そこには四つの光があった。
青い光が二つ。
紫の光が一つ。
そして橙の光が、一つ。
これらが
操作を司っていた赤い光が、別の橙の光と先へ進んでしまったからだ。
そして、この真っ白空間にあるのは、もうひとつ。
白い球体。
白い空間の中で、白い物体があるとわかるのは輪郭があるからだ。
極限まで薄い、完全たる球を描く
球体が、再び動いた。
まっすぐに、淀みなく。
何の抵抗もなく、何の意志もなく。
先ほど通過した地点へもう一度。
四つの光をかき消すために。
「また来ますわよおおおお!! 瑠奈さん!! 何か策はあるんですのおおおお!? ある!! ありますわよねええええ!?」
青の魔法少女、瑠璃がホラー映画さながら絶叫をあげる。
言われた瑠奈――この中では最年長であろう蒼の魔法少女は涼し気な表情だ。
顔は似ているのにここまでリアクションが違うと、どこか滑稽でさえある。
「今、考えている……!!」
「今ですのーーーー!? こいつはぶっ飛ばす……ってドヤってたのは何なんでしたのーーーー!?」
「うるさい……私だって、見栄くらい張る……!!」
本当に、何も考えてなかったらしい。
そうしている間にも、白い球体はグングン迫る。
残った紫の魔法少女――柴歩道は既に魔法力で作った紫の鉄球を手にしていた。
「オラァ!!」
気持ちの良い掛け声とともに、球が放られる。
続けて青と蒼の弾丸が続く。
攻撃――というより、球体側から突っ込んで行くような形となりそれらは接触した。
紫が、青が、蒼が、球体の表面で波紋となって弾ける。
「クソッ!! 避けろおおおお!!」
瑠奈の一声で青と紫の少女は台の端へと飛びのいていき――。
――橙の少女だけが取り残されていた。
この中で唯一、フリフリのドレスを身に纏ったあどけない少女は、かざした手に橙の光を灯していた。
彼女の攻撃は光線を発射するものだったが、いまだ撃つ前の段階だったのだ。
白い球体は、橙の光へと向かった。
「えっ……」「避けろっつってるだろおおおお!!」
蒼の少女が飛び込む。
橙の少女を抱き込んで。
結果は――。
蒼の少女の左足が球体へと飲み込まれ、消えた。
白い球体は、またもそのまま直進を続け、離れていった。
「瑠璃さーーーーん!!」
「ぐおおおお!! 左足ーーーー!!」
これで瑠奈は左腕と左足を失ったことになる。
傍にいた橙の少女が心配そうに顔を覗き込む。
当の蒼の少女は、立ち上がろうとするも、バランスが取れずよたよたと体を屈めている。
「ごめんなさい……!! 本当にごめんなさい……!! 私のせいで瑠奈さんが……!!」
涙を浮かべる橙の少女――三吉夕花。
彼女は昔から、そうだった。
人一倍正義感が強く、人一倍優しく、そのくせ、すぐに泣くのだった。
「別にいい……!! お詫びの代わりにあいつに一発ぶちこんでくれ……!! クソ!! クソクソ!! こっちの攻撃が全く効かないってどういうことだ……!!」
「瑠奈さん大丈夫ですの瑠奈さん瑠奈さんうおあおおおおぉぉ!!」
「瑠璃さまがあまりの事態に自らを鼓舞する雄たけびを上げてるっす。……でもピンチっすね。あの白いの、波紋みたいにこっちの攻撃を分散するっすよ。漫画とかだと、あの仕組みを解明して攻略するものっすけど……」
「波紋……」
橙の少女が動きを止める。
自分の頭の中をひっくり返して、必死にその言葉を辿る。
どこかで、どこかでその言葉を聞いた。
あれは親友との会話。
まだ変身能力を身に付ける前のこと、頑張ればできないかと二人で練習をしたのだ。
そして、魔法力をぶつけあって広がり方を確認した。
その時に、親友が言ったのだ。
――まるで、波紋みたいっスね。
「……変身!! そうだ!! 変身だよ!!」
残り三人の視線が橙の少女へ集まる。
若干、いぶかし気に。
「こ、このドタンバで私が覚醒して変身能力を身に付けると……? 夕花さんはなかなかダ・イ・タ・ンな策を思いつきますわああああ!!」
「そ、そうじゃなくて……!!」
「じゃ、自分が最強フォーム的なのに目覚めるってことっすか? デカい羽根とか生えたりするんすよね。ぶちかましてやれっす!!」
「そ、そうでもなくて!!」
ばたばたと騒ぎ立てる二人とは対照的に、屈んでいた蒼の少女が話をうながした。
片手片足を失った痛々しい様子に反して、その瞳は煌々と蒼く輝いている。
「話して。何かあるんでしょ? 逆転の策が」
「……はい!!」
