魔法少女アンダーバーエックス   作:MOPX

8 / 39
家に連れ込まれた

夢というのは不思議だ。

自分が見ているはずなのに、しばしば自分自身の姿が映る。

まるで第三者の様に、それが動くの、泣くのを、叫ぶのを眺めている。

 

だからして、これはきっと夢なのだろう。

自分とほとんど同じ顔の人間が、目の前にいるのは。

 

「朱里」

 

「はいなのです」

 

「私、寝てるみたい。起こして」

 

「……? よくわからないけど、ほっぺたをモミモミしましょうか……?」

 

朱里の手が頬を揉む。

強引さは微塵もなく、解きほぐすような仕草に安心感を覚える。

心地よさに思わず目をつむる。

ああ……、力が抜けていく……。

 

このまま夢から醒めればさぞ寝起きがいいだろう……。

そう、思って目を開いた。

 

「驚いたちゃった……!! あなた、私にそっくり!! あ、さっきも名乗ったけど私は夕花!! あなたは?」

 

「……」

 

夢では、ない。

まあ、そんなこともある。

 

「私も……夕香……」

 

意を決して、私は目の前のドレスを着た少女に向かう。

彩度の高い橙のリボンに負けないくらいの、まぶしい笑顔が返ってくる。

 

「朝霧夕香……です」

 

「同じ名前……!! すごい偶然だね!! そっちの子は?」

 

すごい偶然、で流して良い部類じゃないだろう。

しかし無理もない。

相手はこちらが西暦2020年の人間だと知らないのだ。

 

夕花と名乗った子と朱里が挨拶をしている間、頭を動かす。

母親の若い頃、というのはあり得ない。

名前も違うし、年齢も合わない。

 

見たところ夕花は私と同じくらいの歳だから、2020年だと30歳くらいになっているはずだ。

親戚に該当する人間はいない。

少なくとも、私が会ったことのある人では。

 

従妹はもっと若いし……誰かの隠し子とかだったらさすがに嫌だなあ……、うーん。

 

「夕香ちゃん、その……」

 

朱里の声で、思考を中断する。

挨拶は終わったようだが、何やらバツが悪そうだ。

 

「ユウカちゃん……あ、夕香ちゃんじゃない方のユウカちゃんに……あうう……」

 

「鬼フリルの人に何か言われたの?」

 

「誰が鬼フリルだって~!? あはは!!」

 

にょきっと少女が顔を出す。

こっちの思いとは裏腹に、屈託のない笑みだ。

既に変身を解いており、私服になっていた。

 

「話してたらあなた達、この町の人じゃないんでしょ!? この町を案内してあげようと思って!! いいでしょ!!」

 

弾けるような笑顔で、悪気なく少女は言う。

私と同じ顔で、これだけ愛想が良く対応されるのは、ものすごい違和感がある。

明らかに私のキャラじゃねえ。

 

朱里が困っていたのも頷ける。

タイムパラドックス的なアレもあるし、あまりこの時代の人と干渉したくない。

相手が正体不明の自分とそっくりな人間ならなおさらだ。

 

――しかし。

 

「あー、うん。私らなんというか……疲れたから休みたいっていうか……」

 

「え!? それは大変!! 私の家、すぐ近くだから休んでいって!!」

 

「え、いや、その。親御さんとかに悪いし……」

 

「気にしないで!! 今日は帰ってくるの遅いから!! 困った人がいたら助けてあげろ……私のお父さんの言葉だよ!!」

 

「……。今日はそんな気分じゃないって言うか……」

 

「何で!?」「え、いや」「何で何で何で何で!? 私達、せっかく仲良くなれたのに……!!」

 

うぐう、と私が言葉に詰まる。

朱里も半ば諦めた顔をしていた。

 

「じゃ、じゃあ少しだけ……」「本当!? やったああああぁぁぁぁ!!」

 

私に似た顔の人、私と違って押しが強いな……。

そう思いながら、半ば引きづられる形で夕花さんの家へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ……あれが魔法少女っすか……」

 

「見つけたっすよ……!! 変身の攻略法を……!!」

 

 

 

 

 

 

私達三人は『三吉』という表札のかかった門をくぐった。

当然と言えば当然なのだが、私の知らない家だ。

 

階段を昇り、私と同じ名前を名乗った少女の部屋へと案内される。

机と、ベットと、漫画が数冊入った小さな棚と、その上に置かれた写真と……部屋にあるものはそれくらいか。

 

小綺麗で、癖がなく、一般的。

頭に浮かんだのはそんな印象だった。

 

「お茶、いれてくるから待っててね!!」

 

スカートを翻して、少女は扉の外へ。

お行儀よく正座をしていた朱里が口を開いた。

 

「夕香ちゃんにそっくりなユウカちゃん、とても元気いっぱいなのです」

 

「確かに、私とは似ても似つかない感じ。……同じ顔なのに」

 

「あ、でもでも!! 夕香ちゃんは夕香ちゃんなのでユウカちゃんとは違った魅力が……何を言っているのか、わかりにくいのです!!」

 

「……。あのそっくりさんは夕花さんって呼ぼうか」

 

呼び方はさておき、だ。

こうして家に連れてこられた以上、どうするか考えないといけない。

 

すなわち、私達の正体を明かすかどうか、だ。

 

「この時代のユウカちゃんも、とても親切で良い人なのです。私達のことを伝えたら力になってくれそうなのです」

 

