貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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127話

『スタートしました!!出遅れはありません、先頭を行くのはメジロランページ!いやナリタイーグルもアメイジングダイナ、レディセイバーも続いていく!!いやフェブラリーステークスと同じように全員がメジロランページを追走していく!!』

 

スピカの部室、そこのTV中継で帝王賞を見ている沖野。普段は帝王賞はこの時間帯のメジャーなチャンネルで中継はしない、G1ではあるが矢張りダートで地方で行われるという事もあってそこまで大きくは扱われない……のに今日ばかりは何故か午後のロードショーの予定を中断して帝王賞を中継している。こういうのを見る度にTV局は、というため息が出る。

 

「トレーナー、何見てるってあっランの帝王賞じゃん!!」

「珍しいじゃん。こんな時間、且つそのチャンネルでやってるなんて」

「無敗の九冠が出るからだろうな、そうじゃなきゃこんな事にはならねぇよ」

 

少々辛辣な意見だが、実際その通りなのだから何とも言えない。だが、スピカの面々も席について帝王賞の行く末を見守る。

 

「ランページさんは何時も通りの大逃げですわね、しかしダートというのは此処まで逃げウマ娘が揃う物なのでしょうか……」

「砂を被らない為に逃げ先行が多いけど、此処まで極端ではないね。まあ十中八九ランちゃん対策だろうね」

 

マルゼンスキーは速過ぎた為に結果的に逃げになったという話があるが、今回はランページの逃げがハイペースなので他の逃げウマ娘が結果的に先行の立ち位置になっているという事になっている。

 

『メジロランページ先頭!!そのウチにナリタイーグルが入り込み、外にはレディセイバー、背後にはアメイジングダイナ!完全に包囲されていると言っても過言ではない、だが前には進めると言わんばかりに疾走しております!!外からグレイテストキングが4番手に付けました』

 

「ラン、本気で逃げてるよこれ」

「分かるのですか?」

「うん。ランの出てるレースは全部見た、これは幻惑逃げじゃない。マジで逃げてる」

「ああ間違いない……あいつ、ペースを全く落とす気配がない」

 

テイオーの言葉を裏付けるかのように沖野の手にはストップウォッチが握られているが、ペースは全く落とされていない。ツインターボの大逃げと同じ、ジャパンカップで勝利を収めた正真正銘の大逃げ。ある程度は抑えて脚を溜めたりしての溜め逃げなどもするが、今回はそれを一切していない。

 

 

『さあ半分を過ぎました。先頭は変わらずメジロランページ、2番手のナリタイーグルとは2バ身差程か、その直ぐ後ろにレディセイバーとアメイジングダイナが続く。何方もメジロランページからは4バ身程度の所を走っております。今年の帝王賞は凄まじい、あのメジロランページが逃げ切れていない!!完全に射程距離に収められたままだ!!』

 

「離されない離されない離されない!!」

「このまま、で行く!!」

「ぬああああああ!!!」

「くぅぅっお戯れをっ!!」

 

軽口を叩くが、ランページは思った以上に焦っていた。何故ならば他の全員が最初から自分を追い抜かすつもりでの逃げ戦法を取って来た、自分が幻惑逃げを使うかもしれないなんて事に惑わされる事も無く最初から全力全開。策略を持って自分を攻略するのではなく、真っ向から実力勝負を取って来たのだ。

 

「ランページさんの攻略法は戦略を読むか純粋な実力で勝負するの二択です、如何やら帝王賞に出る皆さんは後者を選んだようですね」

「いやでもランはこれまで勝って来たんだよ、トリプルティアラにエリザベス女王杯にジャパンカップ……どのレースも実力者相手に」

「ええ。ですが―――今回のレース、半端じゃないですよこの熱量は」

 

耳を澄まさずともわかる程に周囲からは怒号にも近い声援が送られ続けている、入場規制が敷かれる程の人々が大井レース場へと集い声援を送っている。それらに背中を押されて皆が前へ前へ前へと進み続けている。ランページも同じだがダートを走ってまだ日が浅い彼女よりも、背中を押されるウマ娘の方が多い。

 

