから……!!」などとツンデレライバル全開の発言をしていました。
敵が消滅したのを確認したのか、輝里さんがこちらへと飛んできました。
「大丈夫ですかみなさん!! お怪我などはないですか!?」
夕香さんが、輝里さんではなくこちらを見て肩をすくめています。
私に何かコメントを促しているようですね、これは……。
「まあ……だいたいこんな感じの状況なのです。はい。」
「何もわからん。何もわからないけど……」
夕香さんが輝里さんの方に向き直ります。
輝里さんと朱里さんも顔が似ているのですが、いまさら驚くには値しないようです。
「とりあえず、あの人がめちゃ強いのはわかった」
頷くほか、ありませんことよ。
●
「自己紹介もそこそこに、再びMURAへと戻ってきたワタクシ達。夕香さんも交えて再び、かがるなハウスの地下への階段を下りているのでした!! 理由は夕香さんがこれまでにいた時空について考察をし、私達が元の時空に戻る算段を付けるため!! さあ、一体なにが明らかになるのでしょうか……!!」
「瑠璃、相変わらず声がでかい。キンキンする」
「良いではないですか~。夕香さんも内心うれしいのでしょ~。口に出さずともわかりますわ~。おーっほっほっほ!!」
「……ウザさに磨きがかかった気がする。数時間しか経ってないのに」
「ふっふっふ。ワタクシの進化はニッシンゲッポォ……。苦難の末にパワーアップを果たしたのです」
「パワーアップ? 私もいろいろあったけど、何をしたの?」
「……」
「何でそこで黙るの?」
「……キスをしました。輝里さんと」
「ぶふっ!! ……げほっげほっ!! 何でえ!? 柴が聞いたら泣くわよ!!」
「い、いいではないですか……フカコウリョク、だったのです……」
「じゃあもういいや……。柴には黙っとこ。それより瑠璃、あなた妖精の声って聞こえてる? 私は2000年に飛ばされてから、ほぼ聞いてないんだけど」
「こちらに来てからですか? 先ほどの戦いで煽られましたが、それっきりですわね。オラ!! 聞いてるんですの、妖精!? オラっ!! オラっ!!」
「……。なんか本当に性格変わったわね、瑠璃。ツキモノが落ちたっていうか……」
前を行く輝里さんの笑い声と、瑠奈さんの溜息が同時に聞こえました。
少しうるさくしすぎたでしょうか?
それでも注意しないのは久々の友との再会に免じて、ということでしょう。
「ま、いいや……。ちょっとあなたにはキツいことも言ったけど……これからは協力ってことで。……みんなで門限までに帰りたいし、ね」
「……オウチの門限、とっくに過ぎてる気がしますわー!! おーっほっほっほ!!」
「それは言わないで……。はあ……いつになったら帰れるんだろ」
先行していた輝里さんと瑠奈さんが、扉を開けました。
中には相変わらずの、ワケわからん機械。
夕香さんはもっと驚くかと思いましたが、顎に手を当てて何やら考えているようでした。
ワタクシも何か考えてる風のポーズを取る時は真似しましょう。
「これ……時空船の設備とも違う感じだ……」
夕香さんのつぶやきに、奥にいた二人が反応します。
この方々の目的はモンスターの発生源と思われる一番時間の進んだ時空を探すこと。
夕香さんがいた時空船なるものがその鍵を握っている、ということでしょうか。
お二人が夕香さんに質問をしています。
行き着いた経緯、船内の様子、そこで起こったこと……。
……。
何だか私の時より、扱いが丁寧な気がします。
心なしか夕香さんも「恐らくですけど……」などとちょっと背伸びをした感じの受け応えをしています。
妬けてしまいますわ。
ガッデム。
「なるほど……夕香さんはそうしてお友達のお二人、朱里さん、柴さんと別れてしまったと。……大変でしたね」
「そういえば夕香さん!! あなたいつの間に大気圏突入機能を有していたのですか!? 体もですが、服が燃え尽きてなくて良かったですわああああ!!」
「……。そう言われるとどうしてだろ。目が覚めたらこの状態だったけど……。瑠璃、わかる?」
