貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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116話

「「……御馳走様でした」」

「25分の休憩、その後に再開、良いな」

 

そう告げて部屋の隅にある椅子に腰掛けながら食後のお茶を楽しむ監視役のウマ娘。元ばんえい競技のウマ娘というのもあるせいか身長は2mを越えている上に筋骨隆々、通常のウマ娘の数倍のパワーを誇っている。そんな彼女の言葉に逆らう気も無く、今は身体を休める事に専念する。

 

「ハァッ……何時まで、こんな事を続ければ良いのかしらね」

「完済が終わるまでだ、何度言わせるんだお前は」

「分かってるのよそんな事はぁ!!」

 

このやり取りも好い加減に飽きて来た。愛妻と思ってはいるが、同じ問答を繰り返し続けていれば感情というモノは新鮮さを失って腐り出していく。自分は、もうここでのことを受け入れているのにも拘らず、明衣は未だに自らの行いを悔いる事はない。

 

「くそっこれも全部あの子のせいよ!遺産の返還ぅ!?引き取ってやらなきゃ施設行きだった事も分からないくせに!!」

 

喚き散らしながらも壁を蹴る、あれで弁償になって自分達の借金が増えなければいいのだが……と思うあたり、自分は既にこの女を見限っているのかもしれない。極めて都合がいいかもしれないと自分を冷えた目で見る。

 

『さあ間もなくゲートインが完了します、ヴィクトリアマイルを制するのはメジロランページか、それともアグネスフローラか!?大注目のG1、ヴィクトリアマイルが今―――スタートしました!!』

「消しなさいよ!!」

「リモコンある訳ないだろ、其方にお願いしてみろ。如何です?」

「却下だ、私が見ている」

「だとさ」

 

TVの変更権は先にリモコンを確保していた彼女にある、かと言って逆らえないので苛立ちを募らせたまま席に着き直す。ブツブツと文句を言っているが、シンプルに耳障りだから止めて欲しいと思いながらもレースを見つめる。

 

『メジロランページ、今回は抑えているのかバ群の中団近くの4番手。先頭を行くのはアグネスフローラ!!さあ今日こそG1勝利となるか!!』

『逃げウマ娘が多いので必然的に囲まれた形ですね、しかし普段よりもずっと抑えていますね』

 

「そのまま、そのまま負けちゃいなさいよランページ!!」

 

明衣は興奮してフローラの勝ちを確信しているが、自分はそうは思えない。此処で働かせられてからずっとほぼ強制的にランページのレースを見せられているが、これまでの走りに比べて明らかに抑えている。ペースをコントロールするのではなく唯脚を溜めているように見える。

 

「うるせぇ」

「黙ってなさいよ!!」

「そりゃお前だ、監視さんの鞭が怖くないお前は間抜けなのか痴呆なのか」

「ヒェッ……!!」

 

相手はばんえいウマ娘だ、小山のあるダートコースを最低クラスでも1トンにもなる程のソリを引いて走る。当然彼女もそれが出来る、というか荷物をフォークリフトなどを使わずに運んでいる。当然そんな力でびんたされただけでも悶絶ものだ。そんな明衣を無視するように視線をTVへと移す。そしてラストの直線―――まだまだランページは4番手、今度こそフローラのチャンスかと思われた瞬間にランページはバ群から抜け出すとそのまま凄まじい加速をしながら一気にフローラへと迫った。

 

『メジロランページ、メジロランページがバ群を割って一気に抜け出した!!あっという間に先頭に立つ!!アグネスフローラも意地を見せるがどんどん距離が離されていく!!!二着争いが激化し始めた!!メジロランページ先頭!強い、強い!!圧勝、メジロランページ圧勝!!二着のアグネスフローラに6バ身差を付けてのヴィクトリアマイル優勝!!無敗神話は絶える事はない!!これで、ティアラ路線を完全に制覇したぞメジロランページぃぃい!!!』

 

「ぅぅぅぅっ~!!!!」

 

監視の目で大っぴらに騒げないので必死に歯を食いしばって我慢している姿が酷く滑稽に映った。一先ず、満足出来た。

 

「作業、再開します」

「まだ時間はある」

「いえ、させてください」

「―――少し待て」

 

