貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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105話

『悪いな、俺にとって今は興味がねぇんだ』

 

通話を切りながら、南坂へと携帯を返す。彼は分かっていたがここまでハッキリと言ってしまうのかといわんばかりの苦笑いを浮かべていた。

 

「やっぱり、そうしますよね」

「当然だろ南ちゃん、こんな高ぶるレースなんて他にねぇよ。このレースを走る為に10億払えって言われたら―――俺は迷わず払う」

 

そう断言させるほどの魅力が、このレースには秘められている。恐らくこの言葉も例えなどではなく本気の産物、むしろ彼女からしたら持て余しているものだから財布が軽くなって気軽にカバンに入れられるようになった程度の認識なのだろう。

 

「そうですね、まだ札幌にも行ってませんもんね」

「あれっ味噌ラーメンは先週食わなかったっけ?」

「そこで魚介類が出ない辺りが本当に貴方らしいと私は思いますよ」

 

こういう辺りは本当に庶民的だ。この前だってフレンチを食べに行ったが、他の皆が絶賛する中でランページだけが満足していないというか味の奥深さが理解出来ていなさそうな顔をしていた。帰り道でターボが見つけた屋台の石焼き芋が一番美味しそうに食べていた。

 

「父さんはとんかつがいつでも食える位が一番ちょうどいいって言ってた気がする……偶に食べる高いものより、伸ばそうと思えば常に手が届くラインのものが一番だと俺は思う。主にもやしとはんぺん、あと豆苗は俺の味方」

「……今日、晩御飯奢りますよ」

「マジ?それじゃあ……ラーメン大盛り半チャーハン付きで」

「チャーシュー麵特盛トッピングマシマシに餃子も付けて行きましょう」

「うおっしゃあやる気出てきたぁ!!URAに表彰されるなんかよりもずっとご褒美だぁ!!」

 

URAは金額にして2000円程度のものに負けるのか。トレーナーである南坂は何とも言えない気持ちになった。ランページがこれまで走ってきたレース、特にG1レースなんて優勝賞金なんて途轍もない金額でそれこそ一般人が一生懸命に働いても手に出来ない程の額なのに……それを手にする彼女が一番望むのは一般家庭の幸せその物なのだから。

 

「ッシャア!!やる気わいてきたぁ!!」

「それ、ライアンさんとアイネスさん、フローラさん辺りが聞いたら怒りませんかね?」

「フローラは知らないけどあの二人はこんな事で怒ったりしませんよ。それに―――俺は、やる時はやる奴だぜ南ちゃん」

 

その時、瞬時に雰囲気が変わった。先程まで楽しげな談笑をしていた姿は掻き消えて、闘志を纏い始めた。先程までラーメンでテンションを爆上げしていたとは思えないほどの変わりよう。

 

「さてと―――楽しんでくるぜ南ちゃん」

「はい、いってらっしゃいませ」

 

控室から飛び出して行くランページを見送りながら、もう一度鳴った携帯を見ると南坂はそれを取った―――

 

 

『満開の桜と澄み切った青空が集った、地下バ道から次々と姿を見せるウマ娘達を祝福しているかのようです』

 

G1レース、大阪杯。桜色の染まった阪神レース場の春景色、今日、此処に集った観客の数―――20万以上。去年の日本ダービーを越える程の人が阪神の舞台へと駆けつけ入場制限までなされたほど。あのダービーを越える程の人が集まった理由は単純……今日、此処に集っているウマ娘の面子が関係している。

 

『さあ此処で登場したのは4番人気のアイネスフウジン!!あのダービーのような凄まじい逃げを今日も発揮するのかぁ!!?』

「わぁ~凄い人なの、頑張るから応援してほしいの~!!」

『おっと此処で登場するのはアイネスフウジンと伝説的な激戦を繰り広げた三冠ウマ娘、メジロライアンだぁ!!本日2番人気です!!』

「どうも~アイネス、アタシ達凄い人気だね」

「ホントなの!」

 

二人のダービーの競い合いは最早語り草、その二人の登場にレース場のボルテージは一気に過熱されていく。そう、この大観衆たちはこれを見に来たのだ、彼女たちが走るのを見に来たんだと言わんばかりの大喝采だった。そんな喝采に続いたウマ娘にも歓声が沸く。

