貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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10話

「やれやれ、ウマ娘の代謝能力ってのは凄いもんだ……」

 

屋上で煙を吐き出しながらも空を見上げるランページ。タマモクロス、オグリキャップ、そしてスーパークリークに山盛りにされて出された食事の山。本当に食べ切れるのかと思ったのだが、なんと食べられてしまった。メジロ家の日々で胃袋が大きくなっていたのと身体が大きくなったことで受け入れられた、そしてそんな大量の食事を詰め込んだ腹はまるで妊婦のように膨れていたのに放課後になればすっかりと元通りのボディラインへと収束している事に驚く。

 

「でも、これからはあんだけ食わねぇと持たねぇのかねぇ……」

 

これまで質素オブ質素な食生活だったランページ、メジロ家のお陰でそれは改善されてはいるがまだまだ根っこの部分は残っている。様々な意味で不安な所こそあるが、兎も角今日からそこも改めようと思いながらもハーブシガーを吹かしながら良い風に思わず瞳を閉じる。

 

「いい天気だ……」

 

そんな心地良さに浸っていると不意に、身体に悪寒が走る。唐突に訪れたそれに不快感を覚える、こんなにいい日よりなのに何で無粋な……と思うが、それ以上にその悪寒はどんどん強まる、というか足を誰かに触られている……瞳を開けるとそこには……

 

「……こいつはすげぇ、なんていい筋肉してんだ。加えてこの骨の密度……それに関節も……」

 

ブツブツと何やら自分の脚についての評論を述べながらも何処か危ない光を瞳に灯している一人の男が居た。黄色いシャツに黒ベスト、そして剃り込みの入った頭……そしてウマ娘の足を触る姿を見てもしや……と思いながらも確かにこれはウマ娘からしたら蹴るわ、と納得しながらも沸々と沸き上がって来た物に従う事にした。脚を動かして触ってくる手を払いのける。

 

「おい、評論は適当な所にしてけよ。どうせ誰も聞いちゃくれねぇぞ」

「お前凄いな!!こんな凄い脚を持っているウマ娘なんてそうはいないぞ!?」

「そりゃどうも。なら良い物を持ってるウマ娘の脚を触ってロハで済まそうなんて思ってねぇだろうな」

 

そう言いながらもワザとらしく煙をその顔へと向けて吐き掛けてやる、如何やら喫煙者だったらしいのかこの程度で咽るなんて事は無い。だが、気まずそうにしつつも弁解するように胸に付けているトレーナーの証明であるバッチを見せて来た。

 

「怪しいもんじゃないから安心してくれ、ほら俺は中央のトレーナーなんだよ」

「そうかい。自分から怪しくねぇって言った奴ほど誠実な奴はいねぇもんな」

「手厳しいなぁ……」

「この身体で売り出そうとしているもんでね、値段もつかない内から安売りするつもりはない」

 

その言い回しに思わず男は頭を掻きながらも素直に謝罪をして来た。言葉遣いのせいもあるが、少女と会話している気になれない。

 

「参ったな、どんな金額を出せば納得するかな」

「さてね。言っただろまだ値段はついてないって」

「それじゃあ言い値を出そう、俺は沖野だ、チームスピカでトレーナーをやってる。是非君をスカウトさせてくれ」

 

矢張り、あの沖野トレーナーだった。脚を触る癖さえなければ一流のトレーナーというのは揺るがないのだが……本当にこの癖だけは何とかしろと言いたい。

 

「ハッキリ言うが今のアンタに幾ら積まれようと乗る気にはならない、理由は明解でアンタが気に入らん」

「マジでハッキリ言うな……」

「人の商売道具を勝手に触って星付きレビューまでしてくれたからなっと!!」

 

相手が男な上に大人だからか、ヒトソウルが疼くのか思った以上に口が回る。元々7割方が男なのもあるだろうが……元のランページだってこんな出会いは嬉しくないだろう。その場で逆立ちをしながらも腕の力だけで跳び上がって立ち上がる、こんな事も簡単に出来るウマ娘の身体能力の素晴らしさに感激する。

 

「アンタの事は嫌いじゃないがね、気に入られたいならやり方を変える事をお勧めするよ」

 

そう言いながらもシガーを灰皿に入れながらも屋上から立ち去る。

 

沖野は肩を竦めながらも正論だな、と呟きながらも今度は彼自身がハーブシガーを取り出してそれを吸い始める。

 

「いや、でもマジで良いトモだったな……今度の模擬レースに出るなら確実に自分の目でその走りを見ないとな……」

 

話を聞いて回ったが、ランページというウマ娘の走りは凄まじかったという言葉がセールのように出回っていた。大逃げから始まったが、そこから相手のペースを崩す走りをした、ラストには迫って来たウマ娘を一瞬で抜き去った、その姿はまるでゴーストのようだったなどと様々な話があった。だが一番印象深かったのはリギルの東条トレーナーからの言葉だった。

 

『オハナさん如何だったんだそのランページってウマ娘』

『自分の目で確かめなさい、と言いたい所だけど一言で言うなら……逸材ね』

 

その言葉でどれだけの者なのかはある程度推し量れた、あのリギルのトレーナーにそこまで言わせたのだから相当な物の筈。そして今日、実際にランページの脚を触れて分かったが、あれは並大抵の脚などではなかった。

 

「そんなに凄かった?」

「ああ、筋肉のしなやかさも凄かったが骨も頑強だった。そして関節もかなり柔らかい……ありゃマジの逸材―――って何時の間に来てたんだよ」

「今さっき」

 

そんな風に考えていた時、背後には何時の間にか受け持っているウマ娘が立っていた。如何やら彼女もランページの事が多少なりとも気になっているらしい。

 

「アタシとだったらどっちが凄い?」

「おいおい……WDTに出てる奴と比較するのは酷だろ。お前に決まってるだろ」

「そう言ってくれると思ったよ、でも仮に同時期に出てたら?」

「……分からない、としか言いようがないな」

 

不明。それは幾らでもIFは捻出できるが、IFでしかなく真実ではないからというのもあるが、いざ同年代だったとしたらどちらが凄いのかという事の判別が出来ないというのもある。あの体格から来るしなやかな筋肉と頑強な骨、そして柔軟なバネを持つ関節……それが合わさった走りと戦っていたらどうなっていたのだろうか……そんな想定に思考を巡らせるよりも先に、煙を吐いて思考をリセットする。

 

「ンな事は良いから、ほらっさっさと行くぞ。今日のメニューをさっさとこなすぞ―――シービー」

「はいはい、仰せの通りにMr.トレーナー」

 

 

 

「悪いライアン、待たせた」

「ううん良いよ別に、ねえラン、是非話をしたいって人が居るんだけどいいかな?」

「何だ、また勧誘か?」

「さあそれかは分からないけど……でもその話をしたいって人が凄いんだよ!!だってあの―――リギルの東条トレーナーと生徒会長さんだよ!?」

「スピカの次はリギルかよ……」

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