確認を取る為に一旦外へと出る、それを見つつも明衣は自分を睨みつけて来る。

 

「アンタは何にも思わない訳!!?あの子が、ランページがアタシ達を此処に!!」

「そうするようにしてしまったのは俺達の責任だろ。良いもんだろ、借金取りに追われる訳でもなければ安定して稼げて衣食住もある」

「こんな奴隷みたいな生活が良いですって!?」

 

奴隷のようだとは言うが、監視の目があるだけで確りとした会社、メジロ所有の建設会社の工場で働かせて貰えている。ある程度の制限こそあるが、寧ろ自分達のした事を考えれば優しすぎるとも思える。敢えて考えられる余裕を作っているのだろう。

 

「見解の相違だな……俺はもう、あいつには関わらない」

「ハッ?」

 

信じられないと言いたげな瞳を作るが、自分にはその意志はない。

 

「何言ってんのよ!!アンタ、今度こそって言ってたじゃない!!」

「じゃあ聞くが、何を如何するつもりなんだ。あの子は既に今を生きるレジェンドにもなってしまったウマ娘だ、それに何をしても無駄だろ。どうせもみ消されて逆に此方が痛手を負うだけ」

「ふざけんじゃないわよ!!アンタが、アンタが遺産を持ち逃げするって言いだしたんじゃない!!」

「だからだよ、だからもう関わらないと決めたんだよ」

 

胸倉を掴まれ、ビンタを受けて床に叩き伏せられる。だがその時に監視が戻ってきて即座に明衣が床に組み伏せられる。

 

「おい、怪我は」

「大丈夫です」

「そうか、作業再開の許可は出たが痛むようなら医務室へ行け」

「分かりました」

「ちょっちょっとあなた、助けなさいよ、ねぇ!!」

 

頭を下げて、一人休憩所を出て作業へと向かう。反省した、というよりも自分は叩きのめされたという方が正しい。だからこの罰を受け入れる事にした。罰を全うしたら明衣とも別れて何処かあの子と関わり合いにならないような所で細々と暮らしたいと思うようになり始めた。自分達が捨てた者の大きさに気付き、自分の愚かを悔いて、絶望し続けた末に辿り着いたのが受容。

 

「作業再開します」

「ああ。姪っ子さん、これでG1を9勝だってな」

「凄い物です……それでは」

 

班長の許可を得て仕事に戻る、未だに後悔と絶望は消えないが……自分はそれを受け入れて生きて行く道を選ぶ。謝罪なんてきっとあの子も望まないだろう、だから……自分は今を生きる。

 

 

「う~ん……やっぱターボって天才だわ」

「如何しました急に」

 

控室に戻ったランページ。ヴィクトリアマイルを制したというのにその顔は余り優れない。

 

「いやさ、今回幻惑逃げが失敗して囲まれたわけじゃん。んでラストに久しぶりにクロスオーバーステップを使って抜け出しつつもターボのドッカンターボ真似してみたんだけど……全然キレが無いわ俺、やっぱあれはターボだからこそ出来る技だ」

 

幻惑逃げを仕掛けようとしたのだが、それをフローラが真っ先に見抜いて自分を追い抜いていったのを見て、他のウマ娘にもそれがバレたのか一気にペースアップをされてバ群に呑まれた。しかしランページは慌てる事も無く、バ群から脱出しながらも猛スパートを掛けて勝利をもぎ取ったのだが……。

 

「ぶっつけ本番ってのもあったけどさ、やっぱ俺向きの技術ではないわ」

「しかしフローラさんに見抜かれたお陰で新しい課題に取り組めますね」

「ああ、色々な状況を考えておかないと海外じゃ通用しないだろうしな。フェブラリーステークスでも似たような事あったしな……状況によっては後方待機も必要になるって勉強になったよ」

 

大逃げではなく、他の戦法も学ぶべきだと再認識させられた。これからに活かす有意義なレースとなった。

 

「さて、次はネイチャで次はターボ、そしてイクノ……んでライスにタンホイザ。いやぁカノープス大忙しだな」

「全くですね。ランページさんもお手伝いお願いしますね」

「任せとけよ、英語とかそっちならお任せだ」

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