貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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12話

「らぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ラン~またレコード更新してるよ~!!!」

「―――ま、こんなもんか」

 

急ブレーキを掛けながらも立ち止まったランページ、だがその息は余り乱れておらず数回の呼吸で荒さは無くなっていた。そのままシガーを取り出して吸い始めてしまう程には抑えての走り、それでも走る度に進化し始めている。逆に言えばそれだけレースに関わってこなかったという事が浮き彫りになるのだが……余り気にしないでおこう。

 

「ライアンは自分の練習は良いのか?トレーナー、見つけてんだろ」

「うん、でもお婆様に頼まれてる事だしランを一人にはしておけないって」

 

サムズアップと共に歯を見せて笑うライアン、絵になるなぁと思いながらもその心遣いに感謝する。

 

「っつうかよライアン、俺に構ってくれるのはいいけど好い加減時間大丈夫か?トレーナーとの約束の時間あるんだろ」

「あっいっけないもうこんな時間!?ゴメンねランアタシも行かないと!?」

「応、そっちも頑張れよ。ベンチプレスのレコード上げろよ~」

「ご期待に沿うよ~!!」

 

駆けて行くライアンを見送りながらも煙を吹かす。しかしそうなると好い加減、自分もトレーナーを見つけなればいけなくなってくる。未だに此方を観察するようなトレーナーは多いしリギルもスピカも引き続き声を掛けられている状況、探すのに苦労はしないがそこから最適なトレーナーを見つけるとなるとなかなか難しい事になる。

 

「トレーナーねぇ……」

 

正直言って何とも言えない、どんなトレーナーを選ぶべきなのだろうか。その辺りも全く分からないので自分の希望というのも上げらない、そう思いながらもシガーを吸い切ってもう一本でも吸おうかと思ったら所に一人のトレーナーが近づいて来た。

 

「すいません、ランページさん……ですよね?」

「いかにも俺は暴れん坊なランページさんだが、其方さんは?」

「あっこれは失礼しました、自己紹介が先でしたよね。僕はチーム・カノープスでトレーナーをしている南坂です」

 

視線を向けた先に居たのはグレーのスーツを纏った穏やかな雰囲気の男性、そしてその人物をランページは知っている。実は昔、海外でやんちゃしてたんじゃないかやら某国のエージェントだったんじゃないかという疑惑が大量に発生している人物で有名なカノープスの南坂だった。

 

「今お時間宜しいですか?宜しければ併走相手をお願いしたいのですが……」

「俺にかい、チームトレーナーならその辺りの準備は出来るんじゃねぇのかい?」

「そうなんですが……実はですね、元々併走をする予定でした方が急に来られなくなってしまいまして」

「それで声を掛けたってかい?それならもうちょっとナンパの仕方を勉強しな、と言いたい所だけど丁度ライアンが居なくなっちまった所で暇だったんだ。良いぜ付き合ってやる」

 

そう答えると南坂は何処かホッとしたような安堵の息を漏らした、こうしてみると本当に穏やかな好青年にしか見えないのだが……この人の何処にあんな技術やら知識があるのかと気になって来る……実は影では世界の平和を守るヒーローだったりするのだろうか。

 

「んで、誰と併走すりゃいいんだ?」

「もう少しだけ待って貰えますか、間もなく来ると……」

「遅れました」

 

そこへやって来たのは大きな丸眼鏡を掛けたウマ娘、そして当然そのウマ娘の事もランページは知っている。

 

「イクノさん、無事に併走相手が見つかりました」

「お手数おかけしましたトレーナーさん、そして突然の申し込みを受け入れてくださり有難う御座います。イクノディクタスです、本日は宜しくお願い致します」

「ああ、ランページだ」

 

イクノディクタス。デビューから4年半、51戦を故障なく走り続けたことから"鉄の女"の異名で知られる、無事是名馬を体現したかのような競走馬。それ以外にも馬目線でもとても美人だったらしく、彼女がレースに出ると他の牡馬達が良い所を見せようとして異常に興奮する(イレコむ)事が多くて大変だったという話もあった。有名なのはメジロマックイーン辺りだろうか。

 

「つっても俺も既に軽く走っちまってるし、併走とは名ばかりに飛ばすぜ?」

「はい、寧ろ是非そうしてくださると私としても嬉しい限りです。私が目指すのは学園最強、その為には走り込む事が絶対条件ですので」

「ハハッ皇帝様がいる中央ですげぇ事言うな、気に入った。幾らでも相手になってやるよイクノディクタスさん」

「嬉しい限りです、それとイクノで結構ですよランページさん」

「こっちもランページで構わねぇよ」

「はははっ……流石に走り過ぎる前に止めますからね?」

 

そんなやり取りがあってからランページはイクノと併走をする事になった。最初こそ、イクノに合わせていたランページだが時間をかける程にイクノが温まっていったことに気付いてほんの少しずつ、ペースを上げて行ったり故意に落としたりして見せた。

