貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

120 / 636
120話

「はい、なんだアンタか……『懲りねぇな、何度掛けて来られても今年いっぱいは日本だぜ』」

『如何してだ!?君なら今年の凱旋門にも出られるはずだ!!』

『こっちも色々お家事情ってのがあんだよ、理解してくれや―――エルグッツ』

 

インプレッサのシートに収まりながらも電話に出るランページ、電話の相手はジャパンカップで対戦したウマ娘のエルグッツ。彼女からは度々電話を貰っている、その理由は今年の凱旋門賞に自分が出ない事への抗議と出走交渉。それが何度も何度も繰り返される。好い加減このやり取りにも飽きて来た。

 

『私は一刻でも早く君と戦いたいんだ!!だから出てくれ、今の君でも間違いなく此方でも通用するはずだ!!』

『それはお前が決める事じゃねえ、俺とトレーナーが決める事だ』

『それなら私と私のトレーナーが保証する!!』

『何でお前らに俺の力を保証されなきゃいけねぇんだよ』

 

どれだけ早く自分を引っ張り出したいのか、思わず呆れてしまった。

 

『何でそこまで俺と戦いたいんだよ……来年まで待てや、いやならジャパンカップかチャンピオンカップにも出走しに来いよ』

『嫌だ!!私は如何しても凱旋門で君と戦いたい!!』

『面倒くせぇ奴だな本当にお前!!テメェの事情だけ喚き散らしてこっちに折れろったぁどういう料簡だ』

『私は君を侮った、だけど君はあっという間に私の届かない所にまで走り抜けていった』

 

ほぼ全てのウマ娘が、日本で警戒すべきはオグリキャップという認識を持っていた。ランページがジャパンカップでの日本ウマ娘の中で一番人気が下というのもあるが、海外ではペースメーカーという流れを作る役割、そしてラビット、即ち囮役の役割がある。それは本命であるオグリキャップを勝たせる為の物であると思って完全にマークの対象から外してしまった。

 

それがいけなかった。ランページはオグリキャップを勝たせるなんてつもりは毛頭なく自分が勝つ気しかなかった。最早破滅的なペースでレース序盤から飛ばして行き、それに気付いた時には自分達は手遅れだった。心臓破りの坂を越えて、捉えようとした彼女はまるで幽霊のように自分達の手をすり抜けて行った。後は、オグリキャップに抜かれないようにするのが精一杯で二着が精々だった。

 

『私は君に憧れた、日本の名を冠したあの最高の舞台で勝った君に。だからこそ君と戦うに相応しい舞台である凱旋門賞でもう一度、もう一度戦いたいんだ!!』

 

思いの丈を叫ぶ、たった一戦、されど一戦。それだけでエルグッツの心を釘付けにするには十分過ぎるレースだった。同じクラシッククラスで同じレースを走って、自分の全力の走りを打ち破られて惚れこんでしまった。だからこそ、今度は此方の最高のレースで一緒に走りたい……だから来て欲しいと叫ぶ。

 

『じゃあ来年まで待て』

『待ってよ!?えっ今の流れ絶対可笑しいよね!?来てくれる流れ、感じたでしょ、そういう感じだったでしょ今の!!?』

『そりゃお前だけだ、そんな流れなんておりゃ知らん』

 

が、肝心要のランページには全く効果がない。基本的に乗りと勢いで生きていると思われている、実際大部分はそうではあるのだが彼女の内面は熟成されており冷静な判断と合理的な思考が出来る。仮に今行った所で満足な走りが出来ない、だからエルグッツの誘いには乗らない。

 

『日本の漫画だとこんな感じになったら乗るってあったわよ!!?』

『漫画の読み過ぎだバカ野郎、現実と混同すんじゃねえどこぞのポリコレかよ』

『あんなのと一緒にしないでくれる!!?』

『はぁ……ったく、お前さ今年の凱旋門勝って王者として俺を迎え撃つとかそういう思考の転換出来ない訳?』

『へっ?』

 

段々疲れて来たのか、好い加減終わらせたくなってきたのか、話を少しだけ合わせてあげる事にした。

 

『凱旋門制覇ウマ娘のエルグッツが、ジャパンカップでの雪辱を己のフィールドで返す。そういうシチュエーションも漫画にはなかったか』

『え、え~っと……あ、あったわ!!自分を倒したライバルを倒す自分を作る為にチャンピオンになって、それに挑んで来いって奴でしょ!?』

『そうだよ、漫画好きになったならそう言う事も出来るって事を考えろ』

『―――最高ね!!分かったわそれじゃあ今年の凱旋門賞に勝つから来年絶対に来てね!!来なかったら拉致監禁よラン!!』

 

そう言って電話が切られた、最後になんか物騒なワードが聞こえて来たのだが……一体どの漫画に出て来たのだろうと思ったが、割かしある表現だったわと溜息をつく。

 

