貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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132話

「随分とテイオー達にキツいメニュー出すじゃないの、データでもまだ搾り取るつもりかい?」

「まさか、私はそこまであくどくはありません。これでも紳士的かつ公明に接していると自負出来る位の優男だと言われています」

「接しているかいないかでいえばいるとは思うが、南ちゃんがあくどいか否かで言われたら俺は即答であくどいと答えると思うぜ」

「手厳しいですね」

 

自らのメニューをこなしつつ、海の中で必死に体を動かし続けているテイオーたちを見つめるランページ。自分の目から見ても彼女たちのメニューはなかなかにきつい、去年の自分と比較しても中々な物だ。

 

「あのメニューは今の彼女らに合わせたものですよ、あのぐらいでないと彼女らの基礎体力を鍛えられないんですよ」

「基礎が無きゃ応用も糞も無いからそりゃな」

 

基礎を重視するカノープスと違ってリギルは基礎の後には技術を教え込むバランス、スピカはそれぞれの個性に特化させる為に基礎をやらせるという風に方向性が異なっている。なので自分の基準を彼女らに押し付けるのは決していい事ではないのだが……それでも南坂としてはもっと基礎を確りとやらせる方がいいという考えがある。

 

「どっちかと言えば才能とかがすげぇって事でおk?」

「大体合ってます。所謂反復練習をして技術を覚えるのではなく、一度聞いて実践するだけで物に出来てしまう類の方々ですから応用のレベルを高めている方針なのでしょう。一を聞いて十を知るです」

「うっへぇっ~そりゃまた、ウチとは違って華やかなこって」

 

確かに凄い、だが其処まで行くと基礎が逆に疎かになっている。そして何かあった時は、基礎が大きく削られていき復帰する時にまたそこから鍛え直して行くので結果的により長い時間を必要となってしまう。技術で肉体的な衰えを補うというのは言葉以上に難しい。体力が落ちてフォームで足取りで疲労を溜まりにくくしてもそこまでカバーできる程万能ではない。

 

「ですが、大きな欠点もありますよ」

「どんな?」

「自分の最大限と超過点を知らないという事です」

 

最初から強く技術的にも優れている為に、自分が何処までやれて何処までが限界なのかを把握出来ていない。だから知らない間に怪我をしてしまうというケースが天才型の選手の大きな欠点とされている。

 

「そうですね、ランページさんは何処まで走れて何処がベストな距離とかは分かりますよね?」

「まあな。俺の場合はマイル中距離がメインでベスト、長距離は……まあ2500辺りがギリじゃねぇかな」

「はい正解です。そういった事を自分で把握するのが選手として優れているという事です、ランページさんは優秀ですね」

「そりゃどうも~ワールドレコード保持者が優秀じゃないとか言われたら俺もう立ち直れない」

 

スピカの方は沖野とウマ娘が頻繁にコミュニケーションを取っているし一緒にメニューを組んでいく方針なのであまり感じないだろうが……リギルの方はあるだろう。トレーナーの方が当人の身体の事を把握している、それは信頼関係としては素晴らしいだろうが結局走るのは選手であるウマ娘本人だ。その本人がそれらを知らずにトレーナーに預け切ってしまうのは危険な事でしかない。

 

「なんというか、南ちゃんって基本的に俺達に委ねるよな。なんか理由でもあんの?」

「単純な事ですよ、ウマ娘のレース選手生命なんてこの先の人生の僅かな時間の一部ですから、何時までも私がお助け出来るわけじゃないので」

「自立しろよってか」

「言い方が悪いですが」

 

ランページは会話をしながらもメニューを確りとこなしている。彼女がやっているのは簡単に言ってしまえば体幹のトレーニング、体幹は鍛えれば鍛える程に筋肉の最大限の力を上げていく。その為のトレーニングを続けている。

 

「にしても体幹って具体的にどの位鍛えられましたか、なんて分かりにくいなぁ……なんかこう、指標になるのってあるのかい?」

「そうですね……片足立ちでボールの上で微動だにしなかったら最高ですかね」

「曲芸しろってか」

「本当の意味で重心が一点にブレずにいたらあれって動かない物ですよ」

「道は長いねぇ……」

 

遠くを見ながらも砂浜の上での片足立ちを継続する、バレエのようなT字バランスをずっと維持し続けるのは結構のキツいのだが……黙々とそれを続けるのであった。

 

「はい次は右足です」

「あいよ~……にしてもよ、これでぶつかり合いに強くなるのかい?どっちかと言えば筋トレとかそっちの方がいいんじゃねぇの?」

「元々ガタイもありますし筋肉もあります、問題なのはそれをうまく使いこなすバランスです」

「ふぅん……」

 

