貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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154話

『秋華賞に続いてのカノープスの逃げ!だがそれを行うのはナイスネイチャ、これまで彼女が逃げ戦法を取った事はありません。一体どのような意図が隠されているのでしょうか!?』

 

「まさかすぎる展開ね……まさかナイスネイチャが逃げを取るなんて」

 

菊花賞の中継を観戦している東条も意外そうな顔を浮かべていた。奇襲目的で差し戦法を逃げに変えるというのは良くある話ではあるがそれをG1の舞台で行うという事は中々ない。一体どんな狙いがあるのだろうか……。

 

「最後の一冠、一体誰がものにするのかしら」

 

 

秋晴れの下で行われる菊舞台、菊花賞。スタートから波乱の展開となったこのレース、先頭を取ったのはカノープスのネイチャ。本来差しで中盤から一気に攻めるロングスパートを取らずに敢えての逃げ。それを見た他のウマ娘達は困惑の表情を見せながらも付け焼き刃の逃げなんて通用するはずがないと自らのレースに徹しつつも、1番人気のテイオーへのマークを緩めない。

 

「テイオーへのマークが集中してるな……分かっちゃいた事だが、このプレッシャーは相当な筈だがテイオーの奴、飄々としてるな」

「今日までミッチリ扱いたからね」

 

沖野が思わずテイオーの余裕っぷりに驚いていると、隣からシービーがVサイン。今日まで菊花賞を想定して練習をして来たのだからその成果が出ているのだろうと答える。

 

「タイシンと一緒にプレッシャー掛けまくったからね、相当に強くなってる筈だよ」

「いや想定以上に強くなってる、ありがとな」

「別に……先輩に言われたから手伝っただけだし」

 

そっぽを向きつつもチームメイトの為に協力してくれたタイシンにも感謝を捧げておく。そしてレースは淀の急坂を間もなく下るという所、この坂をシービーは加速に使うというそれまでのタブーを破って勝利を収めた。流石にこの坂では全体的にスピードは落ちるのだが、ネイチャはそれ程緩めず、そして下りでも緩めず、理想的な一定を貫き通したペースで駆け抜ける。

 

「……あの子強いね、足腰に相当なパワーがある」

「如何いう事ですの?」

「ネイチャは坂を登る時も下りる時も一定してペースが乱れてねぇ、ありゃ相当な力があるって証拠だ。下るときは自分の体重がもろに脚に来る、だから下る時にペースを保てるってのは足腰が強い証拠だ。間違いない、合宿の時は濁されたが確実にカノープスはシンザン鉄を取り入れて練習してやがる」

 

その筆頭がランページだ。異常とも言える瞬発力とシンザン鉄で鍛え込まれたパワー、それによって瞬間的な加速は途轍もない。流石に彼女の程ではないだろうが、カノープスはシンザン鉄を採用して強くなったのだろう。

 

『さあ間もなくスタンド前に差し掛かってまいりました、スタンドからは大歓声が響き渡っております。先頭を行きますはナイスネイチャ、その5バ身程後方にフジナンバーワン、そしてそこから更に5バ身程下がった所に一塊になっております。無敗の二冠ウマ娘、トウカイテイオーは中団のやや後方から様子を伺い続けております。おっと此処でナイスネイチャがもう仕掛けるのか!?ロングスパートを得意としている彼女が此処で更に突き放しに掛かるのか!!?』

 

まだ半分にも差し掛かっていないのにも拘らずネイチャが加速していく、マイルレースの距離がそのまま残っていると言ってもいい。ダービーの時よりもずっと長い距離だが彼女は遠慮なしに突き放しに掛かる。

 

「まだまだ、余裕は残ってる。だから行くよぉっ!!」

 

一見すると無謀とも言える早すぎるスパート、だがこれまでにロングスパートを掛け続けていた彼女がそれをやったら?そう思うと油断出来ないと皆に疑念が過る。

 

『さあ中盤を過ぎました、先頭のナイスネイチャはフジナンバーワンとは7バ身、そして後方との差は15バ身は離れているでしょうか!!未だレースは動きません、トウカイテイオーもまだ動く事無くジッと機を伺っている、おっと此処でレースが動き始めたか!!シダーブレードとリオナタールが上がっていく!!他のウマ娘達も続いて行きます!!!ですがトウカイテイオーは動かない、二冠のテイオー動かず!!』

 

間もなく終盤に差し掛かろうという所で遂に後方のウマ娘達が上がり始めていく、彼女らの共通点は全てがテイオーをマークしていたという事。それを見てランページは思わず呟いた。

 

「我慢出来なくなったな、ネイチャの術中に見事に嵌ってやがる」

「ええ、流石ネイチャさんです」

「如何いう事?」

「お姉様、どういう事なの?」

「先輩たちどういう事なの~アタシ全然」

 

ランページとイクノがそう呟くとタンホイザとライスが首を傾げ、チケットはハテナを頭に浮かべまくる。そんな後輩たちに二人は解説をする。

 

「あいつらはテイオーをずっとマークしてた、無敗で二冠だしあいつの走りはとんでもないからな。だからマークしてた、だけど肝心のテイオーは逃げるネイチャを全く追わないしペースを上げようともしない」

「ネイチャさんとは15バ身も離されていますしこの辺りで上がっていかなければ最後に追い付けない、そしてこの先には何がありますか?」

「何って……」

「淀の坂……」

「あっ!?」

「そういう事だ」

 

