貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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118話

「にしても……本当に上手くいくのかねぇ……」

 

東京レース場のパドックを見つめながらもそんな言葉が出た。いよいよオークスだというのに前年覇者の表情は優れない。今年もカノープスからはティアラ路線の挑戦者としてターボがオークスに出走するのだが……この日の為のメニューを本当に出せるのかは不安が付き纏う。

 

「ターボさんは精一杯やっていましたし、何とかなるのではないでしょうか」

「本番と練習じゃ訳が違う、色んな意味でな」

「お姉様、ターボさん勝てないって思ってるの?」

「そういう訳じゃない、成果を出せば勝てる、勝てるが……そこまで行けるか、だな」

 

「あっいたいた」

 

そんな声に耳が反応して振り返るとそこには待っていた人が居た。手を差し出すと力強く握り込んでくれる。

 

「待ってたぜ秋山さん」

「此方こそお待たせしちまって、今日は態々招待して貰って有難う御座います」

「何、ターボの恩人を招待しない訳には行かねぇだろ?」

 

そう、ドッカンターボの立役者である秋山。オークスの応援にも来てくれるというので自分の名前で招待したのである。今回は秋山だけではなくその妹さんも一緒である。

 

「お久しぶりランページさん」

「よぉ和美さん、お目当ては他のウマ娘だったりするかい?」

「貴方のサイン目的って言ったら怒られるかな」

「構いやしねぇよ、転売だけは勘弁してほしいけどな」

「しないわよそんなこと~」

 

秋山の妹である和美、ターボを連れて行った際に仲良くなってターボも懐いている。そんな二人をカノープスの皆に紹介しているといよいよ1番人気のウマ娘のパドック入場が始まった。

 

『8枠18番、ツインターボ。1番人気です!!』

「ターボ登場~!!皆やっほ~!!」

 

元気いっぱいに飛び跳ねるようにして登場するターボ、今日に向けての調整は万全。メニューもこなしたしスタミナの強化メニューにも真面目に取り込んでいた。故に今日のターボは絶好調。

 

「あっ秋山の兄ちゃんに和美姉ちゃん!!」

「応援に来たぜターボさん、頑張れよ!!」

「ターボさん、二冠取ってね!!」

「まっかせろ~!!」

 

笑顔のVサインは勝利の証、と言わんばかりの雰囲気を纏いながらも引っ込んでいくターボ。カノープスの面々もこれならば勝てるだろうと思うのだが……実際の所は如何なのかと秋山は尋ねる。

 

「それで、ターボさんの調子は如何なんです?」

「まあ最高だな。肉体もだが二人が応援に来るって事で精神面が充実してるよ」

「それじゃあ勝てますね!!」

「だと良いんだがな……今回のオークスに出走するのは20人。桜花賞よりもずっと多いんだ」

 

それを聞くと二人は思わず喉を鳴らした。20人……此処までの大人数のレースは中々みられない。流石はG1、ティアラの二戦目であるオークスだ。

 

「此処までの人数ですとベストポジションの奪い合いや競り合いが激しさを増すでしょうね」

「だろうね、後ろに行けば行くだけ辛くなっちゃうだろうしコース取りがカギだね」

 

秋山と和美はレース選手であるウマ娘から話を聞くと矢張り印象も変わって来るなと思う。和美は兄に付いて行って走り屋のダウンヒルなどを見に行ったりもしたが、その時に似ている緊迫した空気を感じる。

 

「こういう時はターボの逃げは助かるな、揉まれずに済む」

「最初に飛び出しちゃえばいいんもんね」

「後は先輩のターボさえ決まれば勝てるよ!!」

「う、うん。ターボさん一杯練習してたもんね」

 

それを聞いて口元を緩ませてしまった、自分の86に乗せて峠を攻めて生まれたドッカンターボ。それを本当に切り札にして練習してくれているというのが嬉しくてしょうがない。

 

「さて、如何なる事やら……見物だな」

 

 

『東京レース場、第10レースはこの日を待ちわびた方も多い事でしょう。女王を目指すウマ娘達が集うオークス!!本日は生憎の曇り空ですが、バ場状態は良バ場での発表となりました。この燦然と輝くティアラの舞台で歴史に蹄跡を刻むのは誰だ!!』

