大阪杯の優勝、それによってランページが手にした冠は八つ。ルドルフが築き上げた通算G1勝利数を上回った事になる。それによって独裁者という称号が王者というモノに変化していった、当人的には何かありきたりになったな……と思いつつもレース後にアイネスがバイトしている店でラーメンを啜っていた。
「ア、アイネスちゃん……うちの店に……」
「店長落ち着いて欲しいの、ランちゃんは一個人としてご飯を食べに来てるだけなの」
「無茶言わんといてぇ……」
「あっ餃子お代わりお願いしま~す」
「いよぉ喜んでぇ!!」
「なんか歌舞伎みたいだったの」
当人こそは暢気を極めているような状態だが、今回の勝利でG1を8勝した彼女に対しての評価は確固たるものと言ってもいい。唯の勝利ではなく、同じ三冠であるライアン、アイネス、そしてフローラという相手がいる状態でレコードタイムで優勝を勝ち取ったのだから。これを取るまではルドルフを引き合いに出して下げるような記事もあったが此処までなってしまったらそんな記事は出せなくなる。
「あ~……疲れてますわぁ~……俺」
部室でぐったりとしているランページ、激闘だった大阪杯。体感的にはジャパンカップ以上に色んな物を出し尽くした感がある。その影響かライアンは療養所に入ってゆっくり休養をしているのだがランページは普通にトレセン学園に姿を見せていた。
「ランページさん、今からでも療養所に行った方がいいのでは……?」
「いやさぁ……俺もそうしたいけど理事長との約束あっからなぁ……」
暦は4月。新たな出会いの季節となった、そんな時に行われるのは入学式。今年も新しいウマ娘達が夢を携えながらこのトレセン学園へとやって来ていた。
「入学式後のイベントで生配信やってくれって言われてっから……」
「理事長は疲れているなら療養してからでも良いと言ってませんでしたっけ……?」
「そこはもう俺の意地だな、なんか負けた気がするから」
「そんな事で態々身体を酷使しなくても……」
と言ってもあくまで気疲れを起こしているだけで、身体はある程度回復しているので配信をするのに問題はない。それに多分療養所に居たとしてもライアンを巻き込んで配信をしていただろうし。まあ療養所でやったら最悪の場合お婆様が乱入する可能性があるが……。
「俺なんかよりターボ見てやれよ、あいつも桜花賞が直ぐだろ」
ターボの桜花賞も間近、そしてその次はネイチャの皐月賞が控えているのだから今年度は開始早々大忙しである。
「ほれ、俺は良いからはよターボのとこ行ってこいよ」
「……仕方がありませんね、無理だけはいけませんよ?」
「しても良いけどしたら南ちゃんの笑顔が怖えからな、しねぇよ」
漸く去っていくトレーナーにランページは大きなため息を吐いた。正直な事を言うと身体が重くはあるがそこは意地だ。今年も今年で史実では名馬と名高いウマ娘達が入って来る。そんな彼女たちを一目見ずして何がウマ娘ファンか、と現ウマ娘が言う。そんな時に携帯が鳴った。
「はいもしもし此方特殊状況下事件捜査課の横山です」
『驚愕!!?申し訳ない、連絡先を間違えたようだ!!』
「あっ理事長ですか、多分合ってます」
『なんの悪戯だこれは!?』*1
掛けてきたのは理事長だった。揶揄うのはこの辺りにしておくとして、本題に入るとしよう。
「ンで何の用っすか?」
『うむ!!以前から話していた撮影ドローンが先程届いたのでその連絡だ!!』
「おおっマジっすか?」
『これも先進科学研究所にお願いしたおかげだな!!無論、君の投資のお陰もあるが』
トレセン学園を紹介していく事が配信の趣旨、その為に理事長はカメラを搭載したドローンを用意しよう!!と言い出していた、最初こそ何を言っているんだと思ったのだが……スマホロトム的なドローンが出来たら撮影にもメリハリが付けられて良いなぁと思ったのでそれに乗っかって理事長と一緒に投資を行った。
『流石に今日の配信には使えないが、次の配信までには使えるように整えておく。その為にも―――今日の配信は盛り上げてくれたまえ!!』
「あいよ、任せといて」
ランページはお祭りごとは好きなのである。祭りを盛り上げる側も、裏方に努めるのも、それらを享受する側も全てが好きなのである。
「だからって此処までするかぁ……?」
配信予定の場所に向かったランページを待ち受けていたのは組み上げられた特設ステージ、態々配信の為に此処までやるか……と思ったのだが、このステージはウイニングライブの練習の舞台としても再利用するらしい、というかたづなさんがそういう条件でゴーサインを出したとの事。流石の手腕である。
