貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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130話

「それではフローラさん、これでボールキャッチは終わりです。マックイーンさん、テイオーさんも海から上がって下さい、休憩しましょう」

「は、はぁ~い……」

「分かり、ましたわぁ……」

 

海でスクワットを続けていた二人も海から上がると、倒れこむように広げてあるパラソルの下へと潜り込んだ。そこへ続くようにフローラも入っていく。

 

「如何ですか最初のメニューは」

「ス、スクワットってきつかったんだぁ……」

「こういうのはスピカでもやっていたつもりでしたが……」

「難しぃ……」

 

シンプルな意見が飛び出すのも道理、行っているのは基本的な練習ばかりだがシンプル故の難しさというものがある。キャッチは砂浜で足が取られる上に何方に行くかを一瞬で判断しなければいけないので難しい所もある。スクワットの方は絶えず波が起きる海の中で行うので常にバランスを保とうとしなければならない。

 

「ランっていつもこんな練習してたの……?」

「少なくとも去年はこれを毎日、その後にあのタイヤ引きトレーニングなんかをしてましたね」

「こ、これを毎日ですの……?」

 

自分達がたった一日でこんなになってしまっているのに比べて、ランページはこれを毎日し続けていたというのか……改めて彼女の身体を見るとかなり筋肉質で太腿などもかなりガッチリしている。普段が長袖やロングパンツなどで分かりにくいが、あそこまで鍛え込まれている身体なのか……とやや圧倒される。

 

「ライアンとよくトレーニングをしているとは聞いていましたが、あそこまでとは……」

「あれがランの強さの秘密ってこと?」

「秘密という程ではありませんね、基礎を確りとやり続けたからこそ応用が光るだけです」

 

基本的な体力づくりをさせ続けるのがカノープスの無事是名バを体現させるには一番。基礎体力はどんなに成長しても鍛えるに越した事はない、それはリギルもスピカも同じだろうが、カノープスの場合はレベルが上がるにつれてそれに合わせた体力づくりのメニューを作り続けているのも強さの秘訣と言えば秘訣なのかもしれない。

 

「というか、ランってばまだタイヤ引いてるけど……」

「もう直終わりですね」

「ランページさんはどのぐらい引く事になりますの?」

「2時間ですかね」

「2時間……!?」

 

時間を聞いたフローラは本当に此処がカノープスなのかと疑いたくなった、黒沼トレーナーのチームの間違いではないのだろうか。そんな事を考えているのを見透かしたのか、南坂はトレーナーに似ているなと少しだけ東条と重ねて微笑んだ。

 

「ボクも、ボク達もあんな感じの事するの?」

「いえ流石に完全に一緒の事はしません、だってあれはランページさん用に組んだものですので」

「では……」

「これをご用意してあります」

 

後ろに控えさせていた袋を彼女らの前へと落とす、そこには普段チケットが使っている物と同じパワーアンクルが入っている。

 

「カノープスでは普段、脚力と精神力の強化の為にこれらを装着し負荷を上げてトレーニングを行っています。私はまだ皆さんの基礎的な能力を完全に把握している訳ではありませんのでそこを把握する所から始めさせてください。これら鉛の板を入れて砂浜を走って貰います」

「重さはどの位なんですか?」

「まずは片足に250gからです、そこから徐々に上げていく予定です」

「終わったぞぉ~……南ちゃん」

 

其処へタイミングよく終わらせたランページがやって来た、タイヤを引っ張ったまま砂浜へと上がって来た彼女は少しぐったりとしている。

 

「だ、大丈夫なのラン?」

「この位でへばってたら合宿途中で死んじまうよ、今日はまだ海は穏やかで楽なもんだ。荒れてる時なんて何度も何度も波に呑まれるからな、疲れたなんて言ってられねぇよ」

「それでは休憩は必要ありませんね、それではランページさんもこのパワーアンクルを付けて、タイヤを引いて砂浜ダッシュを5セットです」

「うげぇ藪蛇……」

 

