魔法少女アンダーバーエックス   作:MOPX

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魔法少女_X

「朱里!!」「夕香ちゃん……?」

 

落下しながら透明な輪郭の一つに伸ばした手を、がっちりと握る。

透明だったものが、淡い赤色を帯びていく。

 

私――朝霧夕香は宮寺朱里の手を取っていた。

 

大量の輪郭とともに落下しながら、私達は身を寄せ合った。

 

「夕香ちゃん……!! 夕香ちゃん……!!」

 

「朱里、怪我ない? ……助けにきたけど、余計なお世話だったんなら」

 

「う、う……」

 

「……?」

 

「うわああああん……!!」

 

 

 

小さな子供のように泣き声をあげる朱里。

会話の途中だったが、私を抱くその手が強くなったのが答えなのだろう。

 

だとしたらやることはあとひとつ。

たったのひとつだけだ。

 

私は朱里を連れて、瑠璃と柴とみんなで、もとの世界へ帰る。

 

 

 

『バカな……!! 輪郭がいくつあったと思ってるの!? ご都合主義よこんなの!! クソゲー!! 理不尽!! 私は認めない!!』

 

遠くから白い球体が何かを叫んでいる。

隣にいる輝里さんにだいぶ成敗されたらしく、浮かび方が若干ふらふらとしている。

 

「アンダーバーエックス、これが魔法少女です。あなたにはわからないかもしれないけど……私達が選んだ私達の道です!!」

 

『抽象的なことを言いやがってクソが!! 調子こいてられてるのも今のうちよ宮堂輝里!! 最後の「門限」までの45秒……私は最終手段を使う!!』

 

 

 

「最終手段……?」

 

空中に静止した朱里にぶらさがりながら、つぶやく。

そう言えば朱里は飛べたんだった。

 

「妖精さん!! これ以上はやめるのです!! あなたがやろうとしたことは間違いなのです!! でも!! きっと話し合えばいつか……」

 

『そんなもんいらねえ~~~~!! 食らいなさい!! これが私の最終攻撃!! 超巨大化アンダーバーエックスゥゥ!!』

 

 

 

白い球体が瞬いた。

 

輝里さんが瞬時に飛び退く。

 

次の瞬間には大量の輪郭は消えており――。

 

白い球体が、膨張を始めていた。

 

空間に『声』が響く。

 

 

 

――私はこの空間と同化してあなた達全てを取り込む。私自身使うの初めてだから制御できるかわからんけどな!! もうどうなるか知ったこっちゃないわ!! さあ、逃げ切れるかしら魔法少女ーーーー!?

 

 

阿狼大刀(あろんだいとう)須頼陀亜(すらいだあ)!!」

 

 

朱里が巨大な対艦刀を足元へと、出した。

横に寝かせ、ソリのように。

 

私と朱里が対艦刀へ飛び乗った後、輝里さんが着地を決める。

刀は乗り物。

 

輝里さんが朱里へと視線を送った。

 

 

 

「今です!! 出してください!!」

 

「……!! はい、なのです!!」

 

赤い刀が、白い空間を滑り落ちる。

その上で私、朱里、輝里さんの三人は振り落とされないようにしがみつき――。

 

後ろでは、白い球体が壁の様に迫ってきていた。

 

 

――門限(タイムリミット)まであと30秒。

 

 

「朱里!! 途中に瑠璃とか柴とか!! あと2000年で会った夕花とか!! 瑠奈さんっていう瑠璃に似た人もいる!! みんなあなたを助けに来たの!!」

 

「……みんなが!!」

 

「そう!! だから途中で拾っていく!! 私達はみんなで帰るんだから!!」

 

輝里さんが後ろから声を発する。

 

「ですが減速はできません!! 何か手を考えないと……!!」

 

「それはもう考えています!!」

 

私の頭に中にあった案。

上手くいくか、わからない。

 

だが、やるしかない。

全員でいっしょに、帰るためには。

 

「……」

 

