今回はアイアールVSペパー、ガチンコ勝負。楽しんでいただけると幸いです。
「…ら、ラウラの事って?」
ひとまずすっとぼけてみる。するとペパーはちょっとだけ怒った顔になった。
「言う気がないってんならバトルで引き出す。やるぞ!」
「あ、待って引っ張らないで…」
右手を掴まれ、無理やり外に引っ張り出され、ペパーは一定距離を離れてボールの中のマフィティフに呼びかける。
「うしっ!マフィティフも準備はいいか!?」
「バウッ、ワウ!」
「マフィティフもいけるってよ!恩人のお前の悩みを解決したいのは俺もこいつも一緒だ!」
「ま、マフィティフと!?大丈夫なの?」
本当に半日前ぐらいに復活したばかりだと思うのだが。するとペパーは照れ臭そうに笑う。
「へへっ。お前、やっぱり優しいな。まー、お前が不安な気持ちもわかるけどよ……コイツ、病み上がりだと思えねえほど元気ハッスルちゃんでさ。アイアールと戦わせろ戦わせろってギャンギャン鳴くんだよ。そーいやもともと、勝負が大好きだったんだよな。……生徒会長には負けるけどさ」
「ネモには誰だって負けると思うよ」
思わず苦笑する。そう言えば、ネモは今頃どこにいるんだろう。
「ってなわけで心配ご無用!スパイスで生まれ変わった新生俺たちの味わい!たーんとご賞味あれ、だぜ!」
▽ポケモントレーナーの ペパーが 勝負を しかけてきた!
気は進まないけど、とラウドボーンのシングを繰り出す。多分、最初はあのポケモンだろう。ここに来るまで手持ちの交代とかしてなかったし。
「頼むぜヨクバリス!スパイス巡りで出会ったポケモンオールスター、だぜ!」
「やっぱり来るよね、ヨクバリス…!」
偽龍のヌシと決着をつけた時以外でも、私がペパーと初めて出会った時に繰り出したのが恐らく捕獲したてのホシガリスだった。あの一撃でやられていた子がここまで逞しくなるとは、旅ってすごい。
「そっちはそいつか!ヨクバリス、負けたこと覚えているか?リベンジ戦、だぜ!」
「本気で行くからね!シング、フレアソング!」
撃つたびにとっこうを上げるフレアソングは撃ち得だ。シングの火力を上げて一気に突破する!…無駄話をする暇も与えない!
「噛み砕け、サイコファングだ!」
すると念動力の鋭い牙を目の前に形成して、フレアソングを噛み砕いて防御するヨクバリス。そんな、届かない…!?
「もう一発フレアソング…!」
「タネマシンガンだぜ!」
「なにを……!?」
口を開いてスタンドマイク状になった鳥型の炎を前方に置いてフレアソングを放とうとするシングにタネマシンガンを放つペパーに首をかしげたが、すぐに使った理由が分かった。ヨクバリスの口から射出されたタネが当たるたびにシングは仰け反ってしまい、撃つことができないんだ。
「な、なら…足元にかえんほうしゃ!」
「ならのしかかりだ!」
タネマシンガンを焼き払うべく地面に向けてかえんほうしゃを放ち渦の様にして防御するが、何を思ったのかヨクバリスに跳躍させるペパー。のしかかりはノーマルタイプのわざ、ゴーストタイプのシングには効果が無いのに。
「飛んで火に入る夏の蟲!フレアソング!」
「当てなくていい、着地に合わせてじしんだあ!」
「っ!?」
撃墜しようと上空のヨクバリスに向けてフレアソングを放つが、当たる直前に急降下して地面に勢いよく着地、した勢いで衝撃を地面に送り込みじしんを引き起こすヨクバリス。シングには効果が抜群だ。
「のしかかりは、じしんの威力を上げるために…!?」
「そうだぜ!お前とラウラのよく使っていた技と技の組み合わせだ!…そうだ、お前たちをずっと見てきたから俺には分かる。お前がラウラと別れて行動するなんてどう考えてもおかしい!」
「ぐっ……」
「教えてくれよ。ラウラが自分の記憶より優先する事ってなんなんだ?」
「…スター団の、壊滅だよ。カシオペアって人のお願いを聞いて」
