魔法少女アンダーバーエックス   作:MOPX

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アンダーバーエックス

 

朱里は野良犬だった死骸を見下ろす。

心から辛そうに。

 

「もう、病院に連れて行っても……」

 

「……。無理だろうね」

 

わかりきっていたことではある。

私達が付いた時点で、この状態だった。

 

『どの道、助かっていなかったわ。気に病むことはないわ』

 

私は薄情な人間だ。

子猫が捨てられてても何の情もわかないし、野良犬が死んだって特に感慨はない。

世界全体でみれば、そんなこともあるとしか言いようがない。

 

でも、悲しむことができる人間を否定する気も、またない。

 

「首輪とかもないみたいだし、後で穴を掘って埋めよう」

 

「……はい、なのです」

 

私は自分のことしか考えない人間だ。

だから、正しいと思える振舞いをするのは、明日を気持ちよく生きるために他ならない。

 

……などと、カッコつけた思考は耳をつんざく高笑いに遮られるのだった。

 

「まだ少し時間がありますわね!! もう1、2匹探してみましょうかあ!!」

 

「そうっすね!! モンスターって集中して出現するって言うっす!!」

 

『どうやら寒色組は乗り気なようだけど、どうする? 私としては~ここはまあどっちでも~ニヤニヤニヤニヤ……』

 

「いや、いいでしょ、もう」

 

「はい?」

 

高笑いが止まる。

どうやら本気でまだ探索するつもりだったらしい。

 

「実際に見つかったんなら、ここはきっとモンスターが湧きやすい地点なんでしょ。後で先生にでも報告すればいい。私は瑠璃の手柄でいいし」

 

「な……!! その言い方!! この姫小路瑠璃、お情けはノーサンキューですわよ!!」

 

『探索を続けないの? ここまでつき合ったのに? 何か中途半端だな~。あなたそのものって感じね夕香』

 

「……うるさいな」

 

「う、うるさい!? 夕香さん今、私のことをうるさいと!?」

 

「……あ。違う今のは妖精に……」

 

「……。本当っすか? 朝霧は世の中にちょっと冷めすぎっすよ。今のも妖精に向かって言ったからOKっすよね?」

 

「柴、あなたね……」

 

「ケ、ケンカは駄目なのですーーーー!!」

 

朱里に静止されて、呼吸を整える。

事故とは言え、少し頭に血がのぼってしまった。

 

「朝霧、瑠璃さまに謝るっす」

 

「だから妖精に言ったんだってば……!! 瑠璃も、一人ならいいけど、みんなと動くんだからさ……。朱里は歩くの大変じゃん」

 

「ゆ、夕香ちゃん!! 気遣いは嬉しいけど私はまだまだ元気なのです!!」

 

「う……ぐす……」

 

「瑠璃……え、泣いてる……? え、ええ……? 私、そんなキツいこと言った……?」

 

「みなさまごめんなさい全てはワタクシのクソ雑魚メンタルと不徳の致すところです、ぐす、ずずず!! うるさくて周りの見えない女で……ぐす、ずずず……歩道も、お二人も巻き込んで懺悔の思いで……ずずず……」

 

「瑠璃ちゃん、ハンカチ……は、ないから手拭いを貸すのです」

 

「ああああ!? 朝霧なんてことを……!! 瑠璃さまはこう見えてガラスのハートなんすよ!! 謝るっす!! 公開土下座を動画サイトに乗せて全世界に謝罪するっす!!」

 

「いや、私もそんな物言いきつかったかな……。軽くショックなんだけど……」

 

「ワタクシはみんなでモンスターを退治してウハウハしたかっただけなのに……うおおおおぉぉぉぉん!!」

 

「私だけは理解者っすよ瑠璃さま……!! 涙を少し頂戴するっす……!!」

 

『大混乱ねー』

 

他人事のような橙の発光体にメンチを切った。

……つもりだったのだが、その奥にいた手拭いで涙を拭う少女と目が合った。

 

「めちゃんこメンチを切ってますわああああ!? やっぱり夕香さん……ワタクシのこと嫌っていますわぁぁぁぁ!!」

 

「だから違うんだってば……!!」

 

もうどう言えばいいのか。

どこでもいいから逃げ出したい気持ちだ。

 

――きっと、だからこそ。

私だけが気づいた。

 

魔法少女用の端末で、緊急アラームが鳴っているのに。

 

「待って、みんなこれ」

 

端末は強制的に脅威度を示す画面になっていた。

近くにモンスターがいる時の機能だ。

 

値は――。

 

「……? 私のやつ、壊れたかも。朱里、確認してもらえる……?」

 

端末を取り出そうとする朱里よりも、柴の声が先に飛んできた。

 

「あ、ウチのも表示が変っす。瑠璃さまのは……?」

 

「……ダメ。ワタクシに似てポンコツ端末になってしまいましたわああああぁぁぁぁ!!」

 