「朱里、不安かもしれないけど私に手がある……!! たぶんみんな固まっているから、ちょっと上の方を通り過ぎてほしいの!! みんなのことは私がなんとかするから!!」

 

「……デカい、のです」

 

「……朱里?」

 

「え、いや、ちゃんと聞いてたのです!! みんなの上の方を飛ぶのですよね!! 頑張って刀を操縦するのですーーーー!!」

 

……朱里の視線は輝里さんの胸のあたりにあった気がするが、気のせいだろう。

その輝里さんが私に声を張った。

 

「では夕香さん!! 私は何か手伝えますか!?」

 

「私の隣にきて、合図をしたら引っ張ってください!! 最後は力仕事になるんで!! 朱里もお願い!!」

 

「……力仕事?」

 

説明している時間はない。

こうしている間も、『壁』はグングン迫って来て、その距離を少しずつだが縮めている。

そこにあるもの、全てを飲み込んで。

 

 

――門限(タイムリミット)まであと20秒。

 

 

前方へと目を凝らす。

光を見つけた。

 

青い光が二つ。

橙の光が一つ。

紫の光が……二つ?

 

まあいいや!!

 

「朱里、お願い!!」

 

「任せるのです!! うおおおおなのですーーーー!!」

 

刀がわずかに上へと軌道を逸らす。

五つの光はこちらに気づいたのか。

困惑したようにチカチカと光っているように見えた。

 

そして私はひとつ深呼吸をした。

 

みんなを助けるための、最後の技を出すために――。

 

 

「変身!!」

 

 

夕花に教えてもらった変身の技。

自らの周囲に、魔法力の塊を身に纏う。

これの本質は自分の魔法力を薄く引き伸ばし、形状を変えることだ。

 

だったら――。

 

限界まで薄く延ばして、魔法力を広げれば――。

 

みんなを包む、布になる。

船の帆を思わせる大きさの。

 

 

「うおおおおぉぉおおおおぉぉおおおおぉぉ!!」

 

 

 

超高速で滑り落ちる、赤い刀。

そこから垂らされた、橙の布。

 

夕香レスキューーーーーー(みんなつかまってーーーー)!!」

 

瑠璃の、瑠奈さんの、夕花の、柴の、もひとつ柴の顔が見えて――。

 

次の瞬間には、刀は上を過ぎ去った。

 

結果は――。

 

 

 

「ああああ!! 腕がTI・GI・RE・そうですわよおおおお!! あと風圧で顔面グチャグチャですわああああ!!」

 

「朝霧ぃぃ!! こんな助け方があるっすかああああ!! 完全にこっちの腕力依存っすううううぅぅ!!」

 

「うおおおおあおおおおびえええええぇぇ!!」

 

「はは、夕花なにを言ってるかわからないっス」

 

「うおおおおぉぉ!! 片手はクッソきちいいいいぃぃ!!」

 

 

 

「よ、よかったああああみんな無事だったわねええええ!!」

 

「ですが夕香さん!! これ布を引っ張っている私達も結構きついですよおおおお!!」

 

「みんなもう少しの辛抱なのですうううう!!」

 

 

 

刀の上で、橙の布を引っ張る三人。

刀の下で、布にしがみつく五人。

 

今、全員が力を合わせて、全員で帰ろうとしている。

自分達が本当に帰りたい場所へ。

 

白い壁は、家を越え、山を越え、海を越え、星の大きさに近付いていく。

 

加速する刀がその勢いを増す。

 

 

 

「瑠奈ああああ!! 大丈夫ですかああああ!?」

 

「大丈夫なわけあるかこのデカチチィィ!!」

 

どこまでも貴い信念がある。

 

 

 

「うあああああうおあおーーーー!!」

 

「いやあ、目覚めてすぐにこんな体験をするなんて……人生ってのは奇妙っスね~」

 

時空を超えた絆がある。

 

 

 

「ああああ!! 歩道!! 私がいなくなったら骨はできるだけ高い山に埋めて人々をちょっと高いところから見守らせていただきますわああああ!!」

 

