「ラ、ラララッランページさん!!」「ラン~!!!」
あくる日の事、天皇賞に向けて調整を行っている最中に突然やってきたマックイーンとライアンの同じメジロ家の二人。何やら焦っているようなで何事かと思いながら其方へと向かった。
「ンだよメジロの御令嬢が二人して……数量限定の特別パフェとプロテインが売り切れてたとかか?」
「…そのような事では、ありませんわ!!」
「何でちょっと詰まった」
「じゃなくてこれ!!」
そう言いながら見せつけられたのは新聞だった。そこには一面を使ってデカデカと次の秋天の事について書かれているのだが……天皇皇后両陛下がお越しになって天覧レースになる事が書かれてあった。
「お婆様も驚きを隠せておりませんでしたわ!!声が震えておりましたもの!!」
「ああもうどうしよう……お婆様が来る以上にとんでもない事になっちゃったよ次の天皇賞!!」
「ああ、知ってるけど」
「「知ってるのになんでそんなに冷静なの!!?」」
シレッと知っていると返すランページにツッコミを入れる。自分達は此処まで取乱しているというのになんで肝心要のランページは此処まで冷静なのか、新聞にもランページのレースを生で見たいと書かれているから伝えに来たというのに……その気持ちは分かるのだが、もうその段階は既に終わっているので今更驚けない。
「だって俺は直接理事長から聞かされたしなぁ……」
「そ、そうなんですの?確かによくよく考えてみればお話が行くのも道理ですわね……」
「でも何でそんな冷静なの!?」
「冷静じゃねえよ、驚きが一周回って呆れてるだけだ」
だが何時までも驚きというものは持続しない、その内に馴染んで別の物に変わっていくのだ。そんな自分に呆れつつも冷静でいられている事を褒めながら練習に励んでいるのである。
「何時までも緊張してんじゃねえよ、天皇陛下の御前でするレースで斜行とかしてみろ。恥なんて事じゃ済まされねぇぞ」
「……なんか別の意味で怖くなってきた……」
「わ、私もですわ……何なんですのこの恐怖感は」
気持ちは分かる。特に自分達はメジロ家という名家の令嬢だ、そんな自分がそんな舞台で大ポカをやらかしてしまったら色々と不味い事になってしまう。
「だから練習するんだよ、不安なら身体を鍛えろ、技術を磨け、本番に存分に力を出せるように努力すりゃ良いんだよ」
「正論だけど……なんかランがそこまで冷静なのは納得いかないなぁ~アタシ達だけが大騒ぎしてるみたいじゃん」
「生憎こっちはお前らみたいに繊細な御令嬢じゃないんでね」
自分は自分だ、メジロという冠を背負っているとしてもランページという自分をブレさせるつもりは毛頭ない。人生というものは時には諦観と許容も必要なのである。
「普段通りやれば良いんだよ、普段通りに」
「それが一番難しいと思うのですが……」
「じゃああれだ、頭ン中空っぽにして陛下の事を考えないようにしておく」
「それが一番ベターな気がして来たよ……ラモーヌさんとかだって緊張しているのに本当にランって大物だよぉ……」
その言葉を聞いてそう言えばと昨日の事を思い出した、ベッドに入る時に何やらラモーヌが何かの資料のような物を見ていた気がする、それを見て何やら思い詰めているというか重い溜息を漏らしていた気がする……何かあったのだろうか。
「……実は、お婆様とラモーヌお姉様は天皇陛下方と共に観覧するらしいのですわ……」
「なんかランのお話とか色々聞いてみたいらしくてさ……それで今お婆様はスケジュールの調整で大忙しだし」
「それでちゃん先輩はちゃん先輩で憂鬱な顔してるって訳か……」
あの二人ならば目上の相手と会話をするなんてやり慣れている筈だが、相手が相手だ。何せ天皇、幾ら名家とはいえば絶対に交差する事はあり得ない至上の星と空間を共にしなくてはならない、あのラモーヌが溜息をするのも納得だろう。
