暦は9月。夏は過ぎ去ったがまだまだ夏の厳しい熱気はこびり付いている、ウマ娘にとっては残暑厳しい秋の始まりをランページは何処か知らん顔をしている。ヒトソウルの影響ゆえか暑さには強い。冷たいドリンクを喉奥に流し込みながらも空を見上げる。
「札幌記念はお疲れ様でした、如何でしたか改めて手応えは」
「んっ~……そこまでの感想はないかな、走りにくさは無いな」
「という事はランページさんの洋芝適性はかなり高いという事ですね」
部室で札幌記念の録画を見ながらの振り返りを行っている、こうしてみると他のウマ娘はスピードが遅いように見られる。
「ってなるとパーマーも結構適性は高めなんかね?」
「そうですね、パーマーさん自身も高い方だと思います」
「ふぅ~ん……俺は山道に比べたら走りやすくて感動したぜな、蹄鉄も普通のだし」
それを言われてしまうと何とも言えなくなってしまうのだが……山の走破訓練で相当に足腰も鍛えられた上に重いバ場にも問題なく順応出来るようになったらしい。これなら欧州でのレースでもあまり変わりのない走りを出来るだろう。
「それではこの先のスケジュールなんですか……予定通りに天皇賞(秋)、そしてエリザベス女王杯にジャパンカップで構いませんか?」
「まあそれでいいと思うぜ、天皇賞は俺だって一応メジロだって所を見せないといけないし。結局シンさんには俺がメジロだって事を最後まで分かって貰えなかったしな」
合宿でお世話になったシンザンは札幌記念に自分が向かうと同時に合宿から離脱、そもそもが自分を鍛える為に南坂が呼んだ人なのでそれは当然と言えば当然なのだが……特にルドルフは残念がったとか……お詫びに今度学園にツレを伴って遊びに行くと約束したとか……そのツレがきっとあの三人でそれで配信に出る気なんだろうなぁ……と分かっているのはランページと南坂だけである。
「それで何ですが―――」
「ああ悪い南ちゃん、ジャパンカップだけどありゃ中止だ」
「中止、いえ今の段階ではまだ申請もしていませんが……有馬記念に向けての休養にあてますか?」
「いや俺はチャンピオンカップに行く」
チャンピオンカップ。それはジャパンカップに並ぶダートの国際競走を開催しよう、という気運が高まった事で設立されたレース。国内ダート最高峰のレースとして名高いレース、元々そちらに出る事も考えてはいたのだが、前年度のジャパンカップ覇者としてジャパンカップへの出走も期待されていたので保留にしていた。
「それは問題ありませんが……何か理由があるのですか?」
「いや何となく、ダート走りたくなっただけ」
「そういう理由ですか……まあまだ日もありますし、気が変わったら言ってくださいね。一応このスケジュールで進めておきまけど」
「今のところ変えるつもりはないけどな~……ちょっち散歩行って来るわ」
「走ったらだめですよ?」
分かってる、そんな意図のウィンクで返事をしつつ部室の外へと歩き出して行く。もう秋だというのに残暑が厳しい、好い加減ウマ娘の肉体にも慣れている筈なのに暑さには強い自分は矢張り可笑しいのかなと思いながらも歩みを続ける。
「あっランページさん!!」
「応、ドラランじゃねえか。何だ、これからランニングか?」
そんな散歩の途中下車、自販機でアイスコーヒーを買おうとしていると先客が居た。それは友人の後輩、ドラグーンランスだった。
「はい、この前の札幌記念お見事でした!!」
「あんがとよ、ドラランの調子はどうよ」
「はい。教官の下で頑張ってます!この前なんて1400mの模擬レースで1着でした!!」
「おおっそりゃやったな、ダチとして嬉しい限りだ」
ドラグーンランスはランページの目から見ても中々の素質を持っている、このまま成長していけば三冠だって射程範囲に収める事が出来るウマ娘に成長出来るとは思うのだが……彼女はブライアンと同期なのだ。何とも間の悪さを感じてしまう、よりによってブライアンとは……。
「なら今度お祝いでもしてやるよ」
「ええっ!?大丈夫ですって、友達の事を祝わないといけないと先輩の事で沢山パーティ開かないといけませんよ」
「おっ生意気だな?」
「いえいえ~先輩程では~」
