貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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122話

「すいませんランページさん、私の都合で」

「何の何の、これでカノープス全員G1勝利になるんだから幾らでも協力するぜ」

「頼もしい限りです」

 

日本ダービーをテイオーと共に制したネイチャ、そんな彼女に負けてはいられないとイクノからの併走依頼を受けて併走を行ったランページ。ハッキリ言ってイクノはどんどん強くなっている、G1こそ取れていないが取れていないG1には全て自分が絡んでいるからであってイクノ自身はG1を勝てるだけのポテンシャルを誇る。次の安田記念は必ず勝ち、カノープス全員がG1を取ったと胸を張ろうと息巻いている。

 

「まあライス達がデビューしたらそれも無くなるから、その称号もほんの僅かな間だけか」

「僅かであっても確かな記憶に刻まれる事は確実です。やたらめったら維持を重視するのはマスコミだけです」

「正論だな。さて、続き走るか!!」

「お願いします」

 

共に走って改めて思う、こういった所がイクノの良い所なんだと。認めるべき所は素直に認めつつも自らの研鑽を決して怠らず、頼む所は確りと頼み込む。普通ならば自分との併走も遠慮したりもすると思うが、イクノはその辺りは確りとお願いしてくる。まあ頼まれたら頼まれたらで確りと受けるのが自分だが。

 

「にしても……最近取材陣増えて来たな、安田記念が近いか」

「でしょうね」

 

カノープスが練習を行っているレース場の周囲には結構な数の取材陣がカメラを向けてきている、一応トレセンの審査は入っているのでまともなマスコミだとは思うのだが……。

 

「ダービーを取ったもんなネイチャ、それも関係してるのかねぇ」

「あるでしょうね。ですが、私達は私達のすべきことをしましょう。ランページさんだって帝王賞が近いのですから」

「だな」

 

自分の練習も大事だとは思うのだが……ランページの中で少し不安に思っているのがテイオーの脚の事。史実ではダービーに勝利こそしたが、レース中に骨折をしてしまった。レース中によろめいてしまった際にこの骨折が起きたとされ、引退するまでこの骨折と付き合って行く事となってしまった。此処では一体どうなるのだろうか……と思わず不安に感じてしまう。

 

「どうかされましたかランページさん、少々上の空ですが」

 

何処か、ボ~っとしている彼女に気付いた南坂が声を掛けた。ほんの僅かな際に気付く辺りは流石と言わざるを得ない。

 

「ちょっとな……テイオーの走りで少し」

「テイオーさんのですか?」

「ああ。あいつの走りはすげぇよ、でもなんつうかさ、膝にスゲェ負担掛るんじゃね?って位に激しいじゃん」

 

流石に史実云々は言えないので上手い事を話しを合わせておく。実際にトウカイテイオーの走りは凄まじい、あれは馬ではなくチーターの走りだとも表現される程の物。そんな走りを可能にしているのが彼女の柔軟な関節。だがそんな走りをすれば当然膝への負担は大きい、自分で自分を傷付けるのではとも考えてしまった。

 

「ええ、言うなれば小さなランページさんと言うべき柔軟さです。ランページさんの場合は身体も大きい上に骨格もガッチリとしているので負担に耐える事が出来ますがテイオーさんは小柄ですからね、その心配は御尤もだと思います。テイオーさんはレース後に病院に行かれました」

「もしや、本当に怪我を……?」

 

イクノの言葉に南坂は笑顔で答えた。

 

「確かに怪我はなさったそうですが、それはネイチャさんに対抗心を燃やして予定よりも長い距離をスパートしたせいによる筋肉の炎症だそうです。1週間もすれば完治する程度の怪我だそうで沖野さんも心からホッとしていたそうですよ」

「そうか……そうか……」

 

それを聞いて、一競馬ファンとしては震えそうになる程に嬉しかった。骨折によって三冠の夢を絶たれてしまったテイオー、その夢の続きを見る事が出来ると思うと本当に嬉しい。同時にこの世界ではどんな帝王になってくれるのか今から楽しみになってきた。

 

ネイチャがロングスパートを掛けた影響で他のウマ娘達もそれに続いて行った、それによってテイオーがスパートを掛けようとした時には十分にテイオーと他のウマ娘との距離が離れていたのでよろめく事が無かったので骨折は起らなかった。

