『久しぶりね朝霧夕香。ふふ、そんな怖い顔しないでよ。心配しなくてもあなた達から何もしなければ、危害は加えないわ。ただ宮寺朱里、彼女だけはこちらで引き取らせてもらうわ』
『宮寺朱里は、魔法力を司る巫女に選ばれたのよ。私の……いえ、私達、
『大丈夫、少しあの子の体を借りるだけよ。それであなた達はみんな……
扉の外の真っ白な空間。
見上げたその先の橙に光る発光体。
妖精がのたまったのは、そんな言葉だった。
私、朝霧夕香にしか聴こえない、私の妖精の声。
思えばこいつの声を聞いてから私は魔法少女に覚醒した。
ある意味で始まりをもたらす存在だったのか。
何も意識していない自分の思考が、こいつの一言を挟むことで客体化された。
自分で当たり前と思っていることでも、逐一、横やりを入れられた。
今の人格形成にも影響があった――などというのは正直、否定したいところであったが。
ともかく『朝霧夕香』の存在に影を落としていたモノが、今、私の前で私の一番の目的を阻んでいる。
みんなで一緒に、門限までに元の場所に
横にいた柴が吠えた。
「朝霧ぃ!! 店長は!! 宮寺店長はどうしたっすか!? 妖精に聞くっす!!」
「妖精……!! 店長は……朱里はどうしたの!!」
『ふふ、この喫茶店のオーナーは私なの。あの子はクビよ』
「朱里が……クビ!?」
周囲がざわつく。
瑠璃と柴はともかく、夕花と輝里さんと瑠奈さんは妖精の存在自体を知らないらしく後ろで推測を話してたりしていた。
申し訳ないが説明している時間はない。
『そう。それがあの子が自分から言い出した最後のチャンスだった』
「最後のチャンス……それって……」
「夕香さん!! さっきから『○○……いったい……!!』みたいな言い回しが多すぎですわよおおおお!! いっそ妖精の言っていることを全部そのまま口にしてほしいですわああああ!!」
「う、うるさいなあ!! ちょっといい案だなって思っちゃったけど!!」
『……。相変わらず主体性がないわよね夕香は。だからこそ私を……いえ、あの子をあの場所まで運ぶのに役立ってくれた』
「……何ですって?」
『ふふ、疑問点だけが増えて混乱しているようね!! いいわ!! もうこのシステムは必要がない!! 集まるのよ!! 我が元へ!!』
瑠璃と柴の目の前に青と紫の球体が浮かんだ。
「おぼぼぼぼ!? 私の意志に反して!! 魔法力が!! ちょびっと漏れていきましたわああああ!!」
「大丈夫っすか瑠璃さまああああ!? 押し込んだら戻るっすよきっと!!」
『それはあなた達の妖精。そして私の一部――』
閃光。
一瞬まぶしく光ったかと思うと、青と紫の球体が妖精へと、吸い込まれるように――。
「ああぁぁ!! なんだかむず痒い気がしてきましたわああああ!! 気のせいかもしれませんわああああぁぁ!!」
「瑠璃!! 静かにして!!」
叫んだあと、気づいた。
青と紫だけではない。
どこかから、無数の七色の光が。
加速して、妖精へとぶつかっていく。
まるで、妖精を中心とした虹。
そして、中心の白い一点がだんだんと――。
「なんかラスボスっぽいっすねウオリャア!!」
柴が、紫の球をぶん投げた。
「柴ああああ!! ちょっとは考えて行動しなさい!!」
「何いってるっすか。これ絶対悪いやつの演出っすよ」
「お、やるのか」と瑠奈さんも魔法力で銃を形成した。
頼むから辛抱してみんな……!!
相手の出方がわからない以上、慎重に行動して……!!
柴のぶん投げた球は、尾を引くように加速し、白い存在へと届き――。
『ふん!!』
弾かれたのだ、伸びてきた真っ白な何かに。
それが何かわからなかったのは早すぎたから、だけではない。
きっと頭がその事実を受け付けなかったから。
白い球から生えていたのは、人間の腕に見えた。
『お初にお目にかかわるわね、魔法少女……いえ、二足歩行の哺乳類ども』
白い頭、白い髪、白い足。
白いドレス、白いリボン。
真っ白な少女が、そこにいた。
『私の名前はそうね……アンダーバーエックス、とでも名乗りましょうか。あなた達にもわかる言葉で言えば――』
『この時空をやりなおす存在』
「この時空を!? それってつまり……!!」
「ああああ!! 私にも聞こえましたわああああ!! 夕香さんの妖精の声がああああ!!」
「さすがっすね瑠璃さま!! ちなみに私にも聞こえたっすよおおおお!!」
「あなた達ちょっと静かにしてよ!! ……あ、ちょっと待って。あなた達に聞こえたってことは、もしかして夕花や輝里さん、瑠奈さんにも……!!」
「……聞こえてないけど」
瑠奈さんがひんやりとした目線でこちらを見る。
「さっきから大変そうですが、手伝えることがあったら言ってくださいね」
輝里さんの優しさが、今は胸に痛い。
「が、頑張って夕香……!!」
ついに応援されてしまった。
「朝霧~、司会進行ちゃんとするっすよ~。会話の流れが途切れたっすよ~」
柴のにやついた顔をマジでぶん殴ろうかと思ったが、グッとこらえた。
今はまだその時ではない。
……元の世界に帰ってからだ。
というか、そもそもだ、
「あなた達が話を脇道に逸らしまくるから困ってるんでしょ!?」
