妖精から明かされた真実。
それは私のちっぽけな体には有り余るものだった。
妖精がモンスターからこの星を守るために生まれた存在であること。
あと10分ちょっとで私達の世界をリセットして、全てを消滅させようとしていること。
そして、そのために朱里が利用されようとしていること。
今日が朱里の誕生日。
朱里が誕生してちょうど12年を迎える時。
世界の命運が、その瞬間に決まること。
どれもが私には受け入れづらい事実で、その場に立ち尽くすしか――。
「……というわけで!! つまり我が宿命のライバルでありお友達の宮寺朱里さんが連れ去られたみたいなのですわー!! みなさん、救出のために力を貸してほしいですのよー!!」
……。
とにかく、これからどうするのか。
時間もないけど考えなくてはいけない。
朱里を取り返して、モンスターの存在する世界で生きていくのか。
それとも、このまま全てが消えていくのか――。
「悩む要素あるっすか、これ? あの真っ白シロスケの都合で消滅させられのなんてゴメンっすよ。はっ倒しにいくっす!!」
……。
いやいや、まだだ。
後ろで聞いていた夕花、輝里さん、瑠奈さんの三人。
この三人には妖精の声は聞こえていないのだ。
つまり私達の言葉を信じてもらえるか、わからない――。
「私……信じる!! 朱里さんを助けに行くよ!! だって目の前の困っている人を助けるのが魔法少女だもん!! 私の世界の柴だって……きっと同じ気持ちだから……」
……。
まあ、夕花は私と同い年だし純真だから。
瑠奈さん辺りはものすごい剣幕でまくし立てるかもしれない。
そもそも、だ。
あいつのところへ行く手段が全くないはずで――。
「こっちは準備万端よ。私の銃弾……魔法力を指ではじいて追尾させておいたわ。ふふ、こんな小技もできたのよ。後は私の魔法力を辿ればあいつのところへ行けるはず。……この世界はモンスターのものでも、あんな偉そうなわけの訳のわからないやつのものでもない。ま、ついでだと思って助けてあげるわ」
……。
輝里さんは朱里と似ている。
私は最初、意識していなかったが言われてみるとそうかもしれない。
今回の件でも、何か、因縁めいたものを感じているはずで――。
「私も異論ありません!! あの子、小さな頃の私にそっくりで親近感わいてますしね!! ふふ……人智の及ばないこの状況……ワクワクする、なんて言ったら流石に不謹慎でしょうか」
……。
……。
……?
「ふふ……!! 何を喜んでるのよこの19歳児!! あなたのこんな笑顔を見たのは昔にケンカして殴り合った後、荒野に二人で寝そべったとき以来かしらね」
「ええ、あの時は……お恥ずかしい限りでした。瑠奈が私が取っておいたプリンを食べちゃって、思わず怒鳴ってしまったんですよね……。そうしたら取っ組み合いのケンカになって空中戦の後に不時着したんですよね……」
「まあ!! 輝里さんにもそんなYA・N・TYAな時代があったのですわね~!! 親しみを感じてしまいますわよー!!」
「殴り合うタイプの友情っすか~。私は瑠璃さまのことを殴らないけど、瑠璃さまに近付くやつは全員殴り飛ばす覚悟っす!!」
「み、未来の人たちってみんな血の気が多いね……。でも、私だって誰かを守るためなら戦える!! 行こうみんな!! 朱里さんを助けに!!」
……?
???
おかしい。
いったい何がおかしいのか?
