あくる日。ランページは理事長からの呼び出しを受けた。まだ札幌記念からの休養中だったので時間もあったので直ぐに顔を出した、そこでされたのは間もなくに迫っているトレセン学園毎年恒例のファン感謝祭、聖蹄祭についての事だった。
「つっても基本それぞれだったり、クラスだったり、チームだったりで出し物やるんでしょ?」
「ウム。リギルなどは喫茶店、スピカは……お化け屋敷だったりと様々な催しを行っている」
「だとしたらウチ何やんだろ……」
「カノープスは……コスプレ喫茶だそうですよ」
「コスプレって俺もなんか着なきゃいけねぇのかなぁ……せめて男物だと助かるんだが……」
確かにターボ辺りはやりたがるだろうし、それにチケットやタンホイザが乗って、イクノがブーストを掛けつつライスも楽しそうだと賛成、ネイチャはやれやれな感じで同意といった感じだろうか……というか、何故その場に自分が居なかったのだろうか。
「んで如何言う喫茶なのそれ」
「所謂勝負服シャッフルですね」
「あ~成程、そういう系か」
ネイチャがイクノの服を着たり、ライスがターボの服を着たりするといった感じだろうか……たづなさんから企画書を貰って見てみると、概ね正解だったのだが、如何やら遊びに来てくれたお客さんにも来てみたい勝負服を試着して貰おうというものらしい。その状態で記念撮影を出来たりするらしく、これはウマ娘にとっても中々に良いサービスだ。
「でもそのサービスで勝負服が俺、イクノ、ネイチャにターボ……今年デビューでG1チャレンジを控えてるライスやタンホイザ入れても6着しかないのになんか物足りなくないと思うんだけど」
「その点は心配無用!私が各ウマ娘の勝負服を用意しておいた!!無論、コスプレという名目なので本物と違って普通の素材を使った物ではある、という注意点が付くが!!」
「それ、幾らしたんすか?」
「フフフッ理事長の財布を舐めないで頂こう―――ミ゜」
何故か苛立っているハテナが理事長の頭部に自慢のぬこパンチを炸裂させると今度は自分の頭に上に乗って来た。痛みに悶絶している理事長を尻目にたづなさんに小声で尋ねる。
「何やったんすか今度は」
「実は……例えコスプレだとしても勝負服云々の事ととなると使用料などでお高めになってしまいまして……でも理事長はそれを自分のポケットマネーで賄ったんです。その影響でハテナちゃんのご飯のグレードが……」
「あ~……」
「ハ、ハテナその件については謝ったではないか……それに聖蹄祭後はトレセン学園で使用するという事で一部料金は返って来た、ご飯のグレードは戻したのだから……」
それでも少しの間グレードが落ちた事にハテナはお怒りらしい。食べ物の恨みは恐ろしいとはよく言ったもんである。
「んで俺を呼んだんすか?この流れだとカノープスの出し物が不味いとかですか」
「いや違う―――是非、生配信をやって貰いたい!!」
「ああ、別にいいですよ。何ならお婆様達も呼びます?」
「いやいやいやいやいやいやいや!!?気軽にシンボリとメジロの大御所を呼ばれるのは困るぞ!!?」
「ああ大丈夫、俺がスーちゃんに交渉しますから」
「そうではなくこっちが困るといっているんだ!!」
「ああそっちか」
そんなこんなで聖蹄祭当日の生配信は決定するのだが……問題は当日は何をするかという事。基本自分が配信を勢いでやっているとはいえ、その勢いにだって始まりの流れが存在する。何をモチベーションにして始めるかという問題もある、ある程度中身を決め打ちしておかないといけない……まあ決めても大概反れるのが自分流だが。
「……まあ適当でいいか、ちょっくらインプ転がしながら考えるとするか」
兎も角思考をいったんリセットして、私服に着替えてインプレッサへと乗り込む。最近は学園の外には自分に突撃取材で何とかネタを取ろうとする連中が多いので、車でないと捕まってしまう。これも有名税なので致し方ないという奴だろうが……。