 

いよいよゲートイン。揃いに揃ったウマ娘達、延べ20人の選ばれた優駿たちが集う。

 

『樫の女王を目指すウマ娘達が府中に集う、このオークスで戴冠するのは一体誰だ!?』

『3番人気は4枠9番グランルーブル、桜花賞での雪辱を果たせるのか』

『7枠17番コネクトトウショウ、2番人気です。桜花賞では二着、オークスでは勝てるか』

『1番人気はこのウマ娘、桜花賞では見事な逃げ切り勝ちを収め昨年の覇者メジロランページに見事続きました。同じ舞台で勝利を飾れるのか!?ツインターボ!!』

 

大歓声が沸き上がった、自分の時と同じように東京レース場には10万を優に超える人がこの一戦を見る為に来ている。その声の大きさに二人は矢張り生で見るのと中継で見るのではまるで違うのだなと思い知りながら、始まろうとするレースを目に焼き付けようと決めた。

 

『各ウマ娘ゲートイン完了、出走の準備が整いました』

 

スタートの準備が整った、同時に歓声が静まった。さあどんなレースになるんだ、どんな走りを見せてくれるのか、誰が覇者となるのか。オークスが今―――

 

『スタートです、綺麗なスタートを切りました。さあ内からグランルーブルが伸びて来るがそれすら抑えるように飛び出すのはツインターボ!!矢張りこのウマ娘が先頭に立ちます!!そのグランルーブルはその後ろに立ちます、そしてダブルシャウト、メジロロベルタも行きます』

 

矢張りというべきか、期待を裏切らない走りをするターボ。真っ先に飛び出して周囲に誰もいないフリーな状態で駆け出して行く。

 

「よし、ターボさんが先頭!!」

 

背後にはルーブルが付かれているとはいえ、走りは悪くない。そのままのびのびと走っていくターボを後方のウマ娘達は何時しかけるかタイミングを見計らっているかのように見える。先頭のターボは後方とは3バ身差、桜花賞での逃げ切りが効いているのかマークもキツい、このままでは逃げ切れずにいつか捕まってしまう未来も十分ある。

 

「お姉様、ロベルタさんって人もメジロの人みたいだけど……お知り合い?」

「いや全然。メジロっつっても繋がりが広いからな。広い意味だとターボだってメジロになっちまう訳だし」

 

 

ランページとの特訓、溜め方の練習をしたおかげで超高速で溜まる様になったターボ、それも南坂の指導である程度は溜め方のコントロールは分かって来たがそれでもターボは基本的にその制御を行わない。何故ならば、それだけ溜まるという事は自分の調子がいい事の裏付けでもある、それは―――自分の勝利だって見えている事の証明でもある!!

 

「いよぉし溜まる、溜まってきた、来る―――真ッドッカンターボ!!!」

 

『間もなく半分を過ぎようという所でしょうか、おっと此処でツ、ツインターボがもう加速だ!!しかもこの加速は桜花賞のラストで見せた急加速!!凄い勢いで上がっていくぞ!!3バ身があっという間に6バ身、いや8バ身は付いたでしょうか!!こんな所でスパートして大丈夫なのか!?ターボエンジンを抑えきれなかったのか!?』

 

「無茶だまだ中盤にも差し掛かってないのにあんな所で!!?先行して逃げ切るにしても早すぎるぜ!!」

「いやあれで良いんだよ」

 

ウマ娘のレースの事はそこまで分からない、だが走り屋としての経験からコースの長さを考えての逆算、まだ1000m辺りでのドッカンターボは余りにも早すぎると思える。しかし今回ばかりはこれが正しい。

 

「最高のタイミングで溜まったら解放するのがあいつのドッカンなんだ、少しでもタイミングを間違えたら平凡な加速しか出来ないんだ」

「だが流石に早過ぎるんじゃ……」

「その為の特訓をして来たんだぜ、ターボは」

「兄貴……ああっターボさん!!」

 

