貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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126話

「(ングングングッ……)プハァッ……此処の蕎麦はうめぇな。紹介されたとおりだ」

「良い食べっぷりだねぇ!!アンタ、ウマ娘なんだからそれじゃ足りないだろう?もう一杯サービスしたげるよ」

「おっ美人の女将さん有難いお言葉染み入りますなぁ、んじゃまあお言葉に甘えましてかけを頼もう、今度はネギ抜きで」

「やだよぉもうこの子ったら上手なんだから、待ってな直ぐ上がるよ」

 

一軒の立ち食い蕎麦屋にて一人のウマ娘が蕎麦で腹を満たしていた。大井に来たならば此処で腹を満たせというお達しを受けたが、それが大正解、全く以て自分にそばアレルギーが無くて良かったと心から思うのであった。

 

「あいよ上がったよ」

「あんがと、一味頂戴」

「はいよ」

 

投げ渡されたそれを受け取りつつも振りかける、そしてかけそばを一気に啜る。ウマ娘サイズとして気を利かせてくれたのか量も多い、蕎麦の香りも良い上に汁の味も中々……これは推されるはずだと納得しながらも最後の一滴まで一気に飲み干す。

 

「っあ~……ご馳走さん、身体に熱入れてぇ時はこれに限るな」

「アンタ、もしかして今日の帝王賞を走るのかい?」

「んっ?ああまあな、レース前の腹ごしらえって奴だい。気合入れて臨みてぇって思ってたら先輩に此処をお勧めされてな」

「ハハッそりゃ嬉しい限りだねぇ!!それじゃあ折角だからサイン頂戴よ、帝王賞に出るって事は凄いんだろアンタ」

「俺のサインで良けりゃぁ幾らでもやらぁよ」

 

と、何処か引っ張られたような言葉遣いをしつつも差し出されたサイン色紙にサラサラとサインをしていく。そして書き終わると手づからサイン色紙が飾られていた壁へと掛けた。

 

「ありがとね、そうだアンタ名前は?折角だから応援したいからね」

「俺かい?俺の名前なんて色紙を見りゃ一発だろ思うけど―――敢えて名乗るのも一興って奴だな」

 

掛けていた伊達メガネとテンガロンハットを外すと女将さんのリクエストに応えた。

 

「無敗の勝利を築き上げ、築きに築いた勝ち戦、それらを無数に積み上げて、世界に轟く天守閣、無敗のメジロランページたぁ俺の事、覚えといてくんな。なんちって♪」

「中々いい語りするねぇ!!覚えとくよメジロランページ、応援しと、くって……えっ」

「じゃあ女将さん、イナリ先輩の言う通りに此処の蕎麦は最高に美味かったぜ。釣りはいらねぇよ、取っといてくんな!!」

 

万札を置きながら帽子を被り直すとそのまま大井レース場の方へと脚を進める、その直後に女将さんの驚愕の声が聞こえてきたが聞こえないふりをしてすたこらさっさとその場を後にして南坂と合流を目指した。

 

「イナリ先輩の言葉遣いが移っちゃったな、なんか口に残るよなぁ」

 

 

「ランページさん、腹ごしらえはすみました?」

「あたぼうよぉ、美味い蕎麦を食った俺ぁつえぇぜ南ちゃん」

「何だか今日は一段と凛々しいですね」

「あ~……なんつうかな、イナリ先輩の口調ってなんか真似したくなるんだよなぁ……なんつうの、江戸っ子への羨望の眼差しって奴?」

「お気持ちは分かります」

 

控室で勝負服へと着替えるなどして準備を整えていると南坂が入って来た。ノリと勢いで生きている系ウマ娘なので心配になるのは分かるが、元社会人はその辺りはキッチリなのである。某黄金艦よりかはマシな自負はある。

 

「今日のレースで注意すべきなのはレディセイバーさんとアメイジングダイナさん、というべきですが全員士気が高いので全部を注意すべきというしかないんですよね」

「南ちゃんがそういうって事は相当なんだな、あれか、いよいよ俺の無敗神話が無くなる時が来たか」

 

別に無敗を誇っている訳でも維持しようと思っている訳ではないので、負ける時が来たら普通にそれを受け止めるつもりでいるが……向こうがそう来るのであれば此方だってそう簡単に負けるつもりはない事を教えてやらなければならない。

 

