貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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123話

「如何ですか?」

「話に聞いた時ぁ驚いたさ、今時あんなの使って訓練してるなんてさ。時代錯誤にも程がある」

「手厳しい」

 

10倍の重さのシンザン鉄、10倍というのは重さと強度などの兼ね合いの限界。これ以上重くする事は出来ないので正真正銘の最大重量のシンザン鉄。そんなシンザン鉄を使いこなす為に毎日毎日の走り込みをするランページを見つめる南坂ともう一人、スーツ姿で帽子を被った眼鏡の女性がいた。リギルの東条トレーナーが脳裏を過るが、彼女ではない。別人である。

 

「あんなの付けて良く走れるもんだ」

「ええ、1年以上は付けてますからね」

「二代目シンザンとかって言われるんじゃないか、その内その名前すら忘れられるのかもしれないねぇ」

 

どこか寂し気な瞳のまま呟かれたその言葉、時間の流れとは時に無情な物だ。如何に世界に名を轟かせたものであっても何れはその名の響きは風化していく。次の世代の活躍に、新しい活躍に上書きされていく。きっと、今のランページがシンザン鉄を使っていると知れたら彼女の名前に上書きされてしまうかもしれない。過去の歴史には無くなってしまった方がいい物だってある。

 

「過去の古い考えだって、今の為になってると思いますよ。あれが無ければランページさんは今ほどの強さを持てていないでしょうから、そしてその強さはいずれ世界へと向けられます」

「そうである事を祈るよ……まあ取材ついでの良い暇潰しになったよ。んじゃ達者でね」

「ええ、お話の方は宜しくお願いします」

「期待はするなよ~」

 

ぶっきらぼうにてをヒラヒラを振りながら、その人は去っていく。その女性が去り始めた時にランページは走り終えたので次のメニューを聞きに来たのだが……丁度いなくなった人の背中を見つめた。

 

「あの人誰だよ南ちゃん」

「理事長のお知り合いの方です、前々から取材をしたいと言われてまして」

「それじゃあ俺がインタビュー受けなくて良かったのかい?いいネタになるだろうに」

「ウマ娘の練習を邪魔をするほど野暮ではない、だそうですよ」

「へっ~流石理事長だな、そういう事も把握してる人なのか」

 

基本、記者やら報道陣のイメージというのは大体がマスゴミによる悪いイメージで塗り固められている。報道の自由を振り翳してこちらの都合なんて二の次で自分の事しか考えない無作法者、しかしこちらの都合を優先してくれるのは理事長の知り合いらしさを感じる。

 

「如何ですかシンザン鉄の調子は」

「いやぁ重いのなんのって感じだぜ、流石10倍……ぶっちゃけ滅茶苦茶キツい」

 

流石のランページでも最大重量の10倍は応えるらしく、普段よりも早くバテてしまった。

 

「走る事は出来るが、普段以上にガリガリと体力を奪っていきやがる……グレートですよこいつぁ」

「余裕あるみたいですし坂路行きましょうか」

「鬼ぃ!!!」

「冗談です、休憩してからです」

「やらされることはやらされんのね……」

 

かなり脱力してしまうが、文句こそいうがやらない理由はない。これも全て自分の力に結び付くのだから、口と態度こそ悪いが意外と真面目なのが暴れん坊のランページさんなのだから……それにこの位でへこたれていたらライバルに合わせる顔がない。

 

「うしっ休憩終わり!!」

「もう少し休んでても良いんですよ」

「いやこれ以上は休み過ぎだ、イクノに負けてられねぇよ」

 

やったるで~!!とタマモクロスみたいな事を言いながらも坂路に向かっていく。此処までランページが張り切る理由というのが先日の安田記念、イクノの初G1勝利が掛かった注目レース、そのレースでイクノディクタスは自らの力を遂に証明してみせたのだ。

 

『外からダイタクヘリオス、ダイイチルビーも上がっていく!!バンブーメモリーも伸びるが内から、内からイクノディクタス!!イクノディクタスが伸びる!』

 

先行集団にて時を待ち続けていたイクノは冷静に視線を上げると自分の勝利の道を見据えた、そして見えた通りの道を走り抜けてバンブーメモリー、ダイイチルビー、ダイタクヘリオスをあっという間に抜き去っていく。

 

「尋常じゃ、ないっすよこれ!!」

「届かない、全く……!?」

「ちょっあれってマッ!!?」

 

ヘリオスが思わず、笑いではなく驚きを露わにしてしまう程の途轍もない末脚だった。内ラチのギリギリを通って先頭へと立った。後数ミリもズレれば腕がラチに激突してその次は肩、そして身体と持っていかれる様な超ギリギリの場所を通って彼女は走っていた。

 

「ランページさん、ターボさん、ネイチャさん、皆さんあれ程の走りを見せてきた。だったら私も頑張るしかないでしょうに、私も、私だって最強カノープスの一員なのですから!!」

 

その決意と共に放たれた末脚は、他の全てを撫で切りにしながらも栄光へと突き進んでいった。此処まで活躍してきた仲間に恥ずかしくない自分になる為に、胸を張って自分もカノープスの一員だと叫べるように、そのままに突き進んだイクノはゴール板を過ぎていた事に気付かずにそのまま200mは走っていたのだ。周囲の歓声に漸く我に返ったのか脚を止めるとレース場全体が自分に向けて大歓声を向けている事に気付いた。

 

『イクノディクタス念願の初G1制覇ぁぁぁぁぁ!!!そしてなんとタイムは1:32.4!!オグリキャップのレコードに並ぶ素晴らしい走りで安田記念に勝利しました!!!』

 

「私がレコードタイ……っ~やりましたぁっ……!!!」

 

堪えきれなくなった感情を爆発させつつも、何とか冷静になろうとしている理性がぶつかり合っているのか大声を抑えつけながらも思いっきり腕を空へと振り上げた。それを見ていたランページも惜しみない称賛を上げた、本当に素晴らしい走りだった。そして思った。負けてられないと。

 

「イクノにフローラ……それにエルグッツ、負けられない相手がどんどん強くなるってのは悪くないもんだな……!!」

 

坂路を走りながらも呟く、蹄鉄の重みと坂路の険しさが身体を虐める、だがそれに負けじと身体を動かす。この程度で屈していたら自分は走れなくなってしまう、気合を入れて臨まなければ……。

 

「ッシャァ!!!」

 

そんな叫びを木霊させながらも坂路を駆け上がっていくランページを、先程の女性が遠くから見つめていた。

 

「良い根性してるじゃない、成程……遺物も役に立つ訳だ」

 

そのまま彼女は歩き出して行くが、その足取りは何処か軽かったがその足音は何処か重かった。

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