「やれやれ、会ったばかりの初々しさが抜けちまってまぁ……んじゃまあ、こんな所か」
追加でスポーツドリンクを買うとそれをドラグーンランスへと投げ渡す。
「このまま頑張れよ、負けなしの王者からの激励だ」
「えへへっはい、ドラグーンランス、邁進いたします!!」
そう言いながらも駆け出して行く彼女、途中バクシンオーに何故か絡まれていたりもしていたが彼女も彼女で元気にやれているようで良かったとアイスコーヒーを流し込んでいると自分を目標にして迫ってくる影があった。その影の主を見て逃げ出そうとするが、回り込まれてしまった。
「駄目ですよ、休養中なんですから走らないでください」
「走らせようとした張本人が何言ってやがる……」
迫って来たのはフローラだった。矢張り苦手意識は抜けない、あんな事を言われたら当たり前ではあるのだが……話をしたいといわれたのでそれに応じる事にした。
「次走は天皇賞ですか?」
「メジロ家だからな、好い加減貢献してるって所見せて俗物連中を黙らせてやろうと思ってな」
「(俗物?)無敗の十冠が何を言っているんだか……それで貢献していないなんて考えている人が居たらその人は随分と頭が足りていない事になりますよ」
「何処の世界にも居るもんだと思うけどな……んで、お前は?」
「―――ジャパンカップです」
「……あっ?」
いや、目標とするのは可笑しくはない。だがそれは11月だ、その前の天皇賞やらをすっ飛ばしてそこを目指すというのだろうか。
「おい、天皇賞やらエリザベス女王杯すっ飛ばすのか?」
「合宿で私には基礎体力が足りていない事が自覚出来ましたから、ジャパンカップに向けて身体を作ろうと思うんです」
「……」
言い難い。自分はジャパンカップに出る気はない、それを今此処でハッキリというべきなのだろうか……。
「なあフローラ「チャンピオンカップには出てください」
「―――それも愛とやらか……?」
「愛なんてなくても分かりますよ、貴方の事ですから」
「……」
「だから引かないでくださいってばぁ!!」
「ガチで怖いわ!?お前その内夜這いとかしてこねぇだろうなぁ!!?」
「誰がやるかぁ!!あなた私の事をなんだと思ってんですか!?」
「突然愛とか言い出した変態ウマ娘だよ悪いかぁ!!」
何も言えなくなるのを隠すためにそっぽを向く、自分だって流石にあの物言いは無かったと引いている……だがそれ以外に適切な言葉がないとも思っているのは事実なのだ。それだけは分かって欲しい……愛情にも色々種類があるという事を。
「と、兎に角!!私は、先ず貴方が出したワールドレコードに挑戦します!!そこで私がどれだけ貴方に通じるか、試してみたいんです」
「それだけか?」
「……貴方の走りを拒みたくない、そして貴方だけが強い訳じゃないって事を証明したい」
「あのクソみたいな雑誌の記事、気にしてるのか?」
自分が取材拒否をしている一社が書いた記事、それはメジロランページという強い光によって生まれた影、同世代へと振りまいた呪いという敗北などなど……自分もこれを見つけた時は凄い顔をしていたと南坂に注意されたほどだった。
「俺がなんか言う前に、出版停止になったどころか会社そのものにヘイトが集まりまくってる状態でまともに機能してない。気にするな」
「気にするな、というのは無理な話ですよ。負け続けた同期としては」
気まずそうに顔を背ける、だが直にそれだけではないとフローラは訂正した。
「私達は強い、それを証明したいんです。メジロランページという大きな光を浴びて私は負けないと誓って大きくなった、一緒に大きくなったって胸を張って言いたい。だから私はジャパンカップに勝って貴方が守った誇りを守ります」
「簡単なレースにはならないぜ」
「分かってます、だからこそやる価値がある―――ラン、見ててください私のレースを」
そう言い残し、フローラは去っていった。そんな背中を追いかけながらもランページはアイスコーヒーを飲み干すとゴミ箱へと缶を投げる。見事に入ったそれを見届けると立ち上がる。
「メジロランページだけが強い?全く節穴だな、フローラだってイクノだって、皆強いじゃねぇか」