「その時はいっしょに埋まっとくっす瑠璃さまああああぁぁ!!」

 

時として意見をぶつけ、時として協力できる悪友(とも)がいる。

 

 

 

「うおおおマッスルパワー全開なのですうううう!!」

 

「朱里が筋肉キャラにーーーー!?」

 

そして、隣にいてくれる誰かがいる。

 

 

 

――魔法少女_X。

 

 

 

「みなさん!! 出口っぽいのが見えたのですうううう!!」

 

そう、みんなの帰る場所――。

 

喫茶てふてふへと続く()が。

 

 

 

『させないって言ってるでしょ!!』

 

 

白い星が、刀へと肉薄した。

 

 

 

門限(タイムリミット)まで、残り8秒。

 

 

 

「全員の魔法力をあいつにぶつけて推進力にしろおおおお!!」

 

7

 

「この状況じゃ無理っすよおおおお!!」

 

6

 

「向こう行けバカああああぁぁ!!」

 

5

 

「朱里さん逃げてくださいましいいいい!!」

 

4

 

「あのデカいの、なんなんスか?」

 

3

 

「千本刀……間に合わない!!」

 

2

 

「……みんな!!」

 

1

 

「朱里!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……。

 

…………。

 

……………………。

 

夢を見ていた。

そう感じるくらい、長い時間だった。

 

あるいは、今までのこと全部が夢だったのか。

 

私自身が夢だったのか。

 

 

……ちゃん。

 

 

何もない空間で透明と消えゆく。

 

 

……ちゃん!!

 

 

違う。

 

『私』を呼ぶ声が聞こえる。

この声は――。

 

「……朱里?」

 

「夕香ちゃん!! 良かったのです!! 目を覚ましてくれて……!!」

 

「ここは……?」

 

私達は二人は真っ白な空間に、浮いていた。

どうなったかはわからない。

あるいは妖精の言っていた時空リセットが成功してしまったのだろうか。

 

「夕香ちゃん!! あれ……!!」

 

「……!!」

 

目の前にいたのは、人型の輪郭だった。

私にはそれが何であるのかわかった。

 

「……妖精!! 朱里は渡さない!!」

 

『……門限はもう過ぎた。私の言いたいことがわかる? モブC』

 

意味を図りかねていると、輪郭は溜息を吐いた気がした。

 

 

『あなた達の勝ちよ』

 

 

私も、朱里も一歩も動けない。

そしてそれは妖精も同じ――。

 

『最後の最後。あなたは自分の体の方へ朱里を抱き寄せた。それがこの距離を作ったということよ』

 

「私が……」

 

全く実感がわかない。

無我夢中でやったこと。

 

たったそれだけのことで、この宇宙の命運は変わってしまったらしい。

 

「……他のみんなは大丈夫なのです?」

 

『ええ、もうそれぞれの時空へと魔法力は帰った。……あなた達を呼んだのは、まあ最後にイヤミでも言ってやろうと思ったワケ。最後の超巨大化のせいで、私は思った以上に力を消耗した。……世界に魔法力は残るけど、あなた達の時空で「妖精」として会話することはもうできないでしょう』

 

「……そう」

 

「……妖精さん!! あなたの方法は間違っていたけど……でも、お礼を言わせてほしいのです!!」

 

『……お礼?』

 

「そうなのです!! 確かに言われたまま動くのがイヤだった時期もあったけど……それでも妖精さんは私を勇気づけてくれた時もあったのです!! 独りで寂しい時に話しかけたり……」

 

『……私のパーソナルはあなた達、「聞く側」に依存していた。だから、誰かに優しい言葉をかけてほしいという願望が形になっていただけよ』

 

「……それでも!! それでもなのです!! ずっといっしょにいてくれてありがとうなのです……!!」

 

『やれやれ……朱里……あなたって子は……。イヤミは夕香の方に言うわね』

 

「おい」

 

 

 

『全くあんたのせいで計画はパーよ。私は次の「宮寺朱里」が現れるまで一万年なり、一億年なり待たなきゃいけないのよ?』

 