「面倒くせぇ女……の割にあっさり引き下がったり、詐欺にあったりしないか不安になって来た……なんでこんな疲れたんだよ俺……あ~あ通話時間15分越えてやがる、電話料金が怖いなぁ……」

 

海外からの挑戦よりも、スマホの料金請求に震える無敗神話持ち。そして好い加減に時間だと思いながらインプレッサから降りて鍵をかける。

 

「はぁ……フローラが増えた」

「私がどうかしましたか」

「いやだから―――わぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

ひょっこりと顔を伸ばしながら、姿を見せたフローラに驚愕して後退りしてしまった。一体何処から湧いて出たのだろうか。

 

「フローラお前何時からそこに!!?」

「ランページさんの車はインプレッサだとおハナさんから聞いて、もしかしてこれなのかなと見ていたら貴方が出て来たので声を掛けたんです。まあ、例えインプレッサ云々の情報が無くても貴方の物だと気配で分かりますけどね」

「そこまで行くと凄い通り越して変態だな……」

「フフフッ貴方限定です」

「猶更怖いわ、ヤンデレか貴様」

 

本気でフローラの事が怖くなってきた。史実でのフローラの騎手はライスやグラスに騎乗し、ヒットマンと言われた的場騎手だったかなと疑いたくなるレベルである。

 

「それで私が増えたとは?」

「気にするな、悪質なストーカー紛いが更正してお前になっただけだ」

「成程。ライバルが増えたんですね」

「よく分かったな今の……」

 

はぐらかすつもりで言ったのだが、完璧に理解されてしまった。今はにっこりと笑っているその笑顔が怖い。まあ仔細までは―――

 

「となるとジャパンカップ、二着のエルグッツさんが大本命。次点で五着のベストルーティンさんですか」

「……」

「何で離れるんですか?離れても追いかけますけど」

「いや怖いわお前!!何でそこまで分かるんだよ怖いわシンプルに!!?」

「ダートやらも考えましたが、ダートは寧ろ貴方を倒そうと熱意に溢れているので除外。そうなると一番なのが唯一人気が低かったジャパンカップ、そして1番人気でありながらも二着に沈んだエルさん辺りに山を張っただけです」

 

何でそこまで言い当てられるのだろうか……と思ったのだが、そもそもフローラはトレセン学園でもトップクラスのリギルに所属できるだけの実力もある上に成績優秀な優等生で自分を倒す為に燃えている。そんな彼女だからこそ分かるのだろう。

 

「……いやそこまで行くとなんか、こう……」

「フフッ貴方に対する執念と決意がそうさせるのですよ、即ち―――愛です」

「―――……」

「いやそういう意味ではありませんってだから無言で私から距離を取らないでくださいってばぁ!?私だってそっちではないです!!……多分

「あっゴメン南ちゃん、直ぐに駐車場に来てくれ。俺の純潔がやばい」

「ギャアアアアアッ止めてくださいぃぃぃ!!!??」

 

「ですからそういう方面ではなく!!」

「ああうん分かった分かった」

「いや絶対分かってくれてません!!その声色は絶対に表面上の物です!!」

「それが分かるのも愛の力ですか」

「勿論!!……あっ」

「やっぱりそっちじゃねえか!!」

「違いますってばぁ!!」

 

そんな漫才染みたやり取りをしながらも歩いていると南坂が此方を発見して手招きをして来た。

 

「おや、フローラさんもご一緒だったのですか。おハナさんも来ているようですけどそちらに行かなくていいので?」

「許可は貰ってます、今回はご一緒させて頂きます」

「悪いな、なんかこいつに狙われててさ」

「何時もの事ですね」

「いや今回から割と洒落にならん事になり始めてもう震えが止まらんのだわ」

「だから違うんですってばぁ……」

 

兎も角共に前に行くとそこにはカノープスの皆が待機していた。如何やら待たせてしまったらしい、フローラのせいという事にしておこう。

 

「遅いぞラン!もう直ぐゲートインなのに、何やってたんだ」

「悪い悪い。性質の悪いストーカーが絡んで来やがってさ」

「なんかどんどん私への評価落ちてません!?」

「そうか。フローラ、ランに追い付きたいの分かるけどストーカーしちゃ駄目だぞ?」

「違うんですってばぁ……」

「その辺りにしてあげてください、もう直ぐ始まりますよ―――日本ダービー」




2月18日、1993年のダービー馬、ウイニングチケットが疝痛の為に亡くなりました。
偉大なダービー馬のご冥福を祈らせて頂きます。

きっと、天国でビワハヤヒデやナリタタイシンと再会してまたレースをしている事でしょう。私達は悲しむのではなく、何時までも彼の事を覚えていきましょう。

ウイニングチケット、今までありがとう、そしてお疲れ様でした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。