そんな事をし続けていると一人のウマ娘が近づいて来た。彼女は体幹を鍛え続けているランページの姿を見て足から上へと上がり、一直線に伸びている手足へと視線を移していくと大したもんだと言わんばかりの声を上げる。

 

「もうちょっと脚を上げな、垂れて来てるよ」

「あっマジで?よっ……こんなもんかな?」

「スッと上がるもんだねぇ、常日頃から基礎を鍛え続けてるいい証拠だ」

「毎日基礎トレが終わらないとその先が出来ないから―――って何方?」

 

片足立ちのまま身体を捩り、その勢いで向きを変えてみるとそこには少々男っぽいが確りと女性らしい服装を纏っているウマ娘が居た。表情には凛々しさと可憐さが同居している彼女を見ると南坂は頭を下げた。

 

「申し訳ありません、態々お呼びしてしまいまして」

「何、構いはしないよどうせ暇なんだから……それに世にも珍しいあたしの後輩の為だってんだから、力になってやるのが先輩の役目ってもんだろ」

 

南坂はその言葉に改めて頭を下げるのだが、ランページは全く状況を飲み込めない。だが明らかに違う物を感じる、基本的に敬語で相手に礼儀を払う南坂だろうがこの対応は相手に礼節を払い、明らかに相手を上位者だと敬っている。つまり……それ程の相手だという事、タイマーが鳴る音を聞いて身体を戻すのだが……何故か、このウマ娘から視線を戻せなかった。

 

「名前を聞かせて貰えるかい」

「メジロランページ、一応現役無敗のウマ娘で通ってるよ」

「そりゃ凄い、あたしの現役よりも余程活躍してるね。おっしゃ、南坂さん引き受けようじゃないか。こんだけ基礎を重視してる子も今時珍しい、気が合いそうだ」

「宜しくお願い致します」

 

深々と頭を下げる南坂、如何やら今年の合宿の特別ゲスト枠がこのウマ娘らしい。去年のモンスニーやラモーヌのような物か……と思いつつもロードワークに行くよと連れ出されていく、のだが走るのは近くの山だった。

 

「此処を走るのか……」

「ああそうだよ、アスファルトは蹄鉄と相性が悪いからね。ほれ、あんたの蹄鉄は南坂さんから預かって来てるよ」

「そりゃど~も」

 

ドスン!!と落とされたバッグから自分の蹄鉄を見つけるとそれをシューズに打ち込んでいく。天然の坂路を走れという事なのだろうか……兎も角10倍シンザン鉄を打ち付けていくのだが、その最中に目の前のウマ娘も同じように蹄鉄を打っているのだが……

 

「あっいけね」

 

手を滑らせるとドスン!!とそんな音を立てながら蹄鉄が地面へと落ちた。思わずそれに目を疑った、普通の蹄鉄なんかじゃない。いや自分が言えるセリフなんかではないのだがこの音は紛れもないシンザン鉄……しかも音からして自分と同じ10倍のシンザン鉄だ。それを打ち終わると当たり前のように感触を確かめるかのように地面を踏みしめる。

 

「うし、準備出来てるかい?」

「出来たが……それ、10倍シンザン鉄、だよね……?」

「んっ?ああそうか今時はこれを10倍って表現するのか、本当のシンザン鉄ってのはこの重さがデフォなんだよ」

「デ、デフォ!?」

「そう。これが通常、ドノーマル、あんたがこれまで使ってたのは育成用に軽くされて慣れさせる為の物なのさ。つまりこっからが本当のシンザン鉄って訳さね」

「本当のって……あんたまさか……!?」

 

ランページ、分かっちゃった。心の中のマヤがニコやかに笑った、それにウマ娘は口角を持ち上げてサングラスと帽子を脱ぎ捨てるとその正体を明らかにした。そう、自分はこのウマ娘の事を知っている。知っていなければいけない相手なのだ。

 

「5冠、ウマ娘の……シンザン!!?」

「どうぞ宜しく頼むよ御同輩、こんなバカな物を使うのはあたしだけだと思ってたけどね。さあ走ろうじゃないかい、もしもあんたが神のとさえ形容されたあたしに着いて来られたのならば他の奴らなんて更にぶち抜く事間違いなし、世界だって確実に狙える」

 

最強のウマ娘とさえ言われたシンザンの笑みは、厭らしさも卑しさもなく、唯々爽快な物だった。そして走り出したその後ろ背中を追いかけるように、ランページも走り出して行った。

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