それは、だ。
話がまとまってしまっている。
「ちょ、ちょっと待ってよあなた達!!」
私以外の五人の視線がこちらに向く。
全員が何やら不思議がっている感じだ。
どうも私は当然、朱里のことを助けにいくと思われていた、らしい。
それ自体は別にいい、のだが。
「みんな覚悟を決めるのが早すぎない!? もっとこう、葛藤するとか……私達の世界が消えるかどうかの話なのよ!?」
瑠璃がやたら得意げにこちらを見てきた。
何だろう。
めちゃくちゃビンタをかましたくなる。
「ええ、わかっていますよ。DA・KA・RAこそ!! 迅速な対応が必要となるのですわああああ!! そもそも朱里さんを放っておくなどという選択肢はありえません!! 行くしかないのですわああああ!!」
相変わらずの無駄に高いテンションはともかく、瑠璃の言う通りだ。
頭ではわかっている。
このまま朱里のことを放っておくなんてあり得ない。
だから、私がこうして悩んでいるのは、自分でも言葉にできていない何かがあるってことで――。
「何をウダウダ言ってるっすか朝霧。ついさっき『朱里のことを一番好きなのは自分じゃボケ~』ってキレてたじゃないっすか」
そうだ。
言ったのは『好き』じゃなく『大切』だけど柴フィルターを通したから仕方がない。
私が朱里のことを助けにいきたいのは事実だ。
優しくて、でもちょっと愛嬌もあって、ゲームに興味津々で……。
宇宙の広さに比べたら、ひとつひとつは取るに足りないことなのかもしれない。
それでも宮寺朱里という人間は、この世界に一人しかいない。
そんな友達を放っておけるわけがない。
助けに、行きたい。
行きたい。
けれど――。
「朱里が私に助けてほしいかなんて、わからないじゃない!!」
辺りが静まり返る。
やっと言葉にできた。
人の心は見えない。
朱里がどう思ってるかなんて、わからない。
魔法少女に疲れた朱里が、モンスターのいない世界を望む。
そんなことだって、あり得なくはないのだ。
助けたら、朱里は幸せになるのか?
世界を本来あるべき姿に戻せなかった十字架を、一生背負うことになるのか?
朱里の誕生日すら知らなかった私に何がわかるというのか。
「……夕香、ちょっといい?」
私に声をかけたのは、夕花だった。
その表情はとても穏やかで、見ている者に安心感を与える。
やっぱりこの子は、私とは似ても似つかない。
「相手の気持ちがわからないの……不安だよね。私だってずっとそうだったから」
「……夕花のと私のは、違う。私は……ただ怖いだけよ」
きっと、朱里に嫌われてしまうことが。
「ううん、いっしょだよ。私だって怖かった。相手に自分の気持ちを伝えて、もし相手とすれ違ったらって……。だから昔の私は、ずっと話し相手に合わせていたの。……あの子に会うまでは」
「……」
「思いは口に出さなきゃ、絶対に伝わらない……。だから例えすれ違っても、自分の思いは口にし続けるしかないんだって。自分の気持ちは、自分にしかわからないから。だから……自分にウソをつかないで。朱里さんが同じ気持ちなのかどうか……確かめに行かなくちゃ、わからないよ!!」
「……夕花」
「その一言だけつぶやくやつがいらないって言ってるんすよ」
と、割り込んできたのは柴。
「宮寺を助けにいきたいなら行く。それでいいじゃないっすか。何か言われたら、その時に考えればいいんすよ」
「柴、あんたねえ……」
「ですがシンプルで良い考えですわ。歩道の発言は私達にSU・I・SHI・N・力を生みますわああああ!!」
「……!! 瑠璃さまに褒められた……!! ぐへっ……ぐへへへ!!」
クリーチャーみたいな笑い声を上げている柴は置いてといて。
……今日、正しいと思える行いをするのは、明日を気持ちよく生きるためだ。
これが正しいことなのかはまだ、わからない。
だからこそ、私は立ち止まったのだろう。
今回は、答えを見つけるために進む。
朱里の
私も腹を決めた。
「行こう……!! 朱里を助けに……!!」
夕花の顔が花開くように明るくなる。
輝里さんと瑠奈さんは、顔を見合わせて何やら笑っている。
柴が最初からそうするっす、なんて悪態を付いている。
瑠璃の甲高い笑い声が、まるで軍を鼓舞する角笛のよう鳴り響く。
三吉夕花。
宮堂輝里。
大帝川瑠奈。
柴歩道。
姫小路瑠璃。
そして私、朝霧夕香。
この六人で朱里を助けに行く――。
――