 

『次に現れました、そう彼女のある所にこのウマ娘はいる!!今日こそは勝つ、G1を取る!!3番人気、アグネスフローラ!!!』

 

「今日こそは、必ず……!!!」

 

打倒メジロランページの大将格とされるフローラ、此処まで数多くの戦いを繰り広げて来たが届かずに敗戦を重ねて来た。それを力に変えて全てを引っ繰り返す。そんな凄味を纏いながらも堂々と登場した彼女にも歓声が飛ぶ。しかしフローラはそれに反応しない、何故ならばそれが自分の物ではないと直ぐに分かったからだ、少しずつ聞こえて来る蹄鉄の音に息が呑まれる、そうだ、まだ姿を見せていない最後のウマ娘がやって来る……!!

 

『此処まで16戦、その悉くを制して来ました。無敗のトリプルティアラは不敗神話のエンブレム、ジャパンカップではワールドレコード、前走のフェブラリーステークスを制覇した事で手にした冠は7つ。それによって証明されたのは皇帝を越えた真の王者!!メジロランページ!!堂々の1番人気です!!』

 

ランページの登場にレース場が一気にヒートアップする。そうだ、彼女達がランページと走る姿を見に来たのだ。中距離において最高と言っても過言ではないメンバーが揃っているこの場、どんなレースになってしまうのか。

 

『フェブラリーステークスを制した事でメジロランページはイナリワンに続く二人目の芝ダートG1制覇を成し遂げました、ですが中央に限定すれば彼女が史上初。正しく王者と呼ぶに相応しい戦績です。そんな彼女を迎え撃つのは三冠ウマ娘メジロライアン、アイネスフウジン、アグネスフローラ。中距離というステージの最強決定戦と言っても過言ではない大阪春の陣、この戦を制するのは一体誰なのか!!』

 

2000mという舞台、ランページ、ライアン、アイネス、フローラの全員が間違いなく全力を出し切る事が出来るレース。正しく中距離オールスター。誰が勝つという事を考えられない、一体勝つのは誰なんだという言葉しか浮かんでこない。

 

「今日程楽しみになった日はねぇよ。何せ―――最高の面子が揃ってやがる」

 

周囲を見回した。口角を持ち上げたライアン、笑顔のアイネス、そして自分を倒すという気迫に満ちているフローラ。全く以て最高の状態だ。

 

「ランちゃん、今日は宜しくなの」

「応よ、そう言えば初めてだな走るの。ライアン共々宜しく頼むぜ」

「クラシックで走れなかったもんね、でも今日は勝つからね。私だって三冠ウマ娘なんだから」

「んな事言われたら俺だって負けられねぇよ」

 

ゲートへと向かう最中、アイネスとライアンに挨拶をする。クラシック路線だったが故に交わらなかった線が一つになったシニアクラスでの激突。本当に楽しみにしていた日が来た事に感謝する。そして……今日という日を待ちわびていたのはもう一人いる。

 

「ランページさん、今日こそ私は貴方を倒して見せる……今日こそ必ず……絶対に!!!」

「楽しみだな―――そうでなきゃこのレースに出る決意をした意味がなくなるからな」

 

その背中をフローラは睨みつけるように見つめた、彼女の標的は正しくただ一人―――ランページだけだ。

 

『時代を彩る名勝負の数々、そこに新たな歴史が刻まれます。此処に集った私達の想いが、夢が、間もなく駆け出そうとしています。さあ今ゲートインが……完了しました。G1競走大阪杯、今―――スタートしました!!』

 

 




『何度もかけて貰って申し訳ありませんが、今年いっぱいは海外に向けてに専念させます。来年期待しててください』
『ムゥッ……何とかならぬだろうか……?』
『心配なさらずとも……彼女は逃げませんよ』

極めて流暢で淀みの無い英語で会話をし始める。

『大丈夫、私の担当ですよ』
『……分かった、では来年に会える事を期待しているよ』
『ええ、私もです。それでは失礼します―――大統領』
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