貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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157話

今日という日を迎えた。多くのウマ娘達がこの日のレースに出走するが、皆の表情は硬く、強張っている。それも理解出来る、本日行われるのは八大競争の一つとして数えられる天皇賞(秋)。メジロのウマ娘としてこのレースに出走しない訳には行かないとランページも今日は張り切っているのだが……伸び伸びと身体を伸ばしている自分を何処か畏怖の表情で見るウマ娘が多い。無敗の十冠故?違う、何故ならば―――

 

『ウマ娘たちが追い求める一帖の盾。鍛えた足を武器に往く栄光への道、本日のメインレース天皇賞(秋)!!しかも今回のレースはなんと、天皇皇后両陛下が観覧される天覧レースとなります。天皇皇后両陛下がご自身の名前を冠するレースをご覧になるのは歴史上初の事、生憎の雨となっておりますが歴史の一ページとして刻まれる日となるでしょう』

 

そう、天覧レース。天皇皇后両陛下がいらっしゃっているので出走ウマ娘達は顔を青くしたり、胃を抑えていたり、必死に掌に書いた人という字を飲み込んだりしている。寧ろこういった反応こそが正常と言える、何せ見に来ているお方がお方だ。尚、笑顔で手を振られている両陛下の背後にはメジロアサマにスピードシンボリ、ラモーヌ、ルドルフ、そして巻き込まれたシリウスがいる。

 

「顔色悪くなってんなぁ~会長も人が悪い」

「そういう貴方こそ、どうしてそんな平気そうなんですの?」

 

出走するウマ娘の中で一番元気があるのは矢張りランページ、彼女は笑顔で観客に手を振ったりポーズを取ったりと正しく普段通り。流石のマックイーンも今回ばかりは緊張気味だ。

 

「まあなんというか……色々あってな、自分の走りを見て欲しいって思っただけさ」

「それって誰に?陛下?」

「いや―――妹だよ、可愛い可愛いな」

 

それを聞いてマックイーンとライアンが思い浮かべるのはランページが溺愛するライス、だが実際はブライトやドーベルの事を指す。特にブライトとは邸宅に居た際にとても仲良くなってこの前は何時の間にか自分のベッドに潜り込んで眠っていた程に懐かれた。

 

「ンな事より、お前らはちゃんと走れるのか。陛下の御前だからって緊張してグダグダ……なんて事がない事を祈るよ」

「ムッ……ランページさんが可笑しいのであって私たちだってかなり覚悟を固めて此処にいるんですの!!!」

「うん、実際かなり緊張してるよ。それをランと走れるって気持ちで上手く誤魔化してる感じかなぁ……取り敢えず、確り走れるよ」

「ランページさん!」

 

そんなやり取りをしている中、ひと際大きい声で自分の名前を呼ぶ声がした。一斉に其方に視線が注がれるが声の主はそんな視線を意にも返さずに迫って来た。砂塵の騎士、レディセイバーが笑みを浮かべたまま歩いて来た。

 

「よぉっレディ、息災かい?」

「言われるまでもありません。其方こそ準備は万全なのでしょう、貴方ほどの方がこんな舞台で不手際などあり得ませんし」

「ハハッ期待に沿えるような走りをするつもりはいるぜ俺は、そっちこそ砂塵の騎士が芝でどれだけ走れるか見物だな」

「フフン、今日は砂塵の騎士ではなく嵐の騎士とでも改名しましょうか」

 

自信ありげに胸を張るレディ、勝負服も騎士っぽいのも相まって凛々しさが際立っている。小雨も降り続けておりバ場も不良、かなり走りにくくパワーが要求される舞台となっているが……そんな舞台はダートを走る彼女にとっては好都合、普通の芝よりもずっと走りやすい。

 

「貴方に初の敗北を付けるのはライアンさんでもマックイーンさんでもなく、この私、そのつもりで此処に来たのです。大波乱を起こして見せましょう」

 

