今回はグレイの回想。楽しんでいただけたら幸いです。
「オーリム博士!…オーリムAI!いるか!」
ゼロゲートに戻るなりモニターの電源を付けて捲し立てるグレイ。中々通信に出ない。通信相手が出るのを待つグレイは、ここ数ヶ月の事を思い返していた。
数ヶ月前。『ソード』の世界。『スカーレット』の世界とは違うそこのガラル地方南、ガラル辺境であるワイルドエリアとカンムリ雪原の間の山脈にその建物はあった。俗に言う刑務所である。その面接室にて、ダフネとグレイは面会していた。
「わざわざ面接に来たと思えば……ラウラが消えただと?」
「はい。またあなた方プラズマ団が攫ったのかと」
「お前らが潰しただろうが」
「残党でもいて、唯一捕まってない新生プラズマ団の幹部だったラウラさんをまた幹部に仕立て上げてなんか企んでいるのかと」
「それなら俺は知らないな。俺やゲーチスみたいな先導者でもいないとあいつらはなにもできないさ」
そう言う人間ばかり集めたからな、と悪びれるグレイ。ある一人のトレーナーに負けて心無い言葉をかけられ、王になり見返してやると言う歪んだ野望を抱いた末に自分たちに敗北した目の前の男に、ダフネは気を引き締める。彼が率いたプラズマ団には家族も同然の手持ちを引き離された恨みがあるがどんな因縁がある人間だろうと希望はここにしかない。終いには、頭を下げていた。
「…なんのつもりだ?」
「お願いします。もう貴方しかいないんです」
「……どこで消えた?」
あまりに必死な姿に溜め息を吐いて問いかけるグレイ。それを聞いたダフネは表情を明るくして鞄から書類を取りだした。
「カンムリ雪原です。デンチュラと他の手持ちはユウリさんが見つけて保護しましたが、隅から隅まで探してもガラル地方のどこにもラウラさんの痕跡すらありません。他の地方に行った痕跡すら見られない。公の記録によればカンムリ雪原駅を訪れたのを最後に消息を絶っています」
警察からもらった記録の書類をガラスの向こうのグレイにも見える様に並べるダフネ。親友の一人であるラウラの妹分、ジュリも心労で弱って来ていて、いても立ってもいられなくなったダフネ。もう頼る人間はグレイしかいなかった。ラウラと「同類」だと語ったこの仇敵である男しか。
「目的は聞いているか?」
「妻…夫?のユウリさんに出かけると言っただけのようです」
「結婚したのかアイツら……ちなみに、その見つけた手持ちってのは?」
「ええっと…」
グレイの問いにダフネはメモ帳を取り出しペラペラ捲り、目的の
「デンチュラ。ドラピオン。ウルガモス。ゲノセクト。フェローチェ。マッシブーン。…ラウラさんの最強メンバーですね。何か事件でも追ってたのでしょうか」
「そのメンバーでカンムリ雪原か……ああ、合点が行った。あそこにはあれがあるからな」
「あれ?」
「知らないのか。ああ、この世界で知っているのは一部の人間だけだったか。ウルトラホールだよ」
また含みのある言い方に顔をしかめながらも、言われた言葉に首をかしげるダフネ。
「うるとらほーる?」
「ウルトラホール。フェローチェやマッシブーン、ユウリのウツロイドみたいな異形のポケモン……ウルトラビーストが現れる時空の穴だ。国際警察も知らないんだろうが、カンムリ雪原にはコスモッグがいる。ウルトラホールを開くことができるポケモンだ」
「何で国際警察も知らないことを貴方が知ってるんです?レジギガスのこともそうですけど」
至極当然の問いかけをするダフネに、グレイは「あー」と失言したことに気付いて目を逸らす。それはグレイにとっても、ラウラにとっても、ジュリにとっても禁忌と言っていいことだからだ。結局、他の奴に押し付けることにした。
「それはラウラかジュリ……我が同類にでも聞くんだな」
「貴方とラウラさん、ジュリさんの二人を一緒にしないでください」
「お前俺が嫌いだな?」
「嫌いです。ジュリさんの凍傷まだ治ってないんですからね!キュレムで容赦なく凍らせて!シュバルツの怪我もまだ治ってないんですよ!」
「それは本当に悪かった」
躊躇なく頭を下げるグレイに、反省しているのだと察して口をつぐむダフネ。溜め息を吐いた。
「で、そのウルトラホールがラウラさん失踪とどう関係があるんです?」
「Fallと言う人間がいる。ウルトラホールを通って異世界から来た人間で、その影響かウルトラビーストを惹き付けやすい体質となり、ショックかなにかで記憶を失っているそうだ。ならその逆も然りだろう」
「…ラウラさんはそのコスモッグが作ったウルトラホールに落ちたと、そういうことですか?」
