貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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103話

「……マジか……」

「トレーナー如何したの?」

 

練習の為に部室へとやって来たテイオー、そこではスピカのトレーナーである沖野が新聞を広げ頭を抱えていた。

 

「これだよ」

「これって……」

 

そこにあったのは先日の弥生賞の記事があった。勝ったのはナイスネイチャ、同じクラスでカノープスに所属する彼女の力はテイオーもよく知っているつもりだった。

 

「弥生賞は皐月賞と同じ条件でのレース、そんなレースで残り800からのスパートを掛けてそのまま6バ身差だ」

「800mをスパート……ボク出来る気がしないんだけど」

「同感だ」

 

半分を越えて直ぐにスパートを掛けたと言っても過言じゃない。そんな所から仕掛けて持つだけのスタミナにも驚くが、このスパート自体が相手に掛ける重圧(デバフ)も相当なものになる筈。

 

「あそこから一気にスパートを掛ければ持たないがネイチャの場合は持っちまう、しかも普段通りのスパートを掛けようとしても既にネイチャは先頭で差を付けているから他の連中も仕掛けを早めちまう。そこで体力を大幅に削られて最後の最後に掛ける筈だった末脚が残せなくなる。かと言って、最後の末脚に掛けるにしてもこれだけの差を開けられちまうと……相当な末脚を持ってないと追い抜く処か並ぶ事も難しい」

「ネイチャって怖いウマ娘なんだ……」

「ああ、マジで曲者だ」

 

ネイチャの対策はロングスパートを見ても焦る事なく、自分のペースで走りながらも仕掛けるタイミングを逃さない事。言うだけならば簡単だが、これをレースの最中にやるとなるとかなり難しい。相当に図太いか自分に自信があって冷静な判断が出来るウマ娘でないと厳しい。

 

「実際に弥生賞じゃ術中に嵌って2着以下はもうボロボロの状態だ、こりゃランページからペースについての指導も受けてやがんなぁ……」

「えっランってそんな事も出来るの?」

「ランページ最大の武器が大逃げしているのに拘らず、相手に悟られない程に繊細なペース変更だ。これに関しちゃ見せた方が早いな」

 

ノートパソコンを取り出して起動させている時にマックイーンにタイシン、シービーもやって来た。何かを見せようとしているので便乗して見る事にした。

 

「此処までのタイムがこれだ」

「えっ嘘凄いスローペースじゃん!?」

「マジか……あんだけ逃げてたのにいつの間に」

「いやぁこりゃ凄いね」

「……」

 

そして次の瞬間には一気にランページがペースを上げた事でスローペースだったレースは一点、ハイペースの物へと変貌してしまった。余りにも激しすぎる変化に同じチームのイクノでさえ大幅に体力を削られてしまって末脚を発揮出来なくなっていた。それを何れ一緒に走る事になるマックイーンは食い入るように見つめていた。

 

「同じチームに此処までペース変更の上手い奴がいるんだ、ネイチャが話を聞いてたとしても可笑しくはない。ペースを乱す事がどれだけ有効な事をな」

「私もこういう子と対戦した事あるな~でもなんか苦労した覚えない気がするけど」

「マイペースを具現化したみたいなウマ娘のお前が並のペース変更で乱される訳ないに決まってんだろうが」

「そこまで言うかね~」

 

シービーはシービーで良くも悪くもマイペースで自分を乱さない、加えて追い込み型なので先頭のペース変更の影響を受けにくい。なのである意味でランページの幻惑逃げの最大の天敵はシービーという事になる。

 

「走ってる中で一番疲れないのが一定のリズムで走る事だからな、それなのにペースを気付かないうちに変えられたりすると自覚出来ない程度に少しずつ疲労していく。そしてその疲労は自分の最後のスパートを掛けようとした瞬間に一気に開花して蝕んでくるんだ」

「……毒みたいなもんってこと?」

「ああ、その表現が正にピッタリだな」

 

相手に毒を植え付けつつも当人は力を温存しながら脚を溜める、そして一気に解放した所で相手は真の実力を発揮出来なくする。スペックがある奴が取る戦法ではない、ゲーム的に言えばステータスも高く修得している技も強いのに確りとデバフを撒きつつも自己強化をする敵キャラ。そう表現するとタイシンはうげぇ……と嫌な顔をするが、ゲーマーの性なのか、自分ならどうやって攻略するかと考え始めた。

 

「それじゃあネイチャのは?」

「あっちは一気に距離を離して相手の焦りから自発的にペースを乱させる方向性だな、これはこれで厄介だ。冷静さを保たないとスタミナを一気に削りに掛かるし、そうでなくてもスパートのタイミングを間違えるとアウトだ」

 

無意識的と意識的では相手へのダメージはかなり違う。前者の場合は技術がいるが、決まった場合には爆発的な効果がある。後者は体力で相手に依存する形になるが、それでも決まりやすい上にそのまま逃げ切りやすい。

 

「仮にランページとネイチャが一緒に出るレースとか考えたくねぇな……前と後ろからペースがぐっちゃぐちゃにされるんだからな」

「アタシはやってみたいけど」

「そりゃお前はな暢気ウマ娘」

「何よ変態マッサージ師」

「そ、それを言うな……!!コメントでも相当弄られたんだからな俺……」

 

といつものシービーと沖野の寸劇のような事が始まるのだが、マックイーンとテイオーはかなり真剣な表情を作っていた。マックイーンはランページを、テイオーはネイチャを強く意識した。今まで意識していなかったという訳ではない、だが信用を置くトレーナーが此処まで言う相手であるという事を改めて認識し、いざ戦う時の事を考えずにはいられなくなった。

 

「トレーナー!!」「トレーナーさん!!」

「お、応何だ二人とも」

「僕練習する!!!もっともっと練習してツインターボだけじゃなくてネイチャにも負けないようになるから!!」

「私も同じメジロ家として負けていられませんわ!!天皇賞(秋)には確実に出て来る筈ですもの、今からしっかりと鍛え始めないと間に合いませんわ!!」

 

それを聞いた沖野は笑みを作ってしまった、図らずも二人にいい刺激を与える事が出来た。二人はこれで更に伸びるだろう、この点に限っては二人に感謝しなければ……が、そんな時、タイシンに脛を蹴られた。

 

「ってぇ!!?なんで蹴るんだよ!!」

「練習するって言ってんの、着替えるんだからさっさと出てけって意味だよ!!」

「鈍いなぁ……南坂トレーナーと大違い」

「いやあいつと一緒にすんなってだから蹴るなっていったぁ!!?」

 

 

「ウェ~イ!!ランってばキマってんね~!!」

「ヘリちゃんこそテンアゲ決まってんな~」

「そりゃそうっしょ!!」

「アタシ達がゲストっていうのはちょっと緊張するけど、精一杯頑張るから」

「それじゃあ元気よく―――」

「「「ウェ~イ配信やってこ~!!」」」




ロングスパートネイチャ。スキルではなく走り自体でデバフを与える事が出来る。
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