貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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135話

沖野は珍しく、自分の所にやって来たターボに指導をしていた。チームの面子的な話をすれば東条や南坂に集中すると思っていたので自分のメニューを選ぶものがいるとも思っていなかった。事実としてスピカメンバーはシービー以外は残っていないし、他から自分の所に来るとは思っていなかった。唯一の想定外だったのがターボがやって来た事だった。

 

「意外だな、スピカ(ウチ)に来るなんて」

「テイオーのトレーナーのチームだもん、テーサツに来たぞ!!」

「熱心だね、折角来てくれたんだから相手したげないとね」

「だな」

 

どんな目的があるにしても、シービーの相手をするつもりだった身としては来てくれた事は嬉しい限りだった。そんなターボの基礎体力などに驚きつつも、ほぼマンツーマンで指導が出来たのは都合が良かったかもしれない、次は砂浜で指導をするかと場所を移した時……妙に騒がしい事に疑問を思った。

 

「なんだ、リギルもカノープスも全員いるじゃねえか、なんかあったのか?」

「ターボ聞いてくる~!!」

「アタシも行くよ、なんか面白そうな波動感じるし」

 

一体なにを感じたのか、シービーはターボと共に事情を把握する為に行ってしまった。そんな背中を見送りながらも自分は自分で他のチームの仕上がりでも……と視線を巡らせている時に一人のウマ娘の身体から目を離せなくなった。

 

「(な、なんだありゃ……!?すげぇ筋肉の張りだ、唯張ってるだけじゃなくて鍛錬に次ぐ鍛錬によって築かれて、時間と共に極限にまで絞られた走る為だけの肉だ……!!)」

 

トレーナーはウマ娘の脚を見る、そして触ればどの程度の実力なのかは完璧に把握できる。それは沖野も同様であり、彼が脚を触るのはそのための確認と脚のコンディションを見る為……だが今回ばかりはそんな事を二の次にして一度でいいからその脚に触れてみたくなった。ゆっくりと近づきながらも、そっとその脚に触れてしまった。

 

「(思った通りにスゲェ……鍛え込まれて何重にも張り巡らされた筋組織、柔軟で頑強な一つな城みたいな筋肉だ……!!こんなの滅多にお目に掛かれるもんじゃねえぞ、一体どんなウマ娘の……)」

「アンタ何やってんのぉ!!!??」

「ブベラァッ!?」

 

絹を裂くかのような悲鳴と共に繰り出された一撃は、見事な弧を描きながらも的確に沖野の右頬を捉えた。振り抜かれた一撃によって身体は浮き上がって数回転しながらも砂浜に落着した。

 

「ガ、ガガガッ……」

「本当に申し訳ありません!!同じトレーナーとして謝罪します!!」

「い、いや……ラン、あれって冗談じゃなかったんだねぇ……完全になんかの断り文句とか定番ギャグとかだとばっかり……」

「だから言ったでしょ。今の中央には変態が居るって」

「いやだって天下の中央トレセンだよ、マジとは思わんじゃん」

 

「あ~あ……間に合わなかったかぁ……」

「これに関しては擁護不可だからね、Mr.トレーナー」

 

 

「本気で寿命が縮んだわよ……」

「全くです……ランページさんが冗談半分とはいえお話をしていてよかった……」

「マジすんませんでした……」

 

右頬に見事な紅葉が出来上がっている沖野は事情を東条と南坂から聞いてどれだけやばい事をしてしまったかの理解した、シンザンには土下座して謝ったが本人も吃驚したが気にしていないと言ってくれたのは本当に有難かった。

 

「だって、ガチのシンザンなんて思う訳ねぇじゃん……」

「それには同意するけど、だからっていきなり触るなって何回言わせるのよ!!」

「一応言っておきますけど東条さんに感謝してくださいね。あの時ランページさんマジのキックのフォーム取ろうとしてましたよ、ガチのライダーキックが飛んでくるところだったんですよ?」

「猛省するっす……」

 

本当なのだろうか……と言いたげな二人にランページが近くで買って来たと思われるカキ氷を三人分を持ってきた。

 

「暑い訳だし頭冷やしたら如何よ、ほいおハナさん」

「……有難う、頂くわ」

「ほい南ちゃん」

「すいません……有難く頂きます」

「おい変態、感謝して喰え」

「……はい」

 

内心イチゴが良かったなぁ……と思いながらも問答無用でブルーハワイ味を差し出された、だが文句言える立場ではないので素直にそれを受けとる。

 

「だとしても本気で肝が冷えたわよ……」

「下手したら連絡を取った私の責任にも繋がりかねませんから今回ばかりは……」

「いや本当に悪かったよ……本当に凄い脚だったから、なんかもう頭がぶっ飛んじまって……」

 

