貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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160話

スマホ内の整理、最近アプリゲームの更新も激しく容量も厳しくなってきたので取捨選択をしていると不意に新しく連絡先に登録されてしまった名前に頭を抱える。

 

「何でこんな事になったんだろうなぁ……」

 

遡る事、数日前。天皇賞(秋)のレース後の事、メジロ三人による最敬礼というある種の伝説を残してしまった後、ランページは取材も終えて自らの控室に戻って身体を休めていた。途中で買ったホットココアは美味い。

 

「あ"~偶に呑むココアの美味いこと~美味いこと……」

「お疲れ様です、これで通算21勝ですか……無敗で此処までの記録は異例ですね」

「褒めても小切手しか出ないぞ~」

「要りません」

 

困った表情を浮かべながらも本当に出せるだけの財力があるから参ってしまう。

 

「この後はウイニングライブかぁ~……これで歌ってねぇ曲って何だっけ?」

「winning the soulにうまぴょい伝説ですね。前者は恐らくライブで歌う機会はないと思いますが」

「クラシックの奴のだもんな、あるとすればうまぴょいか……にしてもなんだようまぴょいって」

「さあ」

 

ウマ娘界七不思議の一つかもしれない。

 

「それでランページさん……実は大変申し上げにくい事があるのですが……」

 

珍しく、前置きをしながらも言い難そうな表情を作るトレーナーに一体どんな事があったのかと不安に駆られる。のだが、天皇皇后両陛下が居るのだからほぼ間違いなくそれ関連なのは間違いないのだろう……。

 

「ウイニングライブ後に是非、お話をしたいと……」

「あ~うん、その位は覚悟してたから大丈夫……大方シリウス辺りが俺にも話を聞いたらどうですみたいなことを言ったんじゃないですか?」

「大方処か一字一句違ってません」

「Oh……」

 

ダービーウマ娘としても海外に挑戦したウマ娘としてもシリウスの立場は極めて貴重、そんな彼女からの話に天皇はとても楽しめたらしいが肝心のシリウスが限界を迎えたらしく、こんな状況になった元凶に振ろう!!となったらしく、最後の最後にランページに白羽の矢をぶん投げたらしい。尚、彼女は急性の胃潰瘍になったので退室したとの事。

 

「あ~……あれ痛いんだよなぁ……」

「ご経験があるんですか?」

「ああ、英語の授業で皆の前で英語で歌うってのがあってその緊張で」

「確かに慣れてないときついでしょうからね……トレセンに来る前ですか?」

「そんな感じ」

 

実際には前世、というよりもヒトソウルに刻まれた記憶の中にある思い出。その痛みは今でも思い出せる、それを味わっていると考えると彼女には同情の念しか浮かばない。

 

「にしてもどんな風の話をしたらいいんだろうな……天皇陛下相手に喋る想定とか普通しねぇから分からないぜ」

「普通しませんよね……一応陛下から普段通りになさってください、普段のランページさんとお話がしたいというお言葉を預かっていますが」

「無茶言うなって話だよなぁ……」

「ですよね……」

 

目上の人から言われる楽にしていいという言葉は全然楽に出来ないのである、休めと言われて椅子に座れないのと同じ。

 

「それじゃあマックイーンとライアンも一緒に」

「巻き込もうと思いましたが、上手い事言い訳を作られて逃げられてしまいました」

「……今度減量中のあいつの前でDXメロンパフェ喰ってやる……!!」

「ライアンさんには何もしないんですね」

「そりゃライアンには大恩がありますしお寿司」

 

兎も角、マックイーンへの仕返しを決めた所で南坂は後始末が残っているとの事なのでちゃんと休んでいるようにと言い含めながら退出していった。自分だってこの後のライブがあるのだから確りと休むつもりでいる。

 

「にしてもマジで何を話すべきなのだろう……メジロ家に入る前の身の上話はしちゃまずいだろうし、となると合宿の事とかをメインに据えるかな……配信とかのシンさんの事は確実に触れられるだろうし、カブッちゃんとかも出るのかな……」

 

今の内に情報の整理をする事を決めた、基本的にアドリブで生きているとはいえこういう時には前以ての準備はしたくなるというもの。いざ本番になるとそれを上手く使えないまでがデフォだが……気持ちと覚悟の準備という意味ではこういう事は優れているのである。

 

「普段通りに話せ、ね……ったく無茶を言うもんだぜ」

 

そんな悪態を付きながらも次のココアを開けようと思った時、扉が開けられた。南坂かと思ったが彼ならば必ずノックをするし一声を掛ける、礼節を弁える彼が勝手に開ける訳がない。という事は彼ではない、マスゴミかと咄嗟にスマホに手を伸ばして録音の準備をする。

 

「あれっ?」

 

