魔法少女アンダーバーエックス   作:MOPX

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生まれ出ずるものたちに祝福を

あの日が終わってからの日常は淀みなく進んだ。

中学時代はクラスの演劇で台詞が飛んで仕切り役に激怒されたこと、高校時代は登校中に目の前を歩いていた人が突然倒れて救急車を呼んだのが大きな出来事だろうか。

 

朱里との関係は、その間もずっと変わらなかった。

学校が別になってもどちらからともなく、連絡を取って遊びに行ったりした。

瑠璃や柴とは別グループになり疎遠に……と、思われたが向こうから勝手に近況を流してくるので、まあ、そんな感じだった。

 

 

あの日からちょうど10年。

 

 

早めに出かけて、散歩がてら公園を歩き、私は夕陽が沈むのを見ていた。

淡くて優しい橙色。

 

夢にでも出てきそうな色。

 

そんな風に頭の中で独り言ちて、満足もしたので目的の場所へと向かう。

私は手にした端末で場所を確認すると、その場所へと入っていった。

 

まだ他の客はまばらのようだ。

店員に名前を伝え、案内をされる。

 

 

 

スライド式のドアに手をかける。

今日は個室だ。

 

「あ、夕香ちゃん……!!」

 

「朱里……!! 久しぶり!!」

 

私の親友、宮寺朱里。

赤渕の眼鏡の奥で、目元がすっかり緩んでいる。

 

相変わらず元気そうで良かった。

 

そして――。

 

 

 

「幹事が一番遅いってどういうことっすか朝霧ぃ!!」

 

「おーっほっほっほ!! 縁もたけなわ!! 今夜は飲みますわよーーーー!!」

 

「……相変わらずね、あんたらも」

 

……柴と瑠璃。

うるさい二人も一緒にいる。

 

この人たち、呼ばないと後が面倒くさいし。

 

そう、ここは居酒屋。

今日は飲み会。

幹事は私。

 

レッツ・ドリンク。

 

「はい、飲み物どうする? ビール以外の人ー」

 

「うわあ、朝霧が『私、幹事に小慣れてるんで……』みたいな雰囲気出してるっす!!」

 

「ああああ!! DA・I・GA・KUでの失敗のアレコレが脳をよぎりますわああああ!! うっかり教授につがせた時は後で頭を抱えましたわよおおおお!!」

 

「あんたら本当にうるさいな!! 朱里、気にせず食べたいものあったら注文してね」

 

「ふふ、何だかもう楽しいのです」

 

ざわざわとしていたらジョッキが揃う。

 

「はい、じゃあもう始めるわよ」

 

朱里が、瑠璃が、柴が、ジョッキを持ち上げる。

 

「乾杯ーーーー!!」

 

ガラスが接する音が、カチャリと重なった。

 

 

 

 

 

「ここのお料理、おいしいのです……!!」

 

刺身を口にした朱里から、そんな感想が漏れた。

もぐもぐとご飯を頬張る朱里は、幸せいっぱいという風だった。

 

「喜んでもらえたのなら良かった。……最近はどう? やってるの、配信」

 

「あ、ちょくちょくやっているのです!! "こめんと"で感想も寄せられるようになってきたのです!!」

 

朱里はあの日の後、親にスイッチを買ってもらった。

ため込んでいたゲーム欲が暴発した朱里は、すっかりゲーマーになったのだった。

 

高校を卒業すると「新しいことを始めたくなったのです……!!」と配信用のチャンネルを開設した。

丁寧な口調でやたら効率的なプレイングをするのがウケたのか、最近は人気も出てきたらしい。

 

……なんて気のない解説をしてみたけど、私は毎回チェックしてる。

人気の一番の理由は、ゲームを楽しそうにやっているからだと思う。

 

口調を変えないのは朱里なりのケジメ……らしい。

少なくとも、朱里が自分で決めたことだ。

 

 

 

 

 

「ふっふっふ……。私と朱里さんのI・N・NE・Nもまだ終わりません。今度はおゲームで勝負ですわよおーっほっほっほ!!」

 

「飲みすぎてない瑠璃? いつも酔っぱらってるみたいだけど」

 

瑠璃は大学院に進むことが決まっている。

何でも魔法力研究の第一人者の研究室で、魔法力と宇宙を結び付けた研究をするらしい。

 

……あの日の出来事について、瑠璃なりに思うところはあったらしい。

あの時に知った宇宙に関するあれこれを、そのまま話しても誰も信じたりはしないだろう。

 

だから瑠璃は自分で実証することにした。

私達のものとは別の宇宙があること、魔法力はそれを飛び越えて移動できること、モンスターはどこかの宇宙からやってきてること、そしてそれを倒せば、全宇宙からモンスターは消失すること。

 

「YA・RUことが山積みですわよーーーー!! しかしこれを成し遂げれば私は宇宙一の魔法少女になったと……」

 

「はいはい」

 

……まあ、やりたい研究の内容が決まっているのは同じ学生として耳の痛い話だ。

 

 

 

 

 

「さすがっすね瑠璃さま……!! いくつになっても高潔な精神を忘れてないっす!! 私も草葉の陰から見守ってるっすよーーーー!!」

 