「え、それはそのう……」
輝里さんの方をチラチラ見ていましたら、少しの思案の後、口を開いてくれました。
やっぱり輝里さんはワタクシの味方ですわ~。
「落ち着いて聞いてください。……恐らくですが今の夕香さんと瑠璃さんの体は魔法力で構成されています。本当の肉体ではありません」
「え……!?」
「そうそう聞きましたか夕香さん今のワタクシ達の体は魔法力でええええぇぇええええぇぇ!?」
部屋いっぱいにワタクシの叫び声が響きました。
瑠奈さんが指で耳栓をしています。
「驚くような話? 肉体、というより物質が時空間で移動するなんて無理よ。じゃあ何が移動しているか……? 私達の魔法力よ。魔法力だけが移動してそれが有している情報を元に、体が構成されている」
「で、では……ワタクシ達の本当の体は!? いずこへ!?」
「あなた達が元々いた時空でしょう。気絶している状態で意識だけがこっちに来ている……とでも言えばわかりやすいかしら」
「で、では……一刻も早く帰りませんと!! 体が知らない間にアレヤコレヤでテンヤワンヤですわーーーー!!」
衝撃の事実。
ワタクシ達、幽体離脱をしていました。
「ま、あなた達二人がここに流れ着いたのは運が良かったのか悪かったのか……。時間をかければ元いた時空の座標を見つけ出して送ることもできるでしょう。……私達はその時空船とかいうのに行ってみるけど」
「ええ。せっかく見つかった手がかりです。夕香さんの情報のおかげで私達の中に、その場所の『認識』ができました。夕香さんがこの時空に来た時刻と場所からたどれば、きっと転移装置で行くことが可能でしょう」
お二人のお話に、何を言うべきか。
言い換えれば私がどうすべきか考えていたら、意外にも夕香さんが先にしゃべったのでした。
「私も戻ります。時空船」
「……いいのですか? あなたのお話では船はモンスターに襲われていた。もしかしたら危険も……」
「関係ないです。……私はみんなで門限までに家に帰るって決めた。朱里を……あと柴も連れて帰ります」
「ふっ……。あなたも魔法少女というわけね」
どうやら夕香さん、瑠奈さんにも気に入られたようです。
何でしょうか、このフに落ちない感じは……。
夕香さんの橙の瞳がこちらをまっすぐとらえました。
「瑠璃は? どうするの? イヤならここで待っててもいいよ」
その強い瞳の輝きに負けないくらい、夕香さんらしいまっすぐな言葉。
以前の私だったらウロタえていたかもしれませんが、今は違います。
これはきっと、夕香さんなりの優しさなのですから。
そして、答えます。
「ふっ……愚問ですわ」
朱里さんと歩道がそこにいる。
私達の助けを待っているかもしれない。
ならば答えは、最初からひとつ。
「ワタクシもついて行きますわ!! 当然!! 魔法少女たるもの、友人も救えなくてはお話になりませんわー!!」
「……そっか。……ありがと」
「夕香さんのデレ、I・TA・DA・KIましたわああああ!!」
夕香さんから軽く殴られましたが、これも親愛表現のひとつでしょう。
そうこうしていると機械を操作していた瑠奈さんが声をあげたのです。
「見つけた……!! この座標……!! 時空船があったのはここよ!! 中央の投射機に映すわ!!」
「そんなことができますの!! メチャ便利ですわ~」
「魔法力によるセンサーですね。それをこちらで映像化するイメージです。……座標を特定しても移動には10分程度かかりますが、様子を確認するだけならできます」
「朱里……!! 無事でいて……!!」
部屋の中央に、映像が浮かび上がろうとしています。
一同が固唾を飲んでそれを見守っていました。
そして映ったものは――。
こじゃれた木造の喫茶店でした。
「?」「???」「……?」「……」
カランカランとベルが鳴りました。
店の奥側から出てきたのは――。
それぞれ赤と紫を基調とした着物の上に、エプロンをかけた朱里さんと歩道。
これは、これは……。
つまり……。
「和風ロリメイドですわああああぁぁ!!」
――