が、見えてきた姿はカメラやマイクを持った報道陣とはかけ離れていた。可愛らしい服を纏った幼いウマ娘がそこにいた。耳を回しながらも此方を見る目は困惑に染まっていた。

 

「あっメジロランページさんだ!!如何して此処に?」

「如何してと言われると困っちまうな、此処は俺の休憩室だから?としか言いようがない」

「そっか~それじゃあ道を間違えちゃったのかな?」

 

どうやら迷子らしい、道を間違えてここに来てしまったのだとすると親御さんも心配している筈。無視する事は出来ないなと、彼女の前で膝を付きながら手を差し出す。さながら忠誠を誓う騎士のように。

 

「お手をどうぞお嬢様、僭越ながらお供を致しましょう」

「おっ~良きに計らえ~」

 

少女は機嫌を良さそうにしながらもその手に自分の手を重ね、機嫌を取る事に成功したと安心しながらも共に控室を出る。

 

「レース凄かったよ!!びゅ~んって感じで!!」

「お褒めに預かり恐悦至極、まあそれよりも心配してないと良いけどなぁ」

「う~ん探されてるかもしれないけど、大丈夫だと思う」

 

それは大丈夫とは言わないと思う、絶対に心配されている……兎も角早い所彼女を家族の所に送ってあげなければ……と思っていると少女はジッと途中に合った自販機を見つめる。そして自分を見る、自販機を見る、それを繰り返す。

 

「……さてと、早く見つけないと」

「貴様~無視すると申すか~」

「はいはいご希望の品は何方でしょうかお嬢様」

「ココアを所望する」

「え~い」

 

無視しようとしたが、てしてしと太腿辺りを叩かれたので買ってあげる事にした。そんなココアを飲みながらも少女を連れてこっちから来たという道を遡っていく。

 

「にしても……君ってもしかしてマジモンのお嬢様かい?」

「う~ん……分かんない」

「まあそうか……」

 

流石にこの年頃の子には難しい質問だったか、と思いつつもお嬢様という読みは殆どあっているという確信がある。言葉の節々には難しい単語が使われているし何より自分が天皇陛下に会うからという繋がりから軽くふざけて使っている言葉遣いを簡単に受け入れている。常日頃からそれを向けられているという証明にもなる。

 

「所で本当にこっちで合ってる?」

「うんこっち」

「そうか、まあそれなら―――「殿下!!」」

 

それならいいのだが、という言葉を遮って聞こえてきた大声。思わずそっちを振り向きながら少女を庇ってしまった、振り向いてみるとそこには黒服のスーツを纏ったウマ娘が汗だくになりながら此方に駆け寄って来た。コケながらも迫って来たそのウマ娘に少女は手を上げて答えた。

 

「ご、御無事で何よりです!!何方に行っておられたんですか!?」

「お手洗いに行ってたら帰り道間違えちゃったみたい」

「お手洗いでしたらお声掛けして頂かねば……!!」

「―――殿下?」

 

思わず繰り返してしまった殿下という言葉。それで我に返ったのか、黒服のウマ娘は自分に気付いたのか頭を下げた。

 

「こ、これはメジロランページ様!!もしや、殿下のお相手をしてくださいましたので!?」

「相手というかなんというか……俺の控室に来たので連れてきてあげた方が良いかなぁって」

「ココア買って貰ったの」

「さ、左様ですか……ささっ殿下、御姉様と御母上様が御待ちです」

「は~い」

 

そう言うと彼女は手を振って遅れてやってきた黒服のウマ娘達に連れられて去っていく、そして最後に大きく頭を下げられた。

 

「有難う御座います、私共の不手際を……」

「ああいえお気になさらず……というか殿下ってあの子もしかして俺なんかよりもずっと立場上……?」

「……大声では申し上げられませんが」

 

それを聞いてランページは何かを察した。兎も角、自分の役目は終わりあの子とはもう会う子はないだろうと思いながらも控室に戻る事にした。御付のSPだと思われるウマ娘にはずっと頭を下げられっぱなしだった。

 

「殿下で黒服のSPウマ娘って……まさか、な……」

 

そんな思いを引きずりながらも控室で身体を休め、ウイニングライブへと臨んだ。其処では天皇皇后両陛下も見ていたせいか、他のウマ娘達の動きは鈍かったが、メジロ家の誇りを3人で見せ付けてカバー。結果的に大成功を収めた後に南坂と共に天皇皇后両陛下との会談に臨んだのだが……

 

「あっまた会えたぁ」

「……また、会えちゃったぁ……」

 

その直前に少女と再会する事となった、もしやと思っていたがその場で彼女の名前を改めて聞いた時、それは確信へと変わったのだった。

 

「自己紹介が遅れました、アイルランドからお忍びで来ましたファインモーションです!」

「……そりゃ殿下って呼ばれますわな」

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