と、言いつつも黙ってアンクルに鉛の板を入れていく辺りにお互いに慣れているんだなぁ……というのが分かる。が、ランの手は止まらない。どんどんと鉛の板を挿して行く。そして限界までいれるとそれを足へと付けていく。

 

「うし、こんなもんか」

「ちょっとちょっと、ラン今何枚入れたの?」

「あ~……これ一枚どの位だったっけ?」

「250ですね。それで最大6枚入れられるようになってます」

「という事は、250×6×2だから……片足1.5キロで合計3キロ!?」

 

フローラの言葉を聞いてマックイーンは信じられない!?と口にし、テイオーはワケワカンナイヨー!?と叫んだ。ランページはそれを聞いて南坂にジト目を向ける、暗にアンタがやらせてるシンザン鉄トレーニングって傍から見るとこんな感じなんだぞ、と言いたげなそれをニコやかに笑って受け流す。

 

「さ、流石に不味いってランページさん!!足を痛めますよ!?」

「いやこの位じゃ痛めないわ、その位に鍛えてますから」

 

と力こぶを作りながらも笑うが、心なしか表情はそんな自分に呆れているようにも見えた。

 

「んじゃま、お先~」

 

タイヤを引きずったまま走り出して行くランページ、その足取りはとても1.5キロの重りを付けているとは思えぬほどに軽快でテンポが速かった。

 

「し、信じられませんわ……私たちの6倍の重りとタイヤを引きずっているのにあんなに走れますの……!?」

「それだけの事を数年ずっと続けて来たという事です」

「負けてられないや!!ボクも枚数増やす!!」

「駄目ですよ、それの判断は私の方で行わせて頂きます。それでは最初は波打ち際を3セット、その後は砂浜を3セットと交互にやります」

「……あの人に負けてられない!!」

 

その一言に同意するかのように、名優と帝王もそれに続いた。そして走り出して行く、最初は波打ち際という事もあって柔らかい地面とは違って硬く、走りやすい。そして3セットが終わってから今度は深く乾いた砂浜をゆっくりと走る様にと言われた時に、3人は付けた重りを実感する事になったのであった。

 

「な、何これ急に凄い走りにくくなったぁ!?」

「これが重りの実感、なんですの!?」

「は、走り辛すぎる……!!」

「腿を上げる事を意識しながらゆっくりとですよ~」

 

波打ち際から一転、走りにくい柔らかく深く乾いている砂浜では一歩一歩踏み出して行くだけでも結構疲れは溜まっていく。直ぐに両脚の重さを自覚していき、脚の動きはどんどん鈍っていく。そして砂浜に足を取られやすくなっていく。

 

「もっと確りと足上げろ、そんなんじゃこの先ついて来れないぞ」

 

隣からはタイヤを引いているランページが心配そうな顔をしながらもアドバイスを飛ばしてくる。本当に自分達よりも辛い状態で走っているとは信じられない。

 

「な、何でランは平気そうなのぉ!?」

「まあ慣れてるから」

 

そう言うとまだ速度を上げて自分達を抜き去っていく彼女の姿に自分達も負けていられるかと気合を入れ直すのだが……

 

「キ、キツいよぉ……」

「ハードですわぁ……スピカの合宿メニューもそんな簡単な物ではありませんでしたのに……」

「リギルのだって……」

 

今まで取り組んできた合宿のメニューは何方かと言えば応用や技術などを詰める事が多かったが、カノープスはもっと基本的な物。強いて言えばトレセン学園でもやろうと思えば行えるような物ばかりだ、故に何処か心の中で舐めていたのは否定出来ない。

 

「応用というのは個人の得手不得手が大きく関与しますし、それぞれの応用力や判断力などで言い方が悪いですが誤魔化しが利いてしまいます。ですが基礎的な体力作りではそれらは余り通じません。故にそれらを鍛える事で揺るぎないものを作り上げる事が出来るんです」

 

その言葉が良く染みた瞬間だった。確かに応用ばかり等を気にしていた節はあった、今回の経験はそれを見直す良い切っ掛けにも繋がる事だろう。

 

「それでは次は鉛を1枚ずつ追加しますね」

「うっ……バ、バッチこ~い!!」




基礎は大事(戒め)
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