自虐を通り越してギャグみたいになってる人は置いといて、これは困った。

緊急アラームが間違いでなければモンスターはこの近くにいる。

強さを早く把握したいんだけど。

まったく、何でこんなタイミングで――。

 

「あの、もしかしてと思うのですが……みんなの端末、壊れてないのでは?」

 

朱里の一言で、しんと静まり返る。

 

三人分の沈黙が重なっていたに違いない。

 

「いや、だって……」

 

「あり得ないっす……」

 

「こ、これが正しいのだとしたら……!!」

 

だってあり得ない。

端末に示されていた数字は――。

 

 

 

9.99

 

 

 

『あなたは離れなさい』

 

「は?」

 

『早く!!』

 

「みんな走って!!」

 

わけのわからないまま、叫んだ。

息もつかぬまま走ろうとした。

 

いや、何をしてる私は――。

 

いるじゃないか。

無理をして、履きたくもない下駄を履いている友達が。

 

「朱里!!」

 

「夕香ちゃん!?」

 

そして地面が割れた。

 

「瑠璃さま!!」

 

「歩道!!」

 

衝撃で吹っ飛ぶ。

手の感触だけは、確かに朱里がいることを知らせてくれた。

 

ビルかと見紛う巨大な黒い芋虫が、地から天へと伸びる。

人は本当に畏怖した時、全ての感覚が失われるのだと知った。

 

黒い虫が、空に伸びていくのを、私はただずっと眺めていた。

 

やがて巨大な黒い柱と化したそれは、ゆっくりと沈み込むように、まっすぐに倒れてきた。

 

 

 

 

 

終わりだ。

 

 

 

 

 

そう直感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はあ、予定が台無し。ここで覚醒するはずだったのに』

 

黒に覆われた視界に、橙の光が灯る。

思わず叫んでいた。

 

「覚醒!? こんな時に何を言ってるのよ!! そんな都合よいこと現実にあるわけない!!」

 

『何やら勘違いしているわね』

 

勝ち誇った自信満々な(意識)が、頭に流れ込んでくる。

 

『クソゴミが覚醒なんかするわけないでしょう。聞いてるのクソゴミ? どう責任を取るのクソゴミ。本当に最後の最後で余計なことをやってくれたわねクソゴミ!! このモブ!! 陰キャ!!』

 

「クソゴミ……?」

 

その言葉は私のことを指しているのだと、やっとわかった。

 

黒い柱は、止まった。

否、橙の光の地点で、つっかえたように静止していた。

あれだけ巨大な虫が、一点の光に抑えられている――。

 

橙の光が、白い光へと変わっていく。

周囲を照らし尽くすように、輝きが増していく。

白い太陽みたいだ。

漠然とそう思った。

 

「何でしょうか、あの光……!!」

 

朱里が横で声を張り上げる。

あれは私の妖精だったものだ。

今は、朱里にも見えている――。

 

数メートルの球体となった発光体が、ぐねぐねとその形を変える。

足が生え、手が生え、頭ができ、少女の後姿になった。

にょきにょきと、ドレスらしきものも生えてきた(・・・・・)

 

あの姿はまさしく――。

 

「魔法……少女……?」

 

ドレスを纏った少女が、手をゆったりと上げる。

黒い巨中はその動きに呼応するように押し返され、再び真上を向いた。

 

真っ白な少女が地面へと降り立った。

 

 

私は夢を思い出していた。

今日見た、少女が二人出てくる夢だ。

あれは予知夢だったのだろうか。

 

そして私は、やっぱり助けられる側の少女だ。

 

助ける側の少女が、私の頭に語り掛ける。

 

『クソクソクソクソッタレ!! もひとつおまけにクソッタレ!! だ・が!! ここでアドリブ力を発揮する!! 私は絶対に今日この日に私の目的を成し遂げる!! この宇宙の宿願を!!』

 

白いドレスが、地面へと伸びる。

まるで根を張り巡らせるように、辺り一帯が白に覆われていく。

 

地面が唸る。

大気が揺れる。

 

少女が吸い込む。

この世界の全ての光を。

 

白き少女が、黒い巨中へと両手を構えた。

 

『消えちゃえビイイイイィィィィイイイイィィィィいいいいぃぃぃぃム!!!!』

 

白の閃光が、前方へ発射された。

光は際限なく広がり、宇宙を飛び出し、反動でこの()も飲み込んでいく。

 

当然、私も。

 

何もわからないまま、こうなった。

だから、求めた。

光が暖かいものか、冷たいものか。

全ての感覚が、それを判断するために研ぎ澄まされた。

 

 

 

光が持っていたのは――。

 

 

 

無に還っていく感覚。

 

 

 

手を強く握った。

握り返されているのが、わかった。

 

最後まで残っていたのは、その手の温もりだった。

 

 

 

 

 

――これで終わりだとして。

ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか。

私にはわからない。

 

ただひとつ、はっきりしていることがある。

 

 

 

 

 

私に暴言を吐きまくった妖精をぶん殴りたい。

 

 

 

 

 

――門限(タイムリミット)まであと3時間半。

 

 

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