「さてと……俺は行って来るぜ、楽しい楽しいダートでのレースの始まりだ」

「いってらっしゃい」

「応、行って来るぜ南の旦那ぁ!!……やっべ全然とれねぇ」

 

そんな自分をくすくす笑うトレーナーの声を背中に受けながらも地下バ道を抜けて、大井レース場へとその姿を現したランページに惜しみない拍手と大歓声が沸き上がった。

 

『さあさあ来たぞ来たぞ!!此処まで18戦18勝!!G1勝利は怒涛の9勝!!此処で勝てば前人未到の十冠となります!!無敗神話は未だ健在のウマ娘!!6枠10番、メジロランページ!!最早お馴染み一番人気です!!』

 

大きく腕を振り上げれば沸き立つ会場、中には大きな太鼓や大漁旗を振り回して応援している客までいる。中央の芝レースでは早々お目に掛かれない光景が広がっている。ダートに満ち溢れているこの熱気、迫力、これを自分は体験しに来ているんだ。

 

「ランページ、今日も頼むぜ~!!」

「そうだ、姉ちゃんに晩飯のおかず賭けてんだぁ~!!」

『ぶっちぎれ~!!』

「可愛い賭けしてんじゃねえか!!任せとけぇい!!」

 

「ランページぶっちぎれ~!!」

「王者の余裕って奴を見せてくんな~!!」

「色気ねえけど好きだぜ~!!」

「可愛げねえけど愛してるぜ~!!」

「喧しいわっ!!応援したいのかバカにしてぇのかどっちだテメェらぁ!?その調子で応援しやがれぇい!!」

『応っす姐さん!!』

「誰が姐さんだ!!」

 

自分を応援する声も芝とはどこか違う、此方をバカにするような応援も混ざっているが本当の罵倒ではない。盛り上げるための罵倒だ、粗雑で粗暴ではあるがこれがまたいいのだ。中央のレースでは絶対に味わえないようなこの熱量、溜まらない。

 

「ランページさん、今日こそ負けないぜよ~!!」

「応ダイナってなんか高知弁になってねぇか?」

「ちっくと前に高知でレースをして来たんや、負ける気がしないぜよ!!」

「なんか中途半端だなお前!?」

 

フェブラリーステークスから引き続き参戦のアメイジングダイナ、彼女も彼女で自分を倒す為にやる気十分と言った様子。共にゲートまで行くとそこで待っていたのは全てのウマ娘からの大歓迎だった。

 

「おっ~本当にランページさんだ~!!」

「すっげえっマジでダートやるんだ!!」

「サ、サイン貰っていいですか!?」

「地元には地元の、地方には地方の意地があるから負けないよ!!」

 

レースに集中するのではなく、互いに挨拶をして高め合う。其処にも自分のファンがいるらしく、サインを強請られるが勿論する。そしてその奥にレディセイバーが待っていた。彼女も自分を見ると笑顔で手を差し出してきた。

 

「待ってました、実は宝塚記念の方に行かれるのではとビクビクしてたんですよ」

「申し込まれた勝負の申し出、受けなきゃ廃る走りの世界、突き付けられた勝負の二文字、それを如何して無視出来よう!!なんつって♪俺はそれ程野暮天じゃないんでね」

「おおっ!!今のなんかイナリさんっぽかった!!」

「ホントホント!!」

「あっ分かる?いやぁ大井に来る前にさイナリさんと話してたらなんか移っちまってさ」

『分かる~』

 

「なんか、お姉様凄い楽しそうに話してる……?」

「見ない光景だね……アタシらはゲート前に行ったら普通集中するけど凄い楽しそうに談笑しちゃって」

 

その光景を観戦しているカノープスメンバーはあまり見られない姿に少しだけ呆然とする。だが、間もなくゲートインとなると全員の目つきが一斉に変化する、その変貌はライスのスイッチ以上の物でもあり、それぞれが真っ直ぐと視線を持ち上げるとそれぞれの目を見た。

 

「さあ―――勝負と行こうぜ」

「負けませんよ」

「勝つのは私じゃき」

 

それぞれの言葉を上げるとそれぞれのゲートの前へと立った。先程の談笑をしていた和やか空気はなく、張り詰めた重い空気と研ぎ澄まされた刃の様な冷たさを感じさせる空間へと変貌した。

 

「さあ、始まりますよ―――帝王賞が」




私の大好きなかけそばの食べ方なんだけど、分かる人、いるかな?

後、私も含めてランページの中のヒトソウルはこういう語りとかが大好きな性質です。
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