白い物体はすっかり遠くまで行き、指先でつまめそうなくらい小さく見えた。
そして、静止する。
今度はぐんぐん、大きくなっていく。
夕花が急いで説明を始めた。
「あいつの防御、たぶん変身型の魔法少女と同じものです!! 攻撃の当たる一瞬、その点にだけ力を集中して攻撃を弾いているんです!!」
マシンガンの様に言葉を並べ立てる。
息が続かなかったか、呼吸のタイミングをつかめないまま夕花はしゃべり続けた。
「だから!! 同時に別方向から攻撃すれば防御のバランスが崩れます!! 全員で別方向から攻撃すれば、きっと……!!」
「なるほどっす。でもどうやってっすか? あいつ完全に止まらないっすよ。さっきみたいに正面から攻撃を撃ち込んでもダメだったっす」
「そ、それは……」
「私がオトリをやる」
一同の視線は蒼の少女――瑠奈の方へと向いた。
「な、何を言ってるんですのおおおお!? 瑠奈さんは左手と左足を失ってマンシン・ソウイ!! 一番不適切ですわああああ!!」
「うるさい」チャキ
「こんな状況でもいつも通りですわよーーーー!?」
「いいから黙って聞いて。……私は見ての通り、身動きが取れない状況。それくらいしか役に立てない。……それに自分より年下にそんな役目押し付けれないでしょう?」
「そんなこと……年齢など関係ありません!! 私達、仲間ではないですか!!」
意を決したように、少女が叫ぶ。
「ワタクシもオトリを引き受けますわああああ!! 瑠奈さんと二人で射撃をして、あいつを誘導させていただきますわあああああ!!」
「そんなの危険っす!! 瑠璃さまがやるなら私も……」
「それではオトリが多すぎますわ!! ……心配しないで歩道。ワタクシは自分を犠牲にするために戦うのではない……瑠奈さんと全力で攻撃すればあいつを押しとどめることだってできるはず!! そこを歩道と夕花さんが攻撃すればいいのですわ!! そうでしょう、瑠奈さん!!」
「瑠璃……あなた……」
青の少女の足はガクガクと震えていた。
恐らくはこの場で一番恐怖を感じているのは彼女だったに違いない。
それでも彼女はその役目を買って出た。
なぜなら、きっと彼女も魔法少女だからだろう。
白い物体が斜め上から。
流れ星、いや隕石が落ちてくるみたいに突っ込んでくる。
迎え撃つは、紫、青と蒼、橙の少女。
遠くからみた彼女らは、まるで光の点。
ひとつひとつが小さくもしっかりと輝く様は、星座のようにも思えた。
青と蒼の光が猛る――。
「瑠奈さん!! あの巨大な銃を使う技を使いましょう!!」
「あれね。確かにベストな選択肢だけど、今の私は片腕しか――」
「ワタクシが片腕をやると言ってるのです!!」
「面白そうね、……乗った!!」
瑠奈がふっと笑みを浮かべる。
屈んだ状態の蒼の少女に合わせるように、青の少女が体を密着させる。
白い物体がその動きを察知したか。
角度をわずかに変えて、軌道を修正した。
二人の少女へとまっすぐに。
迎え撃つは青と蒼の混じったような巨銃。
「――今宵、踊るは二人の
「GA・N・GI・MA・RIですわよおおおお!!」
『ダブル・
青と蒼の二重螺旋をまき散らしながら、砲弾が突き進む。
降ってくる白い球体とぶつかり、砲弾はあっけなく潰れ、広がり、消えていった。
だが、それまで等速運動を続けていた白い物体が、押し戻されるようにわずかに震えた。
砲弾が残していった螺旋。
白い球体より遥かに巨大な渦が、白い物体と接する一点へと力を集中させているのだ。
さながら、渦の先の一点へと力を流し込むように。
斜め45度上に向いた青と蒼の超巨大トルネード VS 白い球体。
白い球体が、渦の先端を削るようにゆっくりと動いた。
突進をしていた時、はるかに遅い動きではあったが淀みなく確実に。
渦の発信源である二人の少女へと迫り、そして――。
「
球体の動きが減速する。
少女たちの頭上、数メートルの地点でなおも発生する
つまりは、射程に入った。
「いくっすよ夕花ああああぁぁ!! オラァ!!」
「うん!! 夕花ビーーーム!!」
紫の球と橙の閃光が、白い球体を強襲する。
それぞれが、波紋のように、分散していく。
それでも少女達の攻撃は止まらない。
完全に静止した白い球体へと、矢継ぎ早に攻撃が続いた。
少女たちの雄たけびが、乱れ飛ぶ。
「おっほおおおお!!」「オラアアアアァァ!!」「でりゃああああぁぁ!!」「死ねーーーー!!」
よっしゃやれ!! いまだ!! ぶっ飛ばせ!!
