「やっほ~ラン」
「よぉっ無敗の三冠ウマ娘、この野郎。ウチのネイチャを倒して手にした冠の味は如何だ」
「そ、そういう言い方しなくても……」
「冗談だ、ネイチャも大して気にしちゃいねぇし俺も気にしちゃいねぇよ」
菊花賞から数日、今度は天皇賞が迫る中でバーベルを持ち上げているランページにテイオーが会いにやって来た。よくもまあ仮にも相手チームの所に遊びに来れる物だ、まあ常日頃からバチバチとやり合っている訳でもないので気にはしていないが。
「予告通り、ボク三冠を取ったよ。これで漸くランと同じ所に上がれたね」
「同じぃ?無敗の十冠と無敗の三冠を同列に扱われるとは心外だねぇ……冗談なンな顔すんじゃねえよ」
「流石に今の意地悪すぎるよ」
「悪かったっつの、ほれっこれではちみーでも買って飲んで機嫌直せよ」
お小遣いで機嫌を取りつつも水分補給を行う。だがテイオーは宣言通りにネイチャを破った、そして次に見据えるのは自分との対決、有馬記念。それを次走へと決めて戦う事を誓っている。自分もそれに応えるつもりではいるが―――今のところはテイオーを敵としては見ていない。
「悪いが、今は天皇賞やらエリ女、チャンピオンズカップしか俺は見てないぜ。今年のラストなんて見据えられるほど、俺は視野は広くないんでね」
「余裕だね。今のボクなんて敵としてみる価値も無いって事かな?」
「価値はあると思ってる」
菊花賞で見せた走り、それはモンスニーから習った全身を使った走行フォーム。まさかをそれをテイオーが使うとは思いもしなかった。
「ランのレースは全部見たからね、それでエリザベス女王杯からいきなり変わってた。だからそれを徹底的に研究して取り入れて見たんだ」
「研究して、ねぇ……」
自分はモンスニーからの徹底的な指導と扱きを受けて漸く会得出来たというのに……テイオーは自分のレースを研究するだけで会得してしまったというのか、これが才能と素質の差というものだろうか……紛れもない天才という奴だろう、そうとしか言いようがない。
「この走りって凄いよね!!今までより速く走れるのに普段よりも脚が軽くなるんだもん、トレーナーも驚いてたよ」
「そりゃよ~ござんしたね」
そう言いながらも軽快なステップをその場で踏んで見せる、テイオーの怪我の原因と言えばその余りにも高すぎる素質に肉体そのものが付いて行けなかったという事。だがモンスニー直伝の走りは身体の全てを連携させて行うので負担を軽くする事が出来る、それによってテイオーステップで掛かる足の負担が軽くなったのだろう。
「ふふん、今のボクならカイチョーだって良い勝負出来る気がする!!」
「そこは景気よく勝てる位の事言いやがれ」
だがよくよく思えば、前々から南坂からは自分とテイオーは似ているという話をされた事はあった。自分はサイズが大きいテイオーとも表現された事もあった、という事は自分に出来る事がテイオーに出来たとしても可笑しくはないという事だ。相手は自分と同じ走りが出来る相手という事になる……実に面白い。
「そうだ、三冠になったんだから今度配信に呼んでよね」
「構わんよ、その内呼んでやるよ」
「次、天皇賞だよね……緊張とかしないの?」
片手腕立て伏せをする彼女へと思わず問いかける、G1の舞台という意味では同じだが次は天皇皇后両陛下が観戦しに来るという異例の天皇賞。マックイーンも何処か落ち着かないのか、時折自分を落ち着ける為の深呼吸をしている。それなのにそのライバルという言える王者は全くその色を見せない。
「誰が見に来ても、観戦する以上は同じお客様だ。一人や二人増えた程度でビクつくような繊細なお嬢様に見えるかい俺が」
「寧ろお嬢様に見えないよね」
「だろ、俺だってそう思う」
というか、言われるまでそういう事になっている事すら忘れてしまっていたかもしれない。あれだけ素敵な挑戦を叩き付けてくれたレディに応えたいし戦いたいという思いばかりが先行してしまっている。もう少し落ち着かなかければならない―――落ち着いた上で気合を入れなければ。
「ラン、携帯なってるよ~」
「ああ悪い」
見てみると通話の相手は何とモンスニーだった。何事かと思って直ぐに通話を繋げた。
「はいもしもし、すいませんトレーニング中だったので遅れました」
『何よりだ。此方に早急に戻って来い』
「えっ何でですか」
『決まっている―――お前の走りをより完璧にする為だ』
理由は単純明快、次のレースに備える為―――というのは建前でしかない、本当の理由はテイオーが同じ走りをしたからに他ならない。それを教え込んだモンスニーとしては黙っていられないのだろう。
『トウカイテイオーの走りは確かに同じ物、明らかに低レベルだ。それでもあいつはあれだけの効力を発揮した、言いたい事は理解出来るだろう』
「本家本元が負ける事なんて許さない、ですね?」
『そうだ。トウカイテイオーの才覚は異常だ、だが安心していいぞお前には私が付いているのだからな。天皇賞までミッチリと扱いてやる』
「ワーウレシイナー」
『ハハハッ嬉しい事を言ってくれる、南坂トレーナーからの許可は貰っている。さっさと戻って来い、いいな』
言いたい事をすべて終えたと言わんばかりに通話は切られてしまった。思わず深い深い溜息が出た。
「ど、如何したのラン?なんか凄い溜息だけど……」
「安心しろ、お前のせいで俺が地獄行きが確定しただけだ。お前は気にせずはちみーでも飲んでろ」
「いや凄い飲みにくいよ!?」
「いやいやいや気にするな、お前の才能が凄いせいで俺は死ぬ程努力しなきゃいけなくなっただけだから」
「何かゴメン!?」
この位の愚痴を言う位は許して貰おう、まあ自分を見つめ直すという意味でもモンスニーに鍛え直して貰えるというのは極めて好ましい状況である。テイオーに負けないように確りと鍛えて貰う事にしよう。
「俺でも意地ってもんがあるからな、追いつかれてたまるかよ」
「あの、何でシンさん居るんですか……?」
「鍛え直すと南坂から聞いてね、折角だから協力しようと思って。宜しくねモンスニーさんよ」
「ええっ此方こそ……ランページ、後で話があるから私の部屋まで来い」
「俺のせいじゃないっすよぉ……」