「カメラもひいふうみい……8台、しかもTVとかの特番ステージとかで使うガチな奴だし……相変わらずこういう事には本当に全力投球なんだから」
此処まで金を掛けた配信もそうは見られないだろう、他のVtuberとかが聞いたら呆れそうな話だ。まあ兎に角盛り上がりそうなのは間違いないと思っていると、背後から声を掛けられた。
「あ~やっぱり!!マーベラスの気配を感じて来てみたら凄いマーベラース☆」
「ホントホント!マベちんって凄~い!!つまり―――」
「「マーベラース!!」」
元気な声を張り上げながらも笑顔で此方を見てくる二人のウマ娘、それにランページは当然ながら知っている。一方はレジェンド
「これはこれは、可愛らしいお客さんが来たもんだ。見た感じ……新入生か」
「うん!!マヤはマヤノトップガンっていうの!!」
「マーベラスサンデー!!マーベラスの気配を感じてみたらランページさんと会えるなんてとっても素敵、それってつまり―――」
「「マーベラス!!」」
二人揃ってマーベラス、と言える辺り本当に仲がいい事が伺える。
「ねえねえ!!此処で何するの?」
「ああ、俺が配信やってるの知ってるかな?」
「勿論知ってるよ!!マヤね、カッコいいランページさんの放送いつも見てるの!」
「そりゃ嬉しいな、今日は新入生の皆の歓迎を含めて生配信をこれからやるんだよ」
「そうなの!?それじゃあ今の内に来れて凄いラッキーだねマベちん!!」
「それってつまり」
「「「マーベラス!!」」」
ちゃっかり混ざるランページ、嫌がられると思ったのが一緒に行って貰えたのが嬉しいのか二人はキャッキャッと喜んでくれた。そんな遊びをやっているともう二人のウマ娘が迫って来た。
「二人とも~如何したの~?」
「先生が驚いていたよ、突然いなくなる、だからって……そ、そこのお方は……!?」
そうか、この二人も同世代になるのかと思いながらもランページは此方を見て驚いている二人を見た。JRA史上最大のG1勝ち馬として名を馳せたヒシアケボノ、もう一人は屈腱炎によって底を見せぬまま引退し幻の三冠馬とまで呼ばれ、種牡馬として大活躍をしたフジキセキ。
「あっメジロランページさん!?この前の大阪杯はマヤちゃんとマベちゃんと一緒に見に行きました!ヒシアケボノです!!」
「おっそうなのか、いやぁ嬉しいじゃねえか」
「あれ、フジさんどうしたの?」
「あっいえ、エット、その……」
マヤが顔を覗き込む、それ程される程にフジキセキは狼狽えているように見えた。フジキセキとしてはウマ娘ではエンターテイナーで寮長を務めていて憧れやら色んな感情を向けられていたウマ娘な筈だが……。
「如何しちゃったの?ランページさんにサインお願いしたいなぁって言ってなかったっけ?」
「ボ、ボノ……!!」
「お顔真っ赤、緊張しちゃってる☆」
「ちょ、ちょっと……!!」
本当に顔を赤くしている、それを見てランページはある事が思い当たった。だが、これが当たっていて欲しいような欲しくないような複雑な気分になっていると……マヤが大きな声を上げた。
「マヤ、分かっちゃった☆フジさんはランページさんに憧れてるんだね、だからこうして会えちゃったから緊張してドキドキいっぱいでスプラッシュ!!しちゃったんだね!!」
「マ、マヤ……そういう事を先輩の前で言わないでくれぇ……」
如何やら正解だったらしい。もしかしてこの世界だとフジが何処か男性的で王子様ムーブは自分が元凶だったりするのだろうか……ああその時はそれで責任は取っておこう。
「フフッそう言って貰えると照れちまうが、何時までも顔を伏せてると美人が廃るぜお嬢さん。これから俺の配信があるんだ、楽しんでいってくれよな」
「はっ……はいぃぃ……」
「後でサインとかもちゃんと受けるぜ、まあまずは配信を楽しんでくれ。ユーコピー?」
「アイ・コピー!!ランページさんも分かっちゃうんだ!!」
「この位簡単だぜ?」
「それってとっても」
「「「「マーベラス!」」」」
今度はボノまで混ざったマーベラス、そんな事をしていると配信の時間が迫ってきているのが続々と人が集まって来た。折角なので4人を最前列に招待してランページはステージに上がるのであった。
「それじゃあ皆行くぞ~!!おはこんハロチャオ~!!」
『おはこんハロチャオ~♪』
「う~ん良い声だ、それじゃあもう一回!!おはこんハロチャオ!!」
『おはこんハロチャオ!!』
「よ~し良いぞ―――貴方の記憶にワールドレコード、独裁暴君、無敗のティアラ、Running time トリックじゃない、走りを披露半端ねえぜ、なランページだぜい!!皆の者~善行積んでたか~?今日はなんとトレセン学園内の特設ステージからの生放送!!新入生たちの前で公開生配信だ~!!」