貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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128話

「はんかくせぇ、おだつなよ!!」

「えっ何て?」

 

ランページは身体を休めながらもカノープスの部室で新聞やら雑誌を読んでいた。相変わらず習慣……と思ってシューズに新しい蹄鉄を打っていると唐突に飛び出てきた言葉に思わずネイチャが聞き返す。何処かの方言だろうか。

 

「バカ野郎フザけんなって意味、東北とかの方言だ」

「何でいきなりそんな事言ってんのよ」

「こり」

 

そう言いながらも両手の指二本でつまみ上げる雑誌、所謂L持ちという奴だろうか……それは兎も角として、雑誌の内容が気に入らないという事なのだろう。そこにあったのは……この前の帝王賞に関する事だった。

 

「何々……メジロランページ、他のウマ娘を捻じ伏せての勝利、王者の力は疑いない。どれもランの事を良く書いてる記事だよね」

「表面上だけな、あれで圧勝だとよ。笑わせてくれるよ、あのレースの何処を如何見たらそう見えるんだよ。辛勝も辛勝だ」

 

ランページが気に入らないのか、それらの雑誌では自分の勝利だけを大きく取り扱ってレディやダイナ達のあの走りを完全に無視している事だ。これでは又聞きの又聞きで内容を把握出来ないではないか。

 

「成程そういう事なんだね、それで違和感あったんだ。確かにランが勝ったけど圧勝ではなかったもんね、捻じ伏せたというか、接戦の末に勝利をもぎ取ったって方が正しいよね」

「ネイチャの表現に一票」

「私も同意見です」

「どもども~」

 

その意見には南坂も賛成だった。勝者の走りはより大きく取り上げるのが報道というものの常だが、あれが勝者だけの力だというのならば節穴も良い所だ。流石は取材拒否をしている会社が書いている雑誌だ、適当な記事過ぎて抗議したくなってきた。

 

「んでこっちが俺のオキニの出版社が書いた奴」

 

『怒涛の十冠、メジロランページ、激戦ダート駆け』

『メジロランページを追い詰めたダートウマ娘達の意地』

『ダートレースの三冠整備、開始か?』

 

現在ランが取材を受け付けている数少ない会社が書いた記事、それら全てに共通して言える事は単純な勝利だけを取り扱っているのではなくレディ達にも確りと焦点を当てている所だった。

 

『私達は一丸となってランページさんに勝負を挑んだんです、でも勘違いして欲しくないのは全員で結託したという訳ではありません。私達それぞれが競い合いながらもあの人に戦いを挑んだというべきなんですかね……その過程で誰が負けても私達は後悔なんてしませんよ。まあ結果的に私たち全員負けたんですけどね』

 

アメイジングダイナのインタビューも確りと掲載されており、レースレコードとなった帝王賞は彼女らが居たからだと書かれている。そして―――

 

『次は勝ちます!!』

『また、腕を磨いてリベンジします。いえ脚ですかね?』

『また一緒に走りたいですね、今度は勝ちますよ私!!』

 

彼女ら全員がリベンジを既に決めている事が印象的だったと記者は締めくくっている。この雑誌は自分を取材した出版社の中で一番売れていて、これに影響されてダートを見に行こうという人も多く出始めている。

 

「ダートレースに凄い貢献してるねラン」

「元々ダートにはそれだけの魅力があるんだぜネイチャ、俺はその魅力を発見する切っ掛けになっただけだ」

 

今回の帝王賞を切っ掛けに客層にも大きな変化が全国で起きているとの事、これまで芝しか見に行かなかったファンがダートレースにも足を運ぶようになって、空席が目立っていたレースに大きな活気が生まれた事で、ウマ娘にやる気と感動が生まれて素晴らしいレースを見せて行った。そしてそのレースに魅了されて本当のダートファンになったという好循環が発生しているとの事。

 