「いや、人類滅んでるでしょ……」

 

『人には限ってないからね。ま、今度は私の寿命の方が危ないわけだけど』

 

「……」

 

『ま、あんたらはこれから自分の力でモンスターと戦うわけだから、精々頑張るのね。今更泣きついても許さなゴフッ』

 

「夕香パンチ」

 

私の拳が妖精へとめり込む。

放り投げたスプーンみたいな勢いで。

 

「今まで散々好き勝手やってきて、いまさら良い話みたいにまとめないでよ」

 

『夕香……!! あなたって奴は本当に最後の最後まで……!! たったの12年しか生きてないあなたに、この時空が今後どうなるのかわかるのかしらね、ふん!!』

 

 

 

言葉を濁す私。

それに対する答えは、私は持っていない。

 

だから、私の親友が代わりに答えてくれるのだ。

 

「大丈夫なのです。だっていろんなところで魔法少女が頑張っているから――だから、きっと大丈夫なのです」

 

『……まったく。3バカじゃなくて4バカだったわね』

 

そういうことだ。

 

 

 

『ふふ……もう時間ね。バイバイ、モブC、それに……モブD』

 

私達を白い光が包む。

それはきっと祝福の光だった。

 

温かな未来へと続く。

 

「あ、朱里。ひとつだけ忘れてた……!!」

 

「……?」

 

今日のこの長い日が、なんの日だったか。

私はそれを途中で知ったわけだけど。

 

 

 

「朱里、お誕生日おめでとう」

 

「……夕香ちゃん、ありがとうなのです」

 

私達は光となり元の世界へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日もどこかで誰かが戦っている。

 

「ふわあ~。何だか良く寝た気分っス~」

 

「柴あ!! よかった……!! 目を覚ましてくれて……本当に……!! 本当に……!!」

 

「……また泣いてるっスか、夕花。心配しなくてもこれからはいっしょっスよ、……ずっと」

 

「……うん!!」

 

 

 

隣にいてくれる誰かがいる。

 

「瑠奈、左手と左足の調子はどうですか?」

 

「まだちょっと違和感はあるけど……ま、大丈夫でしょ。今日もクソモンスターどもを狩ってやらないとね」

 

「ふふ、そうですね。……あの子たち、元気でしょうかね」

 

「元気に決まってるでしょ。あんなアホみたいな高笑いあげてたんだから」

 

「クス……瑠奈の幼い頃の方が、ハリがあって甲高い声だった気がします」

 

「うるさい黙れ」チャキ

 

 

 

帰るべき場所がある。

 

「ここは……見知った裏山ですわああああ!! 外も暗くなってますが私達、帰ってこれましたのよおおおお!!」

 

「さすがっす瑠璃さま!! 服装も戻ってるっすね。……ずっと猫耳メイド服だったから、逆に落ち着かないっす」

 

「……いたっ!!」

 

「朱里!! 大丈夫!? おんぶしてあげるね」

 

「ありがとうなのです……」

 

「さ、今度は家の門限だよ。さっさと帰らないと」

 

 

 

下駄をなくしていた朱里を、家までおんぶして送り届けた。

私が自分の家についた時、普通に門限を過ぎていて両親から怒られた。

もう少しで警察に連絡するところだったらしい。

 

次の日にもう一度、四人で裏山のあの場所を訪れた。

そこには野良犬の死体が横たわっているだけだった。

だから、四人で穴を掘って、埋めた。

 

世界では相変わらずモンスターが発生して、現地の魔法少女が戦っている。

妖精の声はあの日から、世界中で聞こえなくなったらしい。

私達は一応、あの日のことをやんわりと学校の提出プリントに書いてみたが、世界中で「もしかしたら私のせいかも……」という魔法少女がたくさんおり、結果として無視された。

(私達の学校でも各学年10人ずつはいたらしい)

 

こうして私達の長い一日と、それにまつわる物語は終わりを迎えるのだった。

 

 

 

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