……この場に観客でもいれば、そういった歓声もついたかもしれない。
それくらい少女たちの奮闘は勢いがあり、胸をくすぐるものだった。
だが、それも次の瞬間までだった。
白い球体の表面が、ぐんにゃりと曲がった。
これまでで初めての変化に、少女たちの胸に希望の灯がともる。
そして、ふっと息で吹き消すように、その灯は消えた。
白い球体は半球になっていた。
そして少女たちに向けた球面側が光を放った。
球面側、白い物体から見て下側の世界を全て覆うほどの光を。
次の瞬間には、少女たちは倒れていた。
青の少女がゆっくりと立ち上がろうとするも、バランスを崩して倒れ込んだ。
「このクソチート球体……唐突な飛び道具なんて聞いてませんわよ……!!」
「瑠璃さまあ……!! ぐっ……。このクソゴミイカレチート球体……」
少女たちは知る由もない。
彼女達から見れば、白い球体は球体のままに見えていたのだ。
だから、がら空きだった後ろ半分に攻撃していれば活路はあったのだ。
そう、後一手。
少女達に足りなかったのは、たったの一手だけだった。
完全たる球体に戻ったそれは、ゆっくりと四人の近くに降り立った。
静止した姿は、まるで品定めするよう。
恐らくは、魔法力が一番高いものから餌食に――。
「……やい、白いやつ!! 私が相手だよ!!」
叫んだのは……ドレスを身に纏った橙の少女だった。
この四人の中で最も気が弱いであろう彼女が。
まるで己の存在を相手に示すように、橙の強い光を放っていた。
「何してるっすか三吉の夕花!! 一人じゃ無理っす!!」
「無理かどうかじゃない……!! 私の守りたいものは、いつだって目の前にあったの!! ……だから今、守りたいのは瑠奈さん、瑠璃さん、そして……柴さん!! あなた達三人なの!!」
少女が、叫ぶ。
本当は怖いくせに。
白い球体の行先は決まった。
橙のドレスをまとった少女へと。
「夕花ビーーーーム!!」
球体を飲み込む勢いの、橙のビームが発射されるも、表面でバチバチと弾けていった。
……言わんこっちゃない。
気合でどうにかなるほど、こいつは甘くない。
球体が少しずつ橙の少女へと近づく。
少女は――逃げない。
「まだ……!! まだだよ!! こんなところで逃げたら……柴に顔向けできない!!」
「夕花さん!! さっさと逃げなさい!!」
少女は反応しない。
なおも橙の閃光を放ち続け、そして――。
「あ……」
開けた眼前に、白い球体がいた。
「い、いや……」
球体が少女へと――。
「柴ああああぁぁああああぁぁ!!」
……。
真っ白な球体が魔法少女を飲み込む?
