無敗を誇るメジロランページ、無敗神話を更新し続ける彼女にとってトリプルティアラは神話を飾り付けて自分の戦果を見せ付けるエンブレムの一つと化した。芝とダートの二刀流、何方かに専念する筈なのに彼女は次走を帝王賞だと断言しどちらの道も突き進むつもりでいる。これには宝塚記念には出走しないのかという質問もヴィクトリアマイルでのインタビューでは聞かれた。
「考えなかった訳ではなかったんだけどなぁ……でも二刀流を掲げている以上ダートのG1を逃す訳には行かないしな。ダート、そっちも走りたいんだよな」
彼女にあるのは純粋なレースを駆けたいという思い。そしてそれが今はダートにも向けられている、加えて言うならば以前共に走ったウマ娘から再戦の申し込みも来ているのでそれを受けたいという。
「楽しいぜダート、俺的にはもっとダートレース増やして欲しい所だ」
「そこまで、走りたいのですか?」
「ああ。刺激的だったからよ、アンタは行った事あるかいダート?」
「い、いえその、恥ずかしながら……」
「それなら一回行ってみな、芝にはない熱さと迫力がある」
彼女は、私の狭い見聞を笑う事も蔑む事も無く笑顔でダートレースを見て欲しいと行って来た。それまでの私はダートには芝程の魅力を感じる事が出来なかった、だがしかし―――それはもう古い偏見にしか過ぎないのだと思い知らされる。
「彼女は、日本の古い考えすら塗り替えようとしている」
「真ッドッカン、ターボォ!!」
ターフを疾走するターボを見つめるランページ。ターボは間もなくオークスを控えている、それに勝つためには真ドッカンターボの精度を徹底的に磨くしかない。スタミナ自体は付いて来ているが如何せん溜め方が下手くそだ、オークスの距離ならば溜める事は出来るだろうが……溜まるのが遅すぎても行けないし速過ぎても行けない。最高のタイミングで発動してこそドッカンが最高に嵌る。
「おいターボ、そんな位置でターボ出しちまったらラストでへばって捕まるぞ!」
「だって溜まっちゃったんだもん~!!」
「だからその溜め方を考えろっつってんの!!秋山さんのドッカンと違って、お前自身が秋山さんであり86だって事を忘れんな!!」
「ターボが秋山の兄ちゃんでターボが86で……あれれ?」
「あ~もういいから水分補給行ってこい」
「は~い!!」
元気よく駆け出して行くターボ。溜まる時はすんなり溜まり、溜まらない時はとことん溜まらないのが現状のドッカンターボ。あらゆるものに影響されて溜まりが変化する、そしてターボはその最高のタイミング、溜まり切った瞬間という最高のチャージでドッカンを開放してしまう。余りにも調子が良すぎると速過ぎるタイミングで開放してしまう。
「如何ですかターボさん」
「あ~溜まり自体は速くなって来てるんだけど……あいつ我慢を知らないから、溜まったらすぐに開放しちゃうんだよ……参ったもんだ」
「思わぬ落とし穴、ですか……」
「ああ。如何するもんか……」
南坂に現状を報告しつつも悩む。必殺技を修得したのはいいが、それが弱点になってしまった。これはそう簡単には補えない。
「ターボは理論じゃなくて感覚派だからな、イクノみたいに考えて管理するって事が出来ないから兎に角溜め方を練習するしかないと思ったんだが……それが災いして早く溜まり過ぎるようになっちゃった……」
「あららら……」
南坂としてもそれは予想外だった。と言っても自分はドッカンターボの事はサッパリなので、その事を知っているランページにその辺りに付き合って貰ったのだが……マイルならばまだいい、だがオークスは中距離な上に2400m。そんなレースで早めにドッカンしてしまえばあっさり捕まえられてしまう。
「ぁぁぁっ~如何すりゃいいんだぁ……」
「早く溜まり過ぎてしまう、ですか……良いじゃないですか」
「へっ?」
「それはそれで唯一無二の長所ですよ」
