貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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145話

無理無茶無謀の三種の神器、正しく無茶苦茶なトライフォースの発狂逃げ戦術で勝ち続けた狂気の逃げ馬、それがカブラヤオー。この馬が何故狂気の逃げ馬と言われるのか、それは余りにも逃げのペースが可笑しいのである。

 

特に彼が制した日本ダービーでの1000mタイムは前半1000m58秒6、1200m1分11秒8という化物タイム*1、それによって前代未聞の日本ダービー逃げ切り勝ちをやってのけた。カブラヤオーの強さはシンボリルドルフの騎手を務め、ルドルフならばディープインパクトにも勝てると公言した岡部 幸雄騎手ですら

 

「ダービーの時のカブラヤオー相手にはルドルフでも勝てたか分からない」

 

そう断言する程だった。ルドルフに心底惚れ込み、彼こそが最強だと公言し続ける程の騎手が勝てるか分からないと公言する程にカブラヤオーの脚力は卓越していたのだろう。

 

「取り敢えず、此処で休憩してください。此処はカノープスの部室何であの変態も入って来る事はないと思いますから」

「すいませんお手数おかけしちゃって……ああっもっと勇気出せるようにならないといけないのに……」

「ったく相変わらずだねぇ……」

 

一先ず、沖野と別れてカブラヤオーを休ませる為に部室へとやって来た。喫茶の方に皆いるので基本、部室は無人。それを有効に活用させて貰う事にする。

 

「……お手数じゃなければお茶をお願いします」

「麦茶ですか?それとも温かい緑茶?」

「あっ途中でどら焼きを買いましたので出来れば温かい緑茶を……」

「うっす、シンさんは?」

「あたしも同じで」

 

リクエストを聞いてポットに水を入れて電源を入れる。しかしこれが本当にレジェンドウマ娘なのか?と首を傾げたくなる程度にはカブラヤオーには覇気はなかった。それもその筈、カブラヤオーの逃げ戦術はその臆病さから来ているのだ。

 

史実のカブラヤオーは幼少期に他の馬に蹴られたトラウマで馬群、ないしは馬恐怖症になっていた。なのでその恐怖心から身体のリミッターを外して異常な速度で逃げられていたとされている。それはウマ娘でも変わらないようで酷く臆病な性格をしている。

 

「にしてもあんた来てたんだねぇ、性格からして絶対に来ないと思ってたのに」

「ステージには……でも聖蹄祭は行きたかったので……」

「出来れば俺だって行きたくなかったわ、あんなとんでもねぇ生配信……」

 

スマホを付けてみれば、既にネットニュースに纏められていたりウマッターではトレンドになっていたり、どっかのサーバーが落ちたという話まである。普通の配信をやる筈だったのにシンザンのお陰でとんでもない大事件に発展してしまった、というかあれはある種のサイバーテロなのではないだろうか。

 

「すいません、本当は顔を出す位はするのが礼儀なんだとは思いますけど、あれだけの大人数の前だと流石に脚が……震えちゃって、怖くなっちゃって逃げ出したくなっちゃって……」

「いやまああんだけの人がいる上にステージに立ってる面子がホントに可笑しいですもんね……TTGがいるだけでもおかしいのにシンさんにWお婆様ですからね……」

「ううっ分かっていてだけ有難いです……あぁっ温かいお茶が美味しぃ……」

 

何というか、本当に穏やか且つ臆病な気質をしているウマ娘だ。ウイニングライブも大変だったのではないだろうか……だがその臆病さが爆発的な逃げ足を生み出していたと思うと驚きを隠せない。

 

「まあその事はいいさね、カブラヤオーあんたさ今度ウチのランと併走してやってくれないかい?」

「併走を、ですか?」

 

首を傾げながらもカブラヤオーは繰り返した。

 

「ウチのって……俺はいつシンさんの配下になったんすか」

「いいじゃないか似たようなもんなんだから」

「いや全然違う……」

「まあいいじゃないか、あんただって一応走り込んではいるんだろう?」

「ええまあ……一応走れると言えば走れますけど……」

 

それでも現役を退いてそれなりに経ってしまう、そんな自分と現役で走り続けているランページではかなりの差があるのでは……と思うのだが、その位だったらいいかな……とカブラヤオーは承諾する。

 

「純粋に併走やって勝て、という訳じゃないんだ。走りを見てやって欲しいんだよ、大逃げの先達として」

「先達なんてそんな大それた立場じゃありませんよ私……でも、お役に立てるなら……」

「良いんですか?」

「はい、凄いキラキラしてましたから」

 

これはまた、ネイチャみたいな言い回しをするなぁ……と思っているとそのまま言葉が続けられた。

 

「私は本当に怖がりです、でも走る事は嫌いじゃなかった……でも誰かと一緒に走ると絶対に恐怖が出ちゃって、そんな自分が嫌で、変わりたくても変われなくて……そんな私でも誰かの為に、夢の為になれるなら走れます」

「誰かの為に、か……」

「そ、それでも凄く怖くてそこから逃げちゃってるだけなんですけどね……」

「だからこそあんな走りが出来るんじゃないかい、なんだって極めちまえば凄いもんさね」

 

だが彼女と共に走れるというのはこれ以上ない貴重な経験になる筈だ、こういう機会を与えてくれる事に関してはシンザンに感謝をしなければならないだろう。

 

「カブラヤオーさん、折角ですから一緒に聖蹄祭を楽しみましょう。色んな所案内しますよ」

「えっと、カブちゃんでいいです。皆にそう呼ばれたので……そっちの方が気が楽ですので」

「それじゃあ俺の事はランで結構です」

「んじゃ何処から回ろうかね、どっかで美味い飯でも食えればいいんだが」

 

ランページはその後、シンザンとカブラヤオーと共に聖蹄祭を楽しむ為に回るのであった。

 

「おっ飛び込みレースをやるんだとさ。トレセン学園じゃなくてもOKなんだってさ、カブ、あんた出て来なよ」

「ふぇっ!?あ、あの走るのはまた後日じゃなかったんですか!?」

「情けない所しか見せてないんだから、ここらへんで先輩らしいところを見せて来いっての!!」

「ふぇぇぇぇっランちゃん助けてください~!!?」

 

強引にエントリーさせられてしまった飛び込みレース、OGだろうがトレセン学園生でなくても関係なくに出られるフリースタイル形式のレースに出る事になってしまったカブラヤオー。流石に如何かとも思ったのだが……

 

『こ、これはっ!!4番凄まじい脚だ!!逃げる逃げる!!1000mの通過タイムは―――59秒ジャスト!!』

 

シンザンと同じく、本当に引退しているんだよな……といいたくなるような爆速の超大逃げを披露。現役のトレセン学園生もいたのにそれすらブッちぎって大差勝ちをしてしまった。余りにも凄まじい大逃げにそれを見ていた観客たちは総立ちで拍手喝采、是非ともインタビューをしたいと実況役のウマ娘が迫ったのだが……

 

「こ、こここっこれ以上は勘弁してくださいぃ~!!!」

 

と逃げ出してしまった。あれだけ走った後だというのに脚色は全く衰える事も無く、逃げ去ってしまった。何とかその後を追いかけて捕まえると、彼女をなだめながらなんとか聖蹄祭巡りを再開できたのだった。

*1
現代換算だと、秋天のサイレンススズカと同じペースで逃げていた事になる。

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