シンザンは今回の事に吃驚こそしたがそこまで気にしていないらしい。二人からしたら驚くべき事で、ウマ娘としてはいきなり命とも言うべき足を触られたのに何で!?とも思ったが、逆に自分がそうさせたと解釈したとの事。

 

「シンさん曰く、今でも現役みたいな脚を作れてる事の証明だってさ。それはそれで嬉しいからチャラにしてやるって」

「いや、マジで凄かったんだよ……シービーとも、テイオーやマックイーンとも全然違う土台からして徹底的に鍛え込まれた証だったんだ……あの感触は一生忘れられねぇだろうなぁ……」

「感動じゃなくて反省しろや変態マッサージ師」

 

今度勝手にやったら問答無用で鉈で頸を刈り取るという有難いお言葉も預かっている。

 

「にしても……如何するかな、これじゃあシンさんも俺を見る訳には行かねぇよなぁ……だから山の方が良いっつったのにさぁ……」

 

視線を向ければ波打ち際で困ったようにしているシンザンがいる、その周囲にはルドルフを筆頭に三チーム全員のウマ娘が居て是非自分と走って欲しいやトレーニングを共にさせて欲しいという懇願で溢れている。彼女自身が一番忌避していた状況に自分から飛び込んだような物だ。

 

「是非お願いしたいんです、貴方の教え、いえ共に走らせて頂くだけで我々にとって万里一空。紛れもなく人生の財産になる筈です」

「だから困るんだよ……ああもうこういうのは苦手なんだって……」

 

ルドルフが代表して交渉しているような状態なのだが……そのルドルフをシンザンは最も苦手とするタイプなので余計に交渉に応じにくい状態になってしまっている。

 

「お~いラン!あんたも助けてくれよ、これじゃあ全然あんたを扱けねぇ!!?」

「こっち振るんじゃねぇよぜってぇ面倒くせぇ事になるっての」

「もうなってんだから皿まで喰え!!」

「大体あんたの軽率な判断のせいじゃねぇか……」

 

シンザンに対して全く敬語を使うつもりも敬う気も皆無な言葉遣いに、周囲は愕然とした。それは東条や南坂も同様だった。確かに実績的な話をすればランページは他の追随を許さぬだろうが……それでも先輩に対して取るべき物では一切ない。

 

「君のその言葉遣いはシンザン殿に対して全くそぐわない。直ぐに正したまえ」

 

真っ先にそれを注意したのがルドルフ、らしいと言えばらしい対応だが……シンザンはそんな高尚なもんじゃねえっつの……と後ろで呟いているとシンザンが物語っている。

 

「そぐわねぇのはアンタなんだよなぁこれが、シンさんはそういう風にガチガチに敬られるのが嫌いなんだよ。気楽にダチと接するみたいなのが一番いいんだよ、ねっシンさん」

「そうしてくれると肩凝らないから助かるよ。こっちは唯でさえ胸で肩が凝りやすいんだ」

「意外とデカいもんな」

「普通にデカいあんたに言われたくねぇよ」

 

本当に長い付き合いのようなやり取りをする二人に困惑が広がる、イクノ達ですら本当に良いのだろうかと思ってしまう。

 

「でもまあなんかやったげてもいいんでない?シンさんのファンみたいなもんなんだし」

「あ~……それを言われたらなぁ……あたしはもう引退してるロートルだ、教えられる事なんてあるなんて思ってない。ランにやってるのだって教えてるっていうかただ一緒に走ってるだけだし、まあ……ロクな事教えられるとは思わんけど―――良いだろう、走りてぇ奴は後でレース場に来な。全員纏めて撫で切りにしてやるよ」

 

その言葉に合宿中で一番の歓声が上がったと言ってもいいだろう。あのシンザンと共に走れる、なんて興奮する話なんだ。ルドルフですら自分を律する事が出来ずに尻尾が激しく動いてしまっている。

 

「感謝します」

「あ~だから一々畏まらんで良いっつの……ラン、さっさと始めるよ!!」

「う~っす」

 

柄じゃないと言わんばかりに離れていくシンザンを見つめるランページにルドルフは頭を下げた。

 

「すまない、私はあの人の事を心から尊敬しているんだ。だから……その敬意と礼節を表すべきだと思ってその……いや、有難う」

「分かってるよ会長さん、あんたが器用じゃないのは分かってる―――楽しめよ、尊敬する偉大な先輩であるシンさんとのレース」

「ああっ!!全力で望み、楽しもうと思う!!」

 

 

「ったく……こんな婆の何処が良いんだか……やっぱ山に引き籠るべきだったか」

「仙人みてぇな事言うなよ、老けるぜ」

「死にたいのかランお前」

「自分で婆って言ったくせになんでだよ!?」

「うっせぇ!!ダチに言われるとスゲェ腹立つんだよ!!!」

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