そんなクソみたいな展開、誰も望んでない。
瑠奈とかいう人は、動けない。
瑠璃とかいう人は、銃を出している最中。
柴――柴と呼ばれていた人間も同じだ。
じゃあ、誰が橙の少女を――三吉夕花を助けれると言うのか。
決まっている。
「私だオラァ!!」
「紫のクラッカーボォォォォル!!」
糸の先についた紫の球。
それを振り回すように相手に投げつける。
白い球体は、その攻撃に反応するように動きを止めた。
三吉夕花の目の前で。
「だ、誰ですの!? 紫色の攻撃ということは……歩道!?」
「私じゃないっす……!! 一瞬、分身能力的なアレに覚醒したのかと思ったけど違うっす!!」
「なるほどね……役者はそろったってわけだ!!」
私の知らない三人が、思い思いの反応をする。
そして、私の知っている、泣き虫のそいつは、顔をクシャクシャにしながら、叫ぶのだ。
他の誰でもない、私の名前を。
「柴ああああぁぁああああぁぁああああぁぁ!!」
「そんなに大声を出さなくたって聞こえてるっスよ!!」
柴
12歳。
それが私の名前だ。
「よっくも私の親友をいじめてくれたっスね!! 目覚めたばっかでよくわかんないけどぶっ潰してやるっス!!」
私の攻撃に追従するように、紫の球体が白い物体を捉えた。
「合わせれるっすか!! 私によく似た人!!」
「それはこっちの台詞っス!!」
「紫のクラッカーボール!!」「紫の鉄球!!」
「
「瑠奈さん!! ワタクシ達も!!」
「ええ!!」
「
目にも止まらぬ、紫のつぶて。
更に青と蒼の二重螺旋。
微動だにしない敵へ、それでも攻撃を打ち込み続ける。
そして、変化はあった。
白い球体がぐんにゃりと曲がる。
こちら向いた半球へと姿を変えた。
「まーたさっきのっすか!! 攻撃がくるから身を守るっす!!」
「……その必要はないっスよ」
私だけは知っている。
こいつの後ろががら空きであることを。
そして、後ろでは私の親友がずっと力を溜めていたことを。
橙の少女が――。
私の親友が、咆哮する。
「私は今度こそ……守るんだ!! 柴も、みんなのことも!! だって私は……」
白い半球が、光を放つその刹那――。
「
橙の光が、白い物体の後ろを捉えた。
静止した白い物体から、橙の光が漏れていく。
私達は白い光ではなく、橙の温かい温もりにつつまれた。
私の側に、ずっと寄り添っていた温かな光に――。
全てが終わった時には、白い球体の縁にはヒビが入り。
そのまま粉々に砕け、白い空間の中を落ちていった。
「もう二度と、私の親友に手を出すなっス。……いろんな意味で」
吐き捨てるように、言ってやった。
まあ、こいつも相手が悪かった。
私の親友、三吉夕花は誰よりも強い魔法少女なのだから。
「はは……!! ざまあみさらせ……!! 後は輝里のやつと夕香が宮寺朱里を取り戻すだけね……グフッ」
「瑠奈さん!! 大丈夫なんですのおおおお!? やっぱり無理していただけですのねええええ!!」
「うるさいって言ってるでしょ……でも、まあ、あなたもよく頑張ったわ、瑠璃」
「……!! 当然ですわよ!! ワタクシ、何と言っても明日を担う魔法少女ですもの!! おほ、おほ、おほ、おーっほっほっほっほ!!」
「……褒めるんじゃなかったわ、はは」
「……」
「……なんスか人の顔をじろじろ見て。あんたのことは何となく知ってるっスけど、特に感慨はないっスよ。いくら顔が似てようが別人は別人っス」
「……二部が好きっすか?」
「む、アンタわかるっスか!? そういうアンタは何部が……?」
「六部と七部っす」
「……あー。あんた未来人だったっスね。ネタバレは勘弁してほしいっス!!」
そんな会話は置いといて、駆け寄ってくる姿がひとつ。
「柴ぁ!!」
「夕花……!! なんだか久しぶりなような、そうでないような……元気そうで良かったっス」
「元気そうで良かった……じゃあないよ!! 今までどこにいたの!? 私がどれほど待ったと……うう、えっぐ……」
「ほらほら泣くんじゃないっスよ。……なんだかずっと、夢を見ていた感じだったっス。いろんな風景を上から眺めてるような……。ま、夕花の叫び声がうるさくて飛び起きた感じっスかね」
「……バカバカ!! こんな時までふざけないでよ……!! もう離さないんだから」
ポリポリと頭をかくしかないっスね、これは。
「あーそもそも状況がわからないっスけど、どうすればいいんスか、後は?」
高笑いを上げすぎてムセ返っていた人に聞いてみる。
何がそんなに楽しいっスか、この人は。
「後は朱里さん……星の意志的なアレに捕らわれた私の友達が戻ってくれば、各々自分たちの世界に帰っておしまいですわー。ちなみに時間制限があって、間に合わないと時空がリセットされて私達は消滅してしまいますのよー」
「さらっと衝撃的なコトを言ってるっス。で、その友達は大丈夫なんスか?」
「ええ、きっと」
青い高笑いを上げていたエセお嬢様は、一転してキリっとした表情になった。
「夕香さんと輝里さん……頼みましたよ。おほ、おほ、おほ、おーっほっほっほっほ……げほっ……ゲホゲホ!!」
「締らない感じで終わったっス」
『はい、めっちゃ離れたところから中継~。分体ちゃんやられちゃったか~。まー柔軟性にかけてたしこんなもんかもねえ。さてと』
「……」
『そろそろ始めましょうか宮寺朱里。私とあなたがひとつになる儀式……この世界をキレイにする存在の誕生、その瞬間……』
「……」
『魔法少女アンダーバーエックスとしての覚醒を』
――