「ザマァみさらせ、残念無念また来週ってね―――これ、ぜってぇ古いよな」
トレセン学園を出る際に当然声を掛けられた、が、帽子を被った上にサングラスを掛けて早口でラテン語を喋ったら相手は驚いてもう大丈夫だと言っていた。英語は分かるがラテン語に通じる日本人なんてそうはいない、向こうからすれば日本人か外人、という余りに大雑把な括りで区別されているのだから。英語どころかラテン語なんて対応出来る訳がないのである。
「んっ~……良い天気だ……」
コンビニで買った珈琲を飲みつつ、空を見上げるランページ。合宿明けなのも手伝って余計に解放感を感じてしまう、思えば今年も後僅かで出られるレースも数少ない。そうなると必然的に自分の未来も見えて来る。
「さてと……」
珈琲を飲み干すと再びドライブを続けようかな、と乗り込んだ。今度は適当な所で食事にでもするかなぁ……と思っていると携帯が鳴った。専用のスタンドに入れて通話をONにする。
「はい」
『ランページかい、あたしだよ』
「なんだシンさんっすか」
『何だとは何だ、折角電話してやったってのに』
通話してきたのはシンザンだった。そして自分はもう少し通話相手を確認してから出る癖を付けた方が良いなと思った。これも社畜の定めか……。
「すんません今運転中っす、何用ですか?」
『そりゃ悪かった、んじゃまあ手短に済ませようかね。実はTTGの連中と連絡がついてね、是非あんたと会いたいってさ』
「それって、喜んでいいっすよね……」
『勿論に決まってるだろ、天下のTTGが会ってみたいなんて滅多なこと無いんだから』
そう言われてもなぁ……自分はこれまで結構レジェンドと会っているせいでその辺りの感覚が完全にマヒしているので素直に喜んでいいのか分からないのである。後シンプルにこうして話しているウマ娘だってとんでもない存在だからというのもある。
「あ~まあ、うん喜んどきます。それでその時は配信してくれって事ですよね」
『そそ、んで近々の聖蹄祭、その時にやるんだろ配信。その時に出してくれないかい』
「え"っ」
『いやぁあの理事長ならあんたにそう頼むと思った訳さ、んであんたもそれは断らないと思ったんだよ。どうせやるなら派手にやった方が楽しいじゃないか』
暗に別の日にしようとしていたのに最初から狙いを付けられていたという事なのか……これは、Wお婆様を呼ぶよりも遥かにやばい状況なのではないか。
「あ~いや、俺もお婆様を呼びますかって言ったんですけど断られましてね」
『そりゃ多分あっちはあっちで忙しい立場だからだろうね。安心しなよ、許可はこっちで取ってやるから。あんたは配信の準備をしといてくれるだけで良いから、んじゃ運転中に悪かった、それじゃあ』
「ああっちょっとシンさん!?」
その時には既に通話は切られていた。一旦車を近場のコンビニの駐車場に入れ、思いっ切り頭を抱える。
「やっべぇよこれ、如何しよう……あの人の事だから絶対にやるって聞かないだろうし……というか配信にあの人とTTG出たらもうURA発狂するんじゃねぇのかな……とりま理事長に連絡、した方が良いよな……」
正直言って気が進まない、重くなった手がスマホに伸びない。溜息をつき、取り敢えず珈琲でも飲んで落ち着こうと買って来て戻って来た時、スマホに凄い数の着信が来ていた。履歴を見ると全て理事長とたづなさんだった。より、腕と指が重くなった。
「……はい」
『緊急!!シ、シンザン殿が聖蹄祭に来たいという連絡があった!!そしてTTGの三人もだ、しかも君の配信に出たいから許可を取れと言われたのだが一体何がどうなったらこのような事になるのか説明を要求する!!』
「……俺が知りてぇ~……」
同時に思った。絶対にこのチャンネルは誰かに引き継がせて苦労を背負わせてやると。