「アタシも興味あるけど、そっちはなぁ~……」

「無理に走ろうとしないのが賢明だぜ、俺だってダート適性が最初から高かったわけじゃないし芝とじゃ感覚が余りにも違い過ぎるからな」

 

ネイチャだけに限った話ではないが、カノープスメンバーは他の芝ウマ娘よりかはダートの適性を持っている。合宿で砂浜特訓がダート適性を上げる効果を持っているのである程度の適性は持てている。それでも元々高かったランページと比べると低いが。

 

「んで、ランは次何走るの?」

「札幌記念だな」

「G2だっけ」

 

次走は8月に行われる札幌記念。当然これも確りとした意味がある、札幌レース場の芝は欧州でのコースと同じ芝、所謂洋芝なのである。海外レースの予行練習としてこのレースを利用する。一応このトレセンにも洋芝を使ったコースは理事長がいずれ海外挑戦をするウマ娘が現れるかもしれない!!そんな理由で用意されているので、そこで練習もしているが……この札幌記念で本格的な適性を計ることにする。

 

「それにしても札幌か~……お土産何買おうかな」

「今からお土産買う算段すんな」

「だって北海道だよ?中々行けないし行った時に迷ってたら勿体ないじゃん」

「分からなくはないけどよ……」

 

まあそれはそれでいいか、と思いながらも10倍シンザン鉄を装着したシューズに履き替えて、今日も坂路を駆け上がる事にしよう。

 

「今日は何本?」

「3本ですね」

「……1本だけでも相当キツいんですがその」

「大丈夫です、黒沼さんはミホノブルボンさんに4本を目標にして走らせてますから」

「トレセンの龍マジ半端ねぇ」

 

それを走らせる側も側だが、走る側も側である。取り敢えず自分も走ってくるとしよう……が、そんな時に背後から思いっ切り誰かに抱き着かれた。

 

「ラ~ン今から練習!?ターボもやる!!」

「やるったって俺今から坂路だぞ、それでもやるのか?」

「大丈夫!トレーナーからも坂路を1本って言われてるから!!」

「それならまあ、いいか……」

「じゃあちょっと待ってて~!!」

 

部室へとすっ飛んでいくと直ぐにシューズを履き替えて出て来るのだが、シューズに嵌められている音が普通の蹄鉄よりも重々しいので直ぐにそれがシンザン鉄である事に気付いた。気付けばシンザン鉄はカノープスでは当たり前のトレーニングメニューになりかけている、唯一使ってないのはチケットぐらいだろうか……まあ彼女にも時が来たら渡されるのだろうが……主に今年の冬辺りから。

 

「ねえねえラン!!ターボね、もう直ぐ免許センターでテスト受けに行こうと思うの!!」

「勉強の方は良いのかよ」

「そっちはもう万全!!」

 

スマホに何かの写真を表示させてから突き付けられる、そこには免許の筆記試験の過去問だった。そしてそこには90点以上をキープしている答案が幾つも写されていた。

 

「大したもんだ……実技の方は?」

「療養所で執事のおじいちゃんの車を借りて練習した、合格だって言われたよ」

 

トレセンでの勉学は余り宜しくないと同じクラスのネイチャが言っていたのに、どうして免許の勉強やらに関しては此処まで出来る奴なのだろうか……先生たちからしたら何とも言えない気分になること間違いなしだろう。

 

「それで、ランお勧めの車ってある?ターボそっち全然だから」

「おすすめね~お前どんなのに乗りたいんだ、なんか希望とかあるのか?」

「秋山の兄ちゃんみたいに峠攻めたい!!」

「最初から走り屋志望かよ……メジャーな所で言えばシルビアとかシビックとかか?」

 

そんな話をしながらも二人は坂路へと向かっていくそして―――

 

「ゼェゼェハァハァ……な、何でランは平気そうなの……」

「お前よりもずっと前からシンザン鉄履いて鍛えてるからだよ」

 

坂路の厳しさをその身で体験し、改めてブルボンの凄さを感じるのであった。

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