その言葉に多くの者が息を飲んだ。現役最強とすら言われるランページに向き合って堂々とした宣戦布告を行った、それだけでも異常な行動なのに彼女の表情に迷いはなく、本気の色が伺える。間違いない、あれは本気で勝つ気でいる。それを向けられるランページは思わず笑みを作ってしまう。

 

「いいねぇいいねぇ、そういう気概は大好きだぜ。俺を倒す準備は万端って訳だ」

「でなければ貴方の舞台に出て来ません―――覚悟は良いですね、芝の絶対女王、私に負ける準備は」

「愚問。勝つ準備ならばいつでも」

 

互いに火花を散らす、その光景に他のウマ娘達は驚愕の表情で見つめてながらも息を呑む。だが、二人は直ぐに破顔し。すれ違いざまにハイタッチを決める。レディは口角を上げて笑って自分のゲート前へと移動する。

 

「あのレディさんってそんなに凄いの……?」

「メインはダートで偶に芝を走る程度だとトレーナーさんは仰っておりましたが……」

「芝については俺も初見だから何とも言えないが―――強いぜ、間違いなくな」

 

走りもそうだが、あの闘気。自分を倒す気満々と言わんばかりに充実している気力、ダートウマ娘だと思っていたら確実に足をすくわれる。まあ自分はそんな事はない、寧ろ一番注意すべき相手とすら思っている。

 

「にしても、なんか随分と仲良しなんだね……アタシよりも良い感じの雰囲気だったし」

「まあ数回の仲だが、ガチで戦い合った仲だからな。戦いの中で築かれた絆って奴だ」

 

全力を以て互いを知っている故か、ある種理解度という点ではライアンのそれを上回っているのは否定出来ない。少々複雑そうな顔をしているライアンにランページが世話が焼けるな、と思いつつも肩を組む。

 

「勘違いすんなよ、お前以上に俺の理解者なんて存在しないよ。レディが知ってるのは俺の実力だよ、そっから汲み取れるものを信じてるって感じなんだから知らないものはたくさんある」

「そ、そうだよね。アハハッなんか恥ずかしいな、何で嫉妬しちゃってたんだろう」

「このこの可愛い奴め~」

「あっちょっとランやめてってばもう直ぐゲートインなのに……!!」

 

軽くじゃれ合う、よくもまあそんな事が出来ると思われるがライアンやマックイーンはこの行いに酷く感謝した。何故ならば必要以上の力が抜けた、これならば十二分に良い走りが出来るという確信が生まれた。そしていよいよゲートイン。

 

『三番人気を紹介しましょう。今年の天皇賞(春)を制しているウマ娘、メジロマックイーン。京都大賞典では見事な走りを見せてくれました、このレースを勝利し天皇賞春秋完全制覇となるか!?』

『二番人気はこのウマ娘、メジロライアン。宝塚記念を制した三冠ウマ娘です』

『そして圧倒的な一番人気なのが無敗の十冠、彼女が目指すのは世界、メジロランページ!!なんと一から三番までメジロ家が独占状態、この牙城を崩す事が出来るのか!?』

 

メジロ家の悲願、天皇賞制覇。その為に彼女達は走る、間もなく、天皇賞出走。




「まぁっそれでダートを……視野が広いのですねぇ」
「はい、自慢の孫です」
「自慢の友達の孫です♪」
「随分と可愛がられているのですね」

「おいルドルフテメェ……よくも、よくもぉ……!!」
「静まれシリウス、陛下たちにバレるぞ」
「取り巻きの子達への武勇伝にすればいいのよ」
「程があるだろ程が……!」
「シリウス、此方へ。陛下が是非貴方のお話をお聞きしたいと」
「ひゃっひゃい……!!」

ランページの与り知らぬところで、こういう事が起きていた。



そして―――SS投稿を続けて10年以上、なんと……イラストを頂けました~!!!
RPG-7様より、ランページのイラストを頂きました。AIによるイラストだそうです。
目次でも掲載してありますが改めて、ご紹介させて頂きます。RPG-7様、本当にありがとうございます!!


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