 

「なんだか嬉しそうですねランページさん」

「そうかい?ネイチャとの決着を付けて貰わないと困るじゃねぇか、怪我されて出られませんってなったら後味悪いしな」

「確かにその通りですね、今度こそネイチャさんが勝ってほしいですね」

「ネイチャさんの方も精密検査を受けて貰いましたが、疲労が溜まっているだけで骨にも筋肉も異常は見られませんでした」

 

それも聞けて一安心。と、なるとテイオーのこれからの目標レースはどうなるのだろうか。確か復帰レースが大阪杯だった筈だから、菊花賞の後……順当に考えれば有記念だろうか、それともルドルフと同じようにジャパンカップに出走するのだろうか……自分のジャパンカップよりはマシだろうがそれでもやめた方がいいとは思うが……。

 

「安田記念も近いですし追い込み掛けますよイクノさん」

「望む所です。今度こそ私の初G1にして見せます」

「なぁんかそう言われると俺、此処に居づらいんですけど」

「すいません意地悪を言っている訳ではないんです」

 

少しだけ困ったように笑うイクノ、別にランページに対して憎しみとかそんな感情はないのだ。寧ろランページと競い合えて、一緒にチームになれた事は果てしない幸運だとイクノは思っている。

 

「私は勝利の為にはレースの経験が重要だと思っていました、日ごろの努力だけではなくレースから得られる物が自分を高みに連れて行ってくれると思っていました。ですが、私が今こうしているのは貴方のお陰でもあります。ランページさんという素晴らしいチームメイトでありライバル、そんな方と日々切磋琢磨し続ける事で私は確実に強くなっていると分かるんです。だから次の安田記念は絶対に勝ちます、見ててくださいねランページさん」

 

そう言うと走り出して行ったイクノ、見送りつつも溜息混じりに笑う。

 

「ったく……よくもまああんな台詞を素面で言えるもんだ……」

「でも実際そうだと思いますよ、一番近くに絶対に負けたくない相手がいるというのは素晴らしい物ですから」

「まあ、そりゃだけどよ……だったらあいつの為に俺も全力で協力するかな、あいつが強ければ俺だって強くなれる筈だからな」

「その通りです、という訳ではい」

「えっ何って重っ!!?」

 

不意に手渡された蹄鉄に思わず吃驚してしまった。形状的にシンザン鉄だという事は分かるのだがこれまでの物で最も重い。

 

「最大にまで重さを上げて貰ったシンザン鉄です。通常の蹄鉄の10倍、それが限界です」

「おい9倍じゃないのかよ!?」

「物足りないだろうと思っておまけして貰いました」

「町の総菜屋がおまけするノリで増すなや重さぁ!!」

 

8から10では大分違う。今までだって一つ上がるだけでも慣れるのに苦労していたのに、まさか一気に此処までとは……。

 

「それがクリア出来れば洋芝でも海外ダートでも通用しますよ」

「―――それ、嘘じゃねえよな?」

「私は冗談は言いますが嘘は言いませんよ」

「だよな、南ちゃんに限ってそれはあり得ねぇ。んじゃ……」

 

早速そのシンザン鉄をシューズへと打ち付ける、矢張り重い……だがこの重さを克服した時、自分は海外に飛び出せるだけの力を身に着けた事の証明にも繋がる、そう思うとこの重さが心地よく感じられる……そう思うと全く苦しくない、寧ろこの重さを攻略してやるという気持ちが沸き上がって来る。

 

「やってやろうじゃねぇか南ちゃん、やぁってやるぜ!!」

 

勢いよく駆け出している10倍のシンザン鉄であるのに関わらず走れている辺りは流石のパワーだと称賛せずにはいられない。そんな彼女の後姿を見つめつつも南坂はタブレットのスケジュール帳をチェックした。

 

「実は既に行けちゃうんですけどね……これなら大丈夫そうですね、後は―――合宿で完成をお願いしましょうか」




ネイチャのロングスパートとペースの調整によって他のウマ娘がペースを乱された上にスタミナ切れを起こしていたのでテイオーの骨折が無くなりました。なので―――彼女は菊花賞に挑みます。
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