貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

125 / 636
125話

ウマ娘にとって待ちに待ったその日がやって来た、これまでの想いと努力が正しかったと証明する証を手にする日が。この日デビューは二人、マチカネタンホイザ、そしてライスシャワー。カノープスの二人は今日の為に様々な努力を積んできた、その事の証を立てるのだ、とは考えずに一緒に頑張ったチームメイト達に良い所を見せる程度の気概で望んだ。

 

「頑張るぞ~えい、えい、むん!!」

 

タンホイザは気合を入れて芝1700のメイクデビューへと臨んだ。タンホイザの持ち味はスタミナ、故にそれを活かすのは中長距離が一番だと思われていたが、彼女はそれをイクノから学んだペース、ターボのスタートダッシュ、ネイチャのスパート、そしてランページの走り方を複合した独自の走りを既に見つけていた。

 

「よしここで一気にぃ~!!」

 

残り600m、そこで一気にスパートを掛ける。その際にターボのドッカンターボには遠く及ばないが、自分なりに溜めた脚を一気に解放して加速。そのままペースを上げて他のウマ娘のペースを乱しつつも先頭に躍り出るとそのまま駆け抜けていく。

 

『マチカネタンホイザ、後方から一気に伸びて伸びていく!!これは凄い正しくごぼう抜きぃ!!残り200mにして後方とは5バ身差!!これは強い!!カノープスはまた素晴らしい新人を輩出しました、マチカネタンホイザ、そのままゴール!!』

 

「やったやったやったった~!!えへへへっ~」

 

他の追随を許さぬほどの走りを見せたというのに本人は極めてケロッとしていた。全く疲れていないと言わんばかりの様子に他のウマ娘は信じられないと言わんばかりの表情を作り、直後に無邪気に喜んでいるその姿に毒気を抜かれてしまった。不思議な笑顔で悔しさなどの気持ちがすっかりなくなってしまった……ハングリー精神が出ない……しょうがない、今度は自分達があんな笑顔を浮かべてやろう、そんな思いで次のレースに備えるのであった。

 

 

変わって新潟、ライスシャワーのデビュー戦が行われる。が、彼女のデビューはタンホイザと比べても極端に短い1000m。ステイヤー適性があるライスとしては走りにくい距離なのだが、それに対してライスは寧ろやってみたいと凛とした返答をした。

 

「見ててお姉様……ライス―――頑張るから」

 

ゲート入り前、ライスの雰囲気が一変した。それは他のウマ娘にも伝播したのか、注目を集めた。自分達の中でも小柄でオドオドしていた筈なのに鋭い目つきの仕事人の様な雰囲気となっていた。いや、まるでそこに居るのは獲物を見つけ、気配を殺して喰らい付く瞬間を見極めようとしている肉食獣のようだった。レースが始まる前からライスに呑まれていた他のウマ娘達、それはスタートすると差は歴然だった。

 

『さあスタート、しました!!おっとタイコクオウカ、ハンズクラーズが転倒した!?メイクデビューで緊張してしまっているのか、他のウマ娘達も表情が極めて硬いぞ!?その中でも抜け出して行くのはカノープスの新星ライスシャワー、好スタートを切って先頭を行きます!』

 

始めからペースを乱されまくっていたウマ娘達は既に自分の走りを完全に見失っていた、そしてそれによって焦ってしまったが故に更に自分の力を出せない状況に陥っていた。酷い悪循環に陥りながらも必死に走るが、先頭を行くライスに全く追い付く事が出来ない。本来短距離なんて苦手な部類である筈の彼女に全く追い付けない。

 

『ライスシャワーが独走だ!!カノープスによって鍛え上げられた彼女にデビュー戦の緊張なんて何のその、その名に相応しい門出の祝福が、彼女に捧げられましたぁ!!!』

 

「や、やったっ……やったよお姉様……!!」

「よくやったぞ~ライス~!!」

「ぴゃぁっ!?」

 

一着で駆け抜けたライスは心から嬉しそうな笑みを浮かべていると、思いっきり抱きしめられた。観戦していたランページが我慢出来ずに飛び出して抱きしめてしまった、本来はあまりいいとは言えない行為なのだが同じチームメイトがデビュー戦に勝利した場合はこういった事はよくある事なので黙認されている。加えてそれをやっているのが無敗の九冠のランページなんで文句を言える立場の者はトレーナーの南坂位しかないのだが、彼もニコニコしたままなのでもう手が付けられない。

 

「お姉様っ皆見てるよ……は、恥ずかしいよぉ……」

「恥ずかしがる事なんてないぞ~皆ライスが勝ったことを喜んでくれてるんだ、ほらっそうだよなぁ皆ぁ!!」

『おおおおおっっ!!!!』

 

ランページの声に観客は大歓声を上げた。そんな彼女への惜しみない称賛を感じさせてあげようと肩にライスを担いだ。レース場全体が自分の勝利を祝福してくれている、その事に少しずつ嬉しさと喜びが増して行って遂には破顔して満面の笑顔でそれに受け応えた。そんなライスをレースを走ったウマ娘達は恐れた。

 

「ほ、本当に同じウマ娘なの……?」

 

余りにも豹変し過ぎている。レース中、前と後では全くの別人だ。虫一匹殺せぬほどの可憐さと臆病さだったのにいざ戦いの舞台となるとその様はまるで処刑人。その雰囲気に完全にのまれて全力の半分も出せなかったのではないだろうか……。

 

「思った以上ですね、ライスさんは」

 

そんな状況を冷静に分析した南坂、短距離に出したのはライスの潜在能力が何処まで行けるかを見る為。勝つ事は出来るだろうと思っていたので何処まで引き出せるかを重視した、その結果は想像を超えていた。デビュー戦の緊張、それまでの彼女とのギャップ、そして寒気を覚える程の変貌、それらが他のウマ娘の精神を一気に蝕んでいった。

 

「ランページさんと似ていますが、少々毛色が違う感じですね……」

 

戦いの勝敗とはいざ矛を交える前から既に決まっている、その戦いの為にどれだけの準備をし、勝てる戦いをする。ライスはゲートインを行う前から戦っていたのだ。別段卑怯ではない、レース場に脚を踏み入れる前から戦いは始まっている、そしてライスはそれを行使したまでに過ぎない。

 

「幻惑逃げのランページさん、正確無比なペースとコース取りのイクノさん、ドッカンターボのターボさん、ロングスパートのネイチャさん、総合力のタンホイザさん、そしてレースで一気に化けるライスさん……フフッこれはこれは、私のチームで良かったです」




ターボ命名、二人の必殺技。

マチタンフォーム。決して欲張らず、自分を崩さないようにカノープスの皆の技を少しずつ取り入れて、自分の良さとブレンドしたタンホイザの独自走法。

ライススイッチ。別名、的場インストール。レースになると途端に気合が入り、普段の印象とはかけ離れた姿へと変貌する。その気迫に呑まれると抜け出すのは困難。普段の彼女を知っていればいる程に効果的。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。