「恐らくだがな、ラウラはフェローチェとマッシブーンを生息地の異世界に里帰りさせようとかそんな理由でカンムリ雪原を探索してたんだろう。そこで何かが起きた。この世界から痕跡なく消えるとしたらそれしかない。他にはヨノワールの作り出す異空間に落ちたとかフワンテに連れ去られたとか色々仮説もあるが…わざわざ連れて行った理由はそれしかないだろうな。だとすると可能性としてはラウラはウルトラホールに落ちた、これしかない」
洗脳しても蟲好きは治らなかったからな、とグレイは笑う。
「…ジュリさんの言ってることは本当でしたね」
「うん?ジュリの差し金か。アイツは知らなかったのか?」
「『私はそんなにやりこんでないから知らないけどグレイなら知ってるかも?』とジュリさんの談です。あと、貴方を脱獄…じゃなくて出所させようという考えもジュリさんですね」
「なんだって?」
いきなりのカミングアウトに反射的に問いかけるグレイに、ダフネはしてやったりと笑みを浮かべる。
「今ユウリさんがダンデさんやらに働きかけているはずです。貴方みたいな極悪人をここから出所させるのは骨が折れますよ、まったく。ところで出所って響きかっこよくないですね、脱獄の方がかっこよくありません?」
「お前は俺に余罪を増やすつもりか。いやそうじゃなくて…俺を出所だと?」
「ラウラさんを見つけるまでの緊急処置です。見つけたら減刑もあるかもですよ?」
「…俺よりよっぽど極悪人だなお前らは」
グレイは笑う。ダフネも笑う。すると一人の刑務官がやってきて見張りの人間に何か話し始めた。どうやら上手く行ったらしいことを確認したダフネはグレイに問いかける。
「では共犯者。よろしくお願いしますよ」
「わかったよ。せいぜい働かせてもらうさ」
「で、これがコスモッグ?」
「正確にはコスモウムだな」
三日後。カンムリ雪原フリーズ村近くの森にて、手分けして探しだしたそれに、集まった五人…ダフネ、グレイ、ユウリ、ジュリが顔を見合わせる。星雲の繭の様な不思議なポケモンだった。
「コスモウム?」
「ソルガレオまたはルナアーラに進化するコスモッグの進化系だ。似た系列で言うとビードルとコクーンとスピアー、ヨーギラスとサナギラスとバンギラスみたいな関係に近い」
「なんでそれを知っているのかはともかく、そうかあ…この子がソルガレオの進化系なんだ。ミヅキもこの子を進化させたのかな」
「そうか、お前はミヅキを知ってるんだな」
「うん、友達だよ」
チャンピオン友達のアローラのチャンピオンの持つソルガレオを思い出しながらそう言うユウリ。レジギガス事件でも助けてくれた友人だ。
「しかし最悪だ」
「最悪ってどういうこと?この子にウルトラホールを開いてもらえばいいんじゃ…」
「馬鹿野郎。それだとラウラと同じだ、迷い込むだけで帰る事すらできないぞ。それにコスモウムは休眠状態だ。コスモッグみたいに自在にウルトラホールを生み出せない」
「じゃあどうするの?」
ユウリの問いかけに、グレイは不敵に笑う。ジュリもなにか思い出しかけたのか首を傾げる。
「ジュリ。お前ならわからないか?コスモウムを目覚めさせ、ウルトラホールを自由に移動する方法があるだろう」
「あ、そうか!祭壇!」
「そうだ。月輪だが日輪だか知らないが……いや、ソルガレオがいるなら日輪の祭壇か。とにかく、アローラに行くぞ!」
そうして彼等はガラルを出て、アローラ地方に向かった。
※脱獄ではなくちゃんと手続して出所させました。
知らない人のために念のため。記憶があるラウラ、ジュリ、グレイは「転生者」「転移者」というゲームのポケモン知識があります(ラウラはBWまでだけどバトルサブウェイやり込み勢、ジュリは剣盾までのストーリー勢、グレイは剣盾まででやり込み勢)。
チャンピオンマリィとかから察しもついていたと思うけどついに明かされました。前作「ソード」の世界と今作「スカーレット」の世界は別の世界でした。お気づきだろうか、「VSデンチュラ」などユウリたちsideの過去回で「―――――のガラル」と書いていたことに。「ソードの世界のガラル」という意味だったのだ。
ついでに言うとムツキの四天王就任はあっちでもこっちでも起きていたことというミスリードでした。ムツキとモコウがラウラの事を知らないのもそのはず、そもそも知り合ってないから。ラウラの痕跡が無いのも、そもそも世界が違うから。どうにかこうにかミスリードさせるのに苦労しました。
前作でコスモッグを放っていたのは続編作るなら使えそうだなと思ってたからだったり。地味に便利だからねウルトラホールの設定。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。