此処でペースを上げたとて、淀の坂ではペースを上げられずに落とす、そして坂でもそれは同じだろう。ネイチャもこれに悩んだ、だからこそ最初に大きく差をつけておいて逃げ切る作戦を取った。二番手との差が不安要素と言えばそうだが、フジナンバーワンは既にネイチャのペースに巻き込まれてオーバーペース気味、あれでは追撃は無理だろう。

 

「だけど……テイオーは自分のペースのままだ」

「で、でもあれだけ離されてるんだよ?」

「あいつのキレる末脚、それがどうなるかだ」

 

『ナイスネイチャ未だに先頭!!このまま逃げ切れるのか、淀の坂を駆け下りる、さあ直線に入るぞ、後方とはまだ大きく差が開いている!!逃げ切れるのか!!』

 

「(来る、来る、くるぅ!!)」

 

誰もがネイチャの勝利かという予感を抱く中、その本人は勝利を疑っていた。このまま終わるなんてあり得ないと言いたげな表情を浮かべたまま、疾駆する。何時仕掛けてくるのか、もう直ぐか、間もなくか、何時来る、何時来るのか、さあ来い、来いテイオー!!そんな願いを聞き遂げたのか、待たせたなと言わんばかりに淀の坂を一気に駆け下りて来るウマ娘の姿があった。

 

『いや、此処で来た!!来た来た来た主役の登場だぁ!!淀の坂を駆け下りながらも一気に順位を上げていく、帝王、トウカイテイオーがやって来たぁ!!大外からトウカイテイオーがナイスネイチャへと迫っていく!!!帝王強襲ぅ!!』

 

ほら見た事か、来たじゃないか!!と言わんばかりにネイチャは笑っていた、力を溜め込み続けて来たテイオーは皆がペースを落とす淀の坂、その途中から一気にスパートを掛けた。遠心力を考慮しつつ、逆にその力を使うように身体を振り回しつつも加速して次々と順位を上げていく。

 

「やっぱり来やがったか」

「ネイチャ~あと少し~!!!」

「頑張って~!!」

「先輩~!!」

 

声援が飛ぶ、ネイチャはそれを受けながらも懸命に走る。後ろから迫る帝王の走りの圧力、だがそれこそが望んでいたモノだ、見ずともわかる、テイオーがどんどん迫ってきているのが。軽快だが力強く、独特なステップが迫って来る。そしてそれがもうすぐそこまで来ている事も。

 

「―――やぁネイチャ」

「―――やっほテイオー」

「「それじゃあ―――勝負!!」」

 

まるで、友人同士の挨拶のような言葉を掛け合うと、二人は一気に加速していく。テイオーは兎も角、ネイチャの何処にそんな力が残っているのか、その答えは簡単だ。決着に掛ける想い、この三冠ラストレースでライバルとの一騎打ちを彼女はこの展開になると信じていた、そしてテイオーはその信頼に走りでもって応えてくれた、ならばそれに自分も応えなければならないと―――走った。

 

『トウカイテイオーとナイスネイチャが競り合う!!ダービーウマ娘同士の激突、一体何方が勝者となるのか、三女神は何方に微笑みかけるのか!?』

 

「今日は、ボクが勝たせて、貰う!!」

「それは勝ってから、言いなよ!!!」

「それじゃあ―――遠慮なく!!」

 

そう言った時、テイオーのステップ、テイオーステップが変化した。膝の柔軟性を活かした走りによる高ストライドが特徴的なその走りが変わったのだ、その走りを自分は知っている、あの走りは、あの走りはまるで―――

 

「ランの走りじゃん……!?」

 

そうだ、ランページのあの走りだ。全身を使った完全な統一を行った走り、文字通りの全身全霊の走りをテイオーが行っていた。其処に加わるテイオーステップ、それは凄まじい威力を発揮して遂に自分を抜いて行った。

 

『トウカイテイオーだ、トウカイテイオーが抜け出した!!ナイスネイチャを抜き去った、ナイスネイチャも踏ん張るが徐々に、徐々に差が広がっていく!!!速い速いトウカイテイオーが行く!!ライバルを突き放し、駆けて行くのは最強の帝王!今、無敗でトウカイテイオーが菊花賞を制しましたぁ!!無敗の最強のウマ娘が誕生しました!!昨年のメジロライアンに引き続き三冠ウマ娘が誕生しました、無敗の三冠ウマ娘、その名はトウカイテイオー!!』

 

大歓声が上がる中で、それを見たランページは好戦的な笑みを浮かべていた。あれはモンスニーから享受された全身を使った走り、自分ほどの精度ではないが同じ走りに相違はない。モンスニーが教えたのだろうか、いや恐らく違う。行き着いたのだ、自らのテイオーステップを進化させる為に自分の走りへと。

 

「自分の才能に気付いた奴の走りだ、こりゃ今年最後のレースは苦戦しそうだぜ」

「そう言いながらも―――笑ってますよ、ランページさん」

 

 

「テイオーあんたいつの間にランの走りを……」

「えへへっ~合宿の時にいっぱい見たからね、それでトレーナーに頼んでランのレースを全部集めて貰っていっぱい見たから!!」

「やれやれ、参ったねぇこりゃ……完敗だよテイオー。でもあたしはアンタのライバルの看板を下ろす気はないから、次は負けないよ」

「次だって勝つよ、だって僕は帝王だからね!!」

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