和美の言葉に視線を戻すと間もなく第4コーナーへと入る、最後の直線も近いという事で他のウマ娘達もスパートを掛けてきている。ドッカンターボで稼いだ貯金も底をついて捉えられ始めている。確実にこのままでは直線で捕まる。

 

『第4コーナーを曲がる!!先頭のツインターボ、此処まで逃げ切ったが流石にもういっぱいか!もうツインターボの先頭は終わりか!!?グランルーブルが迫ってきている!!あと1バ身!!更にスパートを掛けたぞ!!此処でツインターボの先頭は―――』

 

必死に走るターボ、肺が苦しく脚も重くなってきた、これが2400という距離の重さ。やっぱりドッカンターボをあんな所で使ったせいなのかという思いが脳裏を過った、だが直にそれを否定する。

 

「(違うもん!!そんな事考えちゃダメ!!ターボを手伝ってくれたバクシンオーやフラワーのせいにしてることになる!!トレーナーやランが、考えてくれたメニューなんだ、絶対に間違ってない!!ターボが二人を信じないで誰が信じるんだ!!)」

 

必死に粘るターボ、容赦なく強襲するグランルーブル、完全に並ばれた。あと一歩、後僅かで完全に抜かれる。苦しい、もう終わりかと思った時にみえたのは―――自分にドッカンターボを教えてくれた秋山。

 

「ターフで速い奴が、一番カッコいいんだろ。見せてくれよ俺にアンタのイケてる所を!!アンタの走りを!!」

 

心臓は一気に脈打った。ターボゲージが輝きを増して一気に灯る様に血流が血管内を加速し全身に行き渡る、急激な回転にタイヤが唸るように自身の脚に力が漲った。 来てくれた、最高のタイミングで―――ターボは笑った。

 

「見ててよ、これが! 本当の!!―――真・ドッカン……ターボォォォォ!!!!!」

 

爆風を纏うかのように、嵐が吹き有られるかのように、ターボが走り出した後には風しか残っていなかった。そしてそれらの事実を置き去りにして彼女は先頭を譲る事なく走り続けていく。

 

『終わら、ない!!?ツインターボが更に飛び出した!!まさかの二段加速!自分はシーケンシャルツインターボだと言わんばかりのアクセルベタ踏み状態!!グランルーブルを振り切っている!!1バ身から2バ身!!これが本当のツインターボエンジンだ、吼えろツインターボ!!』

 

「ダリャアアアアアアアアア!!!!!」

 

『全力全開だターボエンジン逃げ切ったぁぁぁ!!!ツインターボ一着!!前年のメジロランページに引き続いてのダブルティアラ達成ぃぃぃぃ!!!!』

 

完全に逃げ切ってのオークス制覇。ゴールを駆け抜けたターボの身体にはもう新たな一歩を踏み出す程の余力すらなく、へたり込んでしまった。最後の一滴まで絞り尽くした走りに誰もが驚き、感動した。それは秋山と和美も同じだった。

 

「な、なんて子だ……サイコーにイケてるぜ……!!」

「すっごいね兄貴!! ターボさん、あそこから勝っちゃったよ!!」

 

大勝利に感服するのはカノープスも同じだが、ランページと南坂はホッとしたような顔だった。

 

「まさか本当に上手くいくとはなぁ……結局練習じゃ最後の一回しか出来なかったのにな」

「そうですね、でも上手くいきましたね」

「やれやれ……まあ分の悪い賭けは嫌いじゃないけどな」

 

ターボがやっていたバクシンオーとフラワーとのメニューの目的は、2400mで二回のドッカンターボを行う為の物。ターボの性格上、2400mで勝てばいいとはならずに1200の両方で勝たなければ意味がないと思う。バクシンオーとの1200でドッカンターボを使った後にフラワーとの1200でもドッカンを使うように仕向けたのである。

 

「つってもやっぱり上手い溜め方と加減を教えるに越した事はないから、そこは合宿でかい?」

「そうですね、考えておきます」

 

取り敢えず今は―――

 

「や、やった……やったっやった~!!ランやったよ~!!ターボがダブルティアラになったよ~!!」

 

二つ目の戴冠を果たしたターボを祝福するとしよう。

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