貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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146話

「ハァハァハァ……お、お姉様凄い速い……」

「これでも現役シニアだぜ、ジュニアに簡単に負けてやる程まだ衰えちゃいないぜ」

 

聖蹄祭も終わり、またいつもの日常へと逆戻りしたトレセン学園で今日もウマ娘達は走り続ける。そんな中の一人、ランページはチームメイトであるライスの併走に付き合っていた。ライスもライスでジュニア級として一級品と言っていい程の走りをするが流石にランページにその刃が届くほどではない。

 

「流石ランページさんですね、お見事な走りでした」

「いやライスもライスで大した気迫だった、精神の切り替え、ターボ流に言えばライススイッチだっけかな。中々に機能してる、ありゃ他のウマ娘からしたらキチぃぜ?」

 

南坂からドリンクを受け取りながらもライスの走りを自分なりの分析したものを伝える。ライススイッチは文字通りスイッチを押す事で精神性を切り替える、ライスの内に秘める闘争心を剥き出しにしてそれらに全ての集中力を注ぎ込んでそれ以外の事など全く考えない物。その時にライスは全く別の命へと変わる。共に走って分かったが、凄まじい物だった。

 

「突然殺気にも似た威圧感が直ぐ傍に出現する、否が応でも意識しちまうよ。プレッシャーが半端じゃない」

「その割には、ランページさんは平気そうな顔して走ってましたよね?」

「こちとら一回行くとこまで行ってんだぜ?今更それを感じても何も思わんよ」

 

それを言われると何も言えなくなってしまうから勘弁してほしい……相手の精神を飲み込んで正常な力を出せなくするのがライススイッチの本領、だが様々な意味で経験が豊富過ぎるランページにはそれは通じない。今回は使わなかったが、彼女自身の領域を使ったら今度はライスがそれを味わう事になってまともに走る事すら出来なくなっていた事だろう。

 

「ンな事言ったら、タンホイザの方だって頑張ってるじゃねえか」

「はい。タンホイザさんの方も順調です」

 

「うおおおおおっ!!負けないぞぉぉ!!!」

「それは此方も同じです!!」

 

視線の先ではターフを疾走するタンホイザとイクノの姿がある。イクノも同じように併走に付き合っているのだが、イクノのハイペースにタンホイザは付いて行っている。ターボ曰く、マチタンフォームでイクノペースに対抗している。ランページの走りとイクノのペースと自信のスタミナをバランスよく配分している。

 

「レベルアップしてるなぁマチタンフォーム」

「はい。状況に応じてフォームの調整を出来るようになってます」

「泣き所が順調に無くなっていってやがるなぁ……おっ~怖い怖い、シンプルに当たりたくない相手になっていくねぇ」

 

マチタンフォームの弱点はバランス良くチームメンバーの要素を取り入れている事。全体のアベレージが高いので対応力こそ高いが、突出したものが無いので特化した相手、つまる所スピカのような個性を集中的に伸ばす相手を苦手とする。そこで彼女は状況に応じて適切な能力を選択、伸ばしてそれに対抗する手段を身に着け始めている。

 

イクノのハイペースの場合は、自信のあるスタミナをベースにしてそこにランページの走りとイクノの揺るぎないペースに重点を置いた走りをする。状況に応じて自由に特化させる方法を身に付けつつある。

 

「うおおおおおっっ!!!」

「その調子でターボに着いてこぉおい!!」

「はぁぁぁいっっ!!」

「気を抜くとあたしが抜いちゃうから頑張りなよ!!」

「はぁぁぁいっ!!」

 

最近漸くシンザン鉄(1.5倍)を渡されて気合が入りまくっているチケットを従えながらも最後のティアラである秋華賞に向けて万全の調整をしようと努力するターボ、同じく菊花賞での勝利を目指すネイチャとカノープス全体に気合が入りまくっている。それは、ランページも同じ事。

 