嘘ではない。ラウラとはスター団を攻略してからオージャの湖と合流しようと言って別れたんだ。行きたいところがあるから別行動すると言って。
「人の頼みを聞いて自分をおろそかにするのは確かにラウラらしいお人好しちゃんだ。でもあいつは俺とマフィティフのことや自分の記憶を取り戻すことに躍起になっていた。そもそもラウラがスパイスの事をお前に任せたってのもおかしな話だ。あいつが、大事なことを他人に頼んで放っぽり出すわけがねえ!」
「うぐっ」
その言葉に言葉が詰まる。ラウラの事は多分、ネモよりも知っている自信がある。だからこそラウラらしくないとは思いながらもそう言うしかなかったんだ。
「ずばり言ってやるぜ。お前、ラウラに黙って俺と合流しただろ?」
「そんなこと、ない…っ」
「なら聞くが、お前、秘伝スパイス入りのサンドイッチをくるんでバッグに入れていたな。それ、どうするんだ?」
「も、もちろんラウラに会ったら渡す……」
しどろもどろになってしまう。ダメだ、真っ直ぐ見つめてくるペパーに嘘がつけない。
「…お前、俺と別れたらそれをすぐ処分するつもりだったろ。あの時は何も言わなかったがな、おかしいと思ったんだ」
「なにが…」
完璧だったはずだ。私は確かに、ラウラに託されて全力で偽龍のヌシを倒した私、を演じ切れたはずなんだ。何のミスもしてない筈……!
「秘伝スパイスのこと、ラウラから託されたんだろ。それを手に入れたなら普通、電話なりメールなりするだろ。お前はそんなそぶりすらなかった」
「あっ……」
言われて気付く。失念していた。ペパーからサンドイッチを受け取った直後にオーリム博士と連絡すらしてるんだ、壊れていたとか言い訳も通じない。確かに、明らかに矛盾している。
「十数年前のポケギアとかの時代ならともかく、俺達はスマホロトムを持ってるんだ。それをしない理由がねえ」
「そ、それは…」
「…アイアール。お前、ラウラには渡さず処分する気だったろ。食べ物を粗末にするのはいけないんだぞ」
「っ……!?」
思わず怯み、頭から帽子が落ちて左手で髪を掻き乱す。ああ、駄目だ。…やっぱりペパーはあのオーリム博士の子供だ。頭がいい。私みたいな凡才の浅知恵じゃ、敵わない……。
「俺に教えてくれないか。偽龍のヌシを倒した時に再会する前、潜鋼のヌシを倒した後でお前の態度は明らかに様変わりしている。……なにがあったんだ。俺の大事な
「ペパー……」
泣きそうな顔で拳を握りしめるペパーに、視線を左右と彷徨わせて言うべきか迷う。……駄目だ。言えない。こんなこと知っているのは私だけでいい。
「……シング、なまける」
「なっ…」
元々耐久よりに育てているシングだ。威力を上げたじしんも体力の半分ぐらいしか削ってない筈だ。なまけて完全回復させる。もう同じ手は食わない。
「…ペパーは知らなくていいことだよ。かえんほうしゃ」
「アイアール…!」
炎の海となる中で、シングを侍らせて私は熱風に髪を揺らせながら仁王立ちする。さながら魔王みたいだな、と自嘲する。いや、ラウラの為なら魔王にだってなってやる。
「どうしてもって言うなら、私に勝てたら教えてあげる」
「…上等だ!意地でも勝って、聞き出してやる!そして、お前を笑顔にしてやるんだ…頼む、ヨクバリス!」
パンパンと頬を叩いて自身を鼓舞し、ヨクバリスを向かわせてくるペパー。友達のためにまっすぐ突き進めるその姿が、少し羨ましいと思った。
実はオーリムとの電話のあとで悟っていたけど、アイアールから話してくれるのをずっと待ってたペパー。この男、完全に主人公である。
対して自分の殻に引き籠もりペパーの助けも拒絶するアイアール。前回の男気は何処に行ったのやら。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。