「あ"っ~……モンスニーさんめ、シンさんが来たのは俺のせいじゃねえのになんで俺を扱くんだよ、つうか扱くじゃねえよ最早しばくじゃねえかあれ」
急遽メジロの邸宅へと呼び戻されてしまったランページ、待っていたモンスニーの扱き自体は想定していたがまさかのシンザンまでもがそこに参戦していた。南坂が気を利かせたのか、それとも話を何処からか聞きつけたのか、兎も角シンザンまでもがやって来て自分にメニューを課す。まさかのレジェンド参戦に流石のモンスニーも戸惑いを隠しきれずに、若干八つ当たりめいた事をランページに行っている。まあそれでも確りと見極めを行っての事なのだろうが……。
「テイオーの走りに危機感を抱いてるって訳でもねぇだろうし、俺のそれを正せってか?」
テイオーが菊花賞で見せたあの走りは彼女からすれば付け焼き刃でしかない、だがそれに負けるようでは……という圧力でもある。負けるつもりは毛頭ないが、油断は思わぬところから生まれるのでそれを叩き直そうとした所にシンザン来襲、色んな意味でペースが乱れているのだろう。
「やれやれ、溜まったもんじゃねえなぁ……」
久しぶりのメジロの庭園、ベンチもあるのだが草の上に直接寝っ転がった。こうした方が疲れが取れる気がするしこういう雑な休み方が自分に合ってるような気がする。練習後の休み時間は有効に使わせて貰おうと眠りに付こうとするのだが―――
「ほわぁっもしかして~ランページ、お姉様ですか~?」
「んっお姉様?」
ライスを筆頭に学園では多くのウマ娘に呼ばれている故か呼ばれ慣れてしまっているそれに思わず反応してそちらに目を向けてしまった、するとそこに居たのは学園ではあった事がないウマ娘、どころか初めて会う。だが自分は彼女を知っている、色々あって会う機会こそなかったが彼女も自分と同じメジロのウマ娘だ。
「あ~ブライト、でいいんだよな」
「はい~メジロブライトです、こうやってお会いするのは、初めてですね。改めましてメジロブライトです~」
のんびりとした口調、間延びした声、おっとりとした表情から伝わってくるのは彼女の穏やかさ。彼女はメジロブライト、自分と同じくメジロ家の御令嬢。
スタートダッシュが苦手で瞬発力に乏しいステイヤータイプ、余り高い評価はされていなかったが、マックイーン以来となる天皇賞(春)を制覇するなど紛れもない名馬。極めて大人しく温厚な性格だったからか、普段のブライトは
「お会いしたいと思っていたんです~ラモーヌお姉様以来の、トリプルティアラですから~」
「そうか~俺がこっちに来ないもんで話したくても話せなかったか。悪いな」
「いえいえ~お姉様のレースは拝見させて頂いておりましたから気になさらないでください~」
「そう言って貰えると有難いな」
極めてのんびりとした口調で話すブライト、ゆったりとした言葉運びもあってか話していると妙に脱力するというかリラックスしてしまう。
「つっても、俺の走りはあんまり参考にならないだろ」
「いえいえ~、そんな事はありませんわ。 お姉様の走る姿はとても凛々しくて~!力強くありながらも猛々しく、勇猛なお姿には何時もほわぁぁあんとしてしまいますの」
「そういわれるとなんか照れるな……」
独特な雰囲気を持つブライト、此処までのんびりとしているウマ娘とは会った事がない気がする。自分の走りとは完全な対極、生き方的にも真逆なブライト。だがなんというか落ち着いてしまう自分が居て、楽しさを覚える。
「でも、無理にお姉様呼びなんてしなくていいぞ。俺は元々部外者みたいなもんだ」
「いえいえ~お姉様はお姉様ですから~フフフッきっと今日の事は~ドーベルにも、自慢出来ちゃいますね~♪」
そう言えば彼女はメジロドーベルとは同期だった。彼女は自分の事をどう思ってるのだろうか……出来れば悪く思われたくはないのだが……。
「ドーベルは~、いつもお姉様の事をお話してるんです。私がお姉様のレースを見る時は、いつも一緒何です~」
「仲いいんだな」
「はい~ドーベルはお姉様のレースをいつもキラキラとした目でご覧になってるんですよ。私もお姉様みたいになるんだって何時も言ってるんですよ~?」
ドーベルからの評価は悪くないどころかむしろ憧れの視線で見られているらしい。彼女からすれば同じメジロであれだけの活躍をするランページという存在は眩しく輝く星のようだとブライトは表現し、何時かティアラ路線を走るんだと意気込んでいるとの事。
「ハハッそりゃ益々こっちに来なかった事が申し訳ないな、今度一緒に飯でも食べようって言っといてくれ。その時はブライトも一緒にな」
「光栄です~ドーベルも、きっと喜びますわ~」
穏やかな笑みを浮かべたまま嬉しそうにするブライトだが小さく欠伸をしてしまった、それを隠すように笑う。
「申し訳ありません、実はお昼寝をしようと思って此方に来たのですが」
「それなら俺と一緒だな、折角だ膝貸してやるから寝てもいいぞ」
「ほわ~宜しいのですか?」
「勿論、ほれ」
脚を伸ばして差し出してやるとブライトはウキウキとしながらも自分の太腿へと頭を預けた。改めて思ったが、自分のそれは柔らかくは無い筈だ。筋肉ばかりで筋張った硬いトモ、それを枕にするのは適さないか、と思ったのだが―――
「とても、柔らかくて気持ちいいです~……」
「柔らかくはないと思うが……硬い方じゃない?」
「いいえ、とても暖かくて柔らかいです。それはお姉様がとてもお優しい方だからです、心が優しい方だと包容力もあるとお母さまが言っておりましたからきっと―――」
「ブライト?」
「すぅ……すぅ……」
「寝ちまったか」
最後まで続ける事も無くブライトは穏やかな寝息を立てて、眠り始めてしまった。元々昼寝をしようと思っていたと言っていたから眠かったのだろう。そんな彼女の頭を撫でてやると何故か懐かしさを感じてしまった。誰かに膝枕をしてあげた事なんて全く無い筈なのにどうして―――
「あっ」
―――フフッランちゃんってばお母さんの膝枕大好きね~♪お母さんもランちゃんの膝枕大好きだから、この後は代わりばんこでお母さんに膝枕してね~♪。
「そういう事か……ありがとなブライト」
思い出せた母との思い出、自分は母の膝枕が大好きだった。そして母にもそれをしてあげるのも大好きだったのだ、今ばかりで昔なんてもう分かる事なんてないと思っていたが……思わぬ想起だ。それをしてくれた彼女には感謝しないと。
「そこに居たのか、ランこの後の練習で……おっと、後にした方が良いか?」
「もう少しだけ、こうさせてください。もう少しだけ……」
練習の事で話をしたかったモンスニー、だがそれは少し後にすることにした。穏やかな瞳で我が子の眠りを守るように頭を撫でるランページと母の膝の上で健やかな眠りについているブライト。それを邪魔するほど野暮ではない。結局、休み時間はブライトの昼寝にギリギリまで付き合う事になったが、ランページの気力は充実していた。そしてその気力を―――天皇賞へと向けた。