「んで俺の走りは如何だったよ、カブッちゃん」

「主、主観で良いんですよね?」

「勿論です。意見は数が多い方が良いですから」

 

カブラヤオー、愛称カブッちゃん。今回は自分の走りを見る為に態々来てくれた、狂気の逃げウマ娘と言われる彼女から見た自分の走りというのはどういうものになるのだろうか。その辺りは正直な話楽しみ。

 

「フォームは無駄がなくて理想的、それを活かす技術も持ってる……私の時代と違って色んな物が充実してるんだなぁ……っていうのが素直な感想、ですかね」

「ハハッあんたにそう言われると自信出るよ」

「だからやる事があるとすれば……逃げる事、ですかね。一心不乱に」

 

フォームも技術も完成されている、ならばあとやる事は肉体面と精神面を更に強化する事位しかない。それらを総合して自分の走りに添加して更に向上を図る、月並みではあるがカブラヤオーから言えるのはこの程度だった。

 

「やっぱそうなるよなぁ……」

「……あっ、一つあったかも」

「おっマジで?」

「うん。私、トレーナーさんから言われた事があったの」

 

それは自分がダービーに出走する時に言われた言葉だった、それは励ましの言葉でも慰めでもなく、真実であると前置きされた上で言われた言葉だった。

 

「私の長所は心肺機能と此処一番の勝負根性、後者は絶対に違うと思うんだけど……」

「心肺機能か……」

 

実際、カブラヤオーは1万頭に1頭と言われる程の強い心臓を持っていたとも言われる。それに加えて極めて頑強な脚、これらがなければあの大逃げの説明が付かないとさえ言われている。ランページに後欲しい物と言われたら強い心肺機能……位しかカブラヤオーは思い付かなかった。

 

「一応シンさんに言われてマスク付けたままで走れとは言われてたが……正解だったって事かな」

「多分……体力方面はほぼ完ぺきだと思う、だから鍛えるべきと言ったらそこかな……私だったらあのぐらいだったら息とか全然乱れないし……」

「相手がライスだったけど、それでも俺2000を逃げてたんだけど……」

「多分、今でも乱れない、かな」

「おい聞いたか南ちゃんこんな大人しそうな面して凶悪な事言ってんぞ」

「きょ、凶悪なんて言わないでくださぃ……」

 

苦笑する南坂だが、実際問題かなり凶悪。心肺機能は高ければ高い程に持久力が上がる、カブラヤオーの心肺の強さが良く分かる一言だ。大逃げというスタイルが基本なのでスタミナあるつもりでいたが……それでもカブラヤオーからすればまだまだらしい。

 

「もっともっとやらんと行けないって事か……上等だ、カブッちゃんが吃驚する位に鍛え込んでやろうじゃねえか」

「もう十分な位に吃驚はしてるんですけど……」

「それ以上!!」

「こ、これ以上となると私どうなるか分かりませんよぉ……」

 

兎も角、シンザン鉄とマスクを装着した状態で坂路へと向かう。合宿もこの状態で山を走っていたのだ、今更坂路位で泣き言は吐けない。天皇賞はもうすぐそこまで迫ってきているのだ。似合わないと言われようが、メジロのウマ娘の端くれとして立派な走りを見せなければならない。マックイーンやライアンもそのレースには出走する。

 

「負けねぇよ」

 

ただ一言に凝縮された覚悟、それを胸に抱きながらも重々しい音を立てながらも坂路を駆け上がっていく。自分は挑戦者、自分が挑むは全て。どんな相手だろうと、突き放すのみだ。

 

「良いんですかね、アドバイスらしい事出来てなかったような……」

「いえ、いい刺激を与えてくれました。これでランページさんは更に伸びます。そして彼女がまたカノープスを刺激する、そしてそれを受けて成長した皆さんがまたランページさんを、そんな連鎖が産まれていくのがうちのチームです」

「素敵な、チームですね」

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