「そして打倒ランページさんへの執念、元々ダートを走っていたという誇りと意地が彼女達の力を増幅させているんでしょう……もう直ぐ第4コーナーなのに誰も垂れてこない、とんでもないハイペースレースですよこれは……」

 

南坂が懸念した通り、帝王賞はとんでもないハイペースになっている。ランページはペースを一切落としていないのに他のウマ娘達も一切にペースを落とさずに喰らい付き続けている。その結果として15人のウマ娘がほぼ一塊になった状態で第4コーナーを回り切って直線へと入ろうとしている。

 

「最高だ、やっぱりダートはダートで血沸き肉が踊るって奴だなぁ!!さあラストの直線、俺に付いて来れるなら着いて来やがれ!!さあ、俺とやろぉぉやぁ!!!」

 

あの時と同じ、フェブラリーステークスと同じようにランページは最後の最後でギアを上げた。それこそジャパンカップの時のように全身の力を振り絞らんとする走りを。それは此処まで共に走ってくれた皆に対する礼儀と挑戦の意趣返しもある。それに乗ってくれるのか、此処までの超ハイペースで既に力は尽き掛けている筈―――なのに、彼女らの瞳は死んではいなかった。

 

「此処まで来て、やらせるかぁぁ!!!」

「ダートは、私達のレースだぁぁぁぁ!!」

「貴方に勝つために、今日まで過ごしてきたんだぁぁぁ!!」

 

一斉にそんな声が上がる。皆が思った、打倒ランページと。だが決して結束した訳ではない、思いこそ同じだが自分こそが上だと、一人一人が彼女に勝負を挑んでいく。完全なバトルロワイアル、この中の一人だけがあの無敗のウマ娘に文字通り土を付けるんだ。

 

『さあ直線に入った!!メジロランページ懸命に逃げる!!内からナリタイーグルとレディセイバー、外からアメイジングダイナが迫る!!メジロランページ苦しいか!?いやまだ先頭は譲らないぞ、王者の誇りに賭けて先頭を譲りません!!後ろから一気にグレイテストキングが上がって来る!!あと少し、あと少しだ後半バ身!!だがメジロランページ粘る!!ランページ先頭だ!!先頭を譲らない!!抜ききれない!!絶対無敵の王者が、貫録を見せつけたぁぁぁぁぁ!!!メジロランページ一着ぅぅ!!!』

 

「ハァハァハァハァッ……ぐっ……ぶねぇ……」

「後、ちょっとだったのに……!!」

「逃げ、切られたぁ……」

 

二着のグレイテストキングとは半バ身、いやレディやダイナ、イーグルとの距離も極めて近い、あと少しで躱されていたかもしれない……そう思える程にギリギリのせめぎ合いだった。言葉を紡ぐ余裕すらない。

 

『これでダートのG1勝利は2つ目!!そして合計G1勝利数は10、即ち十冠!!芝もダートも彼女には関係なし!!真の王者に違わぬ圧倒的な力を見せ付けましたぁ!!』

 

「圧倒的……これで、よく言うぜ……」

 

如何にも今回は自分の辛勝、最も追い込まれたと言っても過言ではない。差だけで言えばライアンだが、今回は他との距離もかなり近い。圧倒的なんてお世辞にも言える勝利ではない。

 

「全く、なんて、強さなんですか貴方は……」

「そりゃ、こっちの台詞だあほたれぇ……お前ら全員で着いて来るとか……何なんだよってこっちが言いてぇよ!!」

 

疲れ切った王者の言葉に思わず全員が笑みを浮かべた。勝利に届きこそしなかった、だが自分達はあのメジロランページを此処まで追いこむ事が出来たんだという実感があった。それは今まで取ってきたどんな勝利よりも価値がある言葉で堪らなく嬉しくなった。

 

そしてその証となったのが、今回のレースタイムの2:01.9というレコードだった。




尚、これより速い記録がファル子こと、スマートファルコンの2:01:1。マジやばい。
因みにファル子は2010年の東京大賞典にて2:00.4という記録を叩きだしている。何なのあのアイドル。

そして、ワールドレコードは2分を切るとの事。もう訳分からない。
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