「……見守るって感じのキャラじゃないでしょ、柴」

 

柴は将来、喫茶店を開店したいと言っている。

 

あの日の出来事で、柴の人生に影響を与えたのはメイド服で猫耳をつけたことだった。

生来のアウトロー感にコスプレ趣味まで生えた柴だったが、着地点としては「喫茶やりたいっす~」に落ち着いたらしい。

 

今は近くの喫茶店でバイトをしながら勉強中だそうだ。

余談だが、その喫茶店は毎日なぜか事件が発生したりして、退屈はしないらしい。

(柴が事件を引き寄せてるのでは? という可能性はスルーする)

 

瑠璃と柴との仲もいろいろあったが、結局この状態で落ち着いた。

少なくとも二人の間では柴は瑠璃さまと呼ぶし、瑠璃もそれを良しとした。

だから、それでいいのだ。

 

 

 

「人のことより、自分はどうなんすか朝霧?」

 

「……。軟骨うめえ」

 

「露骨に話題を逸らすなっす」

 

私はと言うと、院には進むものの特にやりたいことは見つかってない。

まあだいたいの人はこんなもんでしょ、と思うけど。

 

「決まっていますわ!! 夕香さん、あなたは時空船の謎を解き明かすのです!! ワタクシはほとんどノータッチでしたのよ!! おーっほっほっほ!!」

 

「時空船……?」

 

あったな、そんなの。

瑠璃にも話はしたから、それで話題に出したのだろう。

 

でも――あれは。

 

「朱里、どう思う。あの場所は……」

 

「……。きっとあそこは妖精と人が交信するための祭壇……だったのです」

 

「祭壇……」

 

あの日、確か妖精も同じことを言っていた。

柴が瑠璃にお酌をしている中、朱里は話を続けた。

 

「きっとどこかの誰かが、妖精と話をするための場所として用意してくれたのです。でなければあの日の結末は、違ったものになっていた……」

 

「……」

 

私はジョッキをあおった。

てっきりあの場所があったからトラブルが起こったものだと思っていたが、確かにそういう見方もある。

 

時空船という場所がなければ私達の意識は形を持たず、ふらふらと漂っているだけだったのかもしれない。

 

――もしも、この宇宙でも誰かがそうした場所を作るのなら。

 

その根っこにあるのはプラスの感情であってほしい、そう思う。

 

……自分がそれにふさわしいとは全く思わないけど。

 

 

 

 

 

「しかし私と朱里さんのお胸は瑠奈さんと輝里さんほど育ちませんでした……やはりあの時空に特殊な何かがあったのかもしれません……それが私達のお胸に作用し……」

 

「瑠璃ちゃん、真顔で新説を提唱しているのです」

 

「三吉の夕花と私そっくりの柴も元気にしてるんすかねえ。もっとオタ談義したかったっす」

 

夕花、柴美知留さん、輝里さん、瑠奈さん。

私達にその様子を知る方法はない。

 

でもそこまで心配もしていない。

みんな、ひとりじゃないから。

 

「それぞれ元気にやってるわよ、きっと……。でもまあ、不思議な話ね。あの日の夢みたいな体験が、私達の将来……夢に繋がっていくなんて、ね」

 

 

「……」「……」「……」

 

 

「な、なによあなた達……」

 

「うわあ……。酔ってるすね、朝霧。自分の言葉に……」「おーっほっほっほ!! 夕香さんは見かけによらずRO・MA・NN・TI・SU・TOなのですわああああ!!」「こういうことを素で言えるのが夕香ちゃんの良さなのです……!!」

 

「う、うるさいなあ!! ほら、今日の主役は私じゃないんだから!! 今日の主役は……!!」

 

 

 

ドアがすっと開いて、店員さんがケーキを持ってきた。

そのままにこやかに退出していく。

 

朱里が目を丸くして驚いたような表情をしていた。

 

「夕香ちゃん……!! これ、もしかして……!!」

 

「うん、オプションで付けてもらった。……毎年のことだからバレバレかもしれないと思ったけど」

 

「ううん、いくつになっても……嬉しいのです!!」

 

 

 

「じゃ、あんたらもちゃんと合わせるのよ。最後に"っす"とか付けないで」

 

「は? っす? 何の話っすか? まー気を付けるっす」

 

「我が最大のライバル……いえ友に!! 盛大に祝おうではありませんか!! おーっほっほっほ!!」

 

「高笑いも禁止!!」

 

ふふ、っと朱里が微笑む。

 

三人でせえの、で声を上げた。

 

「朱里!! 誕生日おめでとう!!」

「朱里さん!! 誕生日おめでとうございますわよ!! おーっほっほっほ!!」

「宮寺!! 誕生日おめでとう!! ……っす」

 

 

 

「結局バラバラじゃあないの!!」

 

朱里の笑い声が響く。

 

私はそんな朱里に、促すのだ。

今日は朱里が主役だからどんなワガママを言ってもいいと。

そして、少し悩んでから、朱里からイタズラっ子みたいな笑みがこぼれていた。

 

 

 

「みんなーーーー!! 今夜は飲むのですーーーー!!」

 

 

 

今日は私の親友、宮寺朱里の22回目の誕生日。

 

 

 

 

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