「うーん、でも口が軽そうだし、変に話を広めそうな感じも……」

 

「夕香ちゃん、気乗りしないようなのです。"たいむぱらどっくす"のお話も気にされてるのですか?」

 

「いや、それはもうあんまり」

 

あんまりというか、今更というか。

仮にユウカさんが私の親戚筋なり関係者だとして、歴史が変わるならもう手遅れだろう。

というか私はこうしてピンピンしているので、過去改変したからといって「すう……」と消えるタイプの世界ではないということだ。

 

ユウカさんと私は違う名字なのだから、少なくとも父親は別人。

ただのそっくりさんと考えるのが気が楽だ。

……母親の名前を聞いてみるのは、なかなかに勇気がいるが。

 

「夕香ちゃんのお気持ち察するのです……。しかし、私達がどう振舞うのか決めねばなりませんね……」

 

「まあ、とりあえず保留でもいいかな。”私達が2020年から来ました!! ばば~~~~ん!!”なんて言っても誰も信じて――」

 

「あなた達、2020年から来たの!? すごい!!」

 

「うわああああ!? 思いっきり聞こえてたし秒で信じてるーーーー!?」

 

こうして図らずも、私達の秘密はあっさりと少女に開示されるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……というわけで。あなたに助けられて今に至るというわけ。朱里、補足ある?」

 

「訂正があるのです。今から1年後に発売されるのは"げーむぼーいあどばんす"で……」

 

「そこはよくない!?」

 

説明で2001年発売のナンタラカンタラもまだなくて……と話したのだが、藪蛇だったか。

まあ、発売がもう公表されていたらリークには当たらないだろう。

……2001年発売予定として宣伝されていれば。

 

しかし、朱里がそんな重箱の隅をつついたということは、前向きに取れば私の説明には大きな問題がなかったということだ。

目の前の、私のそっくりさんの顔を確認する。

 

夕花さんは、何やら下を向いていた。

 

私達が2020年からやってきたと知った時は、目をキラキラさせながら顔面ゼロ距離で話を聞きたいとせがんだ子が、だ。

途中くらいまでは元気に相槌を打っていたのだけど……。

私達がここにきた切っ掛けの出来事を話したあたりからだろうか。

 

ちなみに親の話はしていない。

何となく怖いので。

 

 

 

「あなた達……!!」

 

私の背筋が思わず伸びる。

朱里も出された煎餅をごっくんして私と同じ姿勢を取った。

 

一体、何を言われるのか。

 

「あなた達は……何!?」

 

質問の意味がわからず、私と朱里が顔を見合わせる。

 

「小学生……かな」「"たいむすりっぷ"した小学生なのです」

 

バン!! と机が叩かれた。

 

「ちが~~~~う!! あなた達は……魔法少女!! 魔法少女の使命は何!? 言ってみて!! はい、夕香!!」

 

何だこのノリ。

2000年特有なんだろうか。

というか自分のそっくりさんに名前を呼ばれるの、何か変な感じだ。

 

「……。健康で平和に過ごすことです」

 

「はああ!? 朱里ちゃん!! がつんと頼むよ!!」

 

「私は夕香ちゃんと……友達たちと楽しく過ごせたらそれでいいのです」

 

朱里の発言に夕花さんがため息を吐く。

やれやれ仕方ねーな、とでも言いたげだ。

 

「魔法少女の使命……それは!!」

 

大きく息を吸い、少女が宣言する。

 

「モンスターから町のみんなを守ること!!」

 

「おお……!!」

 

小学生の口からそんな殊勝な一言が出るなんて。

顔が似ているため、自分が発言したかのような高揚感が得られた。

この三吉夕花さん、真っ当というか真面目な考えをしているらしい。

 

「いい? あなた達はその脅威度9.99……トリプルナインって呼ぶね、トリプルナインと戦っていてここに来た!! 元の世界ではそのモンスターがまだ暴れているかもしれないんだよ!? 早く帰って倒さなきゃ!!」

 

なるほど、そういうモチベーションで帰る方法を探せばよかったのか。

自分と朱里にはなかった発想で、感心してしまった。

 

あと、あのでかい芋虫にそれっぽい名前を付けてくれたから、私達も使わせてもらおう。

ちなみに、脅威度はこの時代でも使われている基準らしい。

 

 

「夕花さん、とてもしっかりとした考えの持ち主なのです」

 

「確かにね。朱里、惚れちゃった?」

 

「……顔が似ていても、夕香ちゃんは夕香ちゃんだけなのです」

 

そこ、私語を慎む!! と夕花さんからお叱りの言葉が飛ぶ。

もうすっかり私達の先輩のようだ。

実際、20年も前の魔法少女なのだからそうと言えなくもない。

 

「でも私達があの芋虫をねえ……。朱里でもたしか脅威度4くらいが限界だよ。私はもっと弱いし」

 

「自分で自分を弱いって言わない!! 魔法少女は、私達が信じればどこまででも強くなれる……だから!!」

 

部屋が一瞬、震えた。

橙の風が巻き起こり、少女へと集まる。

 

閃光。

 

少女のシルエットだけが網膜へ焼き付く。

目を開いた時には、少女の姿はドレスを纏ったものに変わっていた。

私達を助けた、あの時の姿だ。

 

「……朝霧夕香!!」

 

「は、はい」

 

勢いに押されて返事をした。

何だかイヤな予感がする。

 

「私があなたに……変身を伝授する!!」

 

フリフリの鬼フリル、私も着るのか。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。