早い段階でトップスピードに移行して多少なりともスピードは落ちるだろうが一定のスピードを維持する。それは逃げの勝利パターンの一つでもある。
「まあそうかもしれないけどよ……」
「早いサイクルで溜まるターボ……それだったらこういう作戦もあるんですよ」
「何、耳打ち?」
指でサインを出されて耳を差し出すと小声でとある作戦を伝える。それを聞いたランページは思わず本気かよ……といわんばかりの顔を作った。
「おいおい、ターボにそれが出来るのか……?」
「速い段階で溜まってしまうのならば可能ですね、ターボさんのスタミナならば2400はギリギリ許容範囲内でしょう」
「何々何の話~?」
両手にスポーツドリンクを持って飲んでいるターボ、本当にそんな作戦が出来るのだろうかと極めて不安になって来た。
「ターボさん、ランページさんとの特訓で溜め方が分かって来たそうですね」
「うん!!今なら短距離でも出せるよ!!」
「出せちゃうだろそれを言うなら」
「あぅっ……」
「それで行きましょう」
「「へっ?」」
思わずターボとランページの言葉が重なってしまった。一体どういうことなのかと思っていると、南坂は電話を取り出すと何処かに掛け始めた。それに二人は顔を見合わせてしまう、そして少しだけ待って欲しいと言われたので待っていると……
「お待たせしました~!!」
「ま、待ってください~」
「来ましたね」
南坂が電話で呼んだというのは二人のウマ娘だった。だがその二人に思わずランページは驚いてしまった。
「トレーナーさんに言われて参りました!!宜しくお願い致します!!」
「お、お力になれば良いのですが……」
「いえいえ、此方こそよろしくお願いいたします、ターボさんにランページさんご紹介しますね。これからご協力いただくサクラバクシンオーさんとニシノフラワーさんです」
サクラバクシンオー。国内最強スプリンター議論において真っ先にその名を挙げられる程の短距離最強馬、史実ではこのバクシンオーの大暴れによって短距離戦線が大急ぎで整備されたという話もあり、本当に勝つべき戦いが残ってなかった為に引退してしまった競走馬なのである。
ニシノフラワー。小柄な馬体ながら、阪神3歳牝馬ステークス、桜花賞を制するなどした立派なG1ホース。そして同期であり最強スプリンターとして名を馳せたバクシンオーを1200という得意な距離で打ち破った唯一の馬であり、その走りから天才少女や韋駄天娘とも呼ばれた。
「おおっ!!そちらはメジロランページさんですね!!ご活躍はお伺いしております、是非一度ご一緒に走ってみたいと思っておりました!!」
「あ、あの……サイン頂けませんか……?」
「ああそりゃいいけど……南ちゃん、二人はスプリンターだろ。それなのに何で二人を?」
「ええ、ターボさん」
「何?」
南坂はまさかすぎる事を言った。
「これからバクシンオーさんとニシノフラワーさんと2400mを走っていただきます」
「おおっ!!望む所です!!」
バクシンオーはやる気十分だが、フラワーは大慌てで南坂に詰め寄った。
「ま、待ってください!わ、私はその短距離なので2400なんて距離は……」
「大丈夫ですよ、2400を走って貰う訳ではありませんから」
「どゆことよ南ちゃん」
「つまり―――2400mを分割した1200ずつをお二人に走っていただくリレー形式でターボさんと走っていただくんですよ」
その考えに思わずランページも驚きの表情を浮かべた。1200は確かに短距離の領分だしそれなら二人合わせてオークスの距離を走り切る事は出来るだろう。だが一体何の目的で……。
「おおっ確かにそれならば2400を走れますね!!フラワーさんやりましょう、二人で2400mを驀進しましょう!!」
「それなら何とか……」
「なんか楽しみ~!!」
「南ちゃん、マジでできるのかターボに」
「直ぐに、分かりますよ」