「何かレース後辺りに俺と南ちゃんも呼ばれそうで嫌だなぁ……」
「十分にあり得るお話ですわね」
「もしそうなったら全力で逃げるわ」
「マジで勘弁して」
「冗談だっつの」
もしもそうなったら覚悟を決めて歓談に臨ませて貰うつもりでいる。まあ何を話せばいいのか全く思いつかないが……それこそその状況になってみなければわからないだろう。そんな時に携帯に連絡が入った。
「んっ悪い……あれ、レディからじゃねえか」
「レディさんとなると……帝王賞などを一緒に走られた?」
「うん、この前の聖蹄祭にも来てくれてた」
一体何の用事だろうかと思いながらも通話ボタンを押してみる事にした。
「はいもしもし」
『ランページさん、今大丈夫ですか?』
「全然大丈夫だけど一体如何したよ」
『天覧レースの事、御存じですか?』
「モチ」
『ですよね……なんか凄い事になってますね』
何というかレディの言葉も酷く重い、まあそりゃ当然かと思いながらもその事を心配して電話をしてくれたのだろうか、だが実際は全く違った。
『実は私も天皇賞に出る事になりまして』
「えっマジで?」
『マジです。貴方ほどではありませんが私も二刀流ではあるんです』
基本ダートではあるがそれでも芝を走る事はあるらしく今回はG1の舞台に思い切って出走願を出した所、ランページやマックイーン、ライアンも出走するのでそれを恐れて出走取り消しを行ったウマ娘の所に入る事が出来たとの事。
「にしてもお前スゲェな、こっちなんて件のマックイーンとライアンなんて天皇が来るって聞いてもうビビってるのによ」
『私も驚いていない訳ではありませんが……私には関係ない事です、私にとって大切なのは天皇賞(秋)が貴方と勝負出来るレースという事です。帝王賞と同じG1という最高の舞台で貴方と走る、しかも今度は私が貴方の領域で挑戦する側―――こんなに滾る事が他にありますか?』
「そういう気骨、好きだぜ」
こういう所は矢張りダートの方が上だとランページは思う、強い相手が出てきたら回避するというのは判断としては正しいし可笑しくはない。それならば他のレースに……というのはあり。だが、自分としてはこういう風に戦いを挑んでこられた方が嬉しいし気持ちも昂るというものだ。
『待っていなさい芝の絶対女王、貴方の支配領域を砂塵の騎士が切り裂いて見せましょう』
「上等じゃねえか。来るなら来やがれ、返り討ちだ」
まさかレディと芝を走れるとは思いもしなかった。余りにも滾る言葉を貰ってしまったランページは武者震いを抑えきれなくなった、もう自分の中で天覧レースやら天皇が来るなんてもうどうでもよくなった。自分に向かって来る騎士を迎え撃つために自分を高める。
「ライアン、俺ゃもう天覧レースなんてどうでもよくなった。俺は唯、自分の持てる全てを出す。お前達もそのつもりで来い、でなきゃ―――おいてくぜ!!」
そう言いながらも一気に加速してターフを駆け出して行く、シンザン鉄を外しての疾走なので普段以上にスピードに乗っているランページ。それを見て二人は喉を鳴らした、そうだ誰が来るだのと気にする前に自分達はメジロのウマ娘で、メジロの悲願である天皇賞を制覇する為に走ればいい。その為にランページに勝つ、それだけに終始しよう。
「教えられちゃったね」
「そうですわね、その答えを下さったランページさんの為にも今の私たちにも出来る事を致しましょう」
「ルドルフ、貴方も天覧レースに来てくれないかしら」
「ラモーヌ……いくら君の頼みでもそれは―――」
「大丈夫、お婆様が貴方のお婆様の許可は得てるわ」
「……よし、ならばシリウスも一緒なら行こう」
「な、なんだ、なんか寒気が……」
レディことレディセイバーの元ネタはミスタートウジン。1991年の秋天に出走してます。