 

「―――流石です、普通のウマ娘ならばこのペース変化は気付けないでしょう」

「分かるかい」

「はい、私の管理は完璧ですので」

 

だが、イクノはそれに気付いていた。常に冷静で体調を含めて管理する事を得意とする彼女にとって、ほんの僅かなペース変化でも見逃がさない。だが、それを気付きながらも対処するのではなくそれにペースを合わせていく。気付いた上でそれに対抗する、それを可能とする鉄のような意志と屈強な身体にランページも笑った。

 

「良いね、それなら最後の直線は全力でやるかい?」

「望む所です」

「んじゃ―――ゴッ!!」

 

最後の直線に入った時、ランページは抑えていた物を全て解放した。ピッチに近い歩幅だったそれを大きく伸ばして一気に加速していく、それにイクノも負けじと加速していく。だが、何度も何度もペース変化に付き合った事で既にスタミナは削れている。それでも彼女は常にランページを射程圏内に収めた位置に居続けていた。

 

「らぁぁぁぁぁ!!!」

「置いて、いかれるもんか……!!」

 

そのまま二人の距離は変わる事も無く、ゴールを駆け抜けた。イクノはランページに付いて行くのが精一杯だったが、ランページはイクノを振り切る事が出来なかった。そのまま倒れこむかのように膝を突いたイクノ、対するランページは平気そうな顔をしつつも漸く息を切らしたかのような荒い息をしている。

 

「参った、全然振り切れねぇ……凄かったぜイクノ」

「ランページ、さんこそ……おいて行かれないようにが、精一杯でした……」

「いや、あんだけペース変えまくった末にこれだ。俺からしたら負けたような気分だよ」

 

分からずにいるよりも分かった上で勝負を挑まれたのだ、作戦を仕掛けた側としては敗北寄りの勝利だ。だが、何れ自分がデビューしたらこういう事もあり得る、だからやる事は彼女のような相手が居たとしても振り切る事だ。そう思っていると南坂が大きなタオルと水筒を持って駆け寄って来た。

 

「お二人ともお疲れ様です、どうぞ飲んでください」

「応ありがとな」

「有難う、御座います……助かります」

 

イクノはドリンクを受け取って飲み始める、ランページもそれに続くが即座に南坂が自分の脚を見ていた事に気付いた。

 

「何ぞや」

「いえ、あれだけの走りをしてましたのに脚に全く震えがない事が凄いと思いまして……イクノさんとのペース変更合戦にも驚きましたが、それ以上にそれに耐える体力に驚きました」

「そりゃどうも」

 

感謝を述べながらも南坂トレーナーも一流なんだなと思う、ジャージ越しにそんな事が分かるのだから。アニメでもそうだったが、彼はイクノディクタスの51戦という凄まじいレーススケジュールを管理していた事を踏まえるととんでもないのだな、と思い知る。

 

「イクノさん、以前よりも身体のブレが小さくなっていました。ペースの変更に付き合わなければもっといい勝負が出来ていたと思いますよ」

「いえ、あれは付き合うからこそ意味があったのです。そのような戦法を取るウマ娘もいる、今それを知り、体験する為だったのです」

「納得の理由ですね。兎も角今は休んでくださいね?」

「はい」

 

そして、ウマ娘の走りをよく見ているし相手の気持ちを汲み取っている。他のトレーナーの事はあまり知らないが、自分の中では決めてしまった物が出来た。

 

「南坂さんよ―――良ければ俺もアンタのチームに入れてくれねぇか?」

「カノープスに、ランページさんがですか?でも、リギルやスピカから誘われていると聞きましたが……」

「おっ耳が早いな。確かに誘われてるが何ともピンと来なくてな、だけど今のイクノとのやり取りで来たぜ―――俺のトゥインクルシリーズをアンタに任せたい、駄目かい?」

 

そう尋ねられて南坂は少しだけ迷った、彼女の選抜レースでの走りは自分も見ていた。スカウトしたいと思ったが、自分では相応しくないと思った。だがしかし、今本人が自分を見てそう言ってくれている事に嬉しさを感じた。スカウトしたいと思っていたのに、逆に指名を受けたような形になって認めて貰えたという事に感激してしまったのだろうか……差し出された彼女の手を取って大きな声で言った。

 

「此方こそ是非お願いしたいですね!!ようこそカノープスへ!!」

「宜しく頼むぜ、という訳でイクノもこれからはチームメイトっつう訳だから宜しくな」

「はい、此方こそ宜しくお願いします。ランページさんのような方が入られるとなると、カノープスは学園最強を目指せそうですね」

「そりゃいいな。どうせ目指すなら天辺ってか」




という訳で何だかんだで一番好きなカノープスにしました。
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