「ふふ、夕香さん。カッカしてはいけませんよ? この数時間の冒険で私のメンタルは鍛えられた……もうワタクシ涙を見せませんことよおおおお!!」
「瑠璃さま……!! 私、感動して涙が出てきたっす……!! 朝霧も見習うっすよ? 変身なんて額面上のスペックじゃなくてちゃーんと心を鍛えるっす」
「ふふ、歩道!! ワタクシ達の目的はみんなで共に帰ること……朱里さんのことをあの白いのに聞くのが一番の先決なのですわああああ!! さ、早く話を!!」
私はキレた。
「ア・ン・タ・た・ち・が!! ベラベラベラベラ!! しゃべってるから!! いつまで経っても朱里の話ができないんでしょうがああああ!! 朱里を一番大切に思ってるのは私じゃボケ!!」
『マジで話が進まないから私が独りでしゃべるわ。あんた達はリアクションだけ取ってなさい。もう忘れたかもしれないからもう一度名乗るわ。私はアンダーバーエックス……この時空をやり直すもの……。
そう、妖精と呼ばれていたモノの全ては私の意志の一部……。モンスターが発生したことで生まれた星の免疫……それが私よ。
私自身が魔法力のモト、ホワイトマターと言うべき存在。モンスターを消すため、星を覆ったエネルギーが地表に住んでいた哺乳類の脳と結びつき、魔法力と呼ばれるようになった……。
私の目的はただひとつ。本来あるべきだった世界……モンスターが完全にいない世界へと、この世界を戻すこと。
聞いたんじゃないかしら? 事象地平の向こうに存在する数多の宇宙。それらは全て同じ出来事が起き、同じ歴史を辿るはずだった。
熱が平衡状態になるように、木にぶらさがったリンゴが落ちるように……乱雑な状態を自然なあるべき姿へ。モンスターがいる状態からいない状態へする……それが私よ。
そして妖精として魔法少女に意識を伝達し、好機を待っていた……。だがそれも終わったのよ、この時空の特異時点……宮寺朱里の誕生日をもってね!!
今日が誕生日だって知らなかった? あの子はあなた達3バカトリオにも配慮して言い出せなかったみたいね。健気!! ともかく彼女の純真な性格、巫女の神秘的イメージ、そして何より高い魔法力を有していること……この間違った時空を正す
だからこそあなた達を誘導し、宮寺朱里をこの時空船へと来るように誘導した!! ここは時空全体に干渉できる言わば祭壇!! 強めのモンスターの気配を察知した私はそこへ宮寺朱里を誘導した!! 強力な敵相手に町を守りたい一心で彼女は覚醒し、完全な魔法少女となって私の目的を果たすはずだった……。それを邪魔したのがあんたよ朝霧夕香!! あんたがあの子を庇ったことで『夕香ちゃん、かっこいいのです……』とかあの子が考えて覚醒が先送りになっちまった!!
おまけに転移の座標がずれ、あの子は他の時空へと飛び、別にどうでもいい柴がこの船に来やがった!! だが紆余曲折あり宮寺朱里はここに戻り、自分の使命を思い出したのよ!!
本当に健気よねえあの子は!! 私が時空をリセットすることを伝えたらモンスターを消す別の方法があるって懇願してきたわ!! それが喫茶店時空だった!! この船から平和なイメージを時空全体に浸透させることでモンスターを消そうとしたのよ!! 可愛らしいわね!! まあ普通にモンスターが入店したし、この方法はなし!! 朱里店長はクビってわけよ!!
話を戻して宮寺朱里の特別性!! 宮寺朱里が産まれた瞬間から星が12周の公転を終える時、彼女は『少女』として完成され、完全完璧たる魔法力の巫女となるのよ!!
時間は残り、10分ちょい!! そう!! あなた達に門限として提示していたものは、この時空をリセットするタイムリミットだったのよ!! 驚いた!? ねえ驚いたでしょ!? ごくごく家庭的な取り決めだと思っていたものが時空の命運を握っていたのよ!? あんた達本当に無駄にベラベラしゃべって時間をすり潰したわよねえ!? その方が都合がいいんだけどぉ!?
さあ!! こうしちゃいられないわ!! 私は宮寺朱里とよろしくやってるから、あなた達は指をくわえて待ってなさい!!
ちなみに時空のリセットがかかると宇宙の誕生からやり直しになるから、モンスターが出現した以降に産まれたモノ……要するにあなた達はもう二度と生まれず完全に消えるわ!! あばよあばよ!! なーんちゃって!! あーっはっはっはっはっは!!』
妖精――アンダーバーエックスと名乗った存在が、周囲の白い空間と交わるように消えていく。
耳障りな、甲高い声をだけを残して。
「朱里がそんな……」
「何を言っていたのかさっぱりコンコンですわああああ!! ……ですが、やることだけははっきりしたようですわね。朱里さんを助けにいきますわよおおおお!!」
「3バカトリオて。私と朝霧はともかくあいつ瑠璃さまのことを侮辱したっす!! とっちめてやるっす!! ……朝霧? どうしたっすか」
横の二人は、何やら息巻いていた。
自分の行動原理に基づいて。
私だけ。
私だけだ。
『やっぱり主人公失格ね、あなたは』
妖精はもういないはずなのに、確かに聞こえた気がした。
ショックだった。
私は朱里の誕生日すら